メダロットHERMIT   作:CODE:K

31 / 103
7-5 ヴァリスノワールⅡ

 

『右腕パーツ、機能停止』

 

 黒い塊の右腕から撃たれた銃弾は、いきなりオーロラクイーンの片腕を機能停止に追い込んだ。

 そのうえ、

 

「攻撃続行」

 

 黒い羽織の女性が指示。黒い塊は引き続きオーロラクイーンの右腕狙いで執拗に射撃をぶつけ続ける。

 瞬く間に右腕パーツは破裂していき、はがれ落ちて骨格であるティンペットをさらし、その手指さえ撃ち貫かれて欠損。

 

「ひっ」

 

 あまりに徹底的すぎる攻撃を前にして、シラタマ、タコス、クワトロさんとみんなが驚き、恐怖を覚える。

 

 間違いない。

 彼女はかつてアズキの前に現れ、ギャラントレディたち暴走メダロットたちをメダルごと破壊した女性と、そのメダロットである。

 

 まさかこんな形で再会するなんて。

 

 黒い塊は、まさに全身を黒い重装甲と推進機で覆ったようなメダロットだった。

 両腕にはスラスターを兼ねた肩バインダーが搭載され、それぞれの銃は両手首を覆うように装着されている。

 

 脚部は浮遊タイプで、腰からマニピュレーターが尻尾のように伸びてるのが見えた。

 

「お、おい。そこまでする必要無いじゃないかロボ」

 

 タコスが声を震わせながら言うも、女性は冷たい眼差しで、

 

「暴走メダロットは通常の機能停止が通用しない。メダルごと完全に破壊するまで活動を続けるわ」

「め、メダルって」

 

 シラタマは引きつったような声で、

 

「そんな事したら、この子は」

「暴走したメダルは正気に戻らない」

 

 女性は断言して、

 

「ヴァリス」

 

 指示を受け、ヴァリスと呼ばれた黒い塊のメダロットは両腕の銃口をオーロラクイーンの頭部に向ける。

 アズキは叫んだ。

 

「誰か止めて! あの人は本気。本気でメダルを破壊してくる!」

 

 直後、ヴァリスは射撃を開始した。

 

「バグスティンク!」

 

 が、攻撃はオーロラクイーンに届かない。

 クワトロさんの指示と同時に、自らを閉じ込めていた氷を割ってバグスティンクが間に入り、装甲板を前に展開しながらオーロラクイーンを庇ったからだ。

 

「邪魔しないで」

 

 女性が睨みつけ、ヴァリスも両腕からの執拗な射撃を遠慮なくバグスティンクにぶつけていく。

 しかしクワトロさんは動じず、

 

「すみません。邪魔します」

 

 しかし庇った相手は暴走メダロット。

 オーロラクイーンは、バグスティンクのがら空きな背後を見るとすぐ左腕を構え、粉雪を放出する。

 

「九〇度旋回。左右にビーム!」

 

 クワトロさんの指示を受け、バグスティンクは即座に体を横に動かすとヴァリスとオーロラクイーン双方にビームを発射。

 粉雪は押し返す事に成功するも、肩にかすりながら直撃を免れたヴァリスがバグスティンクに肉薄してきて、

 

「ヴァリス。あのバグスティンクのメダルも破壊して」

 

 左の銃から弾丸を何発も撃ち込む。

 タコスが叫んだ。

 

「馬鹿ロボかお前! 相手は子供ロボ。ガキ相手に怒ってメダルまで破壊するなんて本気で言ってるロボか?」

「ロボロボ団に説教される筋合いはないわ。それに躊躇してたら暴走メダロットで死傷者が出る」

 

 女性が返事する間に、バグスティンクがよろけたところをヴァリスが腰のマニピュレーターを伸ばして首を締め上げる。

 クワトロさんは即座に指示。

 

「バグスティンク。現在位置のまま右腕でビーム」

 

 直後、バグスティンクは狙いを定めず、腕を一切動かさず即座にビームを発射。

 ビームはヴァリスの脚部に当たった。

 

 今度は相手がよろけ、マニピュレーターがバグスティンクの首から離れると、

 

「掴み、手元に引き寄せて、装甲板を一旦頭上まで戻してから再展開」

 

 バグスティンクは、マニピュレーターを引っ張りながら、装甲板を前方に展開するモーションを利用して、武器としてヴァリスの頭に叩きつけようとする。

 ヴァリスは両腕で受け止めるも、

 

『右腕・左腕、ダメージ発生』

 

 相手のメダロッチから通知が鳴る。

 

