メダロットHERMIT   作:CODE:K

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19-5 贄-nie-5

『左腕に中度ダメージ』

 

 スタッグのソードがサイズカッターの左腕を裂き、ティナさんのメダロッチから通知が入る。

 

「サイズカッター、切り裂いて」

 

 対抗し、ティナさんの指示を受けてサイズカッターが目の前のスタッグを両腕の鎌で攻撃するが、本物のスタッグはすでに移動した後。

 サイズカッターの正面でソードを振った直後のポーズを見せていたスタッグは残像で、斬られたと同時に光の粒子となって消滅した。

 

 スタッグは動き回りながら残像を作り続けて、すでにサイズカッターの視界には三体以上のスタッグが映ってるはず。

 

「全部切り裂いて、サイズカッター」

 

 しかしティナさんは躊躇わず指示し、サイズカッターは残像だろうと本体だろうと目に映るスタッグを全て切り裂きにかかった。

 あっちこっちと攻撃対象を細かく変更して混乱させるよりは、全部に攻撃したほうが確実。これは間違いないく前のロボトルでもティナさんが行った答えである。

 

(やっぱり、模倣とはいっても完全にティナさんだ)

 

 前回と同様、サイズカッターが迷いなく暴れ始めたので、スタッグは今回も回避行動に集中して相手が冷却状態に入るのを待つしか出来ない様子。

 だけど、

 

「あっ」

 

 今回、ついに敵の攻撃がスタッグの本体に当たってしまったのだ。

 

(そっか)

 

 スタッグの残像は所詮コンシールの応用でしかない。

 現在サイズカッターはファイターコアで命中精度を大幅に上げてるので、残像の中から本体を見分ける可能性が高くなってるのだ。

 

 さらにスタッグは再びウィルスに感染。

 修復に手間を取らされる事になり、

 

「きゃあっ、あっ、うあぅぅっ!」

 

 本体を完全に捉えたサイズカッターは両腕の鎌で何度も何度もスタッグを裂いてくる。

 回避できないスタッグは、防御に徹しながら相手がパーツの冷却に入るのを待つしかできない。

 

 結果、

 

『右腕、脚部、中度ダメージ』

 

 冷却に入ってサイズカッターの攻撃がやっと終わるのと、アズキのメダロッチから通知が鳴るのはほぼ同時だった。

 

(どうしよう)

 

 まだスタッグが、素人のアズキから見ても扱い辛そうと分かるルミナスノワールを使いこなせてないせいもあるだろうけど、戦況はこちらのほうが明らかに不利。

 アズキは心配のあまり、

 

「スタッグ、勝てそう?」

「弱気な事言わないでください。ウィルス修復完了しました」

 

 はぁはぁと荒く息しながらスタッグは言う。そうだった。本人が諦めてないのに、一応メダロッターであるアズキが負けを意識するわけにはいかないのだ。

 いくらこの前クワトロさんに負けたばかりだといっても。

 

「ごめんスタッグ。でも、もう少し模擬戦でこの機体の使い方を習熟するべきだったね」

「それは私も思いました。スペック自体はセーラースタッグよりも高いので、あとは実戦で何とかなると慢心してました」

「スタッグって、たまに慢心するよね」

「コミュ障で弱気でチキンなアズキには言われたくありません」

 

 気づくとアズキたちはお互い罵り合って、

 

「あはは」

「ふふふ」

 

 笑い合っていた。

 今までこんな風にロボトル中に相手を責めあった挙句、一緒に笑う事なんてあっただろうか。

 

 何だろう、すごく楽しい。

 セーラースタッグは失ってしまったけど、スタッグの告白を経て、正式に付き合う事になって、自分たちの絆が思った以上に深まってる事を改めて実感した。

 

 とはいえ、ロボトルの状況は変わらない。

 すでに残像を出すためのフォースも消えてしまってるし、仮にまだ残像を出せる状態でもサイズカッターは攻撃を当ててくる。

 

「アズキ、再び相手が攻撃を開始する前に、私も頭部パーツを使用します」

 

 スタッグは言った。

 

