ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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33話 生還

「11時間、55分経過」

 

 マヤが作戦の指揮を執るリツコ、そしてアスカ、レイ、シンジたち三人のエヴァパイロットに告げる。

 11時間55分とは、タローが第12使徒 イロウルに飲み込まれてからの時間。彼が行動を起こすと言った12時間後まで、作戦開始時刻まで残りは5分と迫ってきた。

 

「間もなく、作戦を開始します。12時間経過のタイミングでA.T.Fアトマイザーを影に向かって同時発射、目標のATフィールドを破壊しエヴァ壱型及びタローくんを救出」

「あの球体は?」

 

 アスカが質問した。

 

「おそらく、本体である影を破壊すれば消滅するわ。けれど、ディラックの海の出口がその球体に繋がる可能性もある。覚えておいて」

 

 A.T.Fアトマイザーなどというとんでも兵器を持ち込んだ張本人であるイェーナが答える。

 その説明が終わる頃には、残り時間が2分を切っていた。

 

「いざという時は私の指示でN2爆雷を投下します」

「嫌な役割をさせるわね、ミサト」

「いーのよ、始末書を書くのは慣れてるし」

 

 プランBに据えた現存するN2爆雷による同時攻撃、その指示はミサトが担当することに。

 当然、いくらエヴァの中と言えどパイロットが無事ではないのだが。ミサトはあえてこの役割を買って出た。

 

「残り1分。59、58、57、56......」

 

 そしてマヤが秒数をカウントし始める。A.T.Fアトマイザーの引き金に指をおいたパイロットたちはもちろん、リツコたちの顔にも緊張の色が浮かんでいた。

 

 一方その頃、取り込まれた側のタローはというと。

 

「よし、そろそろか。だいぶんLCLも濁ってきたし息苦しい。出たらとにかく新鮮な空気がほしいな」

 

 機能を必要最低限に落とす生命維持モードによって、循環効率が悪くなり浄化能力が低下してきたLCLの中で冷静さを保とうと、口を動かす。

 目に見えてわかるくらいにはLCLは濁り、どことなく粘度が正常のそれよりも高くもたつく感覚を覚えながら、エヴァを起動する。

 辺りは真っ白、残された時間は僅か3秒だった。

 

「いくぞ」

 

 その三秒に全てを賭け、タローはATフィールドを全開に。

 

 同じように、地上ではアスカたちがマヤのカウントする時間を聞きながらA.T.Fアトマイザーを影に向けた。

 

「5、4、3、2、1」

「発射!」

 

 マヤのカウント、そしてリツコの指示に従いA.T.Fアトマイザーの引き金を引く三機のエヴァ。

 ギュゥウウン! とATフィールドがぶつかりあった時とは違う独特な音と共に、A.T.Fアトマイザーの銃口から発射された極限まで圧縮されたATフィールド。

 目でハッキリ捉えられ、周囲の空間を歪ませるほどのそれはまさに衝撃波。それがレリエルに接触すると、すぐに効果が現れた。

 

「これがA.T.Fアトマイザーの力......」

 

 リツコが思わず声を漏らす。

 薄墨に白いペンキを垂らしたときのように、真っ黒な影が滲みながら消えていく。やがて第三新東京市の地面が現れるが、そこには壱型の姿はもちろん、飲み込まれたビル群なども無かった。

 

「上よ」

 

 現場に焦りが見え始めた時、イェーナの控えめながらも良く通る声が響く。

 バッ、と全員が上を。球体を見る。未だ上空に佇んでいた白黒の球体、その白い部分が不可解な動きをして消え、真っ黒な球体に。

 目を凝らしてよく見ると、真っ黒な球体の中央には穴が空いているのか、球体よりもさらに黒い何かが。

 

「壱型のモニタリング、復活しました!」

 

 自身の持つノートパソコンに、壱型の情報が表示されモニタリングが行えるようになったことでマヤが叫ぶ。

 あの穴に壱型は居る。それを知ったパイロットたちは我先にと球体へと走り出した。

 

「はああああああッ!」

 

 シンジの叫び声と共に初号機がプログナイフを片手に飛び上がる。

 球体に弾丸は通らず消えたが、今は実態があるのかプログナイフが突き刺さり。初号機はそれを支えに中央部へと手を突っ込んだ。

 

「捕まえた、!」

「こっちよ!」

 

 突っ込んだ腕を動かし、エヴァらしき何かを掴んだフィードバックを受け取ったシンジ。

 アスカは少し離れた位置で両手を広げ、シンジがこれから引っ張り上げるものを受け止める体勢を取る。直後、シンジは目一杯初号機の腕を引いて手に掴んだものを引っ張り出した。

