ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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40話 第13使徒

「......」

 

 夕日を背にした3号機と、パレットライフルを手にした初号機、零号機、ソニックグレイブを手にした弐号機が向かい合って数秒。奇妙な沈黙があった。

 弐号機の中で、アスカが僅かに震える手を振り切ろうと力を込めてレバーを握った時、3号機が獣のような咆哮でその沈黙を打ち破った。

 

「来る!」

 

 咆哮の後、3号機は膝やら背骨やらを折りたたんで小さく屈む。

 それを予備動作と捉えたアスカがレイとシンジに警戒を促すためにも声を上げると同時に、3号機は大きく飛び上がる。

 空中でグルグルと体を捻じるようにし、およそ人間の常識からは外れた動きでもって3号機が飛びかかった先は先頭に立っていた弐号機。

 偶然にも3号機が夕日を背にしていたことでアスカが一瞬視界を取られた次の瞬間には、エヴァの質量に高所から降ってくる加速エネルギー全てを両足に集約させた3号機が弐号機に突進していた。

 

「ッ、チ! コイツ!!」

 

 間一髪のところで手に持っていたソニックグレイブの柄で蹴りを受け止めた弐号機だが、3号機は両足が柄に当たると同時に畳んだ両足を一気に伸ばして弐号機を押し飛ばす。

 吹き飛ばされたアスカは背中から地面に接地しないよう、弐号機を巧みに操って片手でバク転し衝撃をいなしつつ体制を立て直して3号機を睨みつける。

 両手を地面につけ、四足歩行の動物のように着地していた3号機を見て思わずアスカの頭に血が上った。

 

「今ので良くわかったわよ。コイツはエヴァでもなんでもない、ただの使徒だってことが!!」

 

 キラリと弐号機が構えたソニックグレイブの刃が夕日を反射させる。

 まるで猛獣が獲物の様子を伺う時のように両手を地面に着いたまま低く構えている3号機に、今にも飛びかかろうとする弐号機。それを制したのはレイだった。

 

「待って」

「何よ! あんたも今の見たでしょ、タローがあんな無駄な動きするわけない。早くコイツを」

「エントリープラグ」

 

 さっさと倒してしまおう、3号機の動きに苛立ちと不気味さからその気持ちが先行していたアスカだが、レイの出したたった一つの単語でハッと我に変える。

 3号機が低い姿勢を取ったことで直接見えるようになった頚椎部、そこには青黒く光る粘液状の物体に捉えられているエントリープラグがあった。

 

「......悪かったわね、どうも」

「ええ」

 

 そのエントリープラグを見て、アスカは驚くほど頭の冴える感覚を覚える。と同時に、先程急に湧き出した苛立ちと3号機を殲滅するという破壊にも似た衝動の正体を理解した。

 

(コイツはタローじゃない、でもタローが乗ってる。助け出すことが最優先よ、アスカ)

 

 心の中で自分に言い聞かせるアスカ。3号機とタローを重ね合わせていたことで、人間とは全く違うあの動きがまるでタローの姿でふざけ倒しているように、侮辱されたように感じていたのだ。それによって湧き上がった怒りを落ち着かせようと深呼吸する。

 3号機はタローを閉じ込める檻。そこから彼を解放することが必要なことなのだと、レイに気付かされた。

 

「もう一度来るよ!」

「横に広がって!」

 

 そんな二人の会話が耳に入らないほど集中して3号機の動きを観察していたシンジが、3号機の僅かな動きをを知らせる。

 アスカとレイが3号機に意識を集中させれば、そこには右腕を大きく後ろに引いている3号機。エヴァの枠を外れた以上何をしてくるかの予測も立てられないなか、アスカは直感で面ではなく点でくる攻撃だと予測し叫ぶ。

 その直感は見事に当たり、3号機の腕はゴムのようにしなりながら伸びていき、散開した零号機の首もとをかすめ空を切った。

 

「デタラメねッ」

 

 伸びた腕に向かって駆け出す弐号機、その意図を察した零号機と初号機がパレットライフルを3号機本体に向かって発射。

 ソニックグレイブが腕に命中する直前、伸ばされた腕が一気に収縮し、その勢いを利用したのか3号機は後方へ飛び上がってパレットライフルの弾丸の雨を避けつつ距離を取った。

 

「小賢しいったらありゃしないわ」

「あまり離れすぎないように」

「うん、動きはこっちでなんとか抑えてみる」

 

 屈んでいる状態で再び動きを止めた3号機を前に、レイとシンジがパレットライフルを向ける。

 零号機と初号機が引き金に指をかけた時、イェーナが通信で大声を上げた。

 

「初号機! 直下にエネルギー反応!」

「え、あっ!」

 

 イェーナの声でシンジが足元に視線を向けると、すぐ下の地面がひび割れ始めた。

 考えるよりも先にシンジが初号機を動かすと地面から3号機の腕が現れ、初号機の首を掴む。そのまま地面に引っ張り込もうとするが、シンジは地面から伸びる3号機の腕を巻き込むように倒れ込んで堪える。

 

