メダロットHERMIT   作:CODE:K

13 / 103
第4話は若干ではありますが、
正気山脈先生著「メダロットSAGA」とのシェアワールド色を強めた内容となっております。



4-1 我が心明鏡止水 されどこの掌は犬歯の如く1

 

『嫌です』

 

 今日も紅下(コシタ)アズキが話を投げかけたところ、腕時計型デバイス『メダロッチ』から拒絶の返事が鳴った。

 って、

 

「スタッグ、私まだ何も言ってない」

『嫌です』

 

 ついに最初の一言目を発する前に、先回り「嫌です」を言われてしまった。

 

 なお、現在は夜の自室。

 辺りに生徒がいないので、会話の内容を気にする必要はない。

 

 アズキは話を続ける。

 

「実はクワトロさんに」

『通報します』

 

 判断が早い。

 ただ、さすがのアズキも普段の会話から少しは学んでいる。ここで突っ込んだら、本題にいつ入れるか分からなくなるって。

 

 駄弁りが目的ならそれでもいいけど、今回はちょっとだけ事情が違う。

 

「少し用事を頼まれたのよ。明日あるメダロットのイベントがあるのだけど、代わりに行って入場特典を確保して欲しいって」

 

 なお明日は土曜で学校も休みである。

 

『どうして私たちなのですか?』

「それが、会場に入るには純正のFSL型と同行する必要があるらしくって」

 

 うわっ! 顔が見えないのにメダロッチからスタッグの睨む気配がすっごい伝わる。

 

 実はもうひとつ入場方法はあるのだけど、こちらはメダロットと一緒に関連キャラクターのポーズを披露するというもの。

 しかも入場中は誰かに求められたら同じポーズを行う制約があるのでアズキには絶対不可能な方法である。

 

『FSL型といえば、ファンシーエールがクワトロさんから借りたままでしたよね?』

「うん」

 

 アズキはうなずいて、

 

「それを使って入場して欲しいと言われて」

『とクワトロさんのせいにしてますけど、堂々と私を着せ替えれるからと乗せられたのではないですか?』

「はい」

 

 アズキは正直に吐いた。

 

 けど、最初はアズキも神宮寺さんや赤城くんを頼ったらと提案したのだ。

 ただ神宮寺さんは明日まさにクワトロさんと別件で出掛ける予定で、赤城くんも明日は一か月前から立ててた用事があると聞かされてたらしい。

 

「という話で、今回は本当に断れなくて引き受けただけだから。たしかにクワトロさんから悪魔の囁きはあったけど」

 

 着せ替えたスタッグを一日連れまわせますよって。

 

「けど、乗せられたのは引き受けた後だから今回はほんと引き受けた原因じゃないの。信じてお願い」

 

 なんて言い訳を必死に伝えると、

 

『まあ、今回は私の不注意も原因があるので、わかりました』

 

 スタッグはいった。その返事が思ったより早かったので、

 

「え、いいの?」

『返却のタイミングを逃して借りっぱなしだったのも事実ですから。それで、イベントと言ってましたけど詳しくお聞きしてもいいですか?』

 

 と確認をとるスタッグの声は、妙にそわそわして聞こえた。

 もしかして、ちょっと楽しみにしている?

 

「えっと」

 

 アズキはメダロッチからプラウザを開き、イベントのホームページにアクセスした。

 

 

 

「う、すごい人だかり」

 

 翌日、朝。

 イベント開始の三〇分前に会場であるドーム球場に到着したアズキは、入場ゲート前にもう大勢の列ができてるのをみて驚いた。

 

 アズキは普段こういったイベントに参加しないせいもあって、少し早く到着したつもりが相当出遅れてしまった様子。

 

(これ、大丈夫?)

 

 頼まれてた入場特典は無くなり次第終了だから、もしかしたら間に合わないのでは。

 

『とりあえず、私たちも並びましょう』

「う、うん」

 

 スタッグに言われ、アズキは慌てて最後尾に立つ。

 並んでる人たちは女性中心ながら、子供から大人まで幅広い層がいるように映った。しかし、いまのアズキに彼女たちを視○する余裕はない。

 

『大丈夫ですかアズキ』

 

 スタッグがいった。

 

『たしか、こういうイベントは苦手でしたよね?』

「うん、というか人混み自体が駄目」

 

 本当は電車だって苦手なくらいだ。

 たった数分でアズキの後ろには結構な人数が並び、まだ入場前で屋外なのに、人の熱気に包まれた密室に閉じ込められたような息苦しさを覚える。

 

「キクナも誘えばよかった」

 

 まだ誰かと一緒なら精神的に楽なのだけど、スタッグと会話できるとはいえ前後左右知らない人だらけのおしくらまんじゅう。

 女性ばかりで緊張するのもあって、正直きつい。

 

『アズキ、少し早いですけど転送してください』

「え? うん」

 

 言われるままアズキはスタッグを転送。

 今はまだFSL型に変更前。いつものセーラースタッグの姿で隣に現れたスタッグは、すぐアズキの手を握って、

 

「これで少しは楽になりますか?」

 

 といってくれた。

 アズキの中で、人混みの不安や緊張が瞬く間に消えていく。

 

「ありがとう」

「会場には休憩スペースもあったはずです。特典を受け取ったら向かいましょう」

「うん」

 

 アズキは頷いて返事。

 列が動き始めた。どうやら入場ゲートが開いたらしい。

 

「あともう少しですよ、アズキ」

 

