「さて」
倒れたメダメイドのみをメダロッチの機能でメダルごと回収し、無傷のオフィニクス改めユディトを自分のそばに立たせてキクナがいった。
「僕たちが勝ちましたから、こちらの用事に付き合ってもらいますよ」
同時にユディトが握っていたメダルをちらつかせる。
カネハチのメダルを回収していたのだ。
「おい! それ脅しだろ?」
日吉さんがいうも、ユディトはかけてもいない眼鏡をクイッと上げる仕草をとって、
「今更でしょう? それとも貴方たちは我々に何も脅しをかけなかったとでも?」
「オイオイ、俺たちは一切やってないだろ」
タコスがいい返す。
で、
「え?」
「え?」
となる日吉さんとタコス。
この様子、もしかしてタコスは本当にこちらの連れを人質に取るつもりじゃなかった?
隣で聞いてた日吉さんは脅迫した側と認識してたみたいだけど。
「大丈夫ですよ。ちゃんと僕たちサイドの安全が保障されたと判断したら、すぐメダルは解放します」
と返事するキクナも、どこか焦りというのか冷や汗をかいてるように見える。
「いやはや、マスターみたいなタイプは馬鹿と天然と光属性の狂人には弱いですからね」
ユディトがこっそりアズキに告げ口。
ただ、メダロットはマスターに似るとはいうけど、どうみてもユディトだってキクナと同じ側である。
しかもこのタイミングで、
「せんせー」
神宮寺さんの声。モッチーズたちがスタッグと一緒に合流してきたのだ。
タコスは「ヒュウ」と状況の変化を喜び、
「そ、そうそう。お互い保護者の身仲良くしようぜ。って、げえっ! シラタマァ?」
と提案しかけるも一転、そのモッチーズを前にして驚く。
シラタマとは一体。
「先生、この人は誰ですか?」
神宮寺さんがいいながら、さらに近寄る。
どうしよう、彼らがロボロボ団で、状況次第ではモッチーズを危険に陥れようとしてるとは言えない。
クワトロさんがいった。
「もしかしてナンパでしょうか?」
「ナンパ?」
神宮寺さんがわあっと目を輝かせる。
「すごーい。先生たち美人ですもんね。紅下先生はもちろん、通杭先生も男の人なのに」
「男?」
タコスが驚く。しかもアズキとキクナを交互に見てる辺り、本気でどちらが性別詐欺なのか分かってない模様。
で、
「まさかテメェ、ニューハーフ?」
アズキに向かって、タコスがいう。
「えっと、私は普通に女性だけど」
「ガビーン」
どうやらキクナのほうが好みだったらしく本気でショックを受けるタコス。しかし反応が古い。
日吉さんが呆れた顔で、
「いや、どう見てもコイツは女性だろ」
「性転換手術とかあるだろ。性根がナヨナヨしてるからこっちが男だと」
「はあ? 性格悪いほうが女らしいと言いてぇのかよ?」
「いまの時代、男のほうが気が弱いんだよ!」
反論するタコス。なんか言ってる事が少し悲しい。
こんな流れをさらに、
「でしたら、私たちもご一緒していいですか? こういうの一度興味あったの」
神宮寺さんが話を余計ややこしくする事いいだした。
タコスは居心地悪そうに、
「い、いや。小学生をナンパするのは犯罪だから」
「そうでしょうか? でも見た目の話なら通杭先生もあまり大差ないですよね? お胸の話ならそれこそですし」
神宮寺さんは屈託ない笑顔で、引き下がる気ゼロ。
口に出さないけど、やはり容姿にも自信があるのだろう。どことなく彼女は自分をアピールするポーズを取ってる気がする。
が、日吉さんが、
「いや、通杭ってのはスレンダー美人で通じるけどお前はただのお子ちゃまだろ」
で、やっぱり。
「うわーん。どうしてもこうなるの?」
神宮寺さんはこの反応をするという話で。
「ああもう分かった。この話は一切ナシでいい。じゃ、じゃあ邪魔したなアバヨ」
タコスが限界に達して逃げ出した。
「日吉、こい」
「っておい。メダルはどうするんだ」
背を向けて走るタコス。
追いかける日吉さん。
「あ、あれ?」
きょとんとする神宮寺さんに、
「どうにか無事に済みましたね」