「ヴァリス。一旦退避」

 

 女性はヴァリスに指示するが、すかさずクワトロさんは、

 

「装甲板を展開したまま、十一時の方角に直進!」

「なっ」

 

 ヴァリスが離れようとした矢先、バグスティンクが装甲板を前に出したまま体当たり。シールドバッシュが決まって、相手を奥の壁に叩きつけると、

 

「装甲板を定位置に。照準、左上三二度修正。センサー、ターゲット認識完了。左ビーム発射!」

 

 ビームで追い打ち。

 ヴァリスの右腕を破壊してしまった。

 

「バグスティンク。気を抜かず、続けて体二個分ほど後退」

 

 さらにバグスティンクは真後ろに動き、背後から冷気を纏わせた左腕で殴りかかっていたオーロラクイーンさえ、背中に戻した装甲板で突き飛ばす。

 

 このまま二機ともまとめて倒してしまいそうな勢いだった。

 昔の記憶が正しければ、あの黒い塊は暴走メダロット三体を相手に完勝する異常な強さだったはずなのに。クワトロさんとバグスティンクが強すぎる。

 

「アズキ、無事ですか?」

 

 スタッグが階段で三階まで上ってきた。

 しかし脚部は完全に破壊されてティンペットが露出し、右腕は垂れ下がって動かず、左腕も頭部も破損だらけ。酷い状態である。

 

「スタッグ」

 

 アズキは、思わずスタッグを抱きしめた。

 

「ごめん、こんなボロボロな姿にさせて」

「恥ずかしいですからやめてください」

 

 スタッグは左腕でアズキを引きはがし、

 

「それより、これはどういう状況ですか? あの黒いメダロットは一体」

「前に話した、黒い羽織の女性と黒い塊」

「あれが」

 

 スタッグは驚いて、

 

「あのメダロットがアズキの前のパートナーをメダルごと破壊したのですか?」

「えっ?」

 

 タコス、シラタマ、クワトロさんの顔がアズキに向けられる。

 アズキは慌て、る余裕もなかったけど、

 

「昔、昔の話だから。小さい頃」

「まさか暴走したロボか?」

 

 タコスの質問に、

 

「うん」

 

 アズキはうなずく。

 

「そうか。悪かったな、こんなトラウマ刺激する問題に巻き込んでしまってロボ」

 

 タコスが言った。

 いま思ったけど、さっきからタコスが普通にいい人すぎる。なんでロボロボ団やってるんだろう、この人。

 

「平気、でもないけど大丈夫だから」

 

 アズキは言ってから、改めてスタッグに状況説明。

 

「とりあえず、あの人がオーロラクイーンのメダルを破壊しに現れて、いまクワトロさんが二対一で抵抗してるとこ」

「私も加勢に入ります」

 

 スタッグは言うが、すでに機能停止寸前の満身創痍な状態。

 アズキが抱きしめて止めようとするが、その前にスタッグのほうからよろけて姿勢を崩し、アズキの胸に倒れこむほど。

 

 こんな状態では、

 

「いまのスタッグじゃ無理」

「ですけど」

「そうよ」

 

 と、シラタマが言った。

 

「相手はバグスティンクのメダルも容赦なく破壊しようとしたのよ。いまのスタッグちゃんが行ったら、本当にメダル壊されちゃう」

 

 続けてクワトロさんが、

 

「スタッグさんは私たちを護ってくれませんか? メダロットは、あの二機はバグスティンクでなんとかします」

 

 直後、ヴァリスが廊下の外を飛んで床のない場所からバグスティンクの横を抜けようとするが、

 

「撃ち落として」

 

 バグスティンクがビームを発射し、相手の脚部にかすった。とはいえ、直撃ではなくても半壊には追い込んだようで相手の脚から煙があがる。

 クワトロさんが言った。

 

「柵の外に出てくれるなら好都合です。次は必ず脚部を破壊して床に落とします」

「このっ」

 

 相手は睨みながら、クワトロさんを侮らずヴァリスを廊下の上に引き返させる。

 しかし廊下の横幅では、バグスティンクの横を抜けるのは難しいようで、二機のメダロットはその場でにらみ合いを開始した。

 

「ごめんなさい。やっぱりオーロラクイーンはスタッグさんの力をお借りしてもいいですか?」

 

 クワトロさんの言葉にスタッグは、

 

「分かりました」

 

 言ってる間に、まさにオーロラクイーンが人間側に向かってフリーズショットを発射してきた。

 スタッグは咄嗟に左腕からサンダーを放出して、相手の粉雪を弾くも、続けてオーロラクイーンは左腕で直接殴りかかってくる。

 

