メダロットHERMIT   作:CODE:K

30 / 103
7-4 ヴァリスノワールⅠ

 

 メダロットが自分のマスターを攻撃する悲劇が、再びアズキの前で起きてしまった。

 

「スタッグちゃん!」

「スタッグさん!」

 

 シラタマ(正体はたぶん神宮寺さん)とクワトロさんが声をあげる。

 相手を庇い、かわりにスタッグがフリーズショットを受けて氷漬けになったからだ。

 

「オーロラクイーン? ねえ、オーロラクイーン返事して?」

 

 声を震わせてシラタマは呼びかけるも、オーロラクイーンからの返事はない。

 タコスは先に倒された自分のメダロットをメダロッチで回収しながら、

 

「シラタマ! 逃げるロボ!」

「駄目、動けないロボ」

 

 シラタマは言った。

 タコスは焦りもあって怒鳴り声で、

 

「早くしろ! 怯えてる場合じゃねえ。殺されるロボ!」

「違うの。足が凍って」

 

 クワトロさん、バグスティンク、タコスがすぐ階段から三階に駆け上がり、ショックで棒立ちしてたアズキも一歩遅れながら、後を追いかけて現場を確認する。

 

 シラタマは、スタッグに庇われた際に突き飛ばされて尻もちをついたまま、その足とお尻が氷で床に貼り付けられていた。

 スタッグ自身にガード系のパーツは無いので、彼女を庇えはしても、攻撃の余波まで完全に防ぐ事は出来なかったらしい。

 

 しかも凍土のせいで、氷がしっかり床と一体化して剥がれそうにない。

 

 また、本来オーロラクイーンの両目は紫のはずだけど、いまは緑色。

 パーツの能力とは全く異質の狂気を感じさせる輝きをしており、色こそ違うけどアズキの記憶にあるギャラントレディたちがみせた深紅の瞳と同じに見える。

 

 オーロラクイーンは完全に暴走していた。

 

「座標、二か所指定。バグスティンク、A地点からB地点に向けてビーム発っ」

 

 クワトロさんの指示が途中で止まる。

 オーロラクイーンが床に冷風を放ち、凍土に反射させて小さな旋風を作ると、自ら風に乗って高く跳躍。上空からバグスティンクに粉雪を発射してきたからだ。

 

「座標修正。目標オーロラクイーン、C地点にビームで迎撃」

「いえ、そのままAに撃ちます」

 

 クワトロさんが咄嗟にビームの狙いをオーロラクイーンに変更する指示。

 

 しかしバグスティンクは指示を拒否して、最初に指定したA地点と思われるシラタマの凍った足の至近にビームを発射。

 攻撃を直接当てる事なく、ビームの熱で氷を溶かしていく。

 

 が、迎撃行動を行わなかった事で上からの粉雪、フリーズショットが防御もできずバグスティンクに直撃してしまう。

 

「バグスティンク! ごめんなさい」

 

 謝るクワトロさん。

 瞬く間にバグスティンクの体が氷に包まれていくも、

 

「平気です。マスターの剣に盾になって、彼女を助けるのはボクの仕事でフ、ンンッ、ヌぅゥゥウあアアア!」

 

 バグスティンクは気合で腕を動かし、ビームを続けてB地点と思われるシラタマのお尻周りに当てて、同じように本人を傷つけず氷だけ溶かしていく。

 何気にアズキがバグスティンクの喋る姿を見るのは初めてだった。一人称ボクは意外である。

 

「溶けたわ。バグちゃん、だから」

 

 シラタマは氷が解けるとすぐ立ち上がり、自らの無事を伝えた。

 すぐビームの先をC地点に移して迎撃に入って欲しい。おそらく、こういった想いもあったと思われる。

 

 けど、彼女の言葉に返事はなく、シラタマが立ち上がった時にはすでにバグスティンクの体は頭の先まで氷に閉じ込められていた。

 

「あっ」

 