 

「ハアッ!」

 

 初号機が引っ張り出したもの。それは紛れもなくエヴァ壱型だった。

 しかし、エネルギーが完全に底を尽きたため、ぐったりとした姿勢で瞳の輝きは無く。初号機が飲み込まれそうになったのを壱型が救い出したときのように、引っ張り出した勢いのまま投げ飛ばされてアスカの手の中へ。

 

「よっ、と」

「ナイスキャッチアスカ!」

 

 タイミングと立ち位置を調整し、お姫様抱っこの形で壱型を受け取る弐号機。

 完璧なキャッチに、ミサトが立ち上がってアスカを褒める。

 

「碇くん、離脱して」

「うん」

 

 壱型が引っ張り出されたことで、球体の崩壊が始まった。

 イェーナが言ったようにディラックの海の出口が球体とつながり、そこから壱型が出てきた。その後に続くように、飲み込まれたビルが降ってきたのを確認したレイがシンジに離脱するよう言う。

 初号機と、壱型を抱えた弐号機が安全地帯まで離脱できるようにと、レイは近くにあった兵装ビルからパレットライフルを取り出し、球体から出てきて落下を始めているビルに向かって掃射。

 巨大なビルは細かな瓦礫となり、その隙にエヴァ全機が影が広がっていたため平面になってしまった範囲から離脱した。

 

「サンキューレイ」

「助かったよ綾波」

「ええ」

 

 咄嗟の判断でビル群を射撃したレイは、アスカとシンジにお礼を言われ少し照れくさそうにしながら返す。

 壱型の救出劇を遠くから見ていたリツコは、マヤに使徒の反応があるかを確認する。マヤはただ首を横に振り、穏やかな表情を見せた。

 

「作戦成功、ね」

 

 ようやく肩の荷が下りたリツコは、ホッと息を吐いた後に思わず少しふらつく。

 その背中をミサトが支えると、ゆっくり振り返ったリツコに微笑んだ。

 

「見事だったわよ、リツコ」

「......そうかしら。私はただ、開始の合図をしたくらいよ。ミサトが普段どれだけの思いなのか、今になって知ったわ。それに、ほとんどがレーマン博士のお陰だもの」

「それは違うわ赤木博士。タローを助け出せたのは間違いなく貴女の作戦のお陰、私はその手段を提供したに過ぎないのだから」

「......ありがとう、ございます。レーマン博士」

「これで貸しはチャラね」

 

 ニッと口角を上げると、髪の毛をなびかせながら振り返りエヴァの方へとゆっくり歩いていくイェーナ。

 彼女の後ろ姿にミサト以外の職員たちはタローの姿を重ねていた。

 

「どう? イェーナさん。凄いでしょ」

「凄いも何も、あんな人がまさか本当に居るだなんて思わなかったわよ。同じ研究者として憧れはあったけれど、正直都市伝説の類かと思っていたし」

「まー信じらんないわよね、あの超人具合は。どれだけ忙しくても時間内に仕事を終わらせて、絶対に定時で帰ってたし」

「それは凄いわね。ドイツ支部も相当に忙しかったのでは?」

「入りたての私ですらヒーヒー言いながらじゃないと終わらない仕事量だったわよ。イェーナさんに仕事を早く終わらせるコツを聞いたら『前日のうちに翌日のところまで準備して、出来るものは終わらせるのよ』って返ってきた時はスペックの差に頭を抱えたわ」

 

 苦笑いしながら話すミサト。彼女もリツコや加持と同じ第二東京大学出身のため、日本でも有数の人材ではあるのだが。そんな彼女ですら敵わないと、諦めを通り越して尊敬の目を向けるイェーナは何者なのだと周囲がざわめいた。

 

「人間、こうも圧倒的な格の違いがあると他の感情は一切なくなって。もうただただ凄いとしか思えなくなっちゃうんだってイェーナさんに思い知らされたっけ」

「ミサトやタローくんにアスカがとても懐いていて、加持くんが恐れてるっていうだけでレーマン博士が聖人の部類だっていうのが予想されるわね」

「もう神様よ。お嬢様で家柄も良くてご両親も美男美女で優しいし気さくだし優秀な学者だし、生まれも育ちも何一つとして足元に及ばないのよ」

「そんなに自信満々に言う事かしら......」

 

 ミサトはイェーナには何一つ勝るものが無い、と胸を張って嬉しそうに宣言しリツコに飽きれられる。

 

