連載開始時から「残酷な描写」タグを設定してますが、改めて今回は残酷描写が強いので閲覧注意とさせていただきます。
また、同様の理由つき本文の最初に空行を入れさせていただきます。
大丈夫な方のみ、本文にお進みください。
数年前。アズキは暴走メダロットに両親を奪われた。
事件前日、時刻は夕方一七時頃。
徒歩で帰宅途中の住宅街で、アズキは一匹の野良メダロットに襲われた。多分これが後に起きた悲劇の発端である。
「きゃっ」
建物の影から急にメダロットが飛び出し、アズキは腕を引っかかれ、
「痛っ」
顔を歪め、アズキは怯えながら周囲をうかがう。
野良猫かと思ったけど、辺りに動物の姿はなく、かわりに映ったのは吸血鬼型ドンドラキュリオ。
(え?)
とアズキは自分の目を疑った。普通メダロットが人間を襲うはずなんてない。きっとメダロット側が自分を猫か何かと間違えたのだろう。
しかし、ドンドラキュリオは続けてこちらに飛び掛かってくるのだ。
当時アズキはTMZ社と何の関わりもない一般人。自分が襲われてとっさに対応なんてできず、さらに噛みつかれて、
「きゃああああ!」
アズキは痛みと恐怖に悲鳴をあげた。
そ、そうだメダロット。アズキはここでやっと自分のメダロットに、
「助けて」
呼びかける。応じて、当時のアズキがパートナーにしていたヴァルキリア型メダロット、ギャラントレディが転送され、
「せあっ!」
発声と同時に手に持つ槍でドンドラキュリオを振り払う。
「ギャラントレディ、あのメダロットが突然」
アズキに応じたギャラントレディはすぐ前に立って、左の盾でマスターを庇う姿勢をとった。
が、ドンドラキュリオに噛みつかれると、
「あっ」
一度呻いたのを最後に、突然停止。
「え、なに? ギャラントレディ? ギャラントレディ?」
アズキが必死に呼びかけると応答してくれない。逆にドンドラキュリオはギャラントレディを噛みついたまま抱きしめ、こちらに向かってニタッと笑う。
「いっ、いやっ! いやああああああ!」
アズキは逃げた。ギャラントレディを置いて、その場に見捨てて自宅まで全力疾走。玄関に飛び込んだ。
「おかえり。ってどうしたの、その傷」
怪我した娘の姿に母が驚くが、そんな事よりアズキはすぐドアの鍵を閉めて、
「窓、全部閉めて! メダロットに、メダロットに殺される」
アズキは叫びながら、状況を把握してない母をおいて自室の二階に飛び込んで、窓を施錠する。
この時、窓から外の様子を確認したがドンドラキュリオの姿はなかった。
一階に下りたアズキは、ここでやっと母から傷の手当を受けたが、
「野良猫と間違えたんでしょう?」
事情を説明しても、母はメダロットに襲われたとは信じてくれなかった。
夜に帰ってきた父も、
「感染の危険がある。すぐ病院に行こう」
って心配してはくれたが、メダロットに襲われた話は信じてくれない。
「外は怖い」
結局、アズキがこう言ってぐずったのもあって、今日はこのまま休んで病院も明日行く事になった。
どうして誰も信じてくれないのだろう。
就寝前、アズキはメダロッチに向かって、
「どう思う?」
話しかけたが、返事はない。
そういえばギャラントレディを置いて逃げてきたのだった。
あの場所で停止したままなのか、それとも怒ってるのか、最悪すでに壊された後なのか、メダロッチはメダロットの回収にも応じてくれない。
思えば、
襲われた時点で自分から外に出てくれたら、こんな傷を負わずに済んだかもしれない。
勝手に停止なんてせずドンドラキュリオをやっつけてくれたら、不安に怯える事も無かったかもしれない。
ギャラントレディが本当ですと言ってくれたら、両親は信じてくれたかもしれない。
段々、パートナーに怒りが湧いてきた。
「このっ! ポンコツメダロット!」
罵声は静かな夜に寂しく響くだけで、何も意味も与えなかった。
とは、ならなかった。
あまりにも、あまりにも最悪な意味で。
日が変わって真夜中。
アズキは傷の痛みとドンドラキュリオの恐怖で寝たのか寝てないのか分からないまま布団の中で朝が来るのを待ってると、
『ま、スたぁ』
急にメダロッチから反応。
同時に下の階からの物音がアズキの耳に届く。
「ギャラントレディ?」
帰ってきたんだ。
こちらの返事に応答はなかったが、何となくの確信を覚え、アズキは腕にメダロッチを装着して階段を下りた。
「いるの? ギャラントレディ」
やはり返事はない。けど真っ暗な居間から誰かの気配を感じる。
「いるなら返事し」
アズキは電気をつけて覗き込み、
「て、っっっ」
絶句した。
アズキの見た光景には、たしかにギャラントレディの姿があった。
手に持つ槍で母を貫き氷漬けにしている姿で。
(え、な、なに、これ?)
