「先生、せっかくだもの一緒に遊びませんか?」
深呼吸を終え、さて仕事に入ろうと思った矢先、神宮寺さんがアズキとキクナの手を掴んでいった。
「あ、えっと」
アズキは反応に困る。エージェントである事も隠してる以上、実は仕事でプールにいると明かすわけにもいかない。
(どうしよう)
視線でキクナに助けを求めると、
「そうですね」
キクナは当たり前のように生徒の誘いを受けてしまった。
どうして?
アズキが続けて視線を向けるとキクナは耳元で、
「むしろ一般客に紛れるために都合がいいですから。周囲を監視する目は怠らないでくださいですよ」
「けど」
「それに、アズキさんにとってはこんな任務より彼女たちの近くにいるほうが重要な役目でしょう?」
あっ! そうだった。
本来アズキたちは、教師として学校に潜入して生徒をロボロボ団から護る仕事に就いている。
さらに担任である以上、その重要度は学年主任役のキクナより大きい。
「ありがとうございます」
神宮寺さんが満面の笑みを向ける。いつの間にかアズキもOKを出したことになってたらしい。
「うん」
アズキはうなずいて肩の力を抜く。
直後、今ごろになって自分が小学生女子と手を繋いでる事案に気づいてしまい、
(あっ)
一気に頭がショートしかける。
クワトロさんが少しだけ奥を指さして、
「でしたら早速スライダーにしませんか? 一回の浮き輪でふたりまで一緒に滑れるそうですから、ちょうど六名で三組に分けられます」
「いいわね。じゃあ先生もそれでいいですか?」
神宮寺さんがはしゃぎながら、しかしアズキたちにはタメ口を使わない。
こういう細かなところで育ちの良さとか、いい子っていうのを感じさせる子なのだ神宮寺さんは。
スタッグが「あれ?」となり、
「六人という事は、私も含めてですか?」
「もちろんよ」
神宮寺さんはうなずく。
あ、スタッグにはタメ口なんだ。それはそもかく、なら次にどのペアで分かれるかという話だけど、
「じゃあ私は紅下先生と」「なら、私はアズキと組んで見張ります」「神宮寺さん一緒に滑りませんか?」
と、神宮寺さん、スタッグ、クワトロさんの三人は同時に相手の希望を口にした。
「え?」
まさかふたりから指名されるとは思わず、再びアズキは一回思考停止。
「え?」
また、クワトロさんは驚きと寂しさの混ざった目で神宮寺さんを見た。相手も自分を指名するだろうと思いこんでたように映る。
「そのえっと、どうして私?」
アズキが神宮寺さんに聞いてみると、
「え? だって私、先生だいすきですよ?」
なんとなく、クワトロさんが大ダメージを受けてるように見えた。
「うーん、しっかり懐かれてますね」
キクナはこちらに向かってにこりと笑う。
赤城くんがいった。
「心配するなって。クーも紅下先生が今までで一番いい教師なの認めただろ。だからリーダーもすぐ心を開いて、もっと仲良くなりたいと思っただけだ。よな?」
「えっと、クーちゃんは先生と仲良くなりたくないの?」
神宮寺さんもきょとんとしてクワトロさんを見る。
当たり前だけど、彼女のいう大好きはライクのほうで、この場の誰よりクワトロさんよりアズキが好きと言ってるわけでもない。
少しだけ、ちょっとだけアズキも甘酸っぱい意味を期待しちゃってはいたけど。
「そういうわけではありませんけど。その、早とちりしてごめんなさい」
クワトロさんが謝る。とはいえ神宮寺さんは彼女が何をどう早とちりしたのかさえ分かってないと思うけど。
「でしたら、私は通杭先生と組みますね」
委縮しつつ照れ笑いを浮かべてクワトロさんはいった。
「私、機会があったら通杭先生のことよく知りたいと思ってましたから」
「奇遇ですね。僕もクワトロさんとは仲良くなれそうと思ってました」
キクナも笑顔で応じる。
「どう思いますか?」
スタッグが、そっとふたりから距離を取りながらいった。
同じくアズキも一歩後ずさりして、
「どう考えてもお互い相手を警戒して、腹を探り合ってるという話。このふたりが今後心の底から信用しあうのは一生なさそう」
「はい。私もまだアズキがこれからも小○性愛で捕まらない可能性のほうが高いと思いました」
「頑張ります」
アズキは本当に捕まる日が来ない事を願いながら返した。
「では、私は赤城さんとですね。蓋を開けてみれば保護者側とモッチーズが綺麗に分かれてよかったと思います」
スタッグがいった。
(たしかに、になってない!)
