「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃ」
『駄目です』
今日も
学校での授業を終え、放課後の時間帯だ。
「でもでもだって」
アズキは虚ろな瞳で前方の建物を見上げる。
人間の背より高い外門。四方から敷地を囲む石塀に、内側から伸びた高い植木。さらに奥から覗く立派な日本家屋。
「神宮寺さんのお家が、ここまでの豪邸なんて知らなかったという話だから」
というのも、現在アズキは家庭訪問という名目で神宮寺さんの家にお邪魔しようとしているのだ。
本当の目的は博物館で行った取り調べの続き。つまり教師としてではなくTMZとしてお邪魔するわけで、この話はすでに神宮寺さんにも伝わってる。
『そんなのクワトロさんの件で分かってたでしょう』
スタッグが言った。
アズキが「え?」て反応すると、
『彼女を住み込みのメイド待遇で雇う家ですよ? 一般家庭とはスケールが違いすぎるのは当たり前じゃないですか』
そうだった。
彼女は元々孤児院暮らしだったけど、同じ孤児院で暮らしてた御萩ユスグが行方不明になった事で神宮寺さんが住み込みのメイド待遇で雇う形で保護したのだ。
孤児院の職員であるラエド・ビーラさんからの証言である。
ここで隣のキクナが、
「大丈夫ですよ。今回は僕も一緒ですからサポートくらいはできます」
「うん」
アズキは頷き、
「キクナも来てくれる理由付けができたのは、正直すごく助かってる」
潜入先の小学校では、基本的に六年生の家庭訪問は存在しない。
クラス自体が五年生の時と同じで、担任も前年度と同じ教師が就くのが基本。アズキの立場が異例なだけで、本来なら去年済ませてあるので必要ないのだ。
なのでキクナが過去の事例を漁った結果、過去に一件ほど問題ある生徒の家に学年主任同伴で向かったという記録が確認された。
行方不明事件の誤解のせいで神宮寺さんが校内では問題児扱いなのは間違いない。結果的に学年主任同伴で時期外れの家庭訪問を行う許可が出されたのだった。
「それよりも、ロボロボ団が待ち構えている可能性を警戒したほうがいいのではないですか?」
と言ってきたキクナに、
「まさにその件だけど、キクナはこの情報どう考える?」
アズキは一枚の資料を鞄から出して渡した。記載されてるのは生徒たちの住所。
キクナはつぶやく。
「モッチーズの住所が全員同じですね」
そう。
クワトロさんだけでなく、赤城くんまでふたりと同じ住所である事が判明したのだ。
「この情報だけ考えると神宮寺さんの屋敷自体がロボロボ団のアジトで、モッチーズも全員ロボロボ団だと疑えますけど」
キクナは言いつつ、不審な点を感じてるのはアズキと同じらしい。
「どちらもロボロボ団が襲撃してきた時はアズキさんに味方したそうですね」
「うん。クワトロさんに至っては相手が神宮寺さんと分かったうえで。それに、赤城くんも博物館の日からちょっと様子が」
神宮寺さんに対して、冷たい態度を取り続けてるのだ。
「モッチーズでさえ、あの事件まで神宮寺さんがロボロボ団だと知らなかったという事なのかな?」
だとしたら赤城くんの態度は納得できるのだけど。
彼は趣味からして勧善懲悪が好きそうだし、友人が悪の組織側と判明すればこういった反応もありえる。
ただ反面、赤城くんが神宮寺さんと住所が同じ理由は未だ情報が皆無。
情けない話だけど、家庭訪問を神宮寺さんと接触する手段に使おうってなるまで全く気づきもしなかったのだ。
「まあ、とはいえまずは突入しないと何も始まらなそうですね。敷地の外から攻撃する意思はなさそうですし」
と、キクナはいった。
「何が起きるか分かりませんから、警戒は怠らないでください」
「うん」
アズキが頷くと、さらにメダロッチからスタッグが、
『そうですね。クワトロさんがメイド服で現れても変な気を起こさないよう気をしっかり持ってください』
