ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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個人的に少し忙しいので投稿頻度はガタガタになります。


38話 目標

 ネルフ本部に一本の電話が入った。

かけてきたのは切羽詰まった様子の米国支部職員。松代にて行われているエヴァ3号機の起動実験に参加しているメンバーの一人だった。

 

「は?」

 

 英語のわかる職員が電話を取ると、そんな声を漏らす。同時に、発令所内に無数の警報が鳴り響いた。

 

「これは......ッ松代にて、爆発事故発生!」

 

 シゲルが発令所全体に響き渡るよう大声で叫ぶ。と同時に、松代から送られてきた情報を各職員たちが精査し始める。

 騒ぎを聞きつけ、冬月とゲンドウも発令所の最上デッキへと現れた。

 

「何事だ」

「エヴァ3号機の起動実験が行われている松代で、爆発事故が発生しました! 被害状況は現在不明です!」

 

 ゲンドウの問いにはマコトが答える。それを横で聞いていた冬月はすぐさま指示を飛ばした。

 

「救助及び第三部隊を直ちに派遣だ。戦自が介入するまえに全てを処理しろ」

「了解!」

 

 シゲルは冬月の指示に従い、各部署に連絡をとって松代へ救助隊を派遣する。それが終わると同時に、松代から追加の情報が届いたことを知らせる。

 

「続報です! 爆心地は仮設ケイジ、地上管理施設等の倒壊が確認されています!」

 

 サーモグラフィー等のデータから、爆心地を判断し。遅れてやって来た映像から建物の倒壊を確認する。

 ゲンドウと冬月はその映像を見て眼光を鋭くした。

 

「3号機の姿が見えないが......暴走か?」

「ああ。だが3号機が消滅したとなればこの程度では済まん。おそらくは」

「使徒、ということだな」

 

 冬月の言葉に、ゲンドウは目線をスクリーンから動かさず頷く。

 

「事故現場南西に未確認移動物体発見! パターンオレンジ、使徒とは確認できません」

「総員、第一種戦闘配置」

 

 マコトの報告にゲンドウが静かに告げる。

 未確認移動物体はパターンオレンジ。使徒である、と断定されてはいない。

 加えて事故現場に3号機の姿が見えないこと。未確認移動物体が爆心地近くに居ることから、発令所内には一瞬で緊張が走った。

 

「エヴァ三機を出撃だ」

「り、了解。エヴァ零号機、初号機、弐号機、出撃及び空輸用意!」

 

 ミサトとリツコ不在の今、エヴァを動かす準備はマヤ主導で行われる。

 パイロットはまだ到着していないが、すぐにでも出撃出来るようにとデッキに保管された三機のエヴァをケージに移動。あとはパイロットが乗り込んで輸送機に固定、松代まで向かうのみ。

 エヴァ3号機の起動実験を横目にモニタリングしつつ、普段通りに業務に取り組んでいた先ほどまでとは一転し、発令所は慌ただしく動く。そこに、再び通信が入った。

 

「葛城三佐からです!」

「繋げ」

 

 シゲルが叫ぶと、ゲンドウが通信を認める。

 スクリーンにはM.KATSURAGIの文字が表示され、ややノイズ混じりにミサトの声がスピーカーから発令所に流れる。

 

「―――エヴァ出撃―――請......タロちゃ―――救出を―――」

「葛城三佐、状況を説明しろ」

「いか―――司令、3号機は―――」

 

 そこで、ガツン! と何かを叩きつけるような音が響く。

 何が起きたのだ、と発令所の全員が息を呑む中。先ほどよりはいくらかクリアになったミサトの声が響く。

 

「聞こえますか、碇司令」

「ああ。無事か葛城三佐」

「はい......こちらはなんとか。赤木博士も、オペレーター室にいる米国支部の職員も、命に別状は、ありません」

 

 声自体は出せるが、意識がふらつくのか間が空くミサトの声。

 作戦課長、そしてエヴァ開発の総責任者であるリツコの無事が確認されたことに発令所に一旦は安堵のため息が溢れた。

 

