メダロットHERMIT   作:CODE:K

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9-1 Strike Enemy1

 

「ねえスタッグ、帰りにメダロットのアクエリアス購入していい?」

「駄目です」

 

 今日も紅下(コシタ)アズキが話を投げかけたところ、腕時計型デバイス『メダロッチ』から、ではなく今回は直接拒絶された。

 代わりに今日はマゼンタキャットがメダロッチから、

 

『あんたたち、たまに暇になるとそうやってじゃれあい出すわよね』

 

 と指摘され、

 

「いや、別に暇ってわけでは」

「いえ、別にじゃれあってるわけでは」

 

 とふたりで返事。しかしマゼンタキャットは、

 

『つまりマスター側は暇で、メダロット側はじゃれてたわけね』

 

 ってさらに追い打ち。

 とはいえ、さすがに暇だったと認識されるわけにはいかない状況である。アズキはかなり本気で、

 

「いや少なくとも、事態は緊迫してるのだから暇はありえないという話だけど」

『でも、馬鹿言えるほどの余裕はあるのよね?』

「そりゃあ、まあ、その、ごめんなさい」

 

 アズキは素直に謝った。

 事実、ロボロボ団が味方についた事で、暴走メダロットへの対処が驚くほど快適に変わってくれたのだ。

 

 たとえば神宮寺さんが敵を見つけて、

 

「右の廊下を曲がった先にファンシーベールがいたわ。出番よ」

 

 って伝えると、ロボロボ団ふたりが、

 

「はいロボ。ゴーフバレット!」

 

 普段ならやられ役のイメージしかないメダロットを転送。相手がこちらに気づいた時にはもう、ゴーフバレットがアンチエアを発射しており、

 

「ヌワァァァァ」

 

 一瞬だけ正気に戻りながら、暴走メダロットはその場で全身のパーツが完全破壊されティンペットだけの姿になり、メダルが床に転がる。

 ロボロボ団はすぐゴーフバレットをメダロッチに回収しながら、相手のメダルを拾い、

 

「任務完了ロボ」

 

 得意げな顔を見せた。このようにファンシーベールの対処が楽になったのだ。

 

 現在アズキは神宮寺邸にいる。

 当初の目的は家庭訪問を口実にTMZとしての事情聴取で、結果神宮寺さんはバ〇キンマンのようなコミカルな悪役を目指してる事が判明。

 

 敷地内には盗聴などを防ぐ一種の妨害電波が発生してるおかげで、お互いに踏み込んだ会談を行う事ができた。

 結果、アズキとキクナは行方不明事件を解決するため個人的にロボロボ団と協力関係を築く事になったが、ここで事件が発生。

 

 屋敷周辺に不審な気配があったので、今晩ふたりは神宮寺邸に泊まる話になり、他のTMZが気配の原因を探っていたのだけど、そのTMZが襲撃を受けた。

 しかも、襲われたTMZ側のメダロットは暴走メダロットになってしまい、神宮寺邸を襲撃し始めたのだ。

 

 いま、アズキとキクナは別行動を取っており、アズキ側は神宮寺さん、ボウショウさん、ロボロボ団二匹の五人で行動している。

 キクナもクワトロさんや赤城くんと合流するために単独行動を取った形なので、想定通りなら今ごろ一緒に動いてるはずだ。

 

 通信は相手に現在位置を特定される危険があるので避けてるが、おそらく屋内駐車場まで行けば合流できるはずというのが現在アズキたちの推測であった。

 

「皆様、今度は左側の曲がり角から暴走メダロットが接近してきます」

 

 ボウショウさんが言うと、ロボロボ団は今回もうきうきしながら、

 

「ファンシーベールロボか?」

「いえ、ライブラです」

 

 ライブラとは、天秤座をモチーフとした女型メダロットで、武器として両腕にアンチエア、アンチシーを備えている。

 自身も飛行メダロットであるゴーフバレットでは絶対に向かってはいけない相手だ。

 

「ひぇっ、了解ロボ」

 

 先ほどの勢いはどこへやら、メンバーの最後尾に隠れだすロボロボ団たち。

 ライブラの相手をするのはスタッグとボウショウさんだ。

 

「ヤマジロー、チャージ開始」

 

 ボウショウさんの指示を受けて、彼女のメダロットであるヤマジローがフォースのチャージ行動に入った。

 ヤマジローの右腕パーツはエミットブレードという技に分類され、非常に高い威力と貫通性能を持つ反面、使用にフォースが必要なのだ。

 

 程なくして両側に巨大な秤を持ち、まさに全身で天秤を表現したメダロットが左側から姿を見せたと同時に、

 

「フレアソード!」

 

 ヤマジローがたったいま補充したフォースを使って、右腕の剣で思いっきり斬りつける。

 奇襲は成功。ライブラは防御も回避もできず脚部と左腕を一気に破壊され、よろめいた瞬間をスタッグが甲を回転させた左腕でアッパー。

 

 頭部が機能停止し、一時的に動作が止まった間にアズキがライブラのメダルハッチを開けて中のメダルを取り出した。

 アズキにもたれかかって倒れたライブラ。

 

(あれ?)

