(まさか、あの子がロボロボ団?)
アズキの中で、正解であってほしくない可能性が浮上する。
(そんなはずがない、よね)
心の中で、アズキは自分の推測を必死に否定。
けど、クワトロさんが、
「私、いまから非常口を先回りして逃走ルートを塞ぎます。おふたりは正面からロボロボ団の相手をお願いできますか?」
「わかりました」
なんてスタッグと言葉を交わすと、
「それは駄目ーーー!」
シラタマの喚く声。
確定だ。シラタマの正体はモッチーズのリーダー、神宮寺シルコで間違いない。
不幸中の幸いは、クワトロさんがアズキ側に立ってる点から、おそらくモッチーズ自体はロボロボ団と関係ない事か。
「逃げ場はないロボか」
タコスは判断すると、
「シラタマ、ロボトルいくぞロボ! 二対二のチームロボトルで奴らを纏めて倒すロボ」
「無理ロボーっ! 相手は私の知ってる中で一番強い子と三番目ロボよ?」
うわーん、ってあの子が嘆くのと全く同じ声でシラタマは言った。
余談だけど、言い方から一番はクワトロさんだろうけど、スタッグが三番という事はそれより強い人を一名知ってるという話になる。一体誰なのだろうか。
タコスは言った。
「心配するなとは言わないが手段はあるロボ。シラタマ、早速奪ったブツを使ってフィールドを凍土にしろロボ」
「あっ」
となるシラタマ。
逆にスタッグとクワトロさんはまずいと判断したのか、同時に顔をしかめた。
シラタマは、球状の鉱石をメダロッチに押し当てて、
「フィールド変更」
直後、鉱石は光を放つとメダロッチを介して粒子が放射状に広がり、床や壁がたちまち半透明の氷に覆われていく。
しかもメダロッチ越しに映る光景は、完全に白一色の凍土。やはりロボロボ団が奪った鉱石は、ブースに使われていた疑似フィールド発生装置だったのだ。
「メダロット転送」
続けてシラタマは自分のメダロットを呼び出した。
現れたのは雪の女王をモデルにしたQUN型オーロラクイーン。二脚だが凍土を得意とする脚部特性を持つメダロットである。
マゼンタキャットではない。普段とメダロットを使い分けてるのだろう。
『
ウォッカが現れた。
三階の踊り場から吹雪が舞ったと思うと、中からツンドルが姿を現し、
『これより、ロボロボ団ペア対スタッグ・クワトロペアのロボトルを始めるよ』
と言った。
「今回も勝手に合意扱いされましたね」
スタッグは言って、
「ごめんなさいクワトロさん、事件に巻き込んでしまって」
「い、いえ。首を突っ込んだのは私のほうですから」
あたわふたした態度でクワトロさんは返事。さらにおろおろと、
「逆にごめんなさい。自分の身は自分で護れますから、チームロボトルのペアをお願いします」
「いえ、逆に足手まといになったらごめんなさい」
互いにぺこぺこと頭を下げあう。
ただ、スタッグがロボトルでここまで謙るという事は、本当に味方がクワトロさんだと自分が足を引っ張る側になるかもしれないと感じてるのだろう。
それだけ彼女とバグスティンクが破格レベルに強い証拠である。
「アズキ、クワトロさんのそばに向かってください。彼女からの指示を仰ぐ事を検討に入れたいですから」
スタッグは言ってから、メダロッチ越しに小声で、
『一応、彼女があちら側につくかもしれないという警戒もかねて』
「う、うん」
頷いてから、アズキはウォッカに視線を向け、
「移動するだけの時間、くれる?」
「ハラショー。許可するよ」
許可をもらって、改めてアズキは階段を上ってクワトロさんの隣に立つと、
「よろしくお願いします」
と、改めて口にするクワトロさんに、
「うん。でもクワトロさん大丈夫? たぶんロボロボ団のシラタマって子の正体って」
「神宮寺さんですよね?」