「そうか。3号機はどうなった」

「......第二次接続に入ったところで、暴走状態に。爆発の直前、体内に高エネルギー反応アリ。おそらく使徒によるものかと」

「わかった。エヴァの出撃はこちらで既に準備済だ。パイロット及び葛城三佐たちの救助も向かわせている、安全を確保しつつ待機するように」

「ありがとう、ございます......タローくんを、よろしくお願いします」

 

 最後の力を振り絞ったのか、その後は無音になる通信。

 念のために切らずそのままにしておくように、とゲンドウが言ったところに、カツカツとヒールの音と共に一人の女性が現れた。

 

「何があったのかしら」

「レーマン博士」

 

 女性、ミサトからの通信を傍受して発令所まで駆けつけたイェーナは、マヤの座る椅子の背もたれに手を起き、彼女の見ているスクリーンと、発令所全面にある大型スクリーンとを交互に見る。

 そこから得られた情報で全てを察したイェーナは、ピクリと眉を動かして呟いた。

 

「3号機の暴走、か。ここから3号機に信号を送れる?」

「はい、3号機の姿が確認できれば可能です」

「パイロットの状態は?」

「......まだ、確認出来ていません」

 

 マヤの言葉に、クッ、とイェーナの眉と瞳の距離が近くなる。

 そして上体を起こし、イェーナはゲンドウを見上げる形となって言った。

 

「碇司令。3号機はどうするつもりで?」

「機体を確認しないことには答えようが無い。事前の情報をもとに、状況に応じて破棄する」

「作戦指揮権を渡しなさい。少なくとも、今保有している最高戦力は貴方よりも私に素直に従うわ」

「......」

 

 とても総司令官に対しての口の聞き方とは思えないが、イェーナを咎める者は誰も居ない。

 それはゲンドウ自身もであり、イェーナからの『お前より私のほうがエースを上手く扱えるから作戦指揮権を寄越せ』というド直球の反抗に考え込む。

 しかし、ゲンドウとて譲れないものがある。そのため、条件付きで許可を出すことにした。

 

「エヴァ3号機を確認、これを破棄し殲滅目標とするかの判断は私が下す。その後は好きにしたまえ」

「なら判断は早く下しなさい」

「......善処しよう」

 

 ノータイムでイェーナに言われたゲンドウ。それを横から見ていた冬月は『やはり碇と女性科学者の相性は悪いな、ユイくんを除いて』とこの状況でも懐かしさで零れそうになる笑みを堪えていた。

 

「それから、ここに居る全員は私の発言に一切の反論はしないこと。パイロットが動揺しては動くものも動かないわ」

 

 その言葉に隠されたイェーナの意図を、発令所は確かに受け取った。

 これから出撃するエヴァ三機のパイロットたちは3号機に誰が乗っているのかを知らない。しかし、もう一人が居ないとなれば、彼女たちはすぐに誰が3号機に乗っているか気づくだろう。

 イェーナは、その時に彼女たちがためらわず3号機を攻撃できるよう発言する。それが嘘か真かは問わず。

 そこに横槍を入れられてはパイロットたちを混乱させるだけ。つまり、全員黙って私の言葉に肯定しろ、というのだ。それが少しでも彼女たちの心を守ることになるのだから。

 

「エヴァ出撃用意完了。パイロットたちも間もなく到着します」

 

 そのエヴァが向かう先に居るのは3号機か目標か。日の落ち始めたネルフ本部にはまだわからなかった。

 

 

 


 

 

 

 夕暮れの松代。赤、青、紫、三機のエヴァが赤い太陽に照らされながら待機していた。

 

「どうなってんのよ、松代で爆発事故があったってそれ以外なんの説明もなく出撃だなんて。それに、タローが居ないじゃない」

 

 赤いエヴァ、弐号機に乗るアスカがぼやく。その声を拾ったマヤは、言いにくそうに言葉を絞り出す。

 

「もう少しだけ、待ってて。戦闘になる可能性もあるから」

「戦闘? ミサトの居ない状況でどうするのよ。ていうかミサトもどこ行ったのよ」

 

 レイとシンジもアスカと動揺の疑問を持っていたのか、目線を仮想スクリーン越しにマヤへ送る。

 言っても良いものか、とマヤが戸惑っているとイェーナが割って入った。

 

