メダロットHERMIT   作:CODE:K

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1-1 Days of Typhoon1

「ねえ、さっきお姫様みたいなメダロット見かけなかった?」

『嫌です』

 

 今日も紅下(コシタ)アズキが話を投げかけたところ、腕時計型デバイス『メダロッチ』から拒絶の返事が鳴った。

 声は女型の機械音で、クールな中に淑やかさを感じるものとなっている。

 

「ねえ、スタッグ」

 

 アズキはいった。

 

「私まだ見かけたとしか言ってないんだけど」

『嫌です』

「けど、そのお姫様と一緒にいたのが」

『嫌です』

 

 しかし相手からの返事は「嫌です」の一点張り。相手から聞く耳を持とうする態度は一切感じられない。

 

 なおスタッグとは、アズキがパートナーとしている人工知能の愛称である。

 厳密にはメダルと呼ばれるもので、現在はメダロッチの中に搭載されている。

 

 で、その人工知能はいうのだった。

 

『そもそも仕事中なのですから真面目にやってください』

 

 三月。

 現在アズキはセレクトという治安維持組織の外部協力者として深夜のある小学校に潜入していた。

 

 待機してる場所は二階の廊下。

 窓から差し込む月明かりを光源に屋内外を監視しつつ、近くで足音が聞こえればすぐ女子トイレに隠れるよう位置を確保している。

 

「一応、真面目な報告も兼ねてたのだけど」

 

 アズキは紺のコートに身を隠しながら小声でいった。

 

 新年度から高校二年と現役の学生であるアズキは、いまも学校指定の制服とコートを着込んでいる。とはいえ上着は黒めの色彩を捜査に利用した形ではあるが。

 髪は高めの位置で縛ったポニーテール。胸部は貧ではないが若干控え目、スカートから伸びた脚からは程よく健康的な肢体であることがうかがわせる。

 

『どうせ』

 

 スタッグがいった。それも姿が見えないのに、機械音声なのに、妙に溜息混じりの「呆れ」って感情が存分に伝わる声色で、

 

『うまく確保できたら戦利品を私に着せたいという話なのでしょう?』

「うっ」

 

 図星だった。

 アズキにはメダロットという機械を利用してスタッグを着せ替え人形にする趣味を持っているのだ。

 

「けど、真面目という話はちゃんと別で」

『分かっています』

 

 スタッグが返事。

 直後、階段を上る足音がアズキの耳に届いた。

 

 咄嗟にアズキは息をひそめ女子トイレに隠れるも、

 

『大丈夫ですアズキ。あの反応はセレクトのようですから』

 

 と、スタッグはいった。事実近づいてきたのは白いヘルメットを被った防衛隊員の姿。

 セレクトは一度敬礼して、

 

「紅下さん、報告ありがとうであります」

「え?」

 

 報告? 心当たりのないアズキはメダロッチ越しのスタッグに視線を向ける。

 セレクトは続けて、

 

「先ほどスタッグさんから校舎裏でロボロボ団を見たと報告を受けたのですが」

『その通りです』

 

 スタッグはいった。

 

『先ほどアズキがお姫様のようなメダロットと一緒に行動するロボロボ団を見たそうです。ですよね?』

「あっ」

『改めて、ロボロボ団はどちらに向かわれたのですか?』

 

 そういえば、さっきスタッグはお姫様メダロットのことを「戦利品」と言っていた。相手が敵であると察してなければこんな呼び方にはならないはず。

 

 アズキは全て察した。

 

 最初に話を投げかけた時点で、すでにスタッグは「真面目な報告」にすべて気づいており、裏でセレクトに報告しながら片手間でアズキの話に付き合ってたのだ。

 おそらく「嫌です」一点張りだったのも報告の最中だったから。

 

 アズキはパートナーの手際に心底頼もしさを覚えながら、

 

「ごめんなさい。発見はしたけどすぐ死角に入られてしまって」

 

 と伝えるもセレクトは、

 

「いえ、むしろ発見したからと単独で追跡や深入りに走らなかった事に感謝であります」

 

 と逆に安心した顔をみせる。

 

「あなたが正式な協力者とはいっても子供に無茶はさせられないですから」

 

 セレクトはいった。

 

「すでに報告にあったロボロボ団の動向はこちらで特定し、現在隊員数名で追跡中であります」

 

 メダロット。

 それはティンペットという基本フレームに、人工知能メダルを搭載。頭部、左腕、右腕、脚部パーツを組み合わせて自分だけのロボットを作れる人型機械である。

 身長は大体一メートル前後。

 人間レベルの知能があってコミュニケーション能力が高く、外見の親しみやすさ、カスタム性の高さに加えメダロット同士を戦わせるロボトルの存在。

 

 こういった複合的な要因によって、玩具の域を超えて老若男女さらには様々な用途で幅広く普及している。

 いまでは人々のパートナーとしてなくてはならない存在だ。

 

 が、ここまで高性能となればメダロットを犯罪や悪事に使う者も当然現れる。

 ロボロボ団はその代表的な存在のひとつで、対しメダロット関連を中心に治安維持を図っているのがセレクトであった。

 

 

「みんな、紅下さんを連れてきたであります」

 

 先ほどの隊員に案内され、追跡中という他のセレクト三名と合流を果たしたアズキ。

 セレクトたちは三階の教室に隠れながら、たまにドアを隙間程度に開けて廊下を確認したり、聞き耳を立てたりしていた。

 

「連中はいまどうしてる?」

 

 アズキが小声でいうと、

 

「先ほど図書室に入ったであります」

 