アズキは一度同意しかけて、心の中で強く否定する。
だって、
(私が神宮寺さんと一緒は駄目、やばい、絶対犯罪という話でしょ)
ロリコンに無防備そうな子と一緒に行動させるのは、一番やってはいけない事だと思う。本来ならスタッグが神宮寺さんと組むべきだったのに。
「じゃあ、早速向かいましょ」
が、当の神宮寺さんは満面の笑みで、一足先に小走りでスライダーに向かっていき、
「走っては危ないですよ」
スタッグがそれを追いかける。さらにクワトロさん、キクナと続いていき、
「ねえ赤城くん。もしかしてクワトロさんって神宮寺さんのこと」
アズキは最後尾で残った赤城くんに接触。
赤城くんは、
「いや、クー自身もそういう感情があるわけじゃないと思う。たまに頻繁に危ない内容でからかう時はあるけどな」
といってからアズキの背中を叩いて、
「なんだよ先生、もしかしてクーが好きなのか?」
「そ、そういうわけじゃ」
「ならリーダーか?」
「だから違うって」
アズキが困ってると、
「冗談だよ。FSLイベントのお返しだ」
ははっと豪快に笑う赤城くん。
そのままアズキの数歩前に立つと、一転シリアスな顔で、
「でもクーがリーダーに向ける友情が重いのはマジだ。先生も気をつけろよ」
と言って、みんなの下に走っていった。
ただまぁ、あの子たちを駄目な眼で見てしまうのは間違いないわけで。
「ではアズキ、私は先に滑りますね」
係員に従ってスタッグが赤城くんと一緒の浮き輪でウォータースライダーを滑り、神宮寺さんとふたりきりになった事で、
(どうしよ)
アズキは胸の高鳴りと緊張で目を回しそうになる。キクナたちも先に滑った後なので本格的に助けてくれる人がいない。
もちろん相手はこちらの心情を知るはずもなく、
「やっと私たちの番ですね、先生」
と嬉しそう。
ウォータースライダーは結構本格的な造りだった。
一度滑るために上る階段は結構あり、上に着いたとき赤城くんが疲れを見せていたほど。さらに辺りを見下ろせば自分が相当高い位置に立ってると痛感する。
「では次の方どうぞ」
係員が用意した浮き輪は普通に円形の中サイズだった。
流れを察し、先にアズキが内側に座ると、
「はーい」
後から神宮寺さんが座ったのだけど、これがアズキの股の間にすっぽり収まる形で、
「へぁっ」
思わずアズキは変な声を出した。
「どうしたの、先生」
神宮寺さんはこちらを覗き込んで、
「あれ? もしかして怖いのですか?」
「ち、ちがっ」
本当に違うのだけど、
「わあっ、ざぁこ♡ ざぁこ♡ 先生ってば情けなくってかわいい」
勘違いした神宮寺さんが、無邪気で天真爛漫にはしゃいでメスガキムーブ。その際に浮き輪が揺れて、
「暴れたら危険ですのでご注意ください」
係員から注意が入る。
アズキは慌てて、
「ごめんなさい」
と謝った。
しかし、いつでも抱きかかえれるほど近くから見た神宮寺さんの後ろ姿は、やはりアズキの目には可愛い以上に色っぽく映った。
性格なんてモッチーズで一番幼いくらいなのに。
さらに視線に気づいた神宮寺さんは、
「先生、たのしみですね」
って笑みを零す。
アズキが緊張してると思い、気を遣ってくれたのだろう。
けど、その笑顔こそ彼女が女の武器を使いこなしてる証拠にみえてしまい、逆にアズキはドキッとして緊張が高まる。
ここで彼女のメダロッチからマゼンタキャットが、
『雑魚、ちゃんとマスターを支えなさいよ』
「下手に触ってセクハラにならない?」
『なるに決まってるでしょ当たり前よ。右腕サンダーとコロされるのとどっちがマシ?』
理不尽。
が、神宮寺さんがぷんすかと、
「駄目よモモちゃん、先生に酷いことしたら」
『マゼンタよ』
このやり取り、神宮寺さんともやってるんだ。
「それでは押しますね」
係員は躊躇いなく浮き輪を押してスライダーに流した。後ろにも人がいる以上、流れ作業を優先したのだろう。
大抵は問題が起きないという経験からなのか、バイトなので責任ないつもりなのか。ただアズキ視点からは本当に危なく感じて、
「わっ」
セクハラとか事案とか、そんなもの一切関係なしにアズキは片腕で神宮寺さんを抱え、残りの三肢と腰で浮き輪にしがみついた。
