メダロットHERMIT   作:CODE:K

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8-3 BRAVING!3

 

「あ、先生やっときたー」

 

 客間に到着した。

 

 襖を開けて中に入ると、今か今かと待ちわびていた神宮寺さんがやはりアズキに抱き着いてきた。

 しかも、最初に入ったのはキクナだというのに一歩目から完全にアズキ狙い。

 

「わ、とと」

 

 今回はちゃんと受け止めると、隣でキクナが、

 

「そういえば、神宮寺さんはいつも先生に抱き着いてますけど、これもクワトロさんの指示ですか?」

「そうですけど?」

 

 神宮寺さんは即答。

 つまり新手の色仕掛けだったのか。アズキが内心ショックを受けてると、

 

「クーちゃんがね、紅下先生はスキンシップとジソンシン(自尊心)っていうのが弱いから、好意は態度で示さないと伝わらないって」

 

 って神宮寺さんは続ける。

 アズキがほっとしてるとキクナがくすりと笑い、

 

「よかったですね。まあクワトロさんはアズキさんを味方につけるための作戦なのでしょうけど」

「え、うん、いや、うん」

 

 アズキがしどろもどろに返事するとスタッグまで、

 

『よかったですねアズキ。神宮寺さんの好意はきっとライクのほうですから』

 

 って釘を刺してくる。

 神宮寺さんはきょとんとして、

 

「ライクのほう? 他には何があるの?」

「そ、それはそうとして」

 

 アズキは話題を変えようと思って言った。

 が、続く言葉が咄嗟に浮かばず、まずは周囲を眺める。

 

 部屋は和室のようだった。

 が、座布団は見当たらず、かわりに座り心地の良さそうなソファにテーブルが設置された和洋折衷の空間に仕上がっている。

 

「とりあえず座りましょうか」

 

 キクナが言った。ここで神宮寺さんに席を案内され、促されるままアズキたちはソファに座る。

 

 テーブルに人数分のお茶はすでに用意されていた。

 氷の入った冷たい緑茶で、キクナは一口飲んでから、

 

「改めて、僕たちの本職はTMZ社所属のエージェントになります」

 

 って言う。

 

「今日、僕たちが神宮寺さんと接触した理由は伝わってますよね?」

 

「あ、そうだったわ」

 

 神宮寺さんは慌てて、

 

「ごめんなさい。まだ鉱石の仕組みとかメダロット暴走のメカニズムの解析が完了してないのよ」

 

 と謝った。

 

「いや、そこも後のついでに確認する内容ではあったけど」

 

 アズキは改めて会話に混ざって、

 

「タコスの動機はすでに確認したけど、神宮寺さんがロボロボ団に入った動機とか実際の活動内容とかまだ聴取してなかったでしょ。それで」

「あっ」

 

 神宮寺さんが気づいて驚く。

 横からキクナが、

 

「教えていただけますか? 僕たちが時間を置いたのも、この場所がロボロボ団のアジトのひとつと仮定して対策するためでもあります。事と次第によっては」

「みんなの無事は約束して?」

 

 神宮寺さんが険しい顔で言った。

 キクナが、

 

「みんなとは?」

「この家の使用人、シェフ、庭師たち全員よ。この家でロボロボ団と関係があるのは私と今日は不在のパパママ三人だけだもの」

「今日、家庭訪問があるのにそのロボロボ団関係者である両親が不在な理由は?」

「家庭訪問が突然の決定で予定が開けられなかったの。大半はボウショウ、フク、クーちゃんの三人で何とかなるなら私も任せちゃって」

 

 神宮寺さんは完全に事態を想定してなかったらしい。一応、家庭訪問を伝えるときにもTMZの名を出してたはずなのに。

 

「今日の家庭訪問が教師ではなくTMZとしてくる事をご両親は」

「一応、知ってたはずだけど」

「となると上手い事逃げられた、が事実みたいですね」

 

 キクナの推測にアズキが、

 

