性の六時間はこれにて終了しました
三人が体を洗い終えるのはほぼ同時だった。
アズキが湯船に浸かると、
「ふうっ」
と、赤城くんがアズキの真横をキープする形で入ってきた。
アズキ自身、先にお風呂を楽しんでたスタッグの隣に座ったので、すでに両隣に誰かがいる状態。まさかお風呂で両手に花を経験する事になるなんて。
で、最後にクワトロさんがスタッグの隣に座った事で、大きなお風呂にわざわざ四人が横に並んで浸かる構図に。
「まさか先生やスタッグさんと四人で入る日がくるとは思いませんでした」
普段以上に緩く和やかな声でクワトロさんが言った。
逆に怖い。
クワトロさんがお風呂に入る際、アズキの前を歩いた事で彼女の生まれたままの姿を見てしまったものだから余計に。
彼女はあれだけ大きな膨らみを持ちながらも、ほとんど垂れ下がる事なく形を維持していた。
そういえばクワトロさんはクラスでもトップ級の運動能力を持っている。案外、普段から鍛えてるのかもしれない。
「ところで先生」
まるで不意打ちのように、クワトロさんが言った。
「実際のところですけど、先生はモッチーズで誰が一番好きですか?」
「はへ?」
突然すぎる質問にアズキは変な声を出す。
「私も気になりますね」
しかもスタッグまで、
「メンタルが男子中学生レベルで、意識せずに済む分異性相手のほうが話しやすいと自称するアズキですし、一番気軽に話せる相手は赤城さんだったでしょうけど」
と言ってから、わざわざアズキと赤城くんを交互に見て、
「赤城さんがあの性格のまま女性と分かった以上、今回でその関係性もしっかり変わってしまったわけですから」
「どうしてだろう、スタッグから興味とは別の変な感情を感じる」
アズキがつぶやくと、
「警戒心でしょうか」
「いや嫉妬だろあれ」
クワトロさんと赤城くんがそれぞれ言う。
スタッグは、今回は明らかな素で、
「これで嫉妬扱いされるのは分かりませんけど、マスターがレズでロリコンなので警戒するのは当たり前でしょう」
とまで言ってから、
「それで、いまアズキは誰が一番好みなのですか?」
「あ、素でそっちの興味もあるんだ」
「だって、コミュ障でキョド充で対人能力ザコザコ団総勢一名アズキの貴重なガールズトークですよ?」
スタッグが酷い。
が、これを聞いてクワトロさんがくすりと温かい笑みで、
「嬉しかったのですね、自分のマスターが普通に女の子らしいイベントに参加できた事が」
「直球で言われると恥ずかしいですけど」
「明日は大雨だそうです」
「おい、クー! さらっと嘘つくな」
赤城くんがつっこみを入れる。さすがクワトロさん油断も隙も無い。
クワトロさんは反省し落ち込んだ様子で、
「本当は晴天です。ごめんなさい、あんなにスタッグさんのはしゃぐ姿を見たら、つい機能停止するまで弄り倒したくなってしまい」
「とりあえずスタッグ」
アズキは言った。
「もう私の中でクワトロさんはシャロンと同じカテゴリーだから」
意味するものは、いくら見た目が良くても性格は最悪。
三人の中から誰が一番好感度高いかと考えると、まず真っ先に脱落するのは彼女だという事だ。
しかも、
「え? 私あれと同じなのですか?」
クワトロさんがショックを受けていた。
「あー。…………もうオレから言ってしまうけどさ」
一度、間を置きながら赤城くんが言った。
「リーダーだろ? モッチーズの中で先生が一番好きなのってさ」
「え?」
「やっぱそうだ。いまの驚き方で確信だ」
赤城くんはからかうように笑って、
「近くにクーがいるのに、いつもリーダーの胸板とかスカートの内側ばっか狙って視線向けてるもんな」
「え、そんなに分かりやすかった?」
「当たり前だろ? オレだって女の勘くらい持ってるしよ」
どうしよう、逃げられない。
アズキはぼそぼそと、
「だって、赤城くんは男だと思ってたし、クワトロさんは、その、凶器すぎて」
「ぶわっはっはっは、凶器だってよ。クーのおっぱい」
赤城くんが爆笑するけど、
「それでも見たら一瞬で気づかれそうだし、一見無防備そうな時は絶対に裏があって危険だし、仮に本当に失態で無防備だった時は、泣いちゃうタイプでしょ?」
一瞬で赤城くんの笑い声が消えた。
