KWG型の展示会はあくまでフロアの一角に留まっており、他の部屋では通常の展示物も公開されていた。
アズキたちは続けて、三階の化学展示ゾーンを覗いてみる。
「先ほどと雰囲気が全然違いますね」
スタッグがいった。
KWG型のフロアは、建物の雰囲気を活かして資料館のような部屋になってたのだけど、こちらは真逆で室内全体がメカメカしい造りになっていたのだ。
「アズキ、あれは何ですか?」
装置のひとつを指さし、スタッグが言う。
アズキは近寄り、
「メダロットをスキャンして型式番号や性能を調べる装置だって。そこのマットに立つと自動で起動するみたい」
「試してみていいですか?」
「別にいいけど」
許可すると、スタッグはわくわくした様子でマットの上に立った。
直後、前方のモニターが起動し、
『機体名ソニックスタッグ』
と、各種パーツ名や装甲など数値化された性能がそれぞれ表示される。
しかし装置はスタッグを女性型と断定しつつもセーラースタッグとしては一切認識してくれず、
「この装置は旧式ですね」
「まあ、スタッグは非売品だから」
肩を落とすスタッグをアズキは宥めながら、他に面白いものが無いか辺りを確認する。
「あれ?」
で、アズキは気づいた。
体験型ブースとして用意されているガラス張りの個室に髪を左右に分けたお下げの少女がひとり入っていたのだけど、
(もしかしてクワトロさん?)
って。
とはいえ、相手は後ろ姿しか見せてないので、まだ断定はできないけど。
クワトロさんらしき少女は、中で台の上に置かれたモニターを操作する。直後、個室の床が砂地に変わるのが見えた。
さらに少女がモニターを触ると、今度は草原に変化。
「面白そうですね、あれ」
スタッグが言った。
少女はさらに個室の中を水辺に変えた後、自分の靴が濡れてないのを確認してから床を元に戻して、ブースの外に出てきた。
「あっ」
少女がアズキとスタッグを見て驚く。
やはり彼女はクワトロ・チーゼスさんだったのだ。
「紅下先生にスタッグさん?」
「えっ」
となるスタッグ。完全に気づいてなかったらしい。
一方、そんな気がしてたアズキは少し対応に困りながら、
「あ、えっと。こんにちは」
いざ接触してから、どうしようとアズキは思った。
たった今気づいたのだけど、モッチーズの中で唯一クワトロさんとはまだ単独で話し慣れていないのだ。
赤城くんは性別に疑惑が浮上してるとはいえ一応は男相手。神宮寺さん相手は教師として潜入初期のぱんつ問題と異常な人懐っこさでパワーレベリング経験済。
対してクワトロさんは、無防備な神宮寺さんと違って、ちゃんと警戒心があって、おっぱいで、おっぱいで、おっぱいなのだ。
「こ、こんにちは。奇遇ですね」
クワトロさんが恥ずかしそうに笑う。
「さっきの、見られちゃいましたよね?」
「床が変わる体験ブースですか?」
スタッグが言うと、クワトロさんはもじもじとした反応を見せながら、
「は、はい」
「すごく面白そうでしたけど、どういう装置だったのですか?」
「ロボトル用のフィールドを生成する装置だそうで」
クワトロさんは言った。
「フィールド自体は立体映像らしいのですけど、メダロットにとっては本物のように認識できる最新技術って説明にありました」
「何それ、すごい」
余計に気になったアズキは、ブース前に記載されている装置の説明書を読んでみる。
どうやらメダロットの持つナノマシンを人工的に散布する事で、クワトロさんの言った疑似フィールドを作り出す仕組みらしい。
改めてブースを覗くと、装置と思われる台の上にはモニターの他に球状の鉱石が一緒に設置されてるのがわかる。
どうやら、ナノマシンはこの鉱石から発生してるものだとか。
説明には人体には影響を与えずメダロットだけが触れるとあるけど、
(それって)
正直、アズキは違和感を覚えた。
両親がメダロットのフリーズ攻撃で氷漬けにされる姿を目撃してる以上、本当に人間にとって無害な技術なのか疑問を覚えてしまうのだ。
しかし、実際に体験したクワトロさんは楽しそうに、
「砂や雑草を踏んでる感覚も、足が水に濡れる感覚も本当に無くって」
と言ってる様子から、現状は本当に無害で済んでるのだろう。
スタッグは淑やかな笑みで、
「そういえば、夢中になって装置を触ってましたね」
「あ、あの。できればあの姿は恥ずかしいので忘れてください」
どうやら、先程からのもじもじした態度は、自分が夢中になって装置で遊んでる姿を見られた恥ずかしさから、だったらしい。
「どうしてですか? 可愛かったですよ」