 セレクトはいった。たしかに廊下を出てすぐの突き当りに図書室の扉が見つかる。

 

「図書室ね。ん、わかった」

 

「おそらく中にロボロボはまだ一名。他の団員が廊下を進んで合流しようとしたところを我々も突入する作戦であります」

 

 ロボロボ団は一体ここで何をしてるのだろうか。

 近辺で目撃があったのが数日前。数件の情報から校舎を嗅ぎ回ってると判断し、セレクトに協力を要請し深夜の張り込みに入って二日目の出来事であった。

 

「それにしても、紅下さんはまだ高校生なのにとても落ち着いてますね」

 

 セレクトのひとりが話しかけてきた。

 アズキは一度「え?」と反応してから、

 

「そう?」

「これでも深夜で危険の伴う現場だというのに、物怖じせず堂々として」

 

 さらに別のセレクトも、

 

「クールビューティというものであります。常に冷静沈着で気品を感じるであります」

「こら。お前たち任務中に女性を口説くな」

 

 アズキをここまで案内したセレクトがふたりを叱った。

 

「まったく。相手はまだうら若き学生さんだぞ。申し訳ないであります紅下さん。何分、我々は普段男ばかりの職場ですから」

「いえ、気持ちは分かります」

 

 適当に打った相槌ではない。

 アズキにも思うところや共感する部分があったのだ。

 

「ところで、全く進展がないように見えるけど」

 

 アズキも合流してからしばらく。

 最初の目撃以降、ロボロボ団が廊下を歩くどころか、校舎に入っていく様子さえ全く確認できず、ついにアズキはぼやいた。

 

「確かに、であります」

 

 セレクトがひとり、またひとりとうなずくと、

 

『私が近くで様子を見てきます。アズキ、転送を』

 

 スタッグがいった。

 

「うん。お願いスタッグ」

 

 アズキがメダロッチに指示をだすと、音声認識によって眼前に一機のメダロットが姿をみせた。

 

 見た目は女子学生の姿をした人型ロボット。

 セーラー服を模した装甲からは貧乳設定とわかる薄い膨らみが表現され、メカニカルなミニスカートは内側にボリューミーなお尻を見る人に連想させる。

 

 頭部は黒い光沢を放つツインテールになっており、これもまた可愛らしい。

 

「初めて見るタイプであります。SLR型ですか?」

 

 SLR型とはセーラー服モチーフとして作られたメダロットにあてられる型式番号なのだが、

 

「ううん、KWG型」

「ということはクワガタですか?」

 

 なんてセレクトが驚く中、

 

「改めまして。私はスタッグ、機体名セーラースタッグといいます」

 

 スタッグの声が、メダロッチではなく目の前のメダロットから鳴った。

 

 上品な佇まいもあって、メダロットながら柔和で育ちの良いお嬢さんといった印象を覚える。

 それでいて堂々としており、アズキの目には彼女こそセレクトのいう冷静沈着で気品ある女性に映った。

 

「ではアズキ、少し偵察に向かいますね」

 

 セーラースタッグことスタッグはドアを開けて教室を出る。

 その時、セレクトたちは彼女の後姿を前にして、

 

「たしかにクワガタであります」

 

 と納得する。

 スタッグのうなじにはセンサーが搭載されており、これが彼女を後頭部から見るとツインテールと合わせてクワガタの目と角になってるのだ。

 

 で、

 

『アズキ、すでにロボロボ団は室内に数人集まってる模様です』

 

 偵察に出てすぐ、メダロッチからスタッグの報告が鳴った。

 

「どういうこと?」

『それと図書室の窓が開いてるのを確認。おそらく私たちが発見した最初の団員が室内から窓を開け、他のロボロボ団は飛行メダロットを使って』

「窓から直接、図書室に入ったという話ね」

 

 アズキはいいながら、ちらっとセレクトに視線を向ける。

 セレクトはアズキのメダロッチに向けて、

 

「おそらく図書室は鍵をかけられてるはず。我々はドアを破壊できない以上、ロボロボ団が退室するタイミングまで待つしかないであります」

 

 なんて伝えるも、

 

『おそらく帰りは全員窓から退却されると思いますけど』

 

 と、スタッグ。

 

「そっ」

 

 セレクトは一旦固まってから、

 

「総員突撃であります!」

「待って」

 

 アズキはそんな隊員たちの制止に入るも、

 

「みんなメダロッチは持ったな」

「行くでありますゥ!!」

 

 セレクトは足並み揃えて敬礼。たったひとりを除いて隊員は教室を飛び出し、

 

「鍵は?」

「かかって。……なかったよ、鍵が!」

「でかした! であります」

 

 って声が図書室の辺りから聞こえた。

 

(えー?)

 

 ロボロボ団、鍵かけてなかったの?

 一周回って逆にパニックに陥りそうなアズキに、残ったセレクトが、

 

「仕方ない。我々も向かいましょうか?」

 

 同情した様子でいった。最初にアズキと接触した隊員だった。

 

『室内から酷い光景を確認。覚悟してくださいアズキ』

 

 他のセレクトが図書室に入ったことで、先に内部を見たであろうスタッグがいった。

 

「どういうこと?」

『報告したくありません。見れば分かります』

 

 一体どれほどの惨状が広がってるのだろうか。アズキは改めて残ったセレクトにうなずき、教室を後にして図書室に突入する。

 

 

 そこで見た光景は。

 お菓子とジュースでどんちゃん騒ぎしてるロボロボ団の姿だった。




サブタイトルはメダロットnaviの戦闘曲のひとつ「Days of Typhoon」より。
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