スライダーはかなり勢いがあり、螺旋状のカーブもあったりして、
「きゃーっ」
神宮寺さんは大はしゃぎ。
しかも背中からアズキにもたれかかってきたので、密着度も危険領域。
感触は全然頭に入ってこないけど、なんかもう羞恥で沸騰しそう。
「あうあうあうあ」
結局アズキは、最後まで楽しむ余裕なんて無いままスライダーを滑りきってゴール地点のプールに飛び込んだ。
安全のためか最後は緩やかだったので浮き輪から弾き飛ばされることはなかったが、
「えいっ」
ゴール地点で待っていたクワトロさんが神宮寺さんに水を飛ばしてきた。
当然、一緒に滑ったアズキも水を受けてしまい、
「ひあっ」
生徒より真っ先に声をあげてしまう。
クワトロさんは慌てて、
「あっ、ごめんなさい。先生も一緒だったのを忘れてました」
と、こちらに駆け寄ってきた。
結果アズキは不注意でクワトロさんのドスケベボディを直視してしまう。ワンピース系の水着なのに彼女のおっぱいが揺れてるのをはっきり確認してしまい、
「わわっ」
「え、先生?」
アズキのさらなる反応にクワトロさんは驚く。
「大丈夫ですか? もしかしてお怪我を? 体を捻ったり、どこかぶつけてしまったり」
クワトロさんが正面かつ至近距離から心配そうにアズキを覗き込む。
今日はずっと黒い一面ばかり目立っていたが、今回は本心から罪悪感を覚えてるように映った。
けど、おかげで彼女の爆乳が無防備なままアズキの眼前で強調される結果に。
(待って、このポーズは駄目)
水着姿のクワトロさんは、改めて服の上から見る印象よりずっと標準体型をしていた。胸を除いて。
背丈も四肢もお尻さえも平凡で、顔はむしろ神宮寺さんより幼いくらい。なのに、巨大な双子山ひとつあるせいで卑猥な体にしか見えないのが恐ろしすぎる。
「せんせえぇ」
クワトロさんの瞼が潤む。
演技にはみえない。
「だ、大丈夫。大丈夫だから」
「でも」
「それより、このポーズで近づかれたら。お願い、危険、わざとじゃないなら察して」
アズキがパニックを起こしながら伝えると、
「え? あ、ああっ!?」
クワトロさんは顔を真っ赤にして、慌てて両腕で自らの胸を隠す。
「ご、ごめんなさい先生。わっ、わたしそんなつもりじゃ」
「わかってる。わかってるから落ち着いて」
むしろ事故扱いで終わらせて?
通報しないで?
「はい、しゅーりょー!」
「ひぁっ、わぷっ」
「きゃ」
アズキとクワトロさんは思いっきり水をかけられた。アズキは今度こそ浮き輪から落ちて一度プールに沈む。
やったのは神宮寺さんだった。
彼女はすでに浮き輪から降り、さすがにアズキたちがどうして慌てたのか分かってるのか頬をぷくっと膨らませている。
神宮寺さんはさらにクワトロさん目掛けて水をかけて、
「クーちゃん。先生をおっぱいで誘惑するの禁止ぃーっ!」
ちょっと大声。
何人かの視線がクワトロさんに集まったせいで、
「ち、違います」
恥ずかしそう、かつ涙目のクワトロさん。
「じ、神宮寺さんの馬鹿。神宮寺さんなんてイッてお汁垂らしておシルコちゃんになっちゃえばいいんです」
クワトロさんが水をかけ返す。ってその言い方は色々アウト。
「きゃっ、やったわね」
で、神宮寺さんもさらに水をかけ返し、そのままふたりは水をかけあって遊び始める。
表情からふたりとも怒ってる様子は見えなかった。
これ幸いにアズキは目に毒なふたりから視線を外して、
(他のみんなはどこだろう)
と直前の自分自身を誤魔化すように、残りのメンバーを目で探す。
赤城くんはスタッグと一緒だった。彼のメダロッチが点滅してる事からブルーティスを交えた三人で会話してるのだろう。
ただキクナの姿が見当たらない。
元々モッチーズと一緒に行動する前は二手に分かれて捜査するはずだったので、別にこの場をスタッグに任せて任務に入っても不思議ではなかったけど、
「キクナ、いまどこ?」
気になったので、アズキはメダロッチから通信を試みる。
『すぐ近くのプールサイドですよ』
返事はすぐにきた。と同時にプールから上がってすぐの場所からこちらに手を振るキクナを発見。上着を脱いだ姿だったせいで見逃してたらしい。
アズキは、キクナの下に向かうことにした。