 確かスタッグの頭部パーツ、オーバーT(ツイン)T(テール)に搭載されてる技はカーテル。

 効果は、今までスタッグが重宝してきたステルスとコンシールを同時に使用するもの。

 

「分かった。お願いスタッグ」

「はい。カーネル使用します」

 

 直後、スタッグから残像が複数展開され、同時にステルスの効果によって全てこの場から姿が消える。

 この様子を見たティナさんは、

 

「だったら。サイズカッター、メダチェンジ」

 

 と指示した。

 命令を受けたサイズカッターは両腕の鎌を背中に移した潜水型メダロットに変形し、

 

「そしてドライブA」

 

 メダチェンジしたサイズカッターの周りをフォースが逆巻き出す。

 

 メダロッチから確認したところ、サイズカッターのドライブAはファイトスパイクといい、威力や貫通ダメージを上げる効果を持っている。

 さらにレーダーサイトと同様にステルス・コンシールを無効化する事ができて、

 

「あっ」

 

 とアズキが反応する時には、すでにスタッグのステルスは解除され、残像も全て消し飛ばされていた。

 

「逃がしませんよ。次の攻撃で確実に決めます」

 

 ティナさんが言った。

 アズキは慌てて、

 

「スタッグ、ごめん。まさか他にもステルス対策する手段を持ってるなんて思わなくて」

 

 が、スタッグは本気で平気そうに、

 

「いえ、大丈夫です」

 

 と言った。

 

「相手が潜水型になったのでしたら、私たちもあれを試すいい機会です」

「あれって」

 

 あっ!? アズキが気づくと同時にスタッグは言うのだ。

 

「メダチェンジ」

 

 って。

 

 直後、スタッグはやはりM字開脚。しかも丈の長いスカートをおっぴろげて行う動作は、どこかセーラースタッグの時よりいけないものを感じる。

 そのままスタッグはツインテールではなく背中の巨大な双角をフロートにした潜水艦に変形し、さらにスタッグの体をフォースが包む。

 

「ねえスタッグ」

「何ですか?」

「この機体の変形、なんだかセーラースタッグよりエッチに見える」

「え、なっ」

 

 スタッグは羞恥で動揺したような反応をして、

 

「なら、これ以上見ないでください。見たら通報します」

「そんな事言われたって」

「というよりも今から通報します」

「待って待って、いまロボトル中という話だから」

 

 なんてアズキとスタッグが馬鹿な会話をしてる中、ティナさんはメダロッチを確認し、

 

「え、どうしてあのメダロットにもファイトブーストの効果がついてるの?」

 

 なんて少しだけ驚いた。

 というのも、ルミナスノワールの脚部特性はチェンジランブラーといって、メダチェンジを実行する際、自身にファイトブーストを付与する効果を持つのだ。

 

 セーラースタッグの時はモビルブーストを付与する脚部特性だったので、ルミナスノワールのメダチェンジ形態はより攻撃的な変形という事になる。

 で、スタッグは潜水艦の姿でサイズカッターに攻撃の照準を合わせると、

 

「あ」

 

 ティナさんはこの後起こる事に気づいて、

 

「もしかして、これって、この前と同じ展開?」

 

 そういえば前回のロボトルでは、ティナさんはルール違反で脚部を飛行パーツに変えたおかげでスタッグからアンチエアで攻撃されたのだ。

 で、ティナさんも今ではセーラースタッグがアンチエアだけでなくアンチシーも持ってる事くらいは知ってるはず。

 

 スタッグは、変形前だったら頷きながら言ったであろう声で、

 

「そうですね」

 

 と、アンチシー攻撃を使用。セーラースタッグと同様に、本来左腕パーツである武器を錨としてワイヤーで射出した。

 

 元々ルミナスノワールのアンチ攻撃は、普通に使っても十分に強い性能を持っている。

 これをファイトブーストで精度と威力を上げて放った一撃は、見事サイズカッターにクリティカルヒット。相手の首に絡まり、

 

『サイズカッター、機能停止』

 

 ワイヤーソーの要領で敵の首を切断。一撃で一体化したはずだったサイズカッターの装甲をぶち抜くのであった。

 

 

 