スタッグは本気で首をかしげてる様子だった。
お土産売り場は、正面の階段まで戻らなくてもエレベーターから直接行く事ができた。
クワトロさんと別れたアズキたちは、フロア内の商品を見て回る。
「結構色々なものがありますね、アズキ」
「うん、想像以上」
アズキは頷いた。スタッグが言うように、実際に品揃えはすごくいい。
メダロットパーツだけでなく、メダロットをモチーフにしたキャラクターグッズも取り揃え、アクセサリーは五百円程度のものから数千円する物まで。
本物か分からないけど、フユーンストーンのネックレスなんて物も見つかった。
食べ物系もメダル煎餅にフライング・オブ饅頭、最早メダロット要素無視してやたら種類の多いレトルトスパゲティと色々ある。
「アズキ、ありましたよ」
スタッグがカメオスタッグを見つけてくれたらしい。
本当に今回のスタッグは不気味なくらいアズキに協力的だ。
「ありがとう」
アズキはレジで本物と交換するタイプの空箱を、ペットボトルのミネラルォーターと一緒に買い物かごに入れて、
「スタッグも何か欲しいものはある?」
「いえ、特には」
言いながら、スタッグの視線が一度アクセサリーの棚に向けられる。
しかし、スタッグはこれが欲しいと口にはせず、
「それよりも、そろそろ電車に向かわないと帰りが遅くなりま」
彼女の言葉は、突然鳴り響いたサイレンによってかき消された。
直後、館内放送で、
『ロボロボ団が発生しましたロボ。来場の皆様は係員の指示に従って速やかに避難をお願いしますロボロボ』
ざわつく周囲。
アズキたちはすぐ互いに顔を見合わせて、
「スタッグ」
「放送自体がロボロボ団の仕業ですね。おそらく館内を混乱させるために自演したのでしょう」
事実、お土産売り場では当の職員本人が混乱して、避難誘導どころではない様子。
「アズキ、私は外の様子を見てきます」
「お願い」
「その間アズキはフロアの人たちを落ち着かせてください」
「え、無理」
スタッグは混乱する人たちの間を掻き分けてフロアの外に出た。
アズキはメダロッチからスタッグの視界を画面に表示し、
「どう、スタッグ」
『今のところ、爆発などの反応はありません』
言いながらスタッグはエントランスホールに到着。
チケットカウンターの職員が、
『皆さま。どうやらロボロボ団は三階フロアにいるようです。今のうちに当館の外に逃げてください』
さらに数体のレッドマタドールとプリティプラインが館内の人たちを護りながら避難誘導している様子が映った。
アズキはスタッグに、
「ごめん、あまりプリティプラインは視界に映さないようにお願いできる?」
プリティプラインは、辛い思い出があるギャラントレディの旧式モデルなのだ。
『善処します』
スタッグはアズキの要望を半ば聞き流すように返事し、
『すみません!』
チケットカウンターの職員に話しかける。
『クワトロ・チーゼスという小学生の女の子を見かけませんでしたか?』
『あなたは、先ほどメダロッターとイチャイチャされてた』
なんだか妙な形で顔を覚えられてたらしい。
『もしかして三角関係?』
『え?』
スタッグは素できょとんとしてから、
『特徴は、年相応に小柄だけど巨乳でおさげの女の子です。外に逃げた中にいませんでしたか?』
『いえ、ごめんなさい』
さすがにエントランスの職員でも出入りする人たちの顔をひとりひとり把握するのは無理がある。とはいえ、
『えっと、クワトロ様ですね。まだ館内にチケットの反応があります』
職員は手元のコンピューターからクワトロさんがまだ避難してない事をすぐ調べ上げてくれた。
『ありがとうございます』
スタッグがいった。
『うわああっ!』
が、ここで二階の展示室から二機のレッドマタドールが弾き出される形で倒れ、外れたメダルが床に転がる。
セレクトとは別の民間警備員が、倒れたメダロットを庇うように抱え、
『強い。本当にロボロボ団なのか?』
『ならばこちらも訊こう』
遅れて同じ奥から現れたのは、ひとりの男ロボロボ団とカネハチまーく3。
『一体いつから、ロボロボ団が弱いと錯覚していたロボ?』
黒タイツとサングラスで全身を隠すも、日焼けによる浅黒い顔とメダロットからタコスだと分かった。
(あれ、タコスって先日のプールで二連敗してたはず)
アズキは心の中で疑問を覚えながら、スタッグの下に向かう。
途中、
『タコス。目的の物は手に入ったロボ』
エントランスでは別のロボロボ団まで姿を現したらしい。
アズキは合流を優先してメダロッチの画面を確認してないが、声からまだ幼い女の子だと思った。
