メダロットHERMIT   作:CODE:K

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7-6 ヴァリスノワールⅢ

 

 鉱石はその場で砕けると、急速に光を失っていった。

 凍土を再現したフィールドが消えていき、伴ってオーロラクイーンの頭部パーツも充填を中断。瞳も緑から通常の紫に戻っていく。

 

「ま、すた……ぁ」

 

 正気に戻ったようで、オーロラクイーンはやっとシラタマに口を開いた。

 

「マゼンタちゃん!」

 

 シラタマは言った。サングラス越しに涙を流し、もう中のメダルがマゼンタキャットである事を隠しもできてない。

 オーロラクイーンは息絶え絶えの声で、

 

「なんて顔、して、る……のよ。任務、中、でしょ」

「だって、だってぇ」

「まったく」

 

 呆れたような、けど優しく微笑みながらオーロラクイーンは、

 

「心配、かけ」

 

 ヴァリスの撃った弾丸が、彼女の背中に命中し、頭部パーツが破裂した。

 安心しかけた矢先の出来事に、ほぼ全員の思考が停止し、唖然となる。

 

 ただアズキだけは、ショックで普段よりゆっくり流れてるように感じる時間、妙にクリアな思考の中で、ヴァリスがまだ何かを狙ってるのに気づく。

 

 はじけ飛ぶオーロラクイーンのメダル。

 ヴァリスが、これを撃ち抜こうとしてると分かった瞬間、アズキは咄嗟に手を伸ばしてメダルをキャッチ。

 

 自らの心臓の位置に押し当てた。

 

「先生!」

「アズキ!」

 

 シラタマとスタッグが声をあげる中、

 

「これで、あなたたちはメダルに手を出せないはず」

 

 アズキは言った。

 

「いまメダルを撃つには私の心臓ごと狙うしかできないはず。でもメダロット三原則で、メダロットは人間に攻撃できない、よね?」

 

 足が震える。自分で自分のしてる事、やってる事が正直信じられない。

 だって、もし間違ってたら自分は心臓を貫かれて、終わってしまうという話だから。

 

「そのメダルを渡せ」

 

 黒羽織の女性が、怒鳴るのを抑えた声で言った。

 アズキは、

 

「渡せない」

「そのメダルはすでに暴走してる。もう、破壊するしかないわ」

「さっき正気に戻った。さっき喋りかけてたの聞こえたでしょ?」

「正気だったとは限らないわ」

 

 たしかに。

 ギャラントレディも暴走したままアズキに恨みを口にしたので、言葉を発したから暴走が収まったとは言えないのは知ってる。

 

 でも、今回は間違いなくオーロラクイーンは正気に戻っていたと断言できるし、仮に暴走したままだとしても。

 

「それでも、メダルは破壊させない」

「ヴァリス。あの女を撃て」

「ひぃっ」

 

 ごめんなさい、許してください、やっぱり命は奪わないで。

 アズキは恐怖で全身を震わせた。

 

 しかし、ヴァリスは女性の命令に応答しない。

 

「撃って、ヴァリス! これはメダロット三原則に該当しないわ!」

 

 でも、やはりヴァリスは撃とうとしない。

 アズキは怯えたままの声で言った。

 

「す、スタッグ。サンダー攻撃であの人のメダロッチを破壊、できる?」

「え?」

「元々、今回の左腕はそのためのパーツだったから」

 

 実際に換装した時も、ロボロボ団をサンダーで直接攻撃しろと伝えてはいた。

 今回アズキは最初からメダロッチを直接狙うというタブー中のタブーを視野に入れていたのだ。

 

「大丈夫。これはメダロット三原則に該当しない。た、たぶん」

「分かりました」

 

 うなずくスタッグ。

 

「ヴァリス。目標、あのボロボロに変更」

 

 黒羽織の女性の指示を受けて、ヴァリスは銃口をスタッグに向けるが、

 

「スタッグさん。バグスティンクの後ろに乗ってください。装甲板、前に展開!」

 

 クワトロさんが言った。

 バグスティンクが背中の装甲板を前に出して盾にすると、ちょうどスタッグ程度なら乗れてしまうだけのスペースが出来上がる。

 