「やっぱり」
改めて確信するアズキ。
クワトロさんは心苦しそうに、
「平気といったら嘘になります。だって神宮寺さんは大切な親友ですから。できれば敵対なんてしたくありません」
だと思う。しかも赤城くんが言うにクワトロさんの彼女に対する友情はすごく重いそうだし、
「でも、今なら彼女はシラタマさんだからと理由をつけて公然と神宮寺さんを泣かせられると思うと、ドキドキが止まらなくて」
この子は絶対に警戒しないといけない。
アズキは心底感じた。
「うらーっ、ロボトルファイト!」
ウォッカからロボトル開始の宣言が出された。
ルール上、重力コントロール波は解除した状態でのスタートになったので、スタッグは改めて頭部パーツの使用を試みる。
けど、
「カネハチ! アンカー射出ロボ」
先にタコスのメダロットであるカネハチまーく3から回避シール攻撃がスタッグに放たれる。
一撃目は箒で叩き落すも最初の射撃は牽制だったらしく、氷の上で動きづらいのもあって二撃目のアンカーをスタッグは避けきれず、脚に鎖が絡まってしまった。
カネハチまーく3が出す左右の腕からの攻撃は、当てた相手の回避行動を封じる能力があり、
「オーロラクイーン。アイス使用ロボ」
ここでシラタマのオーロラクイーンが右腕を構えて粉雪混じりの冷風を飛ばす。回避行動を封じられたせいで、この攻撃もスタッグに当たりそうになるが、
「バグスティンク、ガード!」
二階からクワトロさんのバグスティンクが落下してきた。
空中で背中の装甲板を前方に展開しながら間に割って入り、スタッグを庇う形で粉雪をかわりに受け止める。
この粉雪はフリーズショットという技であり、性質的にはギャラントレディの槍を射撃攻撃にしたようなもの。
結果、床に着地しドスンて重い音を響かせた時には、バグスティンクの体は氷漬けになっていた。
(ひっ)
一瞬、アズキはトラウマで怯えそうになった。
両親のような悲劇はないと分かってても、誰かをかばってフリーズ状態になる流れはさすがに今でも少しきつい。
「バグスティンクさん!」
スタッグが叫びそうになるも、
「頭部パーツ、たいちせいぎょの使用をお願いします」
「わ、分かりました」
クワトロさんの指示にスタッグは頷き、今度こそ重力コントロール波が起動する。
直後、
「ちいっ」
舌打ちするタコスと、
「ひっ、たいちせいぎょを得たクーちゃんのバグスティンク、ロボ? 嫌ぁーーーっ!」
悲鳴をあげるシラタマ。
「なら、フリーズ状態が解ける前にこっちを先に倒すまでロボ! カネハチ!」
タコスが叫び、カネハチの口からレーザーが発射された。
現在スタッグは回避を封じられている。
しかし、まだ相手のレーザーが出力不足だったのと、異性メダロットから受けるダメージを減らす脚部特性チャームのおかげでスタッグはなんとか耐えきり、
「オーロラクイーン!」
再びシラタマのオーロラクイーンから粉雪が飛んでくるが、スタッグは左腕を突き出し、電流を放って相手の攻撃を相殺。
ここでスタッグの脚に絡まっていた鎖が外れた。
再び回避可能になったスタッグは、重力コントロール波の恩恵で泳ぐように空を飛んでカネハチに接近。
ブレイクハンマー機能を使わず、箒をただの鈍器として使いカネハチを殴りつける。
クワトロさんが言った。
「スタッグさん、そのままカネハチの相手をした後、六秒で真上に飛行できますか?」
「分かりました」
間合いを詰めた結果、カネハチは武器の射出が困難になったようで、相手は両腕のアンカーをそのまま斧として使い、格闘戦を挑んできた。
左右交互に繰り出される打撃を、スタッグは体をそらし、たまに箒で弾いて回避行動。