 全身黒タイツ、サングラスまでかけてるのにシラタマの顔が真っ青に染まるのが分かった。

 

「い、いや」

 

 悲鳴をあげかけるシラタマ。けど、それより先に、

 

「シラタマ!」

 

 叫ぶタコス。シラタマの涙が引いたのを確認してから、

 

「シラタマ、無事ロボか?」

 

 改めてタコスが言った。

 シラタマはうなずき、

 

「ロボロボ団のスーツを着てて助かったロボ。ちょっと痛いだけ、十分動けるわ」

 

 どうやら、ロボロボ団のスーツは地味に高性能らしい。

 シラタマはオーロラクイーンに向かって、

 

「オーロラクイーン! どうしちゃったの? ねえ、返事して!」

 

 って、もう一度呼びかけるが相手から反応はやはり無い。

 オーロラクイーンは氷漬けのスタッグに体を向けた。

 

「だ、駄目!」

 

 スタッグが殺される!

 アズキはつい声を出すも、オーロラクイーンは躊躇わず右腕から冷風を出す。

 

「やめて!」

 

 と、アズキが叫び、氷漬けのスタッグに向かって走ろうして、

 

「先生!」

「落ち着くロボ!」

 

 クワトロさんとタコスに腕を引っ張られ、強引に止められる中、オーロラクイーンが冷風を出しっぱなしにした右腕で直接スタッグを殴りつけた。

 氷にひびが入り、亀裂が広がって、弾ける。

 

「あっ」

 

 家族の最期と同じ光景に、アズキはスタッグを助けられなかったと確信。

 けど、実際に氷の中からバラバラになって出てきたのは箒だけ。

 

 スタッグ本人は姿形を保ったまま、普通に相手のパンチをノーガードでくらった形で床に転がった。

 

『右腕パーツ、機能停止』

 

 メダロッチから通知が鳴る。確認したが、画面にエラーや変な表示は一切見られない。

 

「スタッグ、平気?」

「フリーズ攻撃二発で右腕を失っただけです。大丈夫ですアズキ」

「精神面は? エラーや暴走の凶兆も何もなさそう?」

「はい」

 

 スタッグが言ってから、

 

「あっ!」

「どうしたの? もしかして」

「いえ、その可能性もある事態だったと気づいてゾッとしただけで」

 

 ほっと安堵の息を吐くような動きの後、スタッグは続けて、

 

「改めて平気です。なにもありません」

「よかった」

 

 アズキは安心して膝から崩れる。

 未だふたりに手を引かれたままだったので、タコスとクワトロさんに体重をかける形になってしまい、

 

「あ、おいロボ!」

「ひあっ、せ、先生!?」

 

 タコスは問題なかったが、クワトロさんが巻き込まれて転んでしまった。

 

「神宮寺さん、じゃなかったですねシラタマさん。いまのうちに避難してください」

 

 スタッグがオーロラクイーン向けて左腕から電流を放つ。

 オーロラクイーンは飛び退くも、

 

「う、うん」

 

 その間にシラタマはうなずき、アズキたちのそばに合流。

 タコスは慌てて、

 

「おい! こっちじゃなくて非常口に逃げろロボ」

「あ、ごめんなさい」

 

 シラタマがぺこりと謝る。

 

「ったく、少しは冷静になれロボ」

 

 タコスは言うが、

 

「大丈夫。この子は十分冷静を保ってる」

 

 アズキは彼女を撫で、る勇気はなくて伸びかけた手を途中で止めながら、

 

「突然、自分のメダロットが暴走して、攻撃までされたのに」

「あ、あー。すまんロボ」

 

 今度はタコスが謝り、

 

「たしかに、言われてみれば逃げろと言われてすぐ動ける時点で、おまえスゲエってなるレベルだったロボ」

「ねえ。私のメダロット、どうなっちゃったの?」

 

 今にも泣きそうな顔でつぶやくシラタマ。彼女はもう、さっきからロボの語尾さえ忘れている。

 タコスが、

 