「え、娘をひとり置いて?」

「表の立場上酷い事はできないと推測したのでしょう。実際にここでセレクトに通報したり、脅迫で笑顔を奪ったらクラスはどうなりますか?」

「うわ、ぁぁっ」

 

 元々やる気はなかったけど、万一やったら絶対ろくな事にならない。

 アズキのクラスは生徒が一丸となって病んでるようなものだし。

 

「うぅっ、ママならやりそう」

 

 と当の娘ご本人が「ごめんなさい」したのだから、たぶんキクナの推測は全部正解とみていいだろう。

 改めてアズキとキクナが、

 

「とりあえず危害は加えない。約束するから」

「素直に聴取の協力をしてくださるのなら、僕たちも強硬手段に出るメリットはありませんから」

 

 伝えると、神宮寺さんは素直に信じてくれたようで、

 

「ありがとうございます」

 

 と、話し始めた。

 

「先生はバ〇キンマンって好きですか?」

「え?」

「他にもロケット団のムサシとコジロウ、ドロンジョ様、フック船長やジュラル星人もいるわね。ああいうコミカルな悪役って、出ると物語に華を添えますよね」

 

 神宮寺さんは言った。

 

「私、みんなの人生にとって素敵なアトラクションみたいな悪役になりたいの」

「でも、悪役なんだから怖かったり迷惑をたくさんかけたりも」

「そんなの、いちいち気にしてられないわ」

 

 と神宮寺さんは一度爆弾発言を投下してから、

 

「あ、困らせたり怯えさせたいって言ってるわけじゃないの。むしろ誰かのお仕事を致命的に邪魔したり、誰かのトラウマになる事は絶対に避けるべきだわ」

「悪役だからは関係なく、単純に心配しすぎたら何もできない。そういう事ですか?」

 

 キクナの言葉に、

 

「そう、それ! それです!」

 

 神宮寺さんが何度もうなずく。

 便乗して嘘ついてる様子は見られない。本当に自分の真意が伝わって心の底から安心し喜んでるのが態度から伝わる。

 

「理想に近いのは、タコスの報告にあったイベントの妨害ですね。なんだロボロボ団かって会場のみんなが全力で攻撃したそうじゃない。私も参加したかったわ」

「赤城くん、じゃなくて赤城さんはイベントを台無しにされたって言ってたけど」

 

 アズキが言うと、

 

「目的が違ったもの。あれは事前にステージイベントを潰さないと大変な事になるから行った事でしょ。そうじゃなくって」

 

 神宮寺さんは立ち上がると、その場で大きく腕を広げていった。

 

「大々的に会場をジャックしたのに、人質全員に舐められて逆に袋叩きの返り討ちにされて、覚えてろロボーって逃げるの。とても面白そうじゃないですか?」

「えっと楽しいのは神宮寺さんだけで、少なくとも他のロボロボ団は悔しい思いをするんじゃ」

「ロボロボ団だもの、みんな慣れてるわよ」

「えぇ」

 

 アズキは困惑。

 

「それにロボロボ団も一瞬だけはこの世の全てを手に入れた気分になれるし、みんなも遠慮なく日頃の鬱憤を晴らせてウィンウィンじゃないかしら?」

「そう、なのかな?」

 

 正直アズキは返事に困る。

 でも、

 

「私のスタンスは学校でもロボロボ団でも変わりません」

 

 ここで神宮寺さんは座り直して言うのだ。

 

「私は、楽しいことが好きなの。みんな楽しいのが一番いいの。だからロボロボ団も被害者も私も誰ひとりだって欠かさず笑顔にしたいだけ」

 

 神宮寺さんは、一度お茶を飲んでクールダウンしてから、

 

「家の事情もあるけど、私にとって夢を実現するのに一番適任だった場所がロボロボ団だったんです」

 

 ああ、そうだった。

 気づけばアズキも、当時彼女の真っすぐな言葉を前にして、モッチーズを信じようと思った側だったのだ。

 

 彼女の方法はともかく立派な夢と、すでに目的に向かって足を進める姿に魅力を感じたアズキは、今回もまた絆される。

 

