「ユスグちゃんね、TMZ社で新商品のモデルになるはずだったのよ」
改めて席に座ると、ラエドさんは言った。
初めて知った話にアズキは、
「え?」
って反応すると、
「TMZ社のチャリティイベントでね、抽選で孤児院の子をモチーフに新型メダロットを作るって企画があったの。それに選ばれたのがユスグちゃん」
「どんなメダロットだったのですか?」
アズキが質問するも、ラエドさんはすぐには答えず、
「確か採寸したり、ロボトルのデータを取ったり、要望を提出とかしてたわね」
「採寸」
アズキの脳裏で、学校の写真名簿しか顔を覚えてない少女の身体測定する様子が浮かび上がる。
当時はともかく現在のアズキはレズでロリコンなので、どうしても反応してしまい、
「アズキ」
スタッグから白い目で見られる。
「試作品は何種類もあったみたいだけど、最終的に完成間近のプロトタイプが二機作られたらしいわ」
「え、そこまで進んでたの?」
驚くシャロンさん。
「なのに、プロジェクトは中止になっちゃったんだ。ユスグちゃんが行方不明になっちゃったから」
「あたしもそう思ってたけど」
と、ラエドさんはなぜかスタッグを一度見てから、
「まだ続行してたみたいね。実際、稼働中の現物を見ちゃったもの」
「え? まるでいま知ったみたいに言ってない?」
「みたい、じゃなくていま知ったのよ」
ラエドさんはシャロンに返事。
で、スタッグに向けて言うのだ。
「TMZ-KWG-TS08セーラースタッグ、でしょ? あなたの機体名」
「えぇっ!?」
この意味を察し驚いたのはスタッグだけではない。
アズキ、さらにはシャロンまで目を丸くする中、
「その機体には、ベースのボディから動きや癖、ロボトルの傾向まで全てユスグちゃんのデータが使われてるわ」
「つまり、機械で再現したユスグちゃんって事?」
シャロンの言葉に、
「完全にではないと思うけど」
としながらもラエドさんは肯定。
「あの子もセクシーにしてって要望出したって言ってたし、ソニックスタッグの機能やスペックで動いてる感じを出すように調整してるはずだもの」
「それにしては、ある部分が圧倒的に足りない気がしますが」
言いながらスタッグは自分の胸元をぺたぺた。
アズキは顔をそらして、
「その、えと。実はスタッグってお尻とか下半身が」
「えっ」
スタッグが赤面し、縮こまる。
「マスター、お待たせした」
バサルトがやってきた。
ロボトルに負け、パーツを失った片腕をティンペットのまま出して、その両腕でアルバムを数冊ほど抱えている。
「孤児院で撮影したものです」
「ありがとうバサルト」
ラエドさんはテーブルに並べられたひとつを手にとって開く。
「そうそう、この子がユスグちゃんよ」
覗くと、昔のアズキに抱えられた幼い少女の写真が見えた。
他にもアズキにしがみついてピースしたり、児童プールで撮ったツーショット、寝てしまった彼女をアズキが布団に運ぼうとした瞬間を撮られたものまで。
アズキがいた頃のアルバムには、大抵ふたりがいつも一緒みたいに写っていた。
ラエドさんが辛い顔で、
「これでも思い出せない?」
「ううん、少しだけ思い出した」
そういえば、こんな子いたなって程度に。
「よかったー」
嬉しそうな笑みを前にして、アズキは罪悪感を覚える。
けど、ラエドさんはすぐ寂しそうな顔になって、
「それでこれが、行方不明になる前の、去年の写真」
と言って別のアルバムを開く。
これよと指し示された写真には、あれから数年を経て小学五年生に成長したユスグさんの姿があった。
髪は先端をリボンで縛った黒髪ロングで、気品とクールを併せ持ち堂々とした印象を覚える。一方で別の写真からは無邪気に遊ぶ元気な彼女の姿も確認。
これはモッチーズとも仲が良いわけだと思った。特に神宮寺さんと一緒の姿は想像に容易い。