 脚部が壊れてるせいで避けきれず、スタッグはまだ機能停止してない左腕で受け止めるしかなく、

 

『左腕パーツ、機能停止寸前』

 

 アズキのメダロッチから通知。これ以上はわずかなダメージさえ甘受できない。

 しかも、いまのスタッグは頭部に攻撃機能を持たず頭突きも難しそうなパーツなので、左腕を失ったら終わりだ。

 

「スタッグちゃん」

「大丈夫、です」

 

 スタッグはシラタマに苦しそうな声で返事し、

 

「あなたも、そろそろ正気に戻ってください!」

 

 オーロラクイーンに呼びかける。

 が、やはり相手は返事せず、むしろここで機能停止してるはずの頭部パーツを使おうとしてきた。

 

「駄目、それは駄目です!」

 

 スタッグが叫んだ。

 

「すでに破壊されてるパーツ、それも頭部パーツを強引に使ったら中のメダルに障がいが残る可能性があります!」

 

 オーロラクイーンの頭部パーツが、通常ありえないほど激しく揺れながら、攻撃用の冷気と熱暴走による蒸気を同時に発しだす。

 スタッグが指摘するまでもなく、オーロラクイーン自身が危険だとはっきり分かる。

 

「そんな!」

 

 悲痛な声でつぶやくシラタマ。

 

「スタッグ、左腕のサンダーは使える?」

 

 アズキは言った。

 まさに相手の動きを止めるなら適任の武器なのだけど、スタッグは心底悔しそうに、

 

「駄目です。冷却中で使用できません。充填時間も考えると間に合わない」

 

 と言った。そもそもサンダーが使えるなら、アズキに言われるまでもなくスタッグなら行動してるはずなのだ。

 

「バグスティンク、ビーム発射!」

 

 クワトロさんが叫び、バグスティンクがオーロラクイーンにビームを発射する。

 

 しかしビームは凝縮した熱線である。

 いま、熱暴走を起こしてるオーロラクイーンの頭部にさらに高熱をぶつけるわけにはいかないと判断したのか、攻撃は脚部に命中。

 

 足を破壊されオーロラクイーンは姿勢を崩すも倒れはせず、充填時間こそ伸びたようだけど頭部も停止しない。

 

「いや、いやああああああっ!」

 

 シラタマの悲鳴が響く。

 アズキがそんな彼女に視線を向けたとき、ふと気づいた。

 

 彼女たちが盗んだ鉱石が、また発光している。

 そういえば、オーロラクイーンが暴走したときも、この鉱石は光ってなかっただろうか。もしこの鉱石が原因だとしたら。

 

 アズキは言った。

 

「い、石!」

「え?」

「いっ、石! アレ、すぐ破壊して!」

 

 しかし、普段の対人能力が低いせいで、アズキは頭の中で分かってても、鉱石という言葉が咄嗟に出てこなく、石とかアレとか曖昧な形でしか伝えられない。

 でも、

 

「これね!」

 

 彼女は鉱石を持つ腕を振り上げると、躊躇いなく床に投げつける。

 鉱石は音を立てて砕けるのだった。

 





地面は武器にて最強
スタッグも一撃で重症になるし敵が空を飛べばクワトロも喜んで脚を狙う
7-4および7-5にて、あるTRPGの経験を小説描写に使わせていただきました

サブタイトルは劇場アニメ「機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness」内のBGM「ブラックサレナⅡ」より
前回更新では伝えられませんでしたが、6-0より登場した「黒い塊(ヴァリス)」の機体名からこのサブタイトルになってます(詳細は下記)


メダロット解説
以下の設定は小説内オリジナルとなってます

[機体名]
ヴァリスノワール
[型式番号]
不明
[性別]
N
[パーツ]
◆頭部:ディストチャージ(格闘/ハードハンマー/がむしゃら/回3)Hv
◆右腕:スラスタカノン(射撃/ショットガン/)Hv
◆左腕:バインダカノン(射撃/センクション/)Hv
◆脚部:アンカークロー(浮遊/パージ)
●HV:1/1/1 合計:3/3
[使用者]
黒羽織の女
[備考]
メダロットSに登場した他作品とのコラボ機体『KSN03 フリティラクライ』を原型とする、オリジナルメダロット。
型式番号不明。現在あらゆる点で謎のメダロットになっている。
名前の由来はフランス語で黒百合を指すリスノワール+北欧神話に登場する復讐の神ヴァーリ(ヴァリ)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。