ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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32話 絶望(使徒が)

 昔からずっと、疑問に思っていたことがある。

 オレの向かっている先は正しいのか。そこに幸せがあるのか。みんなを笑顔に出来るのか。

 

「おいテメェこのヤロー。なに人の心の声を勝手に捏造してんだボケ」

 

 固まっている体で、口を無理やり動かす。

 目の前に居るオレは大層驚いた表情をしていた。いや、無表情だけども綾波のお陰で驚いてるなと理解出来たが正しいだろうか。

 

「不安なんだろ? 未来が」

 

 しかし、目の前のオレ。おそらくオレと接触してきたレリエルは負けじと言葉を紡ぐ。

 何が目的の使徒なんだろうな、とずっと思っていたけれど。過去の記憶を映像として一通り見せられた後、真っ白な空間で対峙した今も何が目的なのかわからない。

 トラウマを掘り起こしてオレを無力化するのが目的ならそうはいかない。なんせ、お陰様でトラウマらしいトラウマとは無縁な人生を送ってきたからだ! わはは!

 

「これからミサトさんやリツコさんが考えてくれた作戦でぶっ倒されるのが確定してる、自分に対しての言葉かな?」

「いいや違う。オレが不安なんだ。誰も幸せに出来ない」

「そんなのやってみなきゃわからないだろ。大体、全員を幸せに出来るなんて夢芝居だ」

「一人じゃ何も出来ない、持ち上げられてるだけだ」

「それこそあたり前田のクラッカーだよ。人という字は人と人が寄り添ってるってよく言うし。あっごめん、いつもボッチでついには分身までし始める君たち使徒にはわからないか!」

 

 ああ言えばこう言うレリエル。ならオレはああ言えばこう言う返しをするだけ。

 やたらと人間の無力さを指摘してきたりオレの不安を捏造してくるけども。精神干渉ってどんなんだろうと思ってワクワクしながら寝たのにコレかよ。それなら手のひらに人書いてるか一人でじゃんけんしてるほうがまだ楽しいわ。

 

「そうやって自分の心に素直にならないで。だましだまし生きていくのか」

「大人になるっていうのはさ、それが標準装備のスキルになるってことなんだよ」

「自分がどう見られるかが怖いから、自分が傷つくのか怖いから猫を被ってるだけだ」

「人間なんてそんなもんさ。でも、ありのままを受け入れてくれる人だっている」

 

 このひねくれ男をどうにかせねば。つかオレの見た目なのやめてくれよ、せめて......そうだな。加持さんなら心置き無くブチギレられるし、碇司令なら心置き無くドン引きできるんだけど。

 毎日鏡を見るたびに目に入る姿だからか、すこし情が湧いちゃうな。なんて思っていたんだが。

 

「それはあんたがそう思ってるだけよ。人のことを都合良く捉えないで」

「死ねッ!!」

 

 パキッ、という音がしてアスカっぽいナニかの顔にオレの拳がめり込む。

 拳を振り抜いたことで、その顔が飛んでいく。ゴトンと音を立て落ち、転がった瞳がオレを睨んだ。

 

「いつもそうやって自己満足。私のことなんか何も知らないくせに」

「私ってなんだよ。うちのアスカは自分のことあたしって言うし、何もはなんにもって言うんだよこのカス」

 

 それを容赦なく踏み潰す。アスカっぽいナニかの顔を模したものはグチャリと潰れたかと思うと、真っ黒な影になって消えていく。

 流石にね、アスカの姿形を真似されたら怒るよ。でも言語能力やオレの容姿は、オレの記憶か何かを覗き見て得たものだとしたら。オレはアスカをちゃんと見れてない、その可愛さを理解しきれていないということだ。これは脱出したら穴が開くほど見つめねば。

 

「勝手に理解した気になって、理解してもらえた気になってる。心は繋がっていないのに」

「うるせボケ!」

 