「いや、さすがに襲わないから」
『頭が沸騰してもう無理とか言って逃げるのも駄目ですよ』
「えっ?」
そっちは自信ない。
「ふたりとも、押しますよ」
キクナはインターホンを押した。
直後、
『はい。どちら様でしょうか?』
「すみません、神宮寺シルコさんの家庭訪問で伺いました。学年主任の通杭キクナと担任の紅下アズキといいます」
『話はお伺いしております。少々お待ちください』
応対に出たのは知らない女性の声だった。
程なくすると外門が開き、中年層と思われるメイドさんが姿を現す。服装からおそらく神宮寺さんの母親である可能性は低そうだ。
「お待たせいたしました。どうぞ中にお入りください」
メイドはぺこりとお辞儀。
若くないとはいえ初めて見るリアルメイドにアズキは動揺しながら、キクナの後ろに続く形で「お邪魔します」と門を潜る。
直後、視界に飛び込んだのは立派な日本庭園だった。
小さいながら鯉の泳ぐ池があり、整備された庭石や草木が配置されている。奥のお屋敷からも庭園をじっくり眺めるための広々とした縁側が確認できた。
「え、待って、すごすぎる」
アズキが呟く中、メイドは玄関の扉を開けて、
「中でお嬢様がお待ちです」
と、中に入るように促してきた。
アズキは腰を低くしながら、キクナと一緒に通ると、
「ようこそ。お越しいただきありがとうございます」
過去最大級に予想外な事態が発生した。
「……。…………えっ?」
アズキは思わず思考が停止。
待ち構えていたのはふたりのメイド。ひとりはクワトロさん。
そこまではいい。
事前に知ってはいたし、直前にスタッグから事態の深刻さを伝えられていたので覚悟していた。
問題は隣で一緒に丁重なお辞儀を披露していたのが、
赤城フクカゼくんだった事だ。
(え、まって、どういうこと?)
そのうえ、外門で出迎えてくれたメイドは健全でオーソドックスなエプロンドレス。
対してふたりは、よりによってコルセット付きで、さらに上乳の露出したセクシー路線のメイド服だったのだ。
直立しても胸の膨らみが強調されてるのに、頭を下げれば谷間が丸見えである。
で、赤城くんは頭を上げてアズキたちを認識すると、
「って、げっ! うわっ! 先生!?」
なんて慌てふためく。
「おい、クー! どういう事だよこれは」
赤城くんがクワトロさんに怒鳴りつけると、クワトロさんは一見いまにも泣きそうに慌てながら、
「ですから、大事なお客様が訪問されたと」
「大事な客って紅下先生と通杭先生じゃねーか!」
「嘘は言ってません」
クワトロさんは表面上おずおずと、
「エッチな服が好きそうな方が、今後のお嬢様の身に関わる大事な家庭訪問でいらっしゃったから我慢して恥ずかしい服着て機嫌をとってくださいって」
「少なくとも家庭訪問って初耳だし、こんな格好で機嫌取る必要ある相手じゃねーだろうが!」
赤城くんは鬼気迫る顔でクワトロさんの肩を掴んで揺らし、
「クー? おい、クー。オレ、学校関係者の前では執事服で通すって言ったよな? ちゃんと書類で契約までしたって言ったよな?」
「ですけど」
逆にクワトロさんは赤城くんの肩を掴み返すと、実は体力測定で赤城くんより高い事が確定した腕力でアズキの正面に彼(?)を強引に立たせて、
「先生も嬉しいですよね?」
「え、えと、その」
今まで疑問に思ってたせいで、アズキはつい舐め回すように見てしまう。
結果、アズキは気づいてしまった。
胸がある。
クワトロさんのような猥褻レベルではないけど、神宮寺さんや男子生徒の胸板とは違う女性の膨らみが間違いなく確認できたのだ。
「赤城くん、いや、赤城
アズキが言い直すと、
「うわーバレたぁあああああ」
って赤城くんが悲鳴をあげるも、そんな大声をかき消すように、
「せんせぇーーーーーーーーーっ!」
奥から神宮寺さんが走ってきて、アズキに飛びついてきた。
サブタイトルは遊☆戯☆王ZEXALの第二OP曲「BRAVING!」より