モッチーズたちを護ってはいたが、会話や流れに一切口を挟めずにいたスタッグがアズキに近寄って言った。
「ありがとうスタッグ」
「アズキこそ、私なしに頑張りました」
珍しくスタッグが褒めてくれる。
なのでアズキも素直に、
「うん、疲れで数日寝込みそう」
「本当ですか? ならスイマーメイツは買わなくていいですね」
「うん」
「えっ?」
自分で言っておいて、アズキの返事に驚くスタッグ。
だって、
「かわりにリーフィータン入手するから」
アズキはいってから、
「って、あっ! あの子のリーフィータン回収し損ねた」
「さすがに諦めてください。そもそもロボロボ団だという証拠が消されてる以上、現行犯で捕まえる以外にはどうしようもなかったのですから」
キクナが横から言いながら、メダロッチを操作。
ユディトの手からメダルが消えた。
「あ、ちゃんと返すんだ」
「奪ったままだと逆に僕たちが犯罪者ですからね」
キクナはいった。
モッチーズたちは、午後三時を過ぎた辺りでプールをあとにした。
アズキたちは更に二時間。午後五時まで捜査を続けてから、
「僕たちもそろそろ終わりましょうか」
キクナがいった。
「連絡によると、夜間には別のエージェントが捜査に入るらしいです」
「え、別のエージェントって存在したの?」
冗談半分でアズキがいうと、
「驚きですよね。僕たち学生に教師やれって言った組織なのに」
キクナがくすりと笑った。
ようやく終わった。アズキがほっと一息ついてると、
「それで、少し提案なのですけど。もう少し遊んでいきませんか?」
キクナの言葉に、アズキは「え、嫌」と本音がいえず、
「え、どうして?」
「せっかくプールに来たのに、全く羽を伸ばせなかったじゃないですか」
「まあ」
「というのも本音ですけど、ほんとはもう少し僕の目で捜査を続けたくて」
言いながらキクナは売店の前に立って、
「ドリンク、どうですか? 奢ります」
「大丈夫。自分で払うから」
アズキは隣からメニューを覗く。こういう時、奢りだと一番安いものを選ばないと罪悪感がすごいから、好きなものを選びたいなら自腹しかない。けど、
「えっと、モヒートのノンアルコール」
「それとコーラを。支払いはこちらで」
先にキクナがメダロッチから二人分の支払いを済ませてしまった。
キクナは両方のドリンクを受け取ると、モヒートをアズキに差し出して、
「駄目ですよ。今日はちゃんと僕に奢らされて頂きます」
アズキは「ううっ」と申し訳ない気持ちに包まれながら、
「高かったでしょ」
「他のテーマパークよりはずっと良心的な値段でしたから大丈夫ですよ」
どちらにしても買ってしまったものは取り返しがつかない。アズキは大人しくドリンクを受け取る。
「ところで、モヒートだなんて面白いものを注文しましたね」
「知らないドリンクだったから気になって」
カップの中身は無色透明の液体で、ライム一切れにミントの葉が数枚ほど一緒に入っている。
見た目はとても爽やかだ。
買ってから気づいたけど、ノンアルコールとはいえ未成年が買っていいドリンクだったのだろうか。メニュー表にはソフトドリンクと一緒に記載されてるけど。
とりあえず、アズキは一口飲んでみる。
ベースはライム果汁を炭酸水で割ったものだろう。
甘味には砂糖が使われてるようで、甘酸っぱさとミントの清涼感ある香り、ほのかな苦みのバランスが丁度良い。
「ところで、捜査を続けたい理由、聞いてもいいの?」
アズキは言いながらモヒートをもう一口。涼しさが鼻から全身に広がっていく。
キクナの顔が神妙なものに変わった。
「TMZの研究施設は過去に何者かの襲撃をうけた事があります」
「研究施設が?」
アズキはメダロッチに向けて、
「スタッグ、なにか聞いてる?」
『いえ、私は何も』
一旦メダロッチの中に戻っていたスタッグがいう。彼女も驚いてるようだった。
「僕もその場にはいませんでしたから又聞きですけど、メダロッターの姿は確認されず複数の暴走メダロットに襲われたそうです」
キクナはいった。アズキは硬直する。