『よし、シラタマ。邪魔が入る前に撤退するロボ』
「スタッグ!」
アズキがエントランスホールに到着した。
スタッグがこちらに振り返り、
「アズキ」
「って、どうして先生がここに!?」
驚く声。見上げると、シラタマと思われるまだ背の低い女の子のロボロボ団がアズキの登場に驚いていた。見ると彼女の手には球状の鉱石が握られている。
体験ブースで見た疑似フィールドを作る装置の鉱石と外見が一致。もしかしてあれが奪われたのだろうか。彼女が立ってる場所も近くの三階廊下だ。
同時にアズキはメダロッチ越しではなく肉眼でふたりを見て気づく。
いままでアズキが相手したロボロボ団は頭の角が一本なのに対し、今回のふたりは角が二本生えていた。
他のロボロボ団より階級が高いと推測できた。実際タコスは日吉さんの上司らしいし、今回現れたふたりは幹部級かもしれない。
「シラタマ、ロボを忘れてるロボ」
「え? あっ! ろ、ロボ。どうしてここに、ロボ」
タコスに指摘され言い直すシラタマ。
そういえば、プールの時にタコスが誰かを指して言った名前もシラタマだったはず。もしかして当時も近くにいたのだろうか。
って、それはともかく。
「スタッグ、パーツ転送」
アズキはデータを送信し、スタッグのパーツを四つ全て換装する。
直後スタッグは、ピスケスの頭部、マゼンタキャットの左腕、右腕と脚部がファンシーエールという歪な姿に変貌。
「え、あ、アズキ?」
動揺するスタッグに、
「ごめん今回は合理優先。シラタマってロボロボ団からあの鉱石を奪い返して。ロボロボ団にはメダロット三原則が適用されないからサンダー攻撃も視野に入れて」
「えっ?」
仰け反って固まるシラタマ。
「アズキ、多分ですけど彼女の正体は。いえ了解しました」
スタッグは箒に乗って空を飛ぶ形で三階のシラタマ向けて直進。さらに途中、ピスケスの頭部パーツを使用し重力コントロール波を放出した。
館内は三階まで吹き抜けで大階段から各階の左右にある廊下と繋がった立体フィールドとなっている。
しかし、この戦場で求められる三次元機動を得意とする飛行型は、天井のある閉鎖空間が苦手なのだ。
ここでピスケスの頭部パーツが持つ機能を使う事で飛行型が縦横無尽に動き回れるようになる。まさにロボロボ団が以前教えてくれた戦術であった。
けど、
「させるかロボ」
スタッグが二階を通過しかけた辺りで、タコスのカネハチからアンカーが射出された。
攻撃はスタッグに命中して鎖が絡みつき、カネハチは鎖を切り離さずシラタマに近づけさせないとばかりにスタッグを引っ張る。
「あ、んぅっ」
鎖で締められスタッグが呻いた。その声がどことなくエッチに聞こえる。
頭がピスケス、つまり魚の尻尾なのに。
タコスが叫んだ。
「シラタマ、いまのうちに脱出しろ!」
「分かったロボ」
非常口を利用する気だろうか、廊下を走るシラタマ。
ここで一発のビームが飛んできた。
カネハチの鎖が破壊され、スタッグの拘束が解除される。
やったのは、クワトロさんとバグスティンクだった。彼女たちは大階段を挟んでタコスとは向かいの二階廊下に立っている。
「スタッグさん。大丈夫ですか?」
「って、クーちゃんまで!?」
再び驚くシラタマ。彼女は真上の三階に立ってるためクワトロさんの姿は見えないのだけど、声だけで分かったらしい。
さらにクーちゃんという呼び方。
まさかシラタマの正体って。
アズキの脳裏に、教え子のひとりである神宮寺さんの顔が浮かぶのだった。
メダロットHERMITの設定集を作ってみました
https://syosetu.org/novel/358871/
メダロット解説
以下の設定は小説内オリジナルとなってます。
[機体名]
スタッグ(第7話ver)
[性別]
女
[パーツ]
◆頭部:ファスン(補助/たいちせいぎょ//4回)
◆右腕:マジカルブルーム(格闘/ブレイクハンマー/)
◆左腕:スタンスティック(格闘/サンダー/がむしゃら)
◆脚部:ペップンポップ(飛行/チャーム)
●HV:0/0/0 合計:0/0
[使用者]
[備考]
今回、全身を換装されたスタッグの姿。
ピスケスの頭部、マゼンタキャットの左腕、ファンシーエールの右腕・脚部が使われている。
なお、ピスケスは1-2、マゼンタキャットの左腕は3-4、ファンシーエールは2-5で入手したものを使用。
たいちせいぎょの採用に関しても5-4にて味方が使う頼もしさをアズキが実感したからであり、
見た目は歪でも実は今までのストーリーの集大成とも受け取れるパーツ構成になっている。