「ありがとうございます」

 

 スタッグが背中に乗り、敵の銃口から身を隠すと、

 

「フォッ、スタッグちゃんがボクの背中に」

 

 いま、バグスティンクがすごく変な反応を見せた気が。

 

「バグスティンク、無駄口終了。発進!」

 

 クワトロさんの指示でバグスティンクがスタッグを乗せたまま動き出す。

 

「ヴァリス、撃て!」

 

 相手の銃撃がバグスティンクを襲う。

 しかも、撃たれるうちに装甲板が不自然に削れていくのを見て、

 

「クワトロさん、これって」

「メルト症状? なんで」

 

 メダロッチを確認し、驚くクワトロさん。

 タコスが言った。

 

「分かったロボ。あいつの左腕パーツはただの銃撃じゃない。センクションだロボ」

「センクション?」

 

 アズキが聞き返すと、

 

「冷却中や背中を向いた相手に高い威力を発揮する射撃攻撃だロボ。だがもうひとつ、あの武器にはランダムでマイナス症状を与える厄介な能力が備わってるロボ」

 

 さらに今度は、ヴァリスの腰からマニピュレーターが伸びて、バグスティンクの装甲板を押さえつける。

 バグスティンクの移動速度が低下したのを見て、

 

「今度はホールド症状」

 

 クワトロさんが顔を歪める。

 バグスティンクが吼えた。

 

「ぼ、ボクは負けない! みんなを、オーロラクイーンさんを、スタッグちゃんを護るんだァァッ!」

 

 普段話さないから分からなかったけど、バグスティンクってどんな性格なのだろう。何となく社交能力の面でアズキと話が合う気がする。

 クワトロさんが言った。

 

「スタッグさん。このままバグスティンクで体当たりをしかけます。私が装甲板を背に戻す指示をしたら」

「バグスティンクに足止めを任せて、相手メダロッターの下に向かえばいいのですね。わかりました」

 

 うなずくスタッグ。

 間もなくして、宣言通りにヴァリスとバグスティンクは正面衝突し、

 

「装甲板を元の位置に。バグスティンク、相手メダロットの左腕を掴んで! スタッグさんを撃たせないように」

 

 スタッグが味方の背中から飛び降りる。

 同時にバグスティンクは装甲板を背中に戻し、両腕でヴァリスの左腕と肩に掴みかかった。

 

「ヴァリス、奴を撃て」

 

 しかしヴァリスは腕を掴まれ、銃口をどちらのメダロットにも向けられない。

 おかげでスタッグは相手メダロットの横を通り抜ける事ができた。

 

「ヴァリス!」

 

 苛々を隠しきれず、女性は叫ぶ。

 クワトロさんは、

 

「相手の腕を掴んだままビームは発射可能ですか?」

「む、無理です! 撃とうとしたら振りほどかれる!」

 

 バグスティンクの返事を前にして、

 

「分かりました」

 

 直後、バグスティンクの体を黄緑色の光が包み始めた。

 

「えっ」

 

 相手メダロッターの下に向かっていたスタッグが、思わず後ろを向いて驚く。

 光の正体は、普段スタッグがチャージ行動する際に脚部から放出されるフォースと同じだと分かった。けど、いまのバグスティンクが出す量はその比じゃない。

 

 タコスが愕然とした顔で、

 

「おいおい、小学生がアレ使えるロボかよ」

「アレ?」

 

 アズキが言うと、

 

「知らないのかよ。アレはだなロボ」

 

 タコスが説明するより先に、光は一気に膨れ上がって、

 

「ロックラッシャー!」

 

 破裂。波状の衝撃波となって一帯に広がったと思うと、一瞬のうちにヴァリスの左腕パーツが消し飛んだ。

 アズキが腕で顔を庇う暇さえなく、気づいた時には黄緑色の光はもうどこにもない。

 

 タコスは言った。

 

「メダフォース。その名の通り、メダルに蓄積されたフォースを使ったメダロットの必殺技だロボ」

「メダロットの必殺技?」

 

 アズキは思った。

 

(あの攻撃、逃げ場がない)