 背後に現れた綾波っぽいナニかの顔にも、振り向きざまの裏拳をお見舞いする。

 グニャリとコの字に凹んだいびつな顔はまだ話し続ける。

 

「本当は誰も信じていないだからこうやってここに来た。私たちを置いて」

「ちょっと間が短い、失格ぅ~」

 

 その後頭部に手を置いて、地面に叩きつける。ピクピク痙攣したあと、同じように真っ黒な影になって消えていく。

 感触が無いのが幸いだ、偽物だとわかっていてもちょっと心が痛い。綾波のことをたくさん褒めて撫でて上げたらどんな笑顔になってくれるだろうか。

 

「怖いなら、逃げてもいいのよ。全てを投げ出して楽になりましょう」

「んなこと言わねえよ!」

 

 今度はミサトさんっぽいナニかがオレのことを見下ろしている。

 ので、その顎に向かって昇竜拳を食らわせてやると。背骨から直角に折れたそれは、足回れ右をしてオレのことを下から見上げてくる。

 

「あなたは頑張ってきた。ここで終わりにしないと」

「優しいけど甘くねえんだよ、オレからしたら解釈違いもイイトコだこのタコ」

 

 そのひっくり返った顔に前蹴りを食らわすと、使徒も人間を再現するのが面倒になったのかすぐ黒い影となって霧散する。

 まったく、適当なやるんだったらはじめからそういう揺さぶり方するんじゃねえぞと。ミサトさんの声が聞きたくなってきたじゃないか。

 

「んお?」

 

 急に景色が変わった。エヴァの中、エントリープラグの中で降ってきたサハクィエルを受け止めている場面だ。

 なるほど、一番記憶に新しくてマズイ状況だなと感じたやつを引っ張り出してきたか。この根暗使徒、我慢勝負じゃこら!!

 

「たとえお前が作り出した精神世界の中でも、負けてられっか!」

 

 気張って、サハクィエルを押し返すイメージだけを強く強く持つ。

 エヴァの操縦でイメージ力は鍛えられているし、何よりも幻術の様なものにかかっている状態でも、壱型がついてくれているのなら負けるわけにはいかない。エヴァに乗っている以上、最後には勝つのがマスト!

 

「精神世界でなら、想像の中でならこんなコトだって出来るんだ!」

 

 サハクィエルのことを押し返すオレたちのATフィールド。その中央に右手を添えて集中すると、ATフィールドは急速に右手へ収束していく。

 右手が包まれると、今度はそれをもっと大きなものへ。巨大な手にする。

 

「あいつ、オレを信じて走ってんだ。オレが止めるって......必ずパスが来ると信じて! たぁああああ!」

 

 黄金に輝くその右手を見て、なぜかどこかの熱血キーパーが憑依してしまったが。そこから巨大な手が伸び、サハクィエルのことを受け止めきった。

 精神世界がなんぼのもんじゃい、こちとらノリと勢いで生きてんだぞ。苦手なものは高いところと毛虫と里芋! 高い、もじゃもじゃ、ネバネバが苦手だってハッキリわかってるんだから今更そこを突かれてもなんとも思わない。

 

「......なんだよ、なんなんだよ......」

 

 また、真っ白な空間に戻る。目の前ではオレの姿をかたどったレリエルがとんでもない形相でオレを見ていた。

 

「お前はなんなんだ!」

「ただのアスキストです」

 

 即答してあげた。なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。そう二人と一匹も言っていたからな。

 もしかしてレリエルくん、精神干渉のボキャブラリーこんだけ? だとしたらあまりにもあっさり過ぎないか。それともオレがイジリがいのない、面白みのない人間だと言いたいのか。

 あかん、なんか勝手に気分が下がってきた。自滅してどうすんだよ。

 

「理解が出来ない、意味がわからない、なぜ一つとして迷わない」

「道が一本しか無いのに、どう迷えっていうのさ」

「......君は」

「おっ、来たな加持さん! おら喰らえ、ジャーマン・スープレックス!」

 

