ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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39話 救出作戦

 シゲルによって発令所の大型スクリーン、待機中のパイロット三名に目標を捉えた映像が共有される。

 夕日がオレンジ色に染めあげた山間。そこから一機のエヴァがゆっくりと姿を表したことで、発令所はどよめきに包まれる。

 

「エヴァ3号機」

 

 ゲンドウの隣に立つ冬月が、その姿を見て目を細めた。

 

「マヤ」

「はい?」

 

 直後、イェーナがマヤの名前を呼ぶ。

 突然名を呼ばれたマヤが疑問符の付いた返事をすると、イェーナは黙って彼女の目を見つめる。その意図を察したマヤは、すぐさまパイロット三名と発令所との音声通信をミュートにした。

 

「活動停止信号とエントリープラグ強制射出を試して」

「わかりました」

 

 イェーナの指示通りにマヤが動く。

 3号機を映像で捉え、アンテナ等の設備搬送を行ったことで信号を飛ばせるようになったた。コンソールにプログラムを入力して信号を送るも、3号機はその歩みを止めず。続いてマヤはエントリープラグ強制射出を試みたが

 

「停止信号及びプラグ排出コード、認識しません」

 

 エントリープラグをカバーする拘束具自体はパージされたものの、その周辺に存在する粘液状の物質によってエントリープラグの射出は叶わず。

 しかし、拘束具が剥がれたことで新たな情報を得られた。

 

「エントリープラグ周辺にコアらしき侵食部位確認」

「分析パターン、青です」

 

 シゲル、マコトが続けて報告する。

 使徒がエヴァに寄生し乗っ取った。それもパイロットを乗せてしまっている状況で。

 最後に、イェーナは3号機のエントリープラグを映す映像を見ながらマヤに聞く。

 

「......パイロットの状況は確認できるかしら」

「呼吸、心拍は確認しています......あっ、あれ」

 

 エントリープラグ内のデータを見ていたマヤが、ふと違和感を覚える。「これは一体」と驚きを言葉に漏らしつつも指を動かし、さらに細かくプラグ内を監視する。

 そのマヤが目を見開くと、発令所全体が一体何を見つけたんだと静かになる。一つのデータを発令所のスクリーンに表示させたマヤが、エントリープラグ内の異常を知らせた。

 

「エントリープラグ内部に高エネルギー反応! 侵食に対し抵抗しています!」

「なるほど」

 

 ニヤリ、とイェーナの口角が上がる。まるで『予防線を張っておいて正解だった』とでも言うような表情は、マヤの報告に戸惑う発令所内で気づかれることは無い。

 しかし、少なくとも現時点でエントリープラグ内部までは侵食を受けていないことが確認された。冬月とゲンドウはこれが予想外ではありつつも、何か心当たりがあったのかさほど驚きはしなかった。

 

「プラグスーツのお陰か?」

「一部の素材を、壱型とのシンクロテストに使用していたものから流用している」

「......末恐ろしいものだな、母親の愛情とは」

 

 本来ならその程度のことは、使徒の侵食に抵抗している理由としては見向きもされなかっただろう。

 しかし、壱型のエントリープラグが向かう先。コアに眠る魂の名を思い出した冬月は、自我の強さに驚きつつ納得せざるを得なかった。

 

「碇司令」

 

 イェーナが振り返り、下からゲンドウを睨み上げる。

 あのゲンドウが思わず姿勢を正してしまう視線を向けたまま、彼の決断を催促した。

 

「エヴァンゲリオン3号機は、もはやネルフの手を離れている。これをどう受け止めるつもりかしら」

「ああ......エヴァンゲリオン3号機は現時刻をもって破棄、目標を第十三使徒と識別。以降の指揮権をレーマン博士に譲渡する」

 

 スクリーンに写っているのはエヴァ3号機ではなく、使徒に。殲滅する目標に変わった。

 それと同時に、目標を撃破する作戦の全指揮権はイェーナに渡る。彼女はまず、パイロットたちとの通信をミュートにしたままもう一度マヤに声をかける。

 

「念のため、神経接続をカットできるかやってみて」

 

 マヤは頷き、3号機にもう一度信号を飛ばす試み行う。

 一度、二度、三度、丁寧に繰り返して信号を送るも、やはり結果は変わらず。

 

「駄目です、一切を受け付けません」

「そう、わかったわ。全員、改めて言わせてもらうけれど。私の言う事に反論はしないように。いいわね」

 

 声を張ったイェーナに、発令所は無言で同意する。

 彼女がこれからパイロットたちに告げるであろう優しい嘘、その業を背負うことへの同意を得られたイェーナは、パイロットたちとの通信のミュートを解除する。

 

「聞こえる?」

「ええ」

 

 噛みつくように返事をするアスカ。彼女たちの前に、先程山間で捉えた3号機。目標の映像が映し出される。

 フラフラとさまようかのように歩くその姿に、パイロットたちは得も言われぬ不気味さを感じた。

 

「これが今回の目標、第十三使徒よ」

「し、使徒ですか!? でも、これはエヴァで......タローくんが乗ってるんじゃ......」

「機体を使徒に乗っ取られたのよ。幸い、エントリープラグまでは侵食されていないようね。既にパイロットとの神経接続はカット済み、様体も監視できてるわ」

 

 3号機を使徒と言われたことに戸惑うシンジに、イェーナが嘘をつく。

 エントリープラグが侵食されていないことは確認された事実であるとしても、神経接続がどうなっているのか、パイロットがどの様な状況なのかは全く持って不明。

 確かなのは、イェーナの嘘は迎撃に当たるパイロットたちを安心させる材料になったということ。

 