「うーん、なんかやり辛いですね」

 

 キクナが言った。

 

「内容は困惑するようなものばかりなのに、目が真剣に輝いてて嘘をついてないのが分かるのですよ。その事実に僕自身が疑いと困惑を覚えてしまって」

『いやぁ、マスターは本当に光属性・善人族の人格破綻者相手は苦手ですからねぇ』

 

 キクナのメダロッチから声が鳴った。

 あのねちっこさから、中身はオフィニクスのユディトだろう。しかし、破綻者扱いは失礼すぎないだろうか。

 

 とはいえ、アズキは完全に絆されて聴取終了も考えてしまった中、

 

「では、その家の事情というのも教えていただけますか?」

 

 キクナはちゃんと聞き逃してはいけない部分を指摘してくれた。

 

「私の家、この付近で活動しているロボロボ団の資金を出してるスポンサーなんです。さらに父もかつてはヤの人で婿入りの際にロボロボ団と合併した形で」

「スポンサーをしてる理由と両親は組織で何をしてるかは教えてくれますか?」

「父は組の存在を守るためにロボロボ団になった自体が目的です。ですから活動も的屋の運営だったりこの近辺を裏から護るといった治安維持をしてるそうです」

 

 まるで漫画に出てくる街を守る良いヤクザの話に聞こえる。

 

「ではお母さまは」

「母はこの地区のロボロボ団と本拠地を繋ぐパイプ役です。今日も本部に向かってたはずですけど」

「つまり、厄介な事に僕の母のロボロボ団バージョンですか」

 

 たしかに。ブルー博士と田村崎一族が個人レベルで繋がってるのだから、博士がパイプ役というのも間違ってない。

 キクナはさらに踏み込んで、

 

「という事は、すでにTMZがロボロボ団と接触したのも本部に伝わってるという事ですよね? 本部は何と仰ってましたか?」

「母越しで知った範囲では、親密になるチャンスだと思ってるそうです」

「僕たちは一応セレクトと繋がってるのですけど?」

「その座を奪い取るロボ、と言われたらしいです」

 

 が、神宮寺さんは苦笑いを浮かべて、

 

「私個人の意見では、あの目的を達成するまではセレクトとも手を組みたいのですけど」

「ユスグさんのこと?」

 

 アズキが言った。

 神宮寺さんは頷いて、

 

「はい。ロボロボに入った目的はさっきの通りですけど、いま私は活動の大半をスグのためにやってます」

 

 神宮寺さんは、御萩ユスグさんの事をスグとよぶ。

 

「他の団員の活動履歴をチェックしたり、怪しいものが見つかったらすぐロボロボ団を派遣したり。先日、スグとロボロボが無関係だと断言できたのもこの為で」

「じゃあ、この前の博物館でタコスに協力したのは?」

「あれも私の目的はスグです。館内でスグに近い生態反応があったって情報があって、急きょ参加メンバーに加えてもらいました」

 

 ここで、神宮寺さんは自分のメダロッチをぎゅっと握りしめて、

 

「まさかメダロットが暴走しちゃうなんて。先生がいなかったら私、スグに加えてこの子まで失っちゃうところでした」

「神宮寺さん」

 

 思い出しただけで震えが起こるのだろう。

 アズキは、その場でスーツの上着を脱ぐと彼女の肩にかけてあげる。

 

「温かい」

 

 神宮寺さんは言った。

 

「でも、もしかしたら先生まで失ってたかもしれなかったのよね?」

『自分の心臓を盾にして他人のメダルを護るなんて馬鹿でしょ』

 

 神宮寺さんのメダロッチからマゼンタキャットが言う。

 

「それは」

 

 自分でもどうかしてたと思うほどなので、否定できない。

 

「でも、もう暴走なんてさせないから。もし暴走しても、何度でも何度だって護るから」

 

 アズキが言うと神宮寺さんは、

 

「うん」

 

 とアズキのコートにしがみつく。一方マゼンタキャットは、

 

