「セレクトだ。ロボロボ団、全員メダロットを捨てて投降するであります」
ロボトルが終わってすぐ、セレクトが会場内に突入を開始した。
すでに他の来場者たちによってロボロボ団は全滅。
おそらくアズキたちと違いしっかり数の暴力で袋叩きにしたようで、スタンドでは次々と黒タイツのロボロボ団が逮捕されていく。
ただ、
「アズキ、すみません見失いました」
こちらの担当したステージでは、残念ながらロボロボ団を見失ったとスタッグから報告が出された。
さらにブルーティスが脱ぎたてのタイツを二着もってきて、
「マスター、師匠。こんなものを発見しました」
「ロボトル中の爆炎に紛れてステージから離脱。タイツを脱ぎ捨てて来場者に成り済ましたわけか」
と、赤城くん。
アズキはブルーティスを手招きで呼んで、
「そういえば君って鼻はきく?」
「え?」
「その、犬型だからタイツの匂いを覚えて捜索できないかなって」
「分かりました。やってはみます」
素直にうなずくブルーティス。隣でスタッグが、
「驚きました。自分で嗅ごうとは思わなかったのですか?」
って。
アズキは顔を真っ赤にして、
「え? 無理無理むりむり、私に探知犬みたいな能力はないし犯罪という話でしょ?」
「たまにすっごい真面目だよな先生って」
赤城くんが反応。しかしスタッグは否定して、
「弱気で臆病なチキンというだけです」
といって、
「ですよねアズキ」
「ここで同意を求めようとしないで」
色々容赦なくてグサグサくる。
「それに、私は大体の顔ならもう把握してるから」
「え? お知り合いだったのですか?」
驚くスタッグに、
「そうじゃなくて思い出したという話。さっきのロボロボ団、たぶん休憩スペースにいたふたりだと思う。顔立ちとか雰囲気からそんな気がする」
アズキがいうと、再びモニターがウォッカに切り替わって、
『ハラショー。もしかしてこのふたりで間違いないかい?』
と、話しかけてきたうえ、モニターからふたりの女子生徒の顔写真を映してきた。それは間違いなくアズキが当時眺めてたふたりで、
「うん」
アズキがうなずくと、
『彼女は某中学二年の日吉ササミと若鶏ネムというんだ』
ウォッカがいった。
『部活はテニス部。ロボロボ団では虎視眈々と幹部の座を狙っていたようだよ。好きな言葉は』
「下剋上?」
ネタを知ってるからのメタ推測でアズキがいうと、
『正解だよ』
『両名、確保完了。ご協力感謝であります』
さらにモニターが切り替わり、捕まったふたりとカメラに向かって敬礼するセレクトの姿が映し出された。
場所はおそらくGファンシーのブース内。
『来場の皆様にご報告があります』
そんな大画面モニターからテロップ付きのアナウンスが流れた。
『会場内トラブルにつき、間もなく予定しておりましたステージイベントは延期とさせて頂きます』
「ステージイベント?」
アズキはフロアマップを広げ、付属していた予定表を確認。
たしかに、ステージブースでは十一時よりメダテックとTMZ共同による企業イベントが一時間ほど予定されていた。
「本来でしたら、この時にファンシーベールを公開する予定だったのかもしれませんね」
スタッグが横から覗き込んでいった。
「つまり、イベントの後にお昼を食べようと思ってた人たちは見事トラップを踏んでたかもしれないという話?」
イベントが終わるのは正午。
元々会場内は熱気で物凄いのに、新型の噂を期待してた人たちにFSL型マッチョという現実を突きつけられて、直後の食事が喉を通る人はどれだけいるのか。
こちらではロボロボ団の襲撃で回避されたものの、他所の会場ではそんな地獄絵図がこれから予定されているのだ。
「その方たちはまだいいですよ」
が、スタッグはいった。
「最悪なのは先に食事を済ませた方です。吐きますよ?」
「うん」
TMZ社ならそこまで計算してやらかしそうだ。
『なお』
が、アナウンスはまだ続いて、
『イベント内でサプライズ告知を予定しておりましたFSL型ファンシーベールは予定通り正午より会場先行販売を開始致します』
「ぎゃーーーっ!」
会場内に悲鳴が響き渡った。
来場者の大半が女性だとは思えない怪獣のような声で。
程なくして、
「お疲れさまですよ」
キクナがセレクトと一緒にやってきた。しかもフリフリな服に被り物までつけている。
アズキは一旦突っ込みを後回しに、
「キクナもお疲れさま」
「ごめんなさい。お互い休日でしたのに出勤させてしまって」
スタッグが頭を下げると、キクナはくすりと微笑んで、
「大丈夫ですよ。ちょうど僕もスタッフ側で参加してましたから」
「え?」
「衣装ブースで店員をしてたのですよ。この服もブースで売っているものです」
いわれて気づく。今日キクナが着ていた衣装はFSL型ファンシーエールを模した服だったのだ。
主翼やスラスターといった意外とメカメカしい機構を、フリルやプリントで見事デザインに落とし込んだ上下セットのドレス。
頭部パーツをクッションで再現した帽子。小物のバッグもよく見たら箒の穂先だった。
それでも言われるまで気づかなかったのは、彼女のドレスが基本のピンクではなく、まじかる☆ジャノメのアシスタントと同じ紫カラーだったからである。
「ただブースにもお客がいましたから、襲撃された時は逆に自由に動けなくて」
とはいえ、セレクトと連絡がとれるキクナが現場にいたからこそ、今回のロボロボ団襲撃もここまで迅速に対処ができたのだろう。
「それ、まだ残ってますか?」
突然スタッグが食いついた。
キクナは一回「え?」って反応してから、
「僕がブースを抜けた時には、まだ完売したものは無かったはずですけど」
「アズキ、急いで向かいましょう」
スタッグがアズキの腕をつかんでいった。
「え?」
目を丸くするアズキ。
しかしスタッグは構わず、
「早くしないと売り切れてしまうかもしれません」
「え、えっと買ってどうするの?」
「着てください、アズキ」
……。…………は?