「ぐっ......クソッ」

「零号機、目標に射撃。弐号機、地中のエネルギー反応に向けて攻撃」

「はい」

 

 首を片手で締められながらも、体を張って地中から現れた腕を抑え込むことに成功したシンジ。すぐさまイェーナがレイとアスカに指示を出すと、レイは初号機の手放したパレットライフルを拾って二丁のライフルから弾丸を3号機に撃ち出す。

 そしてアスカは、発令所から送られてきたエネルギー反応箇所に向けてソニックグレイブを突き立てた。

 

「でりゃああああああッ!」

 

 地面に突き立てたソニックグレイブの刃は、やはりその位置に腕があるのかATフィールドが現れて弾かれる。

 それでもなおATフィールドを中和しつつ、弐号機との高いシンクロ率から生み出されるパワーでジリジリとATフィールドを突き破っていくアスカ。その刃がATフィールドを完全に貫いて地面越しに腕を捉える直前、3号機の腕がシンジの抑え込みをすり抜けたことでソニックグレイブはただ地面に深く刺さるだけに終わった。

 

「ゲホッ、ゲホッ......いつの間に地面に......」

「初号機の状態及びパイロットのバイタルは?」

 

 初号機からのフィードバックでしばらくの間呼吸が難しくなっていたシンジ。彼のバイタルと初号機が侵食の影響を受けていないかをイェーナがマヤに確認する。

 

「どちらも正常です、問題ありません」

「了解。三人とも、作戦を続けて。地中からの攻撃はこちらで観測できれば報告するけれど、あまりアテにしないでちょうだい」

 

 マヤの報告は両者とも正常。機体も神経接続も乱れていないため、三人でも作戦を続ける判断を下したイェーナは、マコトからキーボードをひったくって周辺の地中地面から腕を抜いた3号機を見る。

 目を軽く見開いたイェーナは、人間MAGIとも言われる頭脳をフル活用して腕が伸びる範囲の計算を始める。しかし、先ほど地中から伸ばした距離と初号機の首を締めて引きずり込もうとしたパワーの両立はエヴァを基準にすれば不可能と結論を出す。

 つまり、使徒の侵食によって3号機はその構造までもが全くの別物になったのだ。イェーナはその事実に小さくため息をついた。

 

「腕がどこまで伸びるかの計算結果はろくな答えが出なかったわ、今一度元がエヴァンゲリオンであるという考えは捨てるように。今はまだ動きをよく観察して、適切な距離を保つことを推奨します」

「Jawohl!」

 

 イェーナの口調に思わずドイツ時代の返事が出るアスカだが、誰もそれを気にしないほど発令所には張り詰めた空気が漂っている。

 なにせ命のタイムリミットがあるのだ。そのうえでまだ動きを観察することしか出来ない現状を打破するために、イェーナが前もってマコトと、個人的な伝手を辿って出していた指示が功を奏す。

 

「追加のライフル、間もなく到着です! 爆撃隊も先程出撃したとのこと!」

「了解。零号機、初号機、ライフルを投下します、今ある分は撃ちきってもらって結構。弐号機、間もなく爆撃隊による援護を。タイミングはこっちで決めるわ......安心して頂戴。ジェリコのラッパと共に現れるのはあの爆撃王の名を冠した精鋭よ、貴女とタローのことが大好きなね」

「あの部隊かぁ......いや、にしても職権乱用にも程があるわよ......」

 

 アスカはイェーナが応援を要請した相手を聞き、思わず引いてしまう。

 助っ人爆撃隊がどこの所属かと、その実力をこの場で知っているのは発令所も含めアスカだけ。通常兵器では有効打は与えられないだろうと全員が軽く流す中、アスカだけはそれが状況を好転させる切り札になり得るとニヤリと片方の口角を上げる。

 

 そんな彼女に疑問から軽く頭を傾けたレイとシンジのクラスメートであれば、おそらく大興奮したであろうドイツ支部が誇る精鋭部隊。

 その精鋭がイェーナがネルフ本部に来る時、しれっと数名が護衛の名目で着いてきていたのを聞いていたアスカだが、それでもまさかイェーナの命令一つで出撃するとは考えてもいなかった。しかし、出撃する理由を考えたアスカは改めてタローと自らのドイツ支部での幼少期の振る舞いが正解であったと確信した。

 

「援護射撃! ライフル来るまで時間を稼ぐ!」

「了解」

「うん!」

 

 勢いのまま飛び出すアスカ。3号機は近づかれるのを嫌ってか、弐号機の頭部を鷲掴みにしようと左腕を前方に伸ばす。

 弾丸のような速度で向かってくる3号機の左手を、アスカは目を大きく開き視界に捉え続ける。ギリギリまで引き付けたところで弐号機の首を傾け、置き土産にソニックグレイブの刃を。3号機の左手は弐号機の頭部ではなくソニックグレイブの刃を鷲掴みにし、伸ばされた勢いのまま真っ二つに切断されていく。

 

 そこに零号機と初号機から、パレットライフルに残っているありったけの弾丸が撃ち込まれる。3号機は依然として身動きを取らず、エヴァの装甲だけでは耐えきれないのかATフィールドを展開した。