「犯人が誰なのかは未だ特定されてません。ですけど、ロボロボ団なら可能だろうというのがTMZ側の判断です」
『もしかして、今日ロボロボ団に接触したのを逆手に聞き出そうと?』
スタッグの言葉にキクナはうなずき、
「尋問するチャンスだと思いました。仮にロボロボ団が犯人ではないと判明したとしても、僕たちの所有していない情報を聞き出せる可能性もありそうですし」
「ねえキクナ、焦ってない?」
アズキはいった。
「何となくキクナらしくない気がする。たしかに情報は手に入るかもしれないけど、それってロボロボ団にこちらの極秘情報を漏らすという話になるんじゃ」
「え、あっ」
小さく動揺するキクナ。ここに気づいてなかったとあっては、ますます様子が変だ。
「それに、この理由なら夜間のエージェントに頼んでもいい気がする。この話ならロボロボを捕まえたときにブルー博士が任務を伝えるはずだろうし」
で、アズキはいった。
「キクナ、もしかして自分で解決するのに固執してる?」
「勘がいいですね」
キクナが苦笑い。
「アズキさんはそういう所ありますよね。気が弱いだけで、一歩踏み出せる環境でならエージェントでも重宝するレベルの観察力と気づく力を持っている」
「え、さすがにない」
『さすがに過大評価です』
アズキとスタッグが揃って否定すると、
「今はそうかもしれませんね」
キクナは言ってからプールに顔を向ける。
急に無言になった。会話を打ち切りたいという意思なのだろうか。
程なくして、ふたりのメダロッチにメッセージが届いた。
『ブルー博士から、交代の時間になりましたので捜査を終了して帰宅してください。との事です』
スタッグが内容を読み上げる。
「わかりましたです」
キクナはいって、メダロッチの電源を切った。
横目で「アズキさんもお願いします」と言ってるように見えたので、スタッグを外に転送してから同じく電源を切る。
「実は」
キクナがこちらに振り向いて言った。
人工の太陽が逆光になって、キクナの全身を暗い影に変える。
「その日から、なんです。母が家に帰らなくなり、モニター越しの姿しか見せなくなったのは」
「え?」
ブルー博士が?
「仕事が忙しくて残業と出張続きというのが表向きです。けど、クリスマスに正月、僕の誕生日から学校の卒業式でも顔をみせてくれないのは」
「それは、さすがに変ですね」
スタッグがいった。キクナは続けて、
「さらに会話した感触にも違和感を覚えます。本来の母はなんというのか、もっとこう優しく甘そうに見えて狡賢い狸のような」
「すごい表現。自分の親相手に」
アズキがいうと、
「僕の会話術は元は母から学んだものです。こう言えば母の胡散臭さが伝わりますか?」
「あ、うん」
少なくともキクナが胡散臭いのは疑いようがない。
でもって、逆にブルー博士にそういった印象は感じなかった。公私を分けて考えてるなって印象は覚えたけど。
キクナはいった。
「アズキさん、ブルー博士に気をつけてください。誰かが偽物に成り代わってる危険があります」
これを伝えるために、キクナはメダロッチの電源を切って音声の流出を防いだのだ。
さらに、キクナがこれ程までに自分の足で事件の真相を知ろうとしてる説明にもなっている。
「田村崎にはすでに伝えてあります。アズキさんも、博士からの指示に警戒しつつ、バレないよう表面上は今まで通りお願いします」
言ってる本人も自分で認めたくない内容だったのは明らかで、その表情は硬かった。
今更だけど。
TMZ社とは、田村崎という一族が創業したグループ企業に属する会社である。
表向きはメダロット産業を行ってるが、実態は田村崎グループの研究機関そのもの。
腕は確かだが表の世界では適応できないだろう変態研究者たちを受け入れ、好き勝手に研究させてジョークレベルから違法まであらゆる技術力を確保している。
そんな変態共が技術の実践を目的にグループの防衛や治安維持などを手段に選んで生まれた大馬鹿組織がTMZエージェントであった。
これで第5話は終了になります。