いま目の前で何が起きてるの? 思考が追い付かない。
ギャラントレディがこちらに気づいた。
アズキと目が合うと、メット越しの瞳を普段と違う深紅に光らせ、
「ガガガ、ァ、ァァァッ」
母から槍を引き抜く。
直後、亀裂の広がった氷は中の母ごとバラバラに砕け、居間の床に真っ赤な血が広がっていく。
槍の先も赤く濡れ、母だったものの雫がぽたりぽたりと落ち続ける。
あまりにも現実離れした光景すぎて、綺麗とさえ感じるほど。
気づくとギャラントレディはアズキの近くで立っていた。
で、躊躇いなく槍を。
「アズキ!」
貫かれる寸前、アズキは横から父に突き飛ばされた。
尻餅をつき、未だ脳が何もかも認識できず茫然と見上げると、自分のかわりに父が串刺しになっていた。
父は、
「逃げろ、アズキ」
と言ってメダロッチを掲げる。
「クローテングー、ガトリングだ!」
現れた父のメダロットが頭部からガトリングを放つ。
しかし、ギャラントレディの正面に透明な壁が現れると、弾丸はすべて反射して、
「ぐあっ!」
逆にクローテングーと父を貫いた。
父の腕がだらんと垂れ、槍に貫かれた箇所から氷が広がっていく。
アズキは逃げた。
玄関まで走って、ドアの鍵を開けて家の外に。
外でドンドラキュリオが立っていた。
(ひっ)
となったが、咄嗟にアズキは蹴とばし、背中から倒れたドンドラキュリオを踏みつけてそのまま外を疾走。
「誰か、だれかーっ」
叫ぶアズキ。裸足で夜道を駆けながらふと後ろを見るとドンドラキュリオが追いかけてくるのが見えた。
しかも、
「っ」
途中、上空から前方に弾丸が撃ち込まれ、アズキは急停止。
見上げると、父のクローテングーが飛んでいた。目は深紅に光っている。ギャラントレディと同じだった。
後ろを振り返れば、走るのをやめてゆっくり近づいてくるドンドラキュリオ。さらに後ろにはギャラントレディの姿も見える。
アズキは気づいた。三機とも同じ色の目をしている。
追いついたギャラントレディは、ドンドラキュリオの前に立つと、
「ワタシハ、ぽんこつジャナイ。ミステタ、ますたーガぽんこつ」
エラーを起こした機械を思わせる途切れ途切れの声で、ギャラントレディは言った。
(あっ)
アズキは思った。メダロットは人間を恨むものだって。
人と同じように感情があって、なのに普段はメダロット三原則で押さえつけられて、人間のパートナーを強制させられている。
縛るものが無くなれば、人間に報復するのは当たり前、
「だったんだ。それがあなたの本心」
メダロットはお友達じゃない。そう思ってるのは人間だけで、本人にとっては首輪をつけられ強引に奴隷やペットにされた人間みたいなものなのだ。
死を覚悟したせいだろうか。
アズキの目には、いまのギャラントレディこそが本来の姿なのだろうと思え、檻から飛び立った鳥のように輝いてみえた。
「ア、ア゛ァァッ!」
ギャラントレディが咆哮をあげ、アズキを貫くため槍を天に掲げた。
穂先の血は未だ乾かず、黒点ひとつ付けた月に照らされて、いまも柄に垂れる。
(黒い点?)
突然、それが近づいてきた。
月に黒い点があったのではなく、何かがこちらに向かってきて、アズキの目にちょうど月と重なって映っていたのだ。
黒い点が射撃した。
弾丸はギャラントレディの背中に命中し、よろけて膝をつく。
「やれ」
誰かの声。直後、黒い点は近づいたことで黒い塊となり、空からアズキを見下ろしてたクローテングーに体当たり。
黒い塊はさらにクローテングーの周りを旋回しながら執拗に射撃して、一気に機能停止に追い込んで墜落させる。
メダルが弾かれないと思ったら、黒い塊はさらにハッチに射撃を続けて中のメダルを破壊してしまった。
ドンドラキュリオが他の家の屋根に飛び移ってから黒い塊に飛び掛かる。
黒い塊は避けつつ弾丸を一発。
一撃で落下したドンドラキュリオに、やはり黒い塊は執拗に射撃して中のメダルごとハッチを破壊した。
残すはギャラントレディ。
「ま、まって」
アズキはつぶやく。けど黒い塊は躊躇わず体当たりを仕掛け、さらに零距離からギャラントレディに何度も射撃。
何も言わないまま弧を描くように飛ばされるギャラントレディ。
黒い塊はもう一度体当たりをぶつけ、ギャラントレディはハッチどころかすべてのパーツがばらばらにはじけ飛んだ。
宙を舞うアズキのメダル。
黒い塊はしっかりと撃ち貫き、ついにアズキは家族三人をすべて目の前で失ってしまった。
「あっ」
アズキはその場で膝から崩れ落ちる。
ただ、メダルやパーツの残骸を拾う気にはなれなかった。ギャラントレディがパートナーだった以前に、両親の命を奪った張本人だったから、かもしれない。
「戻れ」
再び誰かの声。
黒い塊がデータ化して姿を消す。この時、アズキは初めてあれがメダロットだったと認識した。
アズキは声の先に振り返る。
黒い羽織姿で長い髪の女性は、アズキと目を合わせず背を向けて去っていった。
改めて、読んでくださりありがとうございました。
サブタイトルはメダロット4の戦闘曲「DARK NIGHT」より。