 

「今ッ」

 

 これを好機と考えたアスカは、肩部から取り出したプログナイフを構え3号機に向かって駆け出す。一度横を素通りし、弐号機は右足に全体重を掛けて方向転換。狙いをエントリープラグ周辺へと付けてプログナイフの切先を向ける。

 戦闘前にイェーナから共有されていたデータをもとに、エントリープラグ排出のために切り取るべき装甲を強調表示させたアスカは、対象部位を切り取るため3号機の肩に左手を置いて固定する。しかし、直後アスカの左手に弐号機からのフィードバックで油に触れたような熱い痛みが走る。

 

「ッ、なに!?」

「離脱して!」

「惣流! 上!」

 

 爆発音の後、アスカの耳には自らの危険を知らせようとするレイとシンジの声。その声に従ってまずは目線を上に向けると、3号機の肩部ウェポンラックが弾け飛び第三、第四の腕が空に向かって伸びていた。

 付け根から肘までは真っ赤に、しかし肘から先はまるで人間のもののようなそれは、真後ろに居る弐号機に標的を定める。ほぼ死角からの攻撃となったが、かろうじて気づけたアスカは急いで弐号機を離脱させようとバックステップを踏む。

 

「しまった」

 

 ところが、弐号機の左足が地面から離れなかった。再び地中から現れた3号機の右手が弐号機の足をしっかりと掴んでいたのだ。

 その手を振り払おうとアスカが弐号機を動かすよりも先に、3号機の新たな両腕が伸びてくる。第二の右腕はプログナイフを構えていた弐号機の右手首を、第二の左腕は弐号機の頭部を掴むと、3号機は屈んだ状態から後方に飛び上がり、バク宙がてら弐号機を盾にするようにしてパレットライフルの弾丸の雨から避ける。

 

 ガン! という音と共に弐号機は後頭部を地面に叩きつけられ、零号機、初号機と3号機との間に弐号機が挟まれる形になる。弐号機への誤射を恐れたレイとシンジは、ちょうど弾数の底が見えていたこともあり引き金を引く指を緩めた。

 

「アスカ!」

「く、かはッ」

 

 沈黙した弐号機に向け、レイが声を荒げる。首を締められているアスカからの返事は空気の漏れる音だけだったが、かわりに弐号機が動きを見せる。

 自らを地面に押し付ける3号機の頭部に対して、抑えられていない左腕で側面からフックを一撃。渾身の力を込めて放たれた拳は3号機の体勢を大きく崩すことに成功し、アスカはその隙を逃さず自由になった右腕で足首を掴む3号機の指を切断し離脱。

 

「ライフル投下用意」

「零号機、初号機、受け取ったら即射撃。弐号機と空輸機の援護を」

 

 更にタイミングの良いことに、上空からパレットライフルがそれぞれ二丁ずつの計四丁落下してくる。

 レイとシンジはそれを確実に受け取ると、地上の弐号機、上空の空輸機に3号機の意識が向かないように連射する。

 弐号機と合流し、空輸機が遠くへ離れた後に爆煙が晴れると、そこには胴体部に弾痕を作った3号機の姿があった。

 

「ゲホッ、ゲホッ......助かったわ」

「あの腕は一体」

「ダメージは入ってるはず。でも、惣流が半分にした腕は」

「元通りになってるじゃない......面倒ね」

 

 パレットライフルによる射撃は3号機の装甲に傷を付けたが、アスカが機転を利かせたソニックグレイブの攻撃で真っ二つに割った左腕は、まるで何事も無かったかのように戻っていた。

 エヴァに例えるならば、拘束具に傷をつけられても素体は無傷。それを予想したイェーナがマヤに目配せをすると、マヤは3号機のエントリープラグを確認した。

 

「依然としてエントリープラグへの侵食は確認されていません。謎のエネルギー反応によって防がれています」

「おかげ、と言ったほうがいいのかもしれないわね。零号機、初号機、弐号機、作戦は続行します。一気に畳み掛けるべきね」

 

 イェーナの言葉を、アスカは好きに動けと解釈した。

 

「なら、自由にやらせてもらうわよ。あたしなりのやり方で」

「私も前に出る」

「僕も」

 

 3号機、第13使徒にとって奥の手であろう肩部からの追加の腕を見たアスカは、短期決戦に挑むことを決める。

 レイとシンジも、これ以上は黙ってみていられないと言わんばかりに後に続く姿勢を見せた。当然、イェーナはその案が出ることを見越していたため好きにやらせようと介入はしない。

 

「いつまでも好き勝手できると思わないことね......そろそろ返してもらうわよ、あたしの生きる意味をッ!」

 

 プログナイフを構え駆け出す弐号機。しかし今度は、その後ろに零号機と初号機。

 すこし離れた上空からは、ドイツ支部の精鋭爆撃隊が目標を捕捉していた。




結構忙しくて頻度遅いです。3号機は次にシバかれます。

物語の密度と1話ごとの文字数について

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