 

 受け止めながらアズキは思った。

 よく見るとライブラの外見ってかなり性的に映るのだ。

 

 外れそうで外れない青い天秤型の外装は改めて見ると完全に胸元の開いた上着であり、一度気づいてしまうと胸の一部が丸見えのデザインにしか見えない。

 しかも後ろから抱きしめながら見下ろすと、襟元から胸の谷間が見えそうで見えない絶妙な隙間まで。

 

 現在は脚部が完全に破壊されティンペットの姿だけど、思い返せば股部もしっかりY字で表現されてなかっただろうか。

 左右の天秤がインパクト強すぎて気づかなかった。

 

「ねえ、スタッグ」

「嫌です」

「アクエリアスが駄目なら、せめてライブラ」

「絶対に嫌です」

 

 スタッグはアズキからライブラのボディを取り上げて、念のために残りのパーツもしっかり破壊。丸裸のティンペットにしてから床に寝かせる。

 

「メダルだけ回収して、メダロットはここに置いたままにします。よろしいですね?」

「はい」

 

 凄みのあるスタッグの声にアズキは怯え、何度も首を縦に振ると、

 

「ですけど驚きました。アズキがこの状況でここまで発情されるなんて」

「ごめん」

 

 正直、自分でもよく分からない。

 アズキ自身、臆病な性格なのもあってか、危険な場面では普通に色んな余裕を無くすタイプだったはずなのに。

 

 博物館の時は真っ先にマゼンタキャットのメダルを護りに入ったし、今回は味方が増えて余裕ができたからって倒した敵メダロットに発情するなんて。

 

「強くなったのよ、きっと」

 

 神宮寺さんが言った。さらに努めて笑顔をみせて、

 

「私、言ってる事よく分からなかったけど、普段メンタルよわよわな先生が非常時でもスタッグちゃんから見ていつもの先生らしい事をしたって事でしょ?」

「たぶん」

「なら、きっといい変化ですよ。悪いことじゃないわ」

 

 と言ってくれる神宮寺さんが天使みたいで眩しい。

 けど、

 

『だったら、私のざこマスターも早く強くなってメダロットを外に出しなさいよ』

「それは」

 

 マゼンタキャットに言われ、一気に暗くなる神宮寺さん。

 

「そ、それこそ大丈夫だと思う」

 

 アズキは言った。で、スタッグに一度視線を向けて、

 

(事案だと思ったらすぐ止めて)

 

 口パクとアイコンタクトで意図を伝えてから、アズキは優しく神宮寺さんを抱き寄せる。

 

「せ、先生?」

「アズキ!?」

 

 驚く神宮寺さんとスタッグ。

 でも、アズキの目には今の神宮寺さんがここまでしないと駄目なほど弱ってるように見えたから。

 

「心配しなくても、無茶しなくても、いまのふたりの悩みは時間が解決してくれるから。私の体験で言ってるから、保証するから」

「せんせぇ」

「それにマゼンタキャットだって、無理にメダロッチから出なくてもいいと思う」

『どうしてよ』

 

 反抗する神宮寺さんのメダロットに、アズキは自信の無い声で言った。

 言葉を、選んで、選んで、選んで、

 

「神宮寺さんと一緒にいられる事に違いはないはず、だから。メダロットの本質はロボトルじゃない。メダロッターのパートナーで、友達で、理解者だから」

 

 マゼンタキャットには、あまりに重みの無い、本心のこもってない言葉を伝えてしまった。

 だって、アズキ自身がもしスタッグとメダロッチ越しにしか会えず、触れ合えなくなってしまったら絶対に辛いって、諭す直前に気づいてしまったから。

 

 たぶんこの言葉の弱さは相手にも伝わってしまったと思う。

 だから、パートナーであるスタッグが動いた。

 

「そもそも、マゼンタさんは出てきて平気なのですか?」

 

 って。

 

「あなたは自分がまた暴走するかもしれないって恐怖を覚えないのですか?」

『怖いわよ、悪い?』

 

 でも、マゼンタキャットは認めながらも言うのだ。

 

『けどそれ以上に惨めなのよ。アンタには分かるの? みんなが命がけで戦ってるのに、私だけメダロッチから出れなくて、力になれない。この気持ちが』

 

 で、嘆くように。

 

『また、あいつみたいに誰かを失う瞬間を、今度はメダロッチの中から眺めてろって言うの?』

 

 あいつとは、間違いなく御萩ユスグの事である。

 神宮寺さんが言うには、マゼンタキャットはユスグさんの事をいつも気にかけて、救えなかった事を誰より後悔してるそうだから。

 

「ごめん」「ごめんなさい」

 

 アズキとスタッグが言うのは同時だった。

 スタッグはマゼンタキャットに言える言葉が何もなくて、アズキはそこに加えてこれ以上神宮寺さんを慰められる自信も資格もないと思ってしまい。

 

「ここは無理にでも話題を変えましょう。変だとは思いませんか?」

 

 ボウショウさんが言った。

 

「暴走メダロットと遭遇する頻度です。気を抜けるほど少ないわけではなく、ですが戦い続けて疲弊するほど頻繁でもありません」

「たしかにロボ」

「元々数が少ないのか、もしくは暴走メダロットが一か所に集中してるのではないかと」

「あるとしたら、やっぱり駐車場?」

 

 アズキが言うと、ボウショウさんは頷いて、

 

「はい。そこの角を曲がって真っすぐ進んだ先ですので、皆様気を引き締めてください」

 

 ボウショウさんの推測は半分正解だった。

 

 言われた通り角を曲がると、母屋から離れに続く一本道の廊下に続いていたのだけど、移動中窓から映った光景にみんなが「えっ」と反応した。

 暴走メダロットとの主戦場は、敷地内の庭園だったのだ。

 

 屋内から離れに続く入口には暴走メダロットが一体もいなかったが、外側からの入口には大勢の暴走メダロットが詰めかけている。

 暴走メダロットは離れにある車の出入り口にも大勢見られ、これでは屋内から駐車場に進む事ができても、出発ができない。

 

 さらに当然の話だけど、

 アズキたちがイージーモードで暴走メダロットを相手してた中、キクナたち三人は今もそんな庭園で戦い続けていたのだった。

 





サブタイトルはメダロット2の戦闘曲「Strike Enemy」より。
改めて、今年もメダロットHERMITをどうかよろしくお願いします。
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