「フク様ーーーっ!」
最初に冷静を失ったのは、意外にもボウショウさんだった。
そういえば彼女は元々赤城くんの家で雇われていたメイドである。忠誠という意味でも本来は今でも神宮寺ではなく田村崎に向いてるのだろう。
やはりメイドは戦闘職とでも言いたくなる動きで窓から外に飛び出して、真っ先に反応したファンシーベールがステッキで殴りかかるも、
「どきなさい!」
逆にボウショウさん自身がヤクザキックで反撃。
遅れてヤマジローが屋内からジェットブローで攻撃してから、マスターを追いかける形で同じように窓から飛び出した。
「ボウショウ!?」
驚く赤城くん。ボウショウさんはほっとした顔で、
「フク様、ご無事でしたか」
「それはオレの台詞だ。待ってろ、すぐに助ける。ブルーティス!」
赤城くんの叫びと同時にブルーティスがファンシーベールの頭を左腕で掴む。
ファンシーベールが抵抗で爆弾を投げようとするが、直後その腕をヤマジローが剣で突き刺して止めた。
赤城くんが叫んだ。
「パワーハンマー! ケモノアギト起動!」
「爆熱ッ! ドッグフィンガー!!」
ブルーティスの左腕は犬の顔を模した造形になっており、まさに獣の牙でかみ砕くように相手メダロットの頭部を破壊。
さらにブルーティスは一旦機能停止したファンシーベールに右腕を伸ばすと、メダルハッチを抉り取る形で暴走メダロットのメダルを回収。
暴走メダロットとの戦い方を完全に心得てるように映った。
ここで、
「どうぞ。外に出られる予定の方は足場に使ってください」
ボウショウさんが飛び出した窓の下からメダロットの声が聞こえた。おそらく男型メダロットである。
誰のメダロットかは分からなかったけど、
「いいの?」
「はい。強引に窓から降りようとして怪我人が出るほうが困りますから」
「分かった」
味方だと信じ、アズキは窓から出てメダロットの上に立つ。
で、
「ぎゃっ」
と叫んでしまい、
「アズキ!」
続けて窓から飛び出すスタッグ。で、彼女も足場になったメダロットの正体に絶句するのが見えた。
だって、そこに立っていたのはAQR型アクエリアスのTSメダロット。いまアズキたちが最も警戒していたホカリスエットだったからだ。
「大丈夫です。僕は暴走していません。改めましてTMZ第一部隊所属の生存者です」
ホカリスエットによると、現在この庭園の戦場には無事な状態のホカリスエットと、暴走したホカリスエットが混在しているらしい。
また、神宮寺邸の敷地内では仮に倒されて機能停止しても暴走しない事が判明したので、現在はキクナたちも含めて敷地から出ないように戦ってるそうだ。
ただ、
「暴走したメダロットは目が赤色に輝くのですけど、僕たちホカリスエットは元から目が赤いので見分けがつき辛くてごめんなさい」
「大丈夫。私はなんとか見分けがつくから」
アズキは言いながらホカリスエットの水瓶から降りて、
「暴走メダロットのアイカメラは独特の輝き方してるから一目で分かるつもり」
「見分けが得意な方がいると助かります。僕も一度誤射で仲間を一名ヤッてしまいましたので」
「き、気を付けてね」
ホカリスエットの誤射は正直しゃれにならないから。
で、アズキは窓の内側に向けて言った。
「たぶん屋内のほうが安全だから、神宮寺さんはこっちにいて」
「わかりました」
神宮寺さんはすまなそうに返事をする。アズキは続けて、
「ホカリスエットも、できれば屋内に入って神宮寺さんの守護に回ってくれると助かるんだけど」
「了解しました」
「そういえば君のマスターは」
「先ほどの襲撃で倒れてしまって。だから指示をくれる人が欲しいところだったんです」
言いながら、ホカリスエットは浮遊型なのでふわふわ浮いて窓の中に入っていった。
で、中にいた残り二名を見て驚く。
「えっ? ロボロボ団!?」
「大丈夫。今回はこのふたりも味方だから。ただ使用メダロットがゴーフバレットだからライブラが来たらホカリスエットひとりで対処お願い」
「分かりました」
といった形で予想外な味方増援との会話は終了。
スタッグが言った。