「絵本の中から出てきたような人ですね」

「そーなのよマヤちゃん。私が唯一イェーナさんと張り合えることといえばタロちゃんとアスカへの愛くらいだもの」

「むしろ私としては、レーマン博士の二人に対する愛はミサトが認めるくらい凄いものなのか、と驚きだけれど」

「確かにそうですね。葛城さんと同等ですか......」

「私が言うのもなんだけど、ほんとイェーナさんも大概ヤバいのよ。特にタロちゃんに対しては私より凄いわね。色々と」

 

 いつにもまして真剣な表情で言うミサトに、固唾をのむリツコとマヤ。

 確かにクールではあったが、誰よりも早くパイロットたちの元へと向かっていったイェーナ。今はどういう状況だろうか、と三人もその後を追っていく。

 

「イェーナ、エントリープラグが出てこない!」

「おそらく、もう少しも電源が残ってないのね。ちょうど良いし、装甲は気にしないで強制射出させて」

「わかった!」

 

 アスカはイェーナの指示を仰ぐと、すぐさまプログナイフを壱型の頚椎付近にそっと突き立て、て装甲を剥がす。

 ニュッと飛び出してきたエントリープラグを弐号機が優しく指でつまんで完全に取り出すと、それを地面にゆっくり下ろし。弐号機からはアスカ、零号機からはレイ、初号機からはシンジが飛び出してきてそのエントリープラグを囲った。

 

「あ」

 

 レイが何かに気づく。全員の視線が彼女に向かうと、エントリープラグからはグググと音がなって緊急ハッチが開いていき、濁って粘度の高くなったLCLが流れ出る。

 直後、ゲホゲホと咳き込む音がして。完全にハッチが開かれると、伸びをしているパイロットの姿が。

 

「ぁ~死ぬかと思ったぁ。新鮮な空気が美味いッ!」

 

 スーハースーハーと何度も深呼吸し、久しぶりに感じるまともな呼吸に顔を明るくするタロー。

 当然、そこに誰よりも早く駆けつけるのはアスカ......と思いきや。薄い金髪が光の速さで駆け抜けた。

 

「グエッ!?」

「こうして会うのは久しぶりね、タロー」

「ちょ、だ......って、イェーナさん!?」

 

 ミサト以上の力でタローを抱き寄せるイェーナ。彼女の胸元で視界を奪われたタローは、その懐かしい香りで自分を抱きしめているのがイェーナだと気づいた。

 

(このいい匂い、イェーナさんだ。相変わらずマイナスイオンたっぷりや......)

 

 常時夏の日本でも涼し気なイェーナに、タローは昔から思っていたことを思い出す。

 しかし、アスカはそれが面白くなかった。大股で近づいていき、イェーナを引っ剥がそうと肩に手を置いた。

 

「離れなさいッ!」

「あら、失礼」

 

 抵抗されると思いきやすんなり離れたイェーナに、アスカは思わず目を丸くする。

 これがミサトであれば『良いじゃないの!』やら『もうちょっと!』とでも言って粘っただろうが。イェーナはタローの前では『格好いいお姉さん』を貫くつもりらしく、すました顔でアスカに笑いかけた。

 

「流石の切り替えの速さじゃない、イェーナ?」

「何のことかしら」

 

 バチバチと火花を飛ばすアスカと、それを受け流すイェーナ。

 やはりイェーナの魅力を知っているアスカは、絶大な信頼を寄せると同時に。年齢差が10のマヤ以上に警戒心を強く持っている。といっても、彼女がミサトの二つ上だと思っているため、イェーナが本気になることは無いだろう、というのがアスカの考えではあるが。

 

「ていうか、イェーナさん!? いつの間に日本に!?」

「つい数時間前にね。それから、今日付けで私もネルフ本部の所属になったの」

「ゑぇ゙!」

「といっても、あくまで本部に出向、という形だけれど。そうしないとドイツ支部所属になっている壱型の整備が難しいし、予算を出すのに面倒だから」

 

 大人の都合でドイツ支部所属でネルフ本部貸し出しになっている壱型、その整備を担当する気満々のイェーナはタローの頭を撫でながら言う。

 タローも身長が伸びたのだが、同時にイェーナも身長が伸びているため目線が以前あった時よりもさほど変わらない二人。

 大人しく撫でられるタローとイェーナが格好いいお姉さんを演じるならあたしはいい女をと唇を尖らせ我慢するアスカ、タローを助け出せて嬉しい気持ちと年上に尻尾を振っている姿にモヤモヤして複雑なレイ、既視感がありすぎてなぜだか笑えてきたシンジ。

 

 混沌とした状況を、ようやく追いついて少し離れた場所から見るリツコたちは顔を合わせて苦笑するばかりだった。

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