しかし避けきれず、何度もかすりダメージが入り、たまに防御行動もさせられる。この事から思った以上に相手メダロットが強いと思い知らされた。
そういえばアンカーを射出した攻撃も、スタッグはすでに二度も当てられてるのだ。
ここでアズキはオーロラクイーンの様子に気づき、
「あっ」
となる。相手は左腕をスタッグに構え、サブスキルの狙い撃ちを使用して、より高威力、高精度の一撃をぶつけようと充填を行ってたのだ。
で、スタッグが空に逃げた瞬間を狙って、オーロラクイーンから粉雪が掃射される。
「砲撃!」
直後だった。
バグスティンクを閉じ込めていた氷がはじけ飛び、同時に腕の発射口からビームが発射されて相手の粉雪を受け止めたのだ。
クワトロさんがいった。
「六秒で真上に飛行。指示通りです、ありがとうございます」
一方、六秒の裏で起きてた内容を間近で見てたアズキは、
(え、すごっ)
と内心慄く。
クワトロさんは、バグスティンクが氷漬けで一切動かないのを利用し、メダロッチが映す視界から拡大表示まで使ってビームを発射する座標を指定したのだ。
下手したらミリ単位で。小学生が六秒でそこまで可能とは考えづらいけど。
おそらくスタッグにカネハチと至近距離で戦わせ、下手に粉雪を撃てば味方に誤射する状況を作ったのも計算のうち。
オーロラクイーンは攻撃が可能になる瞬間を狙うしかなく、サブスキルを使いじっくり充填しながら必殺の一撃をぶつける瞬間を待っていた。
結果、タイミングに合わせてスタッグが真上に飛んだ事で、オーロラクイーンは誘導されるまま攻撃を開始してしまったのだ。
粉雪の軌道上をバグスティンクがずっと狙ってたなんて知らずに。
「カネハチに向かって跳躍」
クワトロさんの指示を受けたバグスティンクが再びジャンプした。
しかも今回は重力コントロールの恩恵を受けて、羽のように跳んでは一気にカネハチとスタッグのいる二階廊下に到着。
「迎撃するロボ!」
タコスの指示を受けて、カネハチがアンカーを飛ばすも、
「三六〇度旋回」
バグスティンクは回転し、背中の装甲版でアンカーを弾いて、
「二発目ロボ」
と放たれた二つ目はスタッグが横から箒で弾く。
バグスティンクが前進した。
ビームを使う射撃メダロットが敵機に近づいて何するのかと思ったら、
「左」
直接、左腕でカネハチを殴りつけた。
「右に一八〇度旋回」
さらにその場で右回転し、背中の装甲版で横薙ぎ。
突き飛ばされてカネハチが一階に落下すると、バグスティンクも追いかけて落下。戦車脚部の巨体で踏みつぶしにかかる。
「よ、避けるロボ! カネハチ!」
「右腕を指定位置に向けて」
さすがに落下攻撃はカネハチに避けられる。しかし同時にクワトロさんはバグスティンクの腕を不自然な方角に向けさせると、
「オーロラクイーン、攻撃!」
「右に九〇度旋回、右腕でビーム発射!」
カネハチに気を取られてる間に位置を移動してから再び粉雪で攻撃してきたオーロラクイーン。
けど、クワトロさんはバグスティンクの意識を対カネハチに集中させたまま相手の粉雪をビームで消し飛ばし、
「カネハチ、レーザー発射ロボ!」
「左ビームで迎撃」
視線がカネハチに向いたままだった事で、相手の口から発射されたレーザーさえ、もう片方の腕から発射したビームで相殺した。
が、さすがに暴れっぱなしで両腕のビームまで使ったバグスティンク。
冷却も兼ねて一旦動きが止まり、
「もう一撃ロボ。オーロラクイーン、ブリザードよ!」
このタイミングを狙ってか、シラタマの指示でオーロラクイーンが頭部パーツを起動。
それでも、この攻撃までバグスティンクは対処してしまうのかと思ったら、
「スタッグさん!」
「はいっ」
ここでスタッグが動いた。
