「プレゼント、って」
ティナさんが?
アズキが動揺する中、間桐さんは、
「ティナちゃん。彼女に抱き着いて、キスしてあげなさい」
とか言いだしたのだ。さらにティナさんも、
「はい」
とうなずき、アズキに近づいてくる。
ここでアズキは、明らかに彼女の様子が異常だと気づいた。
目が虚ろで感情が無いように見える。これは一体どういう事だろうか。
なんて状況を分析してる間に、ティナさんはアズキに抱き着いてきて、唇を近づけてきた。
「駄目! ティナさん!」
アズキは慌てて彼女を引きはがす。しかし間桐さんは続けて、
「ならその手を自分の胸に押し当ててあげなさい。たっぷり、彼女にあなたの胸を揉んでもらうのよ」
「わかりました」
ティナさんに腕を掴まれたアズキ。
アズキはレズでロリコンなので、このまま胸に押し当ててもらって好き放題揉んでしまいたい欲望に襲われるが、頑張って我慢して彼女の腕を振り払い、
「どうしちゃったのティナさん。なんで間桐さんの言いなりになってるの? 何かあったの?」
『アズキ、ティナさんの体内からメダルの反応があります』
「えっ!?」
アズキはスタッグの言葉に驚き、間桐さんに向かって、
「間桐さん。あなた、ティナさんに何をしたの?」
「何って、実験よ」
間桐さんは言うと、自分の頭に人差し指を当てて、
「この子の脳にメダルを入れたの。そしてメダロットのかわりに彼女の体を支配できるか調べてみてね、結果は成功」
「な、なんでそんな事を」
「だから言ったでしょ、実験だって」
正直、アズキはいま間桐さんが言った内容をほとんど理解できていない。
というより、いま何が起きているのか理解が追い付いてない。
しかし、間桐さんはさらに続けて、
「本当に大成功したのよ。ただ体を支配するだけでなくて、脳から人格情報をコピーして、メダルに本人の模倣をさせる事だって可能なのよ」
と言って、
「現在の命令を続行しながら、藤稔ティナの人格として活動しなさい」
なんて伝えると、ティナさんの目から感情の光が灯り、
「先生、ロリコンなんですよね? 今ならこの前言った三万どころかタダでいいですから、お得ですよ」
「その言葉」
たしか万引き事件の帰り、ティナさんは冗談で、
「先生、今度ホテルに行きませんか? 三万でいいですよ」
と言ったのだ。これはつまり、
「もしかして、人格だけじゃなくて記憶まで完全にコピーしてる?」
「そうなりますね」
ティナさんは言った。完全に藤稔ティナの人格、言葉として。
『アズキ! この方、間桐さんは危険です。逃げましょう』
スタッグの言葉にアズキはうなずき、
「分かった。いくよティナさん」
と、彼女の腕を掴む。
「どうして私も?」
なんて言う彼女に、
「いまの人格はティナさんなんでしょ? ティナさんは間桐さんの命令に大人しく従うような子だった?」
「そうですね。確かに支配されたくありませんから、ここは先生について行ったほうが良さそうです」
やっぱり、なまじティナさんの人格を模倣してるおかげで話が通じる。
アズキは間桐さんが何か言いだす前に、ティナさんと一緒に部屋のドアを開けて室外に出た。
『エレベーターを待つ時間が惜しいです。階段にしましょう』
「うん」
スタッグの指示に従い、アズキは目で階段を探す。しかし廊下からは階段が見つからない。
ティナさんが言った。
「このホテルには非常階段しかありませんよ」
「非常階段ね、わかった」
言われてアズキは非常階段の標識を探し、
『アズキ、廊下を突き当りまで進んだ先のようです』
スタッグのサポートもあって無事に辿り着いたアズキは、入口のドアを強引に開けて外に出る。
で、ティナさんと一緒に階段を駆け下りてホテルを脱出したが、
「あらあら、わざわざ非常階段を使うなんてご苦労様ね」
ほぼ同時にホテル本来の出入り口から間桐さんが現れた。おそらく彼女はエレベーターを使ったのだろう。
間桐さんはメダロッチを構えて言った。
「命令よ。アズキちゃんをロボトルで倒しなさい」
直後、ティナさんはその場で足を止めて、アズキの腕を振り払う。
「やっぱり、いまの私はメダルだからマスターの命令には逆らえないみたい」
「ティナさん、駄目だよ!」
アズキは改めて呼びかけるも、
「私だって、やりたくてやるわけではありませんから。メダロット転送」
ティナさんはその場でメダロッチを構えてメダロットを出す。
現れたのは、青いカマキリのような姿をした機体。しかし、
「スタッグ。このメダロット、前にティナさんが使っていたシックルカッターとは違うような気が」
『アズキ、あれはサイズカッター。シックルカッターの後継機です』
スタッグは言った。
さらに間桐さんが、
「私が与えたのよ。本当なら実質このメダロットもあなたの物になって、心強いボディガードになるはずだったのに残念ね」