首から下を視界に入れないよう気をつけながら様子を確認したら、スンッと興奮が急に冷めて真顔になった顔をしていた。
「逆に神宮寺さんは無防備すぎて、こっちが警戒しないと近々逮捕されても文句言えない事故起こしそう。まあこれは今日から赤城くんも該当すると思うけど」
「は? え、どうして?」
「さっき、肩組まれたとき背中に胸が当たった」
アズキが赤城くんに言うと、
「通報します」
スタッグがアズキからメダロッチを奪おうとしてくる。
「待って待って」
抵抗するアズキ。この姿を見て赤城くんは再び笑顔に戻って、
「まあ、エロい目向けてるのは全然隠しきれてないんだけどな。気づいてないのはリーダー本人くらい」
「え、それもしかして他の生徒にも」
アズキが聞き出そうとしたが、
「ついでにオレからもひとつ確認していいか?」
明らかに、わざと内容をはぐらかしたように赤城くんが言った。
「リーダーから聞いたんだけど、博物館のロボトルでクーのバグスティンクがメダフォース使ったの見たんだって?」
「う、うん」
アズキがうなずくと、
「実際のところ、やっぱスタッグもメダフォースって使えるのか?」
「あっ」
と、アズキも気づいて、
「どうなのスタッグ」
「って、なんでマスターが何も知らないんだよ」
赤城くんが呆れた反応。
で、スタッグは質問を質問で返す形で、
「他のおふたりは、ブルーティスさんとマゼンタさんは使えるのですか?」
「いや、現状モッチーズで解禁が確認されてたのはバグスティンクだけだ。マゼンタキャットはあと一歩まで行ってるらしいんだけどよ」
「そうですか」
スタッグはうなずくと、
「私からは伝えられません」
「出来るって言ってるようなものじゃないか?」
「たぶん出来るとは思います。でもプロテクトがかかっていて、アズキが自力で私の能力をチェックして命令しないと使えるか分からない事になってます」
「えっ」
と、アズキは驚いた。
「そんなの私、なにも知らない」
「伝えないのもプロテクトの内でしたから。それにアズキなら何も言わなくても私にメダフォースが使えるかチェックしてくれると思ってましたので」
「知らなかった機能をチェックとか無茶言わないで」
スタッグと喋ってると、
「あ、私そろそろ出ますね」
クワトロさんが立ち上がった。同時に赤城くんも、
「じゃあオレも」
と湯船から上がる。アズキが「しまった」と思った時にはもう遅く、彼女たちの後ろ姿がアズキの目に映ってしまった。
ふたりのお尻、とても可愛らしい。
スタッグは、
「では、神宮寺さんとキクナさんにご報告をお願いします」
「やっぱそういう事かよ、分かった」
頷く赤城くん。どういう事だろう。
ふたりが浴室から出たのを確認してから、どういう意図なのって言ってみると、
「そういうTMZ製の厄介なプログラムが私に潜んでるかもしれないので警戒してくださいという意味です。妨害電波の中でないと伝える事もできなかったので」
スタッグは言った。
「あと、先ほどのプロテクトは半分嘘です。実際は上層部からアズキが自分で知ろうとするまでメダフォースの話はするな勝手に使うなと命令されただけでして」
「あ、そうなんだ」
「今思えば、アズキがトラウマを乗り越えて知る覚悟ができるまで待てという思いやりだったのかもしれませんね」
「逆に私がメダフォース自体知らなかったのは想定外だったと」
返事しながらアズキはメダロッチを操作してみる。
一度存在を知ってしまうと、装置にメダフォースの確認機能が標準で搭載されてる事実に驚きつつ、
「実物を見て理解してると思いますけど、使い方を誤ると逆に危ないのがメダフォースというものです」
「うん」
「ですから私は今後もこれだけはアズキの指示以外で使うつもりはありません」
「わかった」
アズキが返事すると、スタッグは優しい声で言う。
「私の隠された力、どうかアズキの任務に役立ててください」
湯船の中で、互いの指がそっと触れた。
浴室から出て脱衣所に戻ると、かごに入れた衣服は綺麗に畳まれた状態でビニール製の風呂敷に包まれており、隣のかごに着替え用の浴衣が置かれていた。
着てみたところサイズも問題なく、
「似合いますよアズキ」
と、スタッグも言ってくれた。
アズキは脱衣所を出て、
「たしか、さっきの客間が私たちの寝室って言ってたよね」