「今は暫定的に碇司令が指揮を執っているわ。でも、もうじき私が指揮を執るから安心して」

「安心してって、あんたねどうリアクションすればいいのか難しいわよ」

「素直に喜んでおきなさい。ミサトのことなんだけれど、松代での爆発事故に巻き込まれたわ。赤木博士と共に」

「え......」

 

 イェーナがミサトとリツコ、二人の状況を簡単に伝えると、レイがため息交じりの声を漏らす。

 すかさずイェーナは詳細を伝えた。

 

「つい先程ミサトから連絡があって、二人とも五体満足で命に別状は無いわ。現在総力をあげて救助活動中。三人とも、今は目の前のことに集中しなさい」

「わかってるわよ」

「......はい」

「はい」

 

 つい先程のミサトからの連絡、というのは嘘だが。繋げっぱなしにしていたミサトと発令所との通信からイェーナが向こうのオペレーター室にアクセス、カメラを起動し全員の生存を実際に目で確認している。

 驚くことに現在進行している救助活動の報告からも、米国支部職員の死者の報告は上がってきていない。そのためイェーナが爆発直前の映像を確認したところ、爆心地である3号機から上へ広がるようにエネルギーが放出されていた。

 ミサトたちが居るオペレーター室含め、周辺の施設は直接的な爆破自体は回避。しかし、爆風によって倒壊した建物によって救助は難航しているのが現状だった。

 

「ええと、何度も聞くようで悪いんですが......タローくんはどこに?」

 

 控えめにシンジが言う。

 それを受けて発令所にいるマヤ、マコト、シゲルはイェーナに視線を送る。素直に言うのかどうか、と。

 イェーナは目を閉じ、脳内で会話をシミュレーションして最適な言葉を練り上げる。

 

 前提として、パイロット三名はタローがエヴァ3号機の起動実験に参加していることどころか、エヴァ3号機の存在。そして3号機が日本に持ち込まれた原因である4号機の話すら知らない。

 その中でどこまでをどう説明するのがこの後に控える作戦のために最良か。線引きが難しいところを、イェーナは自分であればアスカもなだめられると思い切って打ち明けることにした。

 

「タローも松代に居たわ。けれど、少なくとも爆発の被害は受けていない」

「......どういう、ことよ」

 

 イェーナの予想通り、アスカが息をつまらせる。

 しかし、彼女も。発令所全体もタローの安否は気になるところ。唇を一瞬だけ強く閉じたイェーナが再び口を開く。

 

「松代で起きた爆発事故の原因は米国支部からやってきたエヴァ3号機の起動実験、そして3号機の暴走よ。タロー、ミサトと赤木博士はそれに参加していたわ」

「起動実験、暴走? そんなの聞いてないわよ!」

「実験は米国支部主導に極秘で進められていたものよ。このことは一部関係者以外には情報共有がされていなかったようだし、関係者にも箝口令が敷かれていたわ。だからアスカたちが知らないのも無理はないわね」

「ッ、なんっで、そんな大切なことを......!」

 

 ガツン、とエントリープラグ内でレバーに拳を叩きつけるアスカ。

 タローとミサトが教えてくれなかったこと、何も知らなかったこと、気づけなかったことにやるせない気持ちで拳をキツく握りしめる。

 

 イェーナは嘘をつくことに罪悪感を覚えながらも、ミサトとリツコが救助された暁には口裏をあわせておくよう脳の片隅にメモをする。

 3号機起動実験が極秘であった、と彼女は言うが。単純にアスカ、レイ、シンジ。そして直前になってテストパイロットに任命されたタローには言われなかっただけで極秘というほどではない。本部の職員は全員が知っていたし、箝口令等も敷かれていない。

 パイロットたちに『なぜ3号機を日本に持ってくるのか?』と質問されることを考えての秘匿であった。エヴァ4号機の話はパイロットたちにとってかなりショッキングな出来事だろう、それを伝えるべきではない。であればそこに繋がる足がかりになる3号機の起動実験も言う必要は無い、というのが職員たちの一致した考えだったのだ。

 

「......本当なの、父さん」

「碇司令」

 

 イェーナの言葉の裏を取ろうと、シンジは鋭い視線でもって父親であるゲンドウに聞き返す。

 レイもまた、イェーナの言葉を信じたくない気持ちから催促する。

 それまで黙っていたゲンドウの答えは、イェーナの言う事が正しい、というものだった。

 