また、どことなく雰囲気が、
「私ですね」
スタッグが言った。
アズキは、
「そこまでお転婆には見えないけど」
「通報します」
「って、人をすぐ犯罪者扱いもしなさそう」
なんて返したが、ページをめくるとシャロンに対しゴミを見る眼差しを向けるユスグさんの写真を発見。
まさしくアズキを犯罪者扱いする時のスタッグ。人間だったらこんな顔してるのだろうって想像通りの姿を彼女は見せているのだ。
実際、先ほどはああ言ったが、アズキの目にもふたりは似てるように映った。
髪型は違うし瓜二つという程でもないが、前に神宮寺さんのマゼンタキャットが言ったように、時折の雰囲気がスタッグと共通点を感じる。
体つきも人間版のスタッグって感じだ。
腕の細さとか、膨らみが薄いのに妙なエロスがある鎖骨や胸元、お腹とか。
お尻はスタッグの完全勝利だけど。
「あれ、アズキ?」
ここでスタッグが何かを見つけて言った。
「そこの写真にクワトロさんがいませんか?」
「え、あ」
本当だ。
「ああ、クワトロちゃんね。あの子も前は孤児院に住んでたのよ」
さらっと新事実をラエドさんが言う。
「ユスグちゃんが行方不明になったでしょ? だから裕福な家のお友達が住み込みのメイド待遇で雇って、保護してくれたのよ。神宮寺さんだったかしら」
ただ、彼女の場合は孤児院に来た時点ですでに義母に近い存在はいたらしい。
仕事の関係で一緒に暮らす事は叶わなかったらしいが。
「は、はあ」
どうしよう。副次的に得た情報が大きすぎて頭の中で処理が追い付かない。
今はユスグさんに集中して、一旦クワトロさん関連は深く考えないほうがよさそうだ。
「話を戻すけどね、孤児院の側からするとTMZ社に関わったせいでユスグちゃんはあちらの問題に巻き込まれたのではって思えてきちゃうのよ」
ラエドさんが言った。
「極端な考えを持った人はTMZ社を犯人と疑ったりもしてるわ」
「そうなっても仕方ない、と思います」
むしろアズキも疑っている。
厳密にはTMZではなく、偽ブルー博士とその背後という形ではあるけど。だけど現在TMZに起きてる事情はラエドさんに伝えるわけにはいかない。
「でね」
ラエドさんはとても言いづらそうに、
「あなたを引き取ってくれた人もTMZ関係者なのよ」
「それは知ってます」
「違うのよ」
ラエドさんは不自然に否定し、
「あなた自身もTMZの一員になって、事件のこと何も教えられないまま、被害者のデータを使ったメダロットを持たされて、事件の捜査に関わったのよ?」
「えっ?」
「まるで、あなたをTMZの管理において利用するために引き取られたみたいじゃない」
「あっ」
アズキの中で、今日まで感じていた幸せに亀裂が入った気がした。
安心できる家があって、寝泊まりする自室に、義母の愛。スタッグとの関係も良好。普通の家庭と変わらない恵まれた日常。
この全てが誰かによって仕組まれたものだとしたら。
「いい? あなたの過去に関してだけど、孤児院は一切何も知らないわ。一切よ」
「隠ぺいされた?」
シャロンが言った。
「多分ね」
ラエドさんは肯定し、
「隠しきれない大事件ならともかく、メダロットの暴走が家庭レベルで起きたなんて公に知られたら不味いのでしょうね」
「さらに、これを表面上の理由に、裏でどれだけ別の事件と関わっていても纏めて闇に葬れると」
「そこまで推測に推測は重ねないけど、アズキちゃんが無かった事にされた事件の被害者で、公にされない情報を持ってるのは間違いないわ」
なんだろう。
ラエドさんとシャロンのほうがずっとエージェント適正が高い気がする。
どちらにしても、そんな人物にセーラースタッグを預けるのが偶然じゃないとしたら、TMZが事件に関与してる可能性がある?