『まあ、もうその機会自体が一年先かもっと先かも分からないけど』

「どういうこと?」

『あの日以来、一度もメダロットとして転送されてないのよ私。ずっとメダロッチの中』

「私もギャラントレディが暴走してから何年メダロットから離れてたっけ」

 

 呟いてからアズキはふたりを不安にさせる事を言ってしまったと気づいて、

 

「ごめん。でも神宮寺さんが勇気を出せるまでずっと味方でいるから。卒業した後も」

「ありがとうございます、先生」

 

 頬の涙を自らの指ですくい、神宮寺さんが言う。

 

「先生って、まるで救世主みたいですね」

「え、いや。そんな大層なものじゃ」

「ううん。私にとって紅下先生は救世主でヒーローです。先生と出会ってから、私がこれまでやってきた事、全部いい方向に動き始めたのですから」

 

 神宮寺さんは、まだ涙で潤んだ瞳で、

 

「先生がずっと味方でいてくれるなら、私も、もう少し頑張ってみます。マゼンタちゃんをまた出せるように、そんな勇気が湧いてくるまで」

 

 アズキを真っすぐ見ながら言うのだった。

 ここで、少しだけ無言の時間が流れてから、

 

「暴走を回避させるプログラムを作るのもTMZの役割ですから。なんて本当は言いたいところでしたけど」

 

 と、キクナが言った。

 

「話を戻して、僕たちは今後神宮寺さんを通してロボロボ団と協力する事はあると思います。ですけどTMZという組織と協力する事は諦めていただけますか?」

「どういう事?」

「実は、TMZもちょっと厄介な事になってまして」

 

 ここでキクナは、以前アズキに話したブルー博士周りの情報を正直に伝えた。

 

 自分たちを指揮するブルー博士が別人かもしれない。だからこそTMZも誰が敵で誰が味方か分からない状況。

 ロボロボ団が黒幕だとも視野に入れていたが、その線もたった今消えた事も。

 

 敷地内に妨害電波が流れてるからこそ、話す事ができたのだろう。

 とはいえ、

 

「大丈夫なの? 相手はまさにロボロボ本部と繋がってる相手だけど」

 

 アズキが言うと、キクナはちょっと心苦しそうに、

 

「大丈夫ではないですけど、これ以上安全圏で僕たちふたりで動くのも無理があるでしょう。アズキさんたちにとっても」

 

 やはりキクナにはお見通しだったらしい。

 アズキ視点ではスタッグの精神状態が危ないと思ってたけど、たぶんキクナ視点ではアズキも同じくらい危険に映ったのだろう。アズキ自身に自覚がないだけで。

 

「この際、少し辛辣な言い方ですけど」

「私がおふたりの人質になればいいのですね? 分かりました」

 

 快諾する神宮寺さん。

 キクナは焦って、

 

「いえ、理解の早さには驚きましたけど、さすがに僕たちも同等の代償を捧げないといけないですよ」

 

 と言ってから、

 

「ロボロボ団は僕を人質に取ったと判断してください。お互い本社と地区支部のパイプ役ですから神宮寺さんと同じだけの価値はあるはずです」

 

 さらにキクナは、

 

「特に僕は本物のブルー博士の実子ですからね。それが今日まで生きてるという事は、偽ブルー博士にとっても僕を排除できない理由があるはず」

 

 と言ってにこりと笑う。

 

「ですから、僕は今でも相当な交渉材料として機能するはずですよ?」

「そこまでしなくても」

「そちらの母親が許しませんよ、あなただけ人質という条件では」

 

 キクナは言った。

 

「という事で早速、僕たちの調査にも協力してもらえますか? 僕の母に何が起きたのか」

 

 もしかしたら一番精神状態が危なかったのはキクナ本人だったのかもしれない。

 あのキクナが敵組織に所属する小学生相手に弱みを見せる。そんな珍しい事態がアズキの目に飛び込んだのだから。

 





これってメダロットの小説なのかな?
今回ロボロボ団がすごく関わってるのでメダロットという事でどうか
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