「アズキもFSL型に換装してください。たまには着せ替えられる側の気持ちを知るいい機会です」
「いや、まって」
アズキはキクナ、の近くで待機するセレクトを見て、
「私たち、たぶんこれから事情聴取」
「それはオレがやっておくよ」
赤城くんがいった。
まさかの、スタッグ側の援軍にアズキは内心錯乱しかけてると、
「そのかわりだけどさ、リーダーの土産用に一着頼んでいいか?」
って赤城くんが照れ臭そうに呟く。
いや、照れ臭いとも違う。なにかを誤魔化した態度のようにみえる。
「私は構いませんけど、キクナさんは構いませんか?」
スタッグが確認をとる。
どうやら、アズキが嫌がってるのはこの場の全員スルーのようで、
「お買い上げありがとうございます」
にこりと笑顔でキクナはいった。
「では行きましょう、早く向かいましょうアズキ」
スタッグはアズキの腕を引っ張り、はしゃいだ子供のような態度をみせるのだった。
結局、ステージイベントは二時間後の午後一時に開始された。
ファンシーベールはやはりTMZ社製と判明。
イベントでも質の悪いジョーク扱いで、新型の噂に対する嘘のアンサーとして発表された後、真打ちとしてメダテックからもFSL新型の情報が出された。
この時はまだ全貌は明らかにされなかったが、新世代のメダロットという紹介からネットでは、
「これはFSL型以外にも何かあるぞ」
と密かに噂され、後にメダテックから発表されたNGシリーズの中にFSL型が確認される形で、その噂は現実となるのであった。
余談。
そんな日の夜。自室にて、
「ううっ」
アズキは顔を真っ赤に、その場でもじもじと萎縮しながら、解放してくれとスタッグに目で懇願した。
「やっぱり無理ぃ」
その手にはファンシーロールのステッキ。
さらにファンシーエールをイメージした可愛らしいピンク色のフリフリなドレスに身を包み、ファンシーパールの帽子を被らされている。
アズキは今、スタッグが衣装ブースで購入した戦利品でコスプレをさせられていた。
「スタッグ、お願いもう許してぇ」
「嫌です」
スタッグは扉の前に立って退路を塞ぎながらメダロッチを構え、
「私も丸一日魔女っ子の姿で歩かされたのですから、今日はアズキが着せ替え人形にされる番ですよね?」
といって、カメラ機能で動画撮影してくる。
「ううっ」
メダロットの性格はマスターに似るとはいうけど、こんな日がくるなんて思わなかった。
「どうしてこんな事に」
神様。大好きなスタッグをファンシーエールの姿で外に連れ出したというのは、そこまで罪なのでしょうか。
「普段の私の気持ちが分かりましたか?」
「うん」
それはもう痛いほど。
「では、ここでポーズをキメながら先ほど教えたセリフをお願いします」
「私、スタッグを着せ替える時そこまで要求はしてないよね?」
「それはそれ、これはこれです」
酷い。
「アズキ、早くしないと終わりませんよ? この姿で学校に行くつもりですか?」
やるまで二四時間以上経っても解放する気ないの?
「うう、わかった」
アズキはやけくそでポーズを決めて、
「逃げたら一つ、進めば二つ。魔女っ子戦士ファンシーマーキュリー!」
ああっ! 間違いなくカメラが回ってる。
こんな恥ずかしい姿、記録に残されてしまった。
「ありがとうございますアズキ」
「ううっ、やっと終わった」
アズキはベッドに腰かけるも、
「なに勘違いしていますか?」
「ひょ?」
「まだ私のバトルフェイズは終了していないです」
スタッグは続けてタンクトップにスパッツという奇抜な魔女っ子衣装を出して、
「次は顔に手をあてた有名な謎ポーズと『お前を○す』をお願いします」
「もう勘弁して」
アズキは、この日の夜を途中から覚えていない。
第4話はこれで終了になります。