他にも自分は事件に関わりすぎるとセレクトや警察機関の口封じで始末される可能性がある?
(駄目だ。現状安心できる情報が無さすぎる)
アズキは身の安全や未来に八方塞がりという言葉を感じた。
「だから、いまから言うのは忠告」
ラエドさんは言った。
「また悲劇に見舞われたくなければ、セーラースタッグを廃棄して一件から手を引いて。逃げ場所なら孤児院があるわ。グループと敵対してもあなたを護るから」
そんな話を聞かされた帰りにて、
「アズキ。私はこのボディを廃棄してもいいと思ってます」
バスに乗って移動中、スタッグはいった。
「自分でもこの姿が本来の私だと認識してはいますけど、アズキを危険にしてまでセーラースタッグでいたいとは思ってません」
「スタッグ」
「クワトロさんから、改めてファンシーエールを買い取りましょう」
「ううん、スタッグはこのままでいて」
アズキが言うと、スタッグは落ち込んだように、
「やっぱり、私がユスグさんに似てるからですか?」
「え?」
どうしてそこに行き着くの?
「アズキ、アルバムのユスグさんを性的に見てましたよね? もしかしてアズキは、本当は彼女を覚えてて、私にあの子の面影を求めていたのではないかと」
もしかしてスタッグ、嫉妬してる?
「あー、その、えっと逆、逆」
アズキは言った。
「そうじゃなくて、写真のあの子を擬人化スタッグみたいに見てたという話。面影も、むしろ成長したユスグさんにスタッグを重ねてたから、ほんと順番が逆」
「え?」
「そもそも覚えてても私が知ってた彼女は小さい頃のだから、成長した姿には繋がらないはずだけど」
「それは、そうでした」
誤解が解けてよかった。
だけど、スタッグがそんな事を考えてたなんて。
「私が言いたかったのは、私が抜けたらキクナに味方がいなくなるでしょ」
「あっ」
「それに、教師も続けられなくなるから生徒を傷つける事になるし。もう、ラエドさんに従って全てから逃げるには抱えてるものが多すぎるのよ。なにより」
アズキは一拍置く、どころか十分に間を置いて、
「セーラースタッグもスタッグも、元はTMZが与えてくれたものだから、最悪返却を強いられる」
そう、本来アズキたちは純粋なマスターとメダロットの関係ではない。
どちらかといえば仕事で組んだバディに近く、スタッグは元々セーラースタッグのテスト用メダル出身で、厳密にはTMZエージェントの先輩なのだ。
「私は最初がどうあっても、アズキがマスターだと思ってますけど」
当のスタッグはこう言ってくれるけど。アズキもそう思ってるけど、もしTMZから離反するならそうはいかないはず。
アズキは結論を言った。
「だから、私は今日なにも聞かなかった事にする」
「えっ?」
「一昨日までの私と同じ、何も知らない道化のふりしていつも通りの日常と任務を過ごす。多分いまは、これが一番全てを護れる選択肢だと思うから」
全てから逃げても危険。
けど、これ以上を無策で踏み込むのも、自分が知ってしまった事がTMZに伝わるのも危険だから。
「これなら家も日常も確保して、あの子たちの担任でいれて、キクナの味方も続けて、スタッグとの関係を護れる、よね?」
「分かりました」
スタッグが言った。
「アズキの判断に従わせてください。私はTMZの味方ではありません。自分の意思で、アズキの味方ですから」
さらに、
「メダロット三原則で抑圧された感情もありません。そんなもの全部アズキにぶつけ続けてます。ですから」
「うん、知ってる」
アズキはいった。
「そのくらいは全部知ってるつもりだから」
「アズキ」
「私のそばにいて欲しい。お願い」
アズキの言葉に、スタッグがやさしく微笑む。
「命令だったら、蹴飛ばすところでした」
三原則を首輪にしたメダロットが、マスターを蹴飛ばせると思うはずがない。
ふたりは手をつないだ。
これで第6話は終了になります。