「ロボトル終了。この勝負、スタッグの勝利とするよ」

 

 ウォッカが言ったと同時に、スタッグは変形を解除して普段の姿に戻る。

 アズキは、

 

「ふう、なんとか勝てた」

 

 ほっと一息してから、間桐さんに言った。

 

「じゃあ、ロボトルに勝ったんだから報酬としてティナさんのサブマスター権限をもらうよ」

 

 アズキが言うと間桐さんはうなずき、

 

「分かったわ」

 

 と言った。で、彼女はどうやってサブマスター権限をアズキに渡すのかと思ったら、

 

「ティナちゃん?」

「はい」

「じゃあこれからはアズキちゃんの事を私に次ぐマスター権限の持ち主と認識して、彼女の命令も聞いてあげなさい」

「わかりました」

 

 うなずくティナさん。

 

「……」

 

 アズキはそっから何かあるのかと思い無言でふたりの様子を眺めてたけど、

 

「って、それだけ?」

 

 何も動きがなかったので指摘を入れる。

 間桐さんは当然のように、

 

「それだけだけど、どうかしたかしら?」

「いや、メダロッチで何かそういう登録とかするんじゃないの?」

「元々メダロットにサブマスターなんてシステムがあるわけ無いじゃない」

「じゃあ、ただの口約束という話?」

 

 アズキが言うと、間桐さんはけらけらと笑って、

 

「マスター直々の命令なんだから、効力はあるわよ」

 

 なんて言った。

 

「大方、実質マスター権を共有した状態になったのを良い事に、ツテを利用してあの子からメダルを取り除こうと企んでたんでしょうけど」

「うっ」

「さすがにそこまでは問屋が卸さないって事よ」

 

 アズキはがくっと項垂れた。

 そんな様子さえ間桐さんは面白そうに笑いながら、

 

「まあプレゼントしてあげたのは事実なんだから、外では言えないような事をたっぷり愉しんじゃっていいのよ?」

「まさに、いま外だから何も言えません」

 

 アズキが言うと、間桐さんは、

 

「あら、そうだったわね」

 

 と、改めて辺りを見渡す。

 いまアズキたちがいる場所はホテルの外で、会話が色んな人に丸聞こえな市街地のど真ん中である。

 

「まあいいわ。今日の要件はこれだけだから」

 

 間桐さんは言った。

 

「他にも欲しい子ができたり、私の技術に興味が湧いたら連絡して頂戴。ちょっと私の研究に付き合ってもらうだけで薔薇色の人生を保証してあげるわよ」

「ティナさんにした事を知って信用できるとは思わないけど」

「まあ、そんなところで今回は交渉決裂ね。また今度アプローチをかけに行くわ」

 

 間桐さんは言いたい事だけ言うと、そのままホテルの中に戻ってしまった。

 

「アズキ、ホテルから何か仕掛けてくるかもしれないので、しばらく警戒は怠らないでください」

 

 スタッグはよほど間桐さんに危険を覚えてたようだったけど、結局しばらくしても誰かが襲撃してくる事はなく、

 

「それでは、私も今日はこれで失礼します」

 

 ティナさんも歩き始めようとしたので、

 

「って待って」

 

 アズキはティナさんを呼び止めて、

 

「どこに行くつもりなの?」

「どこって家ですけど? 私はいま、藤稔ティナですから。お楽しみがご希望でしたら付き合いますけど」

「いや、そういう気はないけど」

「では先生、失礼します」

 

 と言ってこの場を去って行こうとする。

 

「待って」

 

 アズキは再び呼び止めて、

 

「だったら行先は駅でしょ? 途中まで一緒に行かない?」

「そういって、私が帰るまで監視が目的ですよね? まあ、いいですけど」

 

 といった流れで、アズキはティナさんと一緒に駅まで歩き、今回は彼女がちゃんと帰りのバスに乗るまで見届けてから、アズキも帰宅した。

 ちなみに数時間後、アズキは春日くんと連絡を取ったが、ちゃんとティナさんはいつも通り帰宅したらしい。

 

 という事で、結局その日はあれから何事もなく一日が終わるのであった。

 

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