「何だか話しやすそうでしたね、ホカリスエットの相手」
「うん」
アズキは頷いて、
「教師やった経験のおかげかな? あの子なんだか小さな男の子みたいな感じがして」
「アズキ、ロリは当然駄目ですけど、ショタに目覚めるのも犯罪ですので」
「さすがに大丈夫」
アズキは断言した。
「昨日までの赤城くんが平気だったから」
「絶妙に返事に困る事を言わないでください」
アズキとスタッグは、軽くじゃれあうように喋りながら軽く辺りを見渡す。
先ほどの子が言ってた通り、庭園には正常なホカリと暴走したホカリが両方いて、見分けが難しいのが戦場をややこしくしてる原因に映った。
なので、
「スタッグ、私たちは暴走状態のホカリスエットを集中的に狙う作戦で大丈夫?」
「はい。ですけど見分けをつけるのは私でも困難ですから。アズキ、ターゲットの指示をお願いできますか?」
「うん」
まさか、家族を暴走メダロットに奪われた経験、暴走したギャラントレディの赤い瞳が今でも目に焼き付いてる経験がこんな形で役に立つとは思わなかった。
「スタッグ、まずは正面付近のホカリスエット二体。前方にいるほうが正気で、後ろのホカリが実は暴走中みたい」
「了解しました」
駆けるスタッグ。
ホカリスエットに近づくと、スタッグの耳に入った二体の会話がメダロッチ越しでアズキに届く。
『クロスセットを開始します。我がマスターの指示により、あなたは指定した地点のファンシーベールを狙ってください』
『リョウ、カイ』
あ、これはやばい。
暴走したホカリは正常のフリをして味方のクロスセットを使ったフレンドリーファイアを狙ってる。
「スタッグ、すぐにクロスセットを止めて」
『はい。そこのホカリさん、今すぐクロスセットを中断してください!』
スタッグは言いながら二体の至近まで接近し、後ろの暴走したホカリスエットをソードで斬りつける。
『え、え、え?』
動揺するホカリスエット。スタッグは続けて、
『後ろの彼はすでに暴走状態です。彼はあなたのクロスセットを利用してあなたを狙ってました』
『バレタナラシカタナイ、ダッタラキサマヲ』
暴走したホカリスエットが自ら右腕パーツを使用してクロスセットを開始する。
しかし直後、暴走したホカリスエットを横からのビーム攻撃が襲った。やったのはクワトロさんのバグスティンクである。
『ギャアアア』
ビームが装置にも引火して、爆発に巻き込まれる形で四散する暴走ホカリスエット。
メダルが無事かは、さすがに分からない。
「助かったよ。ありがとう紅下さん」
ひとりの男性が話しかけてきた。
アズキが振り返ると、
「今日は第一部隊でそこのホカリスエットのマスターをしてたんだ。君が気づいてくれなかったらやられるところだった」
二十代辺りの若い男だった。着ているスーツにはTMZの社員バッジが付けられており、なんとなく研究施設で会ったような気がしなくもない。
名前はどう頑張っても思い出せそうにないけど。
「いえ、偶然暴走か正常かの見分けがついただけで」
アズキはしどろもどろに返事。やはり話し慣れてない相手と喋るのは苦手だ。
表情も、いま自分がどんな顔になってるのか全く分からない。
が、相手は爽やかな笑顔で、
「その見分けがみんなつかなくて困ってるんだ。予想以上に大変な任務になってしまったが、お互いなんとか乗り切ろう」
とだけ言って、パートナーのホカリスエットと一緒に移動していった。
「ほっ」
アズキは一度安堵する。さて、
「スタッグ。次は庭園の池を護ってるホカリスエットをお願い」
『分かりました』
続けて小さな池に向かってスタッグが走る。
しかし移動中、池のメダロットを狙ってる事が相手に気づかれたのだろう。数体のライブラが天秤から波紋を飛ばしてきた。
そのうえ波紋は上空から飛来してくるアンチエア仕様と地面を滑るように襲ってくるアンチシー仕様の二種類。
『うっ』
スタッグは跳んでアンチシーを回避するも、再び足が地面につく前にアンチエアの波紋がスタッグに届いて、
『メダメイド!』
被弾、という直前だった。
キクナの声と同時にメダメイドがスタッグの後ろに割り込んで左腕の盆