 スタッグはそういって、やさしく手を引いてくれた。

 特典は無事入手できた。

 

 

 FSL型メダロット。

 現在ファンシーロール、ファンシーエール、ファンシーパールの三種類が存在する魔女っ子シリーズで、女児受けがいい見た目に反して攻撃的な性能が特徴。

 

 今回のイベントはこのFSL型に関連したキャラクターのグッズ、展示物、最新情報を多数取り扱った祭典で、数か所の会場で同日開催。

 しかも、シリーズの開発を担当するメダテックって会社がなぜかTMZ社とタッグを組んだ形でイベントは実現している。

 

 このためネットでは、以前から会場で二社共同開発の新型FSLメダロットがサプライズ発表されるのではと噂されていた。

 

 

 

「アズキ、大丈夫ですか?」

 

 休憩スペースに到着した。

 席についてアズキがぐったりしてると、ファンシーエールの姿をしたスタッグが売店で買ったドリンクを持ってきてくれる。

 

「ありがとう、きつい」

 

 アズキは乾いた喉を潤し、

 

「けど、今日のスタッグが持ってきてくれたドリンクは格別に美味しく感じる」

 

 と、スタッグを眺めて心も潤す。

 

「気持ち悪いです、アズキ」

 

 スタッグは言いながら手に持った箒を盾に一歩後退。

 

 休憩スペースはメイン会場のアリーナを出た先にある内部廊下に丸テーブルを増設した程度で、すでにブースで買い物を終えた来場者でいっぱいだった。

 なお、ドーム内にはフードコートも存在するのだけど状況はこちらと全く同じ。

 

「仕方ないでしょ。いまの姿のスタッグと行動できる機会なんてめったに無いんだから」

「周りは同じ顔だらけなのですけど」

 

 辺りを見渡し、スタッグはいった。

 

 入場条件がFSL型と同行なせいで、来場者の九割近くが魔女っ子メダロットを連れているのだ。

 どうやら決めポーズ、決め台詞で入場した猛者はほとんどいない様子。

 

 なんて周囲を確認してたアズキの視線は、いつの間にか別の丸テーブルで談笑する女の子たちに向いていた。

 中学生ほどの二人組で、会場の熱気のせいか、ひとりが上着を脱いで四月にしては薄手のブラウス姿をさらす。

 

 疲れもあって、つい死んだ魚のような目でぼーっとガン見してると、

 

「ばれますよ?」

 

 スタッグに耳元で囁かれた。

 

「んひゃい!?」

 

 アズキは驚き、びくんと体が一度跳ねる。

 周囲から、

 

「くすっ」

 

 と笑い声。周囲の視線がアズキに集まった。ただ女の子を視○してたのはバレてなく、

 

「よかったですね。居眠りしてたと思われてるようです」

 

 スタッグが小声でいった。

 たしかに周囲の反応は微笑ましいものを見る目に近い。

 

 スタッグに指摘されなければアズキは罪悪感や恐怖というフィルター越しに判断した結果、汚物を見る目を向けられたと勘違いしてたかもしれないが。

 

「とはいえ、もう少し落ち着いて休める場所を探したほうが良さそうですね」

「うん」

 

 スタッグに同意し、アズキはフロアマップを広げる。

 

「アズキ、よく見たらカフェエリアがありますよ」

「あ、ほんと」

 

 正直いうとアズキは知ってはいたけど、座って飲食できるスペースなんて今日みたいな日は絶対騒がしくて休めないと思ったのだ。

 

 実際にはドームの内部廊下なんて球場飯を扱う売店だらけで、そこに丸テーブルを設置しただけの休憩スペースがもっと騒がしくないはずがない。

 むしろ利用者層の違いでカフェが落ち着いた空間になってる可能性があったのだけど。

 

「じゃあ、行く?」

「でしたら急ぎましょう。早くしないと満席になるかもしれません」

 

 スタッグはいった。

 

 

 カフェには無事入ることができた。

 

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

 

 と、ウェイトレスがいうように室内はまだ半分ほど席が空いていた。

 

 室内は茶色を基調とした薄暗い造りで、ほぼ全てがテーブル席。

 客層はやはり子供がおらず、お茶をしながら談笑する女性客で賑やかではあったけど室外を思うと相対的に静かである。

 

 スタッグもほっとした様子を見せて、

 

「よかったですね、アズキ」

「うん。ほんと助かった」

 

 言いながらアズキは手頃な席を探す。

 

 進んでみると奥は有料席になってるのが分かった。

 ここだけ窓に隣接したカウンター席になっており、試合中は窓からアリーナ一面を眺めながら飲食できる仕様らしい。

 

「あれ?」

 

 急にスタッグがいった。

 

「アズキ、あちらの方ってもしかして」

「え、あっ」

 

 スタッグの指した席をみてアズキは驚く。

 だって、そこにいたのはアズキが受け持つクラスの男子生徒、赤城フクカゼくんだったからだ。

 

 保護者はいない。まだ水しか置かれてないテーブル席に彼はブルーティスとふたりだけ対面で座っていた。

 直後、赤城くんはこちらに気づいて、

 

「げっ」

 

 って反応。

 おそらく友人たちに行き先を伝えてない点から、きっと知人に知られたくない外出だったのだろう。

 

「こ、こんにちは」

 

 スタッグは気まずそうにぺこりと挨拶した。

 




サブタイトルは機動武闘伝GガンダムのBGM「我が心 明鏡止水 - されどこの掌は烈火の如く」より。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。