「はい」
スタッグと確認し合いながら客間に戻ってみると、
「アズキさん、お疲れ様ですよ」
キクナが待ってくれていた。
しかし、なぜかメイド服姿である。しかもボウショウさんともクワトロさんともまた別の。
こちらの視線にキクナが気づくと、
「僕の部屋は別で用意していただきました。ですけど、せっかくですから先ほどまでベッドメイクのお仕事を手伝ってまして」
「いや、そうじゃなくて」
「それと予備の一着を貸してくださいまして。似合いますか?」
と、その場でカーテシーをしてみせる。
基本は深青色のワンピースに白いフリルエプロンを組み合わせたタイプのエプロンドレスである。
しかし、ワンピースやフリルに和柄が使われており、着物を一切使ってないのに日本風の印象を覚えた。
「毎回思うけど、いつも怖いくらい似合わせてくるよね?」
「ありがとうです。和服みたいなデザインだからかもしれませんね」
「実際に和メイド服を着たら本気で恐ろしい事になりそう」
「実は、最初はまさにそういう服を選んだのですけど」
キクナは困ったように笑って、
「その姿を見た神宮寺さんに禁止と言われてしまいまして」
「あ、完敗したのですね。キクナさんに」
スタッグが言った。
和服は胸の大きな人には向かない服だと言われている。
だから神宮寺さんには相性の良い服なのだけど、その自信のある和服で本来は男であるキクナに敵わないとわからされてしまったのだ。きっと。
「では、僕はそろそろ自分の部屋に戻りますね」
キクナは言った。
アズキはふと疑問を感じ、
「あれ? そういえばキクナお風呂は?」
「僕は仕事がまだ残ってましたから、シャワールーム付きの部屋を手配してもらいました」
言われてみるとキクナの髪からシャンプーのいい香りがするのに気づいた。
たぶんアズキが使った物とは別だろう。上品な中に甘さがあり、和の趣あるメイド服もあって周囲に安らぎを与えてくれる。
そんな雰囲気をキクナが出してくるのだから、服と香りの組み合わせというものは本当に恐ろしい。
「今は神宮寺さんとボウショウさんがご入浴中だそうですので、夕食は」
直後、キクナのメダロッチに通信が入った。
キクナはスピーカーモードで、
「どうしましたか?」
『き、緊急事態が発生しました』
相手は他の男性TMZエージェントだと分かった。
『屋敷周辺で捜査していたTMZのメダロットが何者かによって襲撃され、一度機能停止したメダロットが暴走を開始しました』
「え?」
思わずアズキが声を出してしまうと、
『紅下さんもその場におられるのですか?』
「はい」
『了解しました。すでに第二部隊、第三部隊が全滅。ブルー博士より第一部隊も諦め、直ちにお屋敷の方々を安全圏に避難させ』
弾丸の音。直後、相手との通信が途切れてしまった。
おそらくメダロッチを破壊されたのだろう。仮に本人がやられた場合なら通信自体は繋がったままだろうから。
「アズキさん、お願いがあります」
キクナが言った。
「僕は一応、性別の問題で神宮寺さんたちが入浴中のお風呂には向えません。かわりにアズキさんがお風呂場にUターンして事情を伝えに向かえますか?」
「や、やってみる」
アズキが頷くと、
「お願いします」
キクナは言って、二体のメダロットを転送する。
現れたのは、ユディトという名を与えられたオフィニクスと、メダメイド。
「二手に分かれて赤城さんとクワトロさんにそれぞれ接触しましょう。メダメイドは僕と一緒に行動してください」
「え、私がですか?」
驚くメダメイド。間違いなくキクナのメダロットで一番手はユディトなので、自身は別動側、悪く言えばサブとして仕事を任されると思ったに違いない。
ここでユディトが、
「おや? メダメイドは自分の仕事が何だったかお忘れですか?」
「そんなわけないじゃない」
メダメイドはユディトに噛みつくように言って、
「マスターの身の回りの世話と警護よ。この役割だけはユディトが相手でも譲りません」
「フフッ」
ユディトはにやにやと笑って、
「でしたら、この采配こそ言うまでもないでしょう」
「あ」
と気づいたメダメイドにキクナが言うのだ。
「自分で誇らしげに言ったのですから、失敗は許さないですよ?」
「分かってますよ。もうっ」