「じゃあ、白露くんは無事ですか」

「もちろん。でも、いつまでも様子見をすることはできないわ。エントリープラグまで侵食が進んだらそこがタイムリミット、貴女たちには早急な救出が求められる」

「......わかりました」

 

 タローは無事であると認識できたレイは、それ以上は言わず。手に意識を向けて零号機が持つライフルの感触を馴染ませる。

 シンジと、そしてレイを丸め込むことには成功した。問題はアスカだ。

 3号機に乗っている人物が人物だけに、彼女が一番厄介だろうとは発令所全体が思っていた。いくら付き合いの長いイェーナであろうと、今の状況では彼女の言うことを全て信じることは考え難いと。

 ところがアスカの放った言葉は、イェーナですら想定していなかったものだった。

 

「信じるわよ、イェーナ。タローのことは任せた」

「......信じるもなにも、私は事実しか言わないわ。タローのことは任せなさい、随時状況は共有するわ」

「頼んだ」

 

 レバーを握りしめたアスカは、余計なことは一切考えないようにと深呼吸する。

 その様子を目を細めながら見るイェーナは、まるで我が娘の成長を喜ぶかのような表情のまま作戦内容を伝える。

 

「今回の作戦、第一目標はパイロットの救出よ。現在判明している情報では、エントリープラグ自体は無事。しかし、その付近に存在する粘液状の物質がプラグの射出を邪魔している。同時に、おそらくはこれがコアでもあると考えられるわ」

 

 3号機の脊椎部を始め、画像を複数枚表示していくイェーナ。ややフィーリング重視気味のミサトとは異なりデータを重要視する作戦の説明に、パイロットたちは新鮮さを覚えつつも耳を済ませる。

 

「おそらくは既に、エヴァンゲリオン3号機はエントリープラグを除き全身を使徒に乗っ取られている。長時間接触するとそこから侵食される可能性も考えられるから、肉弾戦には要注意。外見等の変化は見られないけど、あくまで目標は3号機の見た目をした使徒。何をしてくるかの想像はつかないわね」

「どうやってエントリープラグを排出させる?」

「エントリープラグ本体もある程度の耐久性はある。けれど、闇雲に攻撃は出来ない。まずはそれ以外の場所へ攻撃してATフィールドの中和を行うことを推奨するわ」

 

 どこから引っ張ってきたのか、3号機の詳細データ情報をパイロットたちに共有するイェーナ。

 頭部を除き、基本的には正規実用型かつ先行量産型の弐号機に近い外見をしている3号機。現在はエントリープラグがむき出しの状態となっているため、排出させるために剥がす必要のある装甲を赤色で強調する。

 

「この部分を切除すればエントリープラグはすぐ排出できる。プログナイフを用いることになるため、これには繊細なオペレーションが求められるわ。同時に、周辺にある粘液状の物質のATフィールドを中和する必要もある。ここはアスカに」

「Ja」

「残りの二人はバックアップよ。ライフルでATフィールドを中和しつつ目標の動きを牽制、数発くらいならエントリープラグ周辺に当たっても耐えられるから出し惜しみは無し。隙をみて目標を制圧し、救出作戦の援助を」

「はい」

「わかりました」

 

 状況判断は現場に任されていたこれまでと異なり、目標が元はエヴァンゲリオンであったこと、そこにパイロットが乗っていること、あくまで救出作戦であることで、今まで以上に気を使う必要がある。

 失敗すれば人が。パイロットたちにも、ネルフ本部にとっても馴染みの深い人が死ぬ。そうなればアスカたちは多少の無茶を承知で、特にアスカは自らの命に替えてでもタローを助け出そうとするだろう。

 仮にそれで失敗すれば、タローのみならず、アスカまで犠牲になる。そうなってしまってはネルフ本部が受ける損失は戦力面でも人員面でも、精神面でも計り知れないものになる。イェーナは嫌われる覚悟で最後に付け加えた。

 

「この作戦のタイムリミットはエントリープラグが侵食されるまで。エントリープラグへの侵食が認められた場合、または救出が困難を極めると判断された場合は、即座に殲滅へと移行するわ」

「......その判断は、誰がするわけ?」

 

 僅かな怒気を孕んだアスカの声が響き渡る。

 時と場合によっては、タローもろとも使徒を葬れと言っているのだ。アスカが怒りを滲ませるのは当然のことだった。

 それでもこの作戦の間、イェーナ・レーマンという人間であることを捨て、作戦指揮者として最も最適な選択をすると心に誓ったイェーナは揺るがない。

 

「私よ、タローを見殺しにするかどうかは私が決める。だから」

 

 イェーナ目を閉じてうつむき、覚悟の籠った目をで通信越しにパイロットたちの顔を見る。

 

「この作戦、全員が無事に帰ってくることを神に祈るわ。まあ、神の御業を再現しようとする科学者たちの祈りを受け入れてくれるかは別だけれど」

 

 とイェーナが言った直後、パイロットたちの前に目標が姿を表す。

「目標接近」とシゲルが言えば「迎撃開始」とマコトが指示し、効果があるかはともかくとして戦車の砲弾の雨が3号機へと向かう。

 しかし3号機はそれを気にもとめず、ATフィールドを展開することすらせずにまっすぐ待機中のエヴァ三機へと歩を進める。猫背でゆらゆらと腕を脱力させながら電線を体で千切り、零号機、初号機、弐号機と正対した。




ちなみにしばらくタローくんおやすみです。
物語の傾向としては、例えるならオープニングが残酷な天使のテーゼに戻る程度なので心配いりません。たぶん。

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