「レーマン博士の言う通りだ。そして、3号機のテストパイロットに白露を推薦したのは私だ」

 

 ギリッ、と歯ぎしりの音が聞こえる。音の出どころはアスカだった。

 

「落ち着きなさいアスカ。碇司令はあくまでタローを推薦しただけ、それを受けたのはタロー本人よ」

「そもそもなんで3号機の起動実験を日本でするのよ! 挙句暴走だなんて、意味がわからないわッ!!」

「タローの乗るエヴァンゲリオン:プライマル、壱型に私たちドイツ支部のメンバーが改修作業を行っているのは知っているでしょう? その間の代替機として米国支部から3号機を提供されたの」

 

 よくもまあこうスラスラと嘘が出てくるものだ、とイェーナは自分で自分に感心してしまう。

 真実を知らないパイロットたち。事実と嘘を織り交ぜ彼女たちが納得できる話を即興で作り出すイェーナに、パイロットたちへの説明役を任せて良かったとマヤは胸をなでおろした。

 ただ、それでもアスカには納得出来ないことがあった。

 

「提供? 嘘言うんじゃないわよ。どうせ米国支部に押し付けられたんでしょ、暴走するようなエヴァを」

「確かにこれまで起動すらしていなかったのは事実よ。でも、戦力が一時的に減る状況。その申し出はウィン・ウィンだった」

「じゃあなによ、あたしを信用してないわけ? タローが居なきゃ、自分が居なきゃ駄目だと思われてたわけ?」

 

 それまで本部では見せなかった、幼い頃のような不安定さを見せるアスカ。その時期の彼女を知っているイェーナは当時と変わらぬなだめるような優しい声で語りかける。

 

「違うのよアスカ、貴女たちを信用していないわけじゃない。この世界に100パーセントはあり得ない。だからこそ使徒が現れた時、少しでも作戦成功率を上げるために。そして何よりも、タローは貴女を守りたいという気持ちでテストパイロットを引き受けたの」

 

 事実として、タローには3号機のテストパイロットの拒否権があった。

 彼がテストパイロットを引き受けた後に、ゲンドウがミサトを通して『無理をする必要は無い』とそれとなく伝えていたのだ。しかし、自分が拒否すれば次のテストパイロット候補がアスカである以上彼にとっては背水の陣。

 拒否権があることを知った時、タローはミサトとイェーナに『3号機があれば、ずっと一緒に戦えますね』とだけ言った。

 

「......守られるだけじゃ、ないのに......」

 

 耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声で、アスカが言う。

 誰よりもタローに隣に立つことをこだわる彼女にとって、タローが自分を守りたいという気持ちでテストパイロットを引き受けたことは、嬉しさと同時に切なさもあった。

 

(まだあたしは......アスカは、タローにとって守るだけの存在なの?)

 

 両手の平を見ながらアスカは考える。彼の横に立つために、今自分がすべきことは何か。それを理解すると、彼女はそれまでの振る舞いを恥じて「フウッ!」と大きく息を吐いた。

 

「悪かったわね、取り乱した。大丈夫。詳しいことは後から直接ご本人様にでも聞いてやるわよ」

「......そうね。そうするのが良いと思うわ」

「私も、白露くんと赤木博士に問い詰めます」

「じゃあ僕は......いや、優しくしてあげよう......父さんはいいや」

 

 アスカが気を持ち直せば、すかさずそれを支えようとレイも強気な言葉を発する。

 少なくとも二人から詰められることが確定しているタロー。せめて一人は味方が居てやるべきだと考えたシンジだが、自分の父親に対してその通りでは無かった。

 

 エースが不安定になり、一時はどうなるかと思われたが。パイロットたちに今回の出撃の理由もそれとなく伝えられたことで、イェーナは右手を腰に当ててその時を待つ。

 少しの間、パイロットたちも発令所も無言で待機の時間が続く。その沈黙を打ち破ったのは、シゲルだった。

 

「東御付近で映像を捉えました」

 

 今回の作戦で救助対象にも殲滅目標にもなり得る存在が、初めて発令所とパイロットたちに共有された。

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