「わわっ」
さすがに今回の不意打ちは対処できず、アズキは彼女を抱きかかえながらも背中から床に倒れる。
が、神宮寺さんはそのままアズキにしがみついて、
「わーい、先生ほんとーに来てくれた」
「おい、お嬢」
赤城さんが睨みつける。ただし彼女をどかしてくれるって様子ではなく、
「どうして先生が来るって教えてくれなかったんだよ」
「え? 先にクーちゃんに伝えたらかわりに教えてくれるって」
神宮寺さんが言い、再び赤城さんが睨む先を変えるとクワトロさんがにこりと笑った。
やり取りを聞いてる限りやっぱりこの子酷い。
「それに、最近のフクずっと怒ってるもの」
「当たり前だろ。ロボロボ団にはずっと楽しみにしてたイベントを邪魔された恨みがあるんだ!」
神宮寺さんの言葉に、赤城さんが言い返す。
「しかもオレはずっと悪の手先にリーダーとかお嬢様とか言い続けてたのかよ。オレは悪党になったつもりは無ぇっ!」
「フク様!」
ここで赤城さんを叱ったのは外門で出迎えた中年のメイド。けど赤城さんは、
「黙ってくれ。このままだと姉さんに合わせる顔だって」
「そのマイカゼ様の代弁として言っているのです」
「うっ」
押し黙る赤城さん。
完全にアズキたちを置き去りに、しかも情報の面でもアズキの与り知らないところで話が繰り広げられている。
ただしキクナは、
「マイカゼ? もしかして」
と、呟く。
「なにか知ってるの?」
アズキは確認するけど、
「いえ、まだ確定するには情報が足りなすぎますから」
キクナはこう言って推測を明かさない。
一方あちらサイドでは、
「って、それよりフク。先生の前でメイド服なんて着ちゃって大丈夫なの?」
「それも全部クーの策略だコノヤロウ!」
神宮寺さんの疑問に赤城さんがさらに吼え、そそくさとクワトロさんが退散した事で最早しっちゃかめっちゃか。
中年のメイドが言った。
「とりあえずお嬢様、お客様が押し倒されたままですので離れたほうがよろしいのでは」
「え、あ。ごめんなさい先生」
神宮寺さんがやっとアズキを解放する。ここで気づいたけど、彼女は普段学校では見ないお嬢様然とした赤いワンピースのドレス姿だった。
メイドは続けて、
「お嬢様は先に客間に向かってください。我々も落ち着き次第お客様を客間にご案内しますので」
「分かったわ」
「ってお嬢様、もう少しお淑やかに」
メイドの言葉は届かず、神宮寺さんはお転婆に子供らしく走ってこの場を去る。
「まったくもう」
と、メイドは頭を片手で抱えてから、
「お見苦しい姿を見せて申し訳ありません。キクナ様」
「僕を知ってるという事は、やはりマイカゼというのは」
「はい。ご推測の通りです」
メイドは言った。
「田村崎マイカゼ。こちらにいらっしゃるフクカゼ様のお姉さまになります」
「は、え?」
アズキは目を丸くした。
田村崎といったら、アズキたちが所属するTMZの親分じゃないか。
「って事は、赤城さんも本当は田村崎の人間という話?」
「まあな」
赤城さんは肯定した。
「元々神宮寺家には社会勉強のためにお世話になってたんだ。元々オレを担当してたメイドも来るっていうから親子って事にして苗字も借りて、あと性別も偽って」
「改めまして、赤城ボウショウといいます」
と、メイドが頭を下げて名乗った。
「そういえば田村崎は代々女性しか生まれない一族だそうですね」
キクナは言う。
「遺伝子の異常か末代まで続く呪いなのか真相かは不明ですけど、性別を偽ったのもここが理由ですか?」
「ああ」
赤城さんはうなずく。いや、もう本名が判明した以上は田村崎さんと替えたほうがいいのかもしれないけど。
というか。
「えっとキクナ? そういえば、当たり前に田村崎の内部事情とかマイカゼさんをご存知みたいだけど。そこについて理由って聞いてもいいの?」
「僕の母、ブルー博士は一応あの年齢ですでに才能溢れた変態の巣窟TMZでエージェントの指揮権を任された方ですよ? 何もコネが無いと思いましたか?」
「え?」
「祖母の時代から僕の家は田村崎の本家とプライベートで付き合いがあったんです。そういう僕も母の異変まではマイカゼさんと付き合いがありましたし」
「ひえっ」
アズキは驚きより先に恐怖が全身を襲った。
「彼女に妹がいる事も知ってましたし、赤城さんを疑ってはいたのですけど推測どころか妄想のレベルに近い段階でしたから、ごめんなさいですよ」
と、キクナは自力で事実に辿り着きかけてはいた事を謝った。
まあ、まず現状の情報整理だ。
赤城さんの正体は田村崎フクカゼさん。
TMZ社が属する創業者一族の娘さんで、神宮寺家には社会勉強のためにやってきた。