「暴走だ。たぶん」

「何か知ってるの?」

 

 横からアズキが言うと、タコスは小さく首を振って、

 

「いや、ただのドラマで知った知識だ。だが、フィクションと同じならメダロット三原則も外れてマスターの命令も一切きかなくなってるロボ」

「じゃあ、どうして私を攻撃したの? 私、あの子と喧嘩もなにもしてないのに」

 

 と、シラタマが言う。

 タコスは、

 

「分からんロボ。ドラマでもアニメでも大体マスターを攻撃してるが原因はそれぞれ異なるロボ。だが共通してメダロットの意思ではないパターンが大半ロボ」

「ぁぁっ」

 

 スタッグが小さな呻きをあげた。

 オーロラクイーンのフリーズショットを避けきれず、左足だけ凍らされたのだ。

 

 アズキたちが会話してる間、スタッグはずっとオーロラクイーンと戦闘を続けていたのである。

 

 右腕は箒を失っただけでなく格闘もできない状態のようで、ずっと使ってない。

 逆に、オーロラクイーンは暴走した事で性能が上がってるように映った。

 

 スタッグは右足だけで不安定に低空飛行し、左手から電流を放出。しかし相手の右腕から出した粉雪に相殺され、反対に左腕で殴られてしまい、

 

「きゃあああっ」

 

 痛そうな声をあげながら倒れ、全身で氷上を滑る。

 しかし、この衝撃で左足の氷が剥がれた。起き上がったスタッグは再び両足を使って空を飛び、追い打ちの粉雪を回避しながら接近して、キック。

 

 相手が腕を使ってガードしたところを、

 

「スタンスティック!」

 

 スタッグはもう一度左腕のサンダーで攻撃した。

 今回は命中し、痺れて動けなくなるオーロラクイーン。

 

 スタッグは一度距離をとって着地すると、氷で滑るのも利用して相手に全力で飛び掛かり、その頭部に膝蹴りをぶつける。

 直後、オーロラクイーンから破裂音が鳴り、

 

『頭部パーツ、機能停止』

 

 シラタマのメダロッチから通知が鳴った。

 スタッグは、ぜえぜえと人間みたいに肩で息してから、

 

「アズキ、鎮圧に成功しました」

「うん」

 

 アズキもほっと一息。

 けど、

 

『ニェット。皆気を付けてくれ。ロボトルは君たちの勝利だが、物語のログには事態がまだ終了していないと書いてあるんだ』

 

 ここで、異常事態に関わらず公平な審判を続けていたウォッカが言い、

 

『メダロット機能、強制続行。エラー発生、エラー発生』

 

 シラタマのメダロッチから続けて通知。

 頭部が半壊したままのオーロラクイーンが、スタッグの首に該当すると思われるピスケスの尻尾を掴んだ。

 

「えっ?」

 

 と、スタッグが反応する中、オーロラクイーンはそのまま零距離フリーズショット。

 瞬時に氷漬けにする。

 

「スタッグ!」

 

 アズキだけでなくみんなが驚く中、オーロラクイーンは氷漬けのスタッグを廊下の柵から出し、手を離す。

 スタッグは三階から真っすぐ一階まで落下し、床に衝突。

 

『脚部、機能停止。頭部・左腕、重度ダメージ』

 

 メダロッチからダメージを告げる通知が鳴る。

 

「暴走メダロットは普通の手段では機能停止しない」

 

 突然、この場の誰でもない第三者の声が聞こえた。

 

 さらに廊下を歩く音。

 間もなくして、三階の非常口がある方角から長い髪の女性が姿を現した。

 

 彼女の姿を見てアズキは息をのむ。

 

(黒い羽織)

 

 女性は言った。

 

「ヴァリス、やれ」

 

 メダロットが転送され、黒い塊は出現と同時にオーロラクイーン向けて銃撃を始めた。

 




サブタイトルは劇場アニメ「機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness」内のBGM「ブラックサレナⅠ」より
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。