と言ったのを前にして、アズキは「あ」と思い浮かび、
「間桐さん、確かティナさんは私へのプレゼントとして渡すはずだったんですよね?」
「そうよ。というよりも今もプレゼントとして渡すつもりでいるわ。私に協力すれば、こんな甘い汁を吸えるって覚えて欲しいもの」
「それって、マスター権限も譲って貰えるはずだったのですか?」
「それは駄目よ。彼女は私の大事な実験体だし、もしもの時メンテナンスをするためにも権限は維持しないといけないじゃない」
間桐さんは言うけど、
「けど、そうね。このロボトルに勝ったらサブマスター権限くらいは与えてあげてもいいわよ」
「本当ですね」
「もちろんよ。だってそのほうが、あなたがこの子に好き放題するのに都合がいいものね」
「そういうためじゃないですけど」
とはいえ言質は取った。
「ウォッカ、いまの話、ロボトルの報酬に加えてもいい?」
アズキが言うと、いつの間にか近くに立っていたウォッカが、
「ハラショー、もちろん大丈夫だよ」
「という話だから、嘘でしたは通じないよ」
アズキの言葉に間桐さんは、
「おや意外と抜け目無いね」
と、返事。
アズキはスタッグに、
「という話になっちゃったけど、あの機体で行ける?」
『大丈夫です』
スタッグから許可を貰ったところで、
「メダロット転送」
アズキも、この場にメダロットを送信する。現れたのは、セーラースタッグの後継機、ルミナスノワール。
ティナさんは、
「あれ? いつものセーラースタッグじゃない」
「新型を用意してきたのは、アズキちゃんも同じだったようね」
間桐さんは言った。
さて、早速与えられた新型を使う事になったのはいいけど、スタッグはこの機体をどこまで使いこなせるか。
アズキの目には、セーラースタッグとは正反対の重量級の機体に見える。
やっぱり、スタッグには性能が合わない気がするけど、
「ではこれより、スタッグ対ティナのロボトルを始めるよ」
自分からウォッカを呼んで、アズキも比較的使い慣れた他の機体を出さなかった以上、もうこの戦いは避けられない。
「うらーっ、ロボトルファイト!」
ウォッカが、ロボトル開始の宣言をした。
「いきます!」
最初の行動はもちろんチャージ、ではなくスタッグは最初からサイズカッターとの間合いを詰めに行く。
(え?)
と思ったけど、そういえば今回のルミナスノワールは脚部特性がセーラースタッグとは違うのだった。
今まで初手でチャージ行動をしてたのは、脚部特性のミラージュを利用して残像を出すためだったのだ。
だから、チャージしても残像を出せない以上、この機体だと最初から攻撃に入るのがベストである。
丈の長いスカートを模した装甲から推進機が起動し、一気に敵の至近距離に入った。
さらに右腕のバインダーから巨大なソードを展開すると、その重量感たっぷりの剣を強引に振るうためバインダーからもスラスターが起動。
スタッグの右腕からフォースが噴出した。
一応、試運転のため研究施設で模擬戦を見たアズキではあったが、いまでもこのメダロットの滅茶苦茶な構造には呆れるしかない。
なんで、ただ移動するためだけに推進機が必要なんだ。これではメダロットではなく巨大ロボットの移動シーンではないか。
そのうえ、扱う剣が大きいから腕のバインダーにもスラスターを付けましたとか狂ってる。
しかも厄介な事に右腕のスラスターに関してアズキは責める事ができない。何故なら、
「せいっ!」
と、スタッグが声をあげながらソードで斬りつけ、サイズカッターにヒット。
さらにスタッグがソードで追撃するため移動すると、右腕のスラスターから噴出したフォースがスタッグの残像を作り出したのだ。
今回、ルミナスノワールの右腕パーツは通常のソードではなくハイドブローを搭載している。
このパーツは、攻撃に使うと自身にコンシールを付与する効果を持つ。
つまり、今までチャージ行動によって出していた残像を、この機体はスタッグが使う事でソードを振るうだけで行える仕様になっているのだ。
けど、パーツ性能が変化していたのはスタッグだけではなかった。
スタッグが相手の側面からソードで追撃しようとしたところ、
「サイズカッター、ストレートライン」
ティナさんの指示を受けて、サイズカッターは頭部パーツを使用。シックルカッターの時と同様に全身からフォースが放出される。
しかし、効果は前回とは全然違った。
サイズカッターのフォースが辺りに広がると、スタッグの残像が消散したのだ。
アズキは驚き、
「もしかしてレーダーサイト?」
「いえ、それだけではありません」
スタッグが言った。
と同時にソードの一撃は敵が持つ両腕の鎌で受け止められ、逆にスタッグが斬られてしまう。
しかもダメージが大きい。
「あっ、ぅっ」
呻くスタッグ。これって一体。
アズキはメダロッチからサイズカッターの頭部データを確認し、
(ファイターコア?)