 

 使われたら最後、避ける事もできず、どんな防御も意味も成さず、絶対に何かを破壊される。そういう技なのだとアズキは何となく理解する。

 使い手がバグスティンクで、味方で助かった。もし使ったのがヴァリスだったら、アズキはメダルを護りきれなかったに違いない。

 

 しかし、

 

「ヴァリス、頭部パーツ使用!」

 

 突然、ヴァリスを囲むように薄く透明なバリアの膜が生まれた。

 バリアの表面は空間を歪めて、一瞬でバグスティンクの両肘をティンペットごと千切ってしまう。

 

『右腕パーツ機能停止、左腕パーツ機能停止、ティンペットに損傷あり』

 

 クワトロさんのメダロッチに通知が入った。

 さらにヴァリスがそのまま体ごとバリアの膜を押し付けるように動くと、バグスティンクの装甲が次々に破壊され、剥がれていく。

 

 忘れていた。

 記憶が正しければ黒い塊の攻撃手段は両腕の銃だけではない。真正面から暴走メダロットを一気に破壊するほどの強烈な体当たりも使っていたのだ。

 

「なに、あれ?」

 

 絶望的な光景にシラタマが声を震わせる。

 

 しかし、バグスティンクのマスターであるクワトロさん自身は嘆かない。

 自分のメダロットと一緒に踏ん張って、敵に真正面から抵抗する意思を見せ続けた。

 

「ヴァリス。敵のメダルごと擂りつぶ」

 

 黒羽織の女性は言いかけるも、

 

「グ、うぅぅっ」

 

 直後、苦痛の呻きに変わった。

 スタッグが左腕の電流で直接メダロッターに攻撃したのだ。

 

 しかしメダロッチには当たってない。

 咄嗟に女性が右腕でスタッグの攻撃を防御したからであり、しかも人間の身でメダロットの電撃を受けながら相手は倒れる事なく、

 

「何故、攻撃できるのよ。メダロット三原則はどうしたの」

「あなたこそ、普通は電撃を浴びながらまともに喋るなんてできないはず」

 

 互いに相手の行動を驚き、疑問を口にする。

 女性は叫ぶ。

 

「答えろ! 普通は事故だろうと人間を攻撃できないはずよ」

「分かりません」

 

 言いながらスタッグは自ら動かない右腕を壊し、強引にティンペットから引っこ抜き、

 

「ですけど、アズキを護るためにあなたのメダロッチを破壊する事は私の三原則では違反になりません」

 

 左腕で投げつけた。

 今度こそ相手のメダロッチに当たり、破裂音が鳴って故障する。

 

 マスターとの通信が切れた事に気づいたのだろう。

 ヴァリスはすぐ反応して、その場で浮かび上がってバグスティンクを蹴飛ばし、回れ右してマスターの下に向かい、壊れた両腕で抱きかかえた。

 

 そのままヴァリスが撤退しようとしたのを、

 

「待って」

 

 スタッグが呼び止める。

 

「あなたは誰なんですか? こちらにも、名前を知る権利はあるはずです」

「木之本ミケ。それとヴァリスノワールよ」

 

 女性は名乗った。

 ヴァリスノワールというのが、ヴァリスのフルネームなのだろう。

 

「逆に、あなたたちの名前は?」

「TMZエージェント所属のスタッグです。マスターの名前は紅下アズキ」

 

 スタッグは律儀に所属からアズキの名前までしっかりと伝えてしまう。

 

「ならスタッグ、私はお前を暫定暴走メダロットと認定する」

「え?」

「私は全ての暴走メダロットに復讐する。意思があっても人間を攻撃できるお前は暴走の傾向があると判断できる。今度会ったら必ず狩るわ」

 

 ミケといった女性と、ヴァリスという黒い塊のメダロットは非常口に向かってこの場を後にする。

 

「た、助かった」

 

 緊張から解放されたアズキは、今度こそ膝から崩れてその場に情けなく倒れこんだ。

 キャットメダルによく似た、初めて見るメダルが床に転がった。

 





サブタイトルは劇場アニメ「機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness」内のBGM「ブラックサレナⅢ」より
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