この時、本来彼女のメイドであった赤城ボウショウさんが同行する事になったので、苗字を借りて親子であると関係を偽装。
さらに田村崎一族の特性を逆手に取り、本来生まれない男子に性別も偽る事で今日まで家との関係を完全に隠蔽する事に成功した。
また、
キクナの家は祖母の時代から田村崎一族と付き合いがあり、キクナ自身もブルー博士の異変まで赤城さんの実姉マイカゼさんと交流があったらしい。
「これって、ぺらぺら喋って大丈夫な内容だったの?」
主に情報漏洩という意味で。
アズキがメダロッチに視線を向けるとスタッグが、
『大丈夫のようですよ。敷地内には無断の盗聴を遮断する妨害電波が発生してますから、こちらから故意にスピーカーモードで通信を繋ぎさえしなければ』
「そっか」
アズキがほっとしてると、
「でだ。ちょっと先生に頼みがあるんだけどさ」
赤城さんがいった。
「そんな流れであいつのメイドになったら、そこは悪の手先ロボロボ団だったわけじゃん。リーダーの目的とこの屋敷の真意、聞き出してくれないかな?」
「うん、わかった」
アズキはうなずいた。
信用したくてたまらないのに、現在情や想い以外に信じる材料がなくて辛い。
赤城さんの顔がそう訴えてるのがすごく伝わったから。
「では客間にご案内します」
ボウショウさんが言った。
と、ここまでなら単なる致命傷で済んだのだ。
客間に案内する最中、ボウショウさんがすまなそうに、
「本当なら今日もフク様の事情は伝えない予定だったのですけど、そうも言ってられない問題が起きまして」
「問題?」
アズキが返すと、
「木之本ミケにお会いしたのですよね?」
と、先日アズキたちと三つ巴の戦いをした黒羽織の女の名前を出してきたのだ。
「しかも暴走メダロットの復讐者として現れ、マゼンタ様を助けようとしたアズキ様にも平気で銃口を向けたと」
アズキは小さく頷いてから、
「え、もしかして知り合い?」
「はい」
ボウショウさんは言った。
「名前だけの在籍ですけど、かつて私は息子がリーダーを務めるメダロットチームの監督をしてました。ミケさんはそのチームのメンバーでして」
「息子さんは、いま」
アズキの問いに、ボウショウさんは首を横に振り、
「息子の赤城ガイ、加賀岬イガさん、蒼龍アマミさん、飛龍ロックサワーさん。みんな暴走メダロットにやられて」
ボウショウさんは頬に一粒の涙を流しながら、
「ミケさんと、その場にいなかった私だけが生存者です」
アズキは何も言えなかった。
おそらくキクナも。
「ですから彼女は、もし私を見たら裏切者か仲間を見捨てた女として攻撃を仕掛けてくるかもしれません。無断で赤城の名を使ったフク様にも。ですから」
「護ります。私にも組織の束縛があるから、いつでもと断言はできませんけど」
アズキは言った。
全力で助けたい想いと、自信の無さと、組織に所属する不自由さで悩んだ瞬間、口から勝手に出た言葉だった。
「ありがとうございます」
ボウショウさんは言った。
とはいえ、ここで黒羽織の女まで関わってきた結果、まだ目的を済ませる前だと言うのにアズキの頭の許容量は致命傷超えてご臨終だった。
空母
空母の母と呼ばれた史実の軍艦であり、彼女を母とするならその子供である空母赤城・加賀・蒼龍・飛龍に戦争で先立たれ、ひとり無傷で終戦を迎えた。
後にアズキは、このウンチクを思い出してはボウショウさんと重ねて再びメンタルがワンパンされる事をまだ知らない。
[メダロットチームメンバーの設定(ミケ以外)]
・赤城ガイ
由来は空母赤城+赤貝+機動戦艦ナデシコの登場人物ダイゴウジ・ガイ
原作では第三話で死亡した
メダロットチームのリーダーだったらしい
・加賀岬イガ
由来は空母加賀をモチーフにした艦これキャラクター加賀の楽曲「加賀岬」+毬栗+鳥人戦隊ジェットマンのキャラクター「結城凱」
原作では再終話で「ああ、空が目に沁みやがる……綺麗な空だ」した
・蒼龍アマミ
由来は空母蒼龍+甘味+魔法少女まどか☆マギカの登場人物「巴マミ」より
原作では第三話で死亡した
爆乳設定で蒼乳と呼ばれてたらしい
・飛龍ロックサワー
由来は空母飛龍+酒の飲み方(ロック+サワー)+Angel Beats!の登場人物「岩沢」より
原作では第三話で消滅した
・赤城ボウショウ
由来は空母鳳翔+芒硝(生薬)
史実では空母鳳翔は日本空母の母と呼ばれ、子も同然の空母赤城・加賀・蒼龍・飛龍・瑞鶴・翔鶴に先立たれ、ひとり無傷で終戦を迎えた
既婚者で旧姓は龍飛。これも空母鳳翔の当時に与えられた名前である
メダロットチームの監督だったらしい
赤城ガイの実母であり、息子に先立たれた後、遺品であるヤマジローというメダロットを使っている
また、フクカゼの姓を偽装するために自身の赤城姓を貸し出した