だという事が分かった。しかも効果はレーダーサイトとファイトブーストを同時に与えるときた。
レーダーサイトは攻撃成功値を上げるうえ、相手のステルス・コンシールを無効化する効果を持つ。
さらにファイトブーストは格闘パーツの成功値と威力を同時に増強する効果。ここまで命中精度を上げられてしまったらスタッグでも避けるのは困難である。
「スタッグ、大丈夫?」
「はい」
スタッグはうなずくも、
「ですがアズキ、メダロッチで私に何かマイナス症状が与えられてないかチェックしてくれますか?」
と言われてアズキが確認した結果。
「あ、ウィルスに感染してる」
サイズカッターの鎌は、いずれか、もしくは両方ともウィルスプログラムを搭載したパーツだったのだろう。
ファンシーベールと同じである。
「やっぱりですか」
ウィルス症状は落ち着いて修復すればすぐに取り除けるはず。しかし感染中は回避ができない。
スタッグは双角のブースターを使って一度サイズカッターから距離を取ろうとした。しかしサイズカッターはここぞとばかりにスタッグを追いかけてくる。
さらにサイズカッターは全身のフォースをブースターとして背中に集中して放出してきたせいで、スタッグよりも速い。
ついに相手はスタッグに追いつき、再び鎌でスタッグを切り裂こうとする。
けど、
「間に合った」
アズキは呟いた。
スタッグはウィルスの修復を完了し、右腕のソードで相手の鎌を切り払い、同時にハイドブローの効果で再び残像を作り出す。
いくら相手はレーダーサイトとファイトブーストを同時に使えるとはいえ使用回数に制限のある頭部パーツだ。
残像を消すためだけに乱用はできないはず。
「アズキ、このまま攻めきります」
スタッグは言った。
メダロット解説
以下の設定は小説内オリジナルとなってます。
[機体名]
ルミナスノワール
[型式番号]
TMZ-KWG-TS09
[性別]
女
[パーツ]
◆頭部:オーバーTT(補助/カーネル/なし/3回)
◆右腕:メイクビオイテケ(格闘/ハイドブロー/なし)Hv
◆左腕:ストップライフ(格闘/ジェットハンマー/がむしゃら)Hv
◆脚部:ルーズスカート(二脚/バトルダンス)
[メダチェンジ]
◆ドライブA(10/格闘/クロスショック/がむしゃら)
◆ドライブB(10/格闘/アンチエア/がむしゃら)
◆ドライブC(10/格闘/アンチシー/がむしゃら)
◆ムーブ(潜水/チェンジランブラー)
●Hv:0/1/1 合計:2/2
[使用者]
[備考]
セーラースタッグの後継機。
SLR型風のKBT型メダロットなのは共通しているが、スカート丈の長い黒のセーラー服を連想させる姿になっている。
同時にヴァリスノワールをプロトタイプとして設計されたTMZ製ブラックシリーズでもあり、
スピード型に見合わぬ巨大な武器や装甲、スラスターを搭載し、通常のメダロットより若干大型。これはルミナススタッグがベースであるからでもある。
なお、ルミナススタッグの巨大な双角は背中から伸びており、今回もうなじのセンサーによって後頭部から見るとクワガタの目と角に見える設計。
メダチェンジすると、今回はツインテール部分ではなく巨大な双角がフロートに変化した潜水艦の形になるが、
メダチェンジ前が回避型だったのに反し、メダチェンジ後はアンチエア・アンチシーでさえ普通に使って威力ある武器になるほど攻撃的な性能に変化する。
余談だけど、頭部パーツの正式名称はオーバーツインテール。
[チェンジランブラー]
作中オリジナルの脚部特性。
メダチェンジを実行すると自身に対して【症状:ファイトブースト】を付与する。
この特性で付与した症状は、メダチェンジ中時間経過で解除されない。
[機体名]
サイズカッター
[型式番号]
MDT-WMS-01
[性別]
男
[パーツ]
◆頭部:ストレートライン(補助/ファイターコア//2回)
◆右腕:ウォータアポース(格闘/ウィルス/)Hv
◆左腕:ウォータレジスト(格闘/ウィルス/がむしゃら)Hv
◆脚部:スイミー(多脚/マリナー)
●HV:0/1/1 合計:2/2
[メダチェンジ]
◆ドライブA(補助/ファイトスパイク//)
◆ドライブB(格闘/デスロック/)
◆ドライブC(格闘/デスロック/がむしゃら)
◆ムーブ(潜水/トランプル)
[使用者]
藤稔ティナ
[備考]
naviに登場するシックルカッターの後継機。メダロットS未参戦につきデータは当作品のオリジナル。
naviではメダチェンジ後のドライブB・Cはホールドでしたが、サイズカッター(大鎌)感を出すためデスロックに変更。
オリジナル脚部特性のトランプルによって貫通属性を付与し、
ファイターコアやファイトスパイクによって高い貫通ダメージを与える性能にしました。
なお、メダロットnaviではシックルカッターと型式番号が同じだった。
[脚部特性:トランプル]
【全体】特性を持たない格闘・射撃パーツに「貫通」特性を加え、貫通ダメージをランク×5%アップする。