 ちょうど自滅気味のメンタルに良い特効薬。殴っても蹴ってもなにしても心が傷まない加持さんの姿になってくれたので、遠慮なく背後に回って頭から地面に叩きつける。

 ったく、わざわざそこで加持さんをチョイスするなんて。意外と、イイトコあるじゃないの。

 

「って、また消えたし。今度は残っていてくれても......あれ?」

 

 腰に手を当ててため息をつき、視線を上げると。いつの間にかまたエントリープラグの中。

 しかし、今度は今までとは違って。おそらく現実だろう。生命維持モードで電源を節約し、浄化能力の落ちてきたLCLは僅かに濁っている。

 念のため自分の手をスーツの上からつねってみる。ちゃんと痛みがあるし、先ほどまでは感じなかった嗅覚もしっかり仕事をしている。

 

「なんだ、あれで終わりなんだ」

 

 なんで最後が加持さんなんだよ。いやスッキリしたからいいけど、もうちょっとあるでしょ。あれは最初に出でくるでしょ普通......それとも、謹慎処分くらいまくっててこの前久しぶりにちゃんと顔みたからなのかな。いらん気遣いすな。

 

「あ、もう11時間経ってる」

 

 12時間後に行動します、と宣言して飲み込まれたわけだが。あと1時間を切っている。

 エントリープラグの電源もあるし、壱型を動かせなくなったとしても命はまだ少し持つだろう。ただ、12時間を超えれば壱型が動かせなくなって実質ゲームオーバー。

 暴走とかすれば動くんだろうけど、壱型が暴走するイメージが沸かない。多分育ちが良いんだろう、決して初号機さんが育ち悪いっていう訳じゃないですけれども。

 

 とにかく、12時間経過したタイミングでやることは一つ。壱型を起動し、持てるエネルギー全てでATフィールドを展開し、このだだっ広い空間を支えているであろうATフィールドに少しでも干渉すること。

 外からも干渉してくれれば、おそらく支えきれなくなった空間の出口を何処かに繋げられる。それがあの球体なのか、黒い影なのかはわからないが。

 みんなを信じて全ブッパする。今までもそうしてきたし、これからもそうしよう。

 

「よーし、じゃ寝るか。三十分くらい仮眠しよっと」

 

 プラグスーツには便利なことにタイマー機能もある。それを設定し、心なしか息苦しくなったエントリープラグ内で横になる。

 体を支える構造だが、言い換えれば動きにくいため寝返りなどがうてず寝心地はよくはない。でも、起きてるのも退屈なので寝るに限る。

 

 ふと思ったが、LCLの機能が落ちると水に溺れたような感じになるのだろうか。酸素を取り込めず、液体で肺が満たされたならそうなるのだろう。

 個人的にLCLってエントリープラグから上がった後にちょっと吐かないと違和感が凄いから、きっとそうなるんだろう。ある程度は体に吸収される、とかいう謎仕様だけども。

 肺が満たされてるとなんだか空気を吸うときの違和感が否めない。アスカや綾波、シンジくんはどうなのか、ここから出たら聞いてみよう。デリカシー無いって怒られるかもしれないけど。

 

「早くみんなの顔が見たいなぁ。ってことで、よろしくお願いします。壱型さん」

 

 挨拶だけして爆睡モードに入る。足を規定の位置からはみ出させるのだから、失礼は無いようにしておかないと。エネルギーじゃなくてエヴァがキレて動きません、とか洒落にならない。

 それにさっきまでの精神世界は睡眠カウントされていなかったようで、眠気がちょっと残っている。程よく仮眠ができそうだ。




意気揚々と精神干渉して、あわよくば脅威になりそうなやつのパイロットを撃沈させようとしたものの。見事に失敗に終わった可哀想なレリエルくん。
タローくんからみんなに飛んでるとんでもなく重い愛の矢印をみて恐怖のあまりマイナス宇宙が縮んだみたいです。

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