箒に跨って三階よりさらに上空を飛びながら、過去にカネハチから射出され、鎖から切り離されたアンカーをオーロラクイーンに投擲すると、
「あっ」
攻撃開始の寸前で照準がぶれ、相手の頭部パーツから巻き上がった吹雪はカネハチに当たってしまう。
「あ、おい!」
タコスが叫ぶ中、氷漬けになるカネハチまーく3。
スタッグは跨ってた箒を両腕で握り直すと、穂先のスラスターを起動して勢いよく落下。
ブレイクハンマーとしてカネハチの頭を思いっきり殴りつけた。
当然、カネハチは防御も回避もできず、氷ごと頭をかち割られてティンペットの頭部をさらす。この一連に、
「あ、ぅぁっ」
密かにアズキはトラウマを刺激され、うめき声をあげてしまった。
「あっ! アズキ、ごめんなさい」
スタッグも、メダロッチ越しに聞こえた声を前にして気づいたのだろう。
慌てて謝る中、
「カネハチ機能停止。リーダー機ではないからロボトルはまだ続行するよ」
ウォッカが宣言。
「おい!」
タコスが怒鳴った。
「シラタマ、なにしやがるんだロボ!」
「じ、事故ロボ!」
「これで、てめぇが脅威って言ったやつら相手に一対二だぞ? 勝てる見込みはあるのかロボ」
「無いわよ。タイマンでも勝てる見込みないのにどうすればいいのロボ! うわーん」
鳴くシラタマ。
タコスは「ちっ」と舌打ちし、
「逃げるぞシラタマ。今はお互い捕まらない事が最優先だロボ」
と、まさかのロボトル放棄宣言。
シラタマはうなずき、
「わかったロボ。マゼ、じゃなかったわオーロラクイーン!」
いま、マゼンタキャットと言いかけてたような。
もしかして、機体が違うだけで中のメダルは同じ? そういえばロボトル中、相手は一言も喋らなかったけど。
「あれ?」
と、シラタマは言った。
「オーロラクイーン、オーロラクイーン?」
「どうしたシラタマ」
「分からないわ。急にメダロッチにオーロラクイーンが反応しなくなったロボ」
シラタマはオーロラクイーンの下に駆け寄り、その肩に触れる。
「どうしたの、ねえ? ロボ?」
「え?」
ここで、やっとオーロラクイーンはマスターの呼びかけに気づいて。
「嘘、マスターの声がきこえない。エラー、音声認識にエラー発生」
動揺するオーロラクイーン。彼女の声は間違いなくマゼンタキャットと同じで、
「痛っ」
オーロラクイーンが膝をついた。
突然、シラタマが持つ鉱石が勝手に光りだすとオーロラクイーンは両手で頭を抱え、
「痛いっ! 痛い、痛い、なにこれ? 気が昂る、意識が遠くなる、何かが私の中に入って、書き換えてくる!」
「え、なに、なにが起きてるの?」
「嫌っ! 壊れる、私が壊れる。たっ、助けて! マスター! いやっ、あああっ!」
呻いた後、急にオーロラクイーンから反応が消える。
いまアズキの位置は二階廊下で、ふたりは真上の三階廊下にいるので詳しい事はメダロッチから映るスタッグの視界越しでしか分からないけど、
「オーロラクイーンの目が」
シラタマが言った。
直後、アズキは咄嗟に叫んだ。
「神宮寺さん! オーロラクイーンから離れて!」
スタッグもただ事ではないと察したようで、彼女もすぐ空を飛んでシラタマの下に向かった。
オーロラクイーンは立ち上がると、右腕をシラタマに向け、
「え?」
「コウゲキ」
粉雪を、マスターに発射する。
「神宮寺さん! 届っ」
間一髪。スタッグの手はシラタマに届き、オーロラクイーンの攻撃が当たる前に彼女を突き飛ばす。
けど、かわりに攻撃を受けてしまったスタッグは氷漬けになり、メダロッチに映る画面も氷越しになる。
「スタッ、っ」
誰かを突き飛ばして庇い、かわりに凍る。
そんなスタッグの姿が生みの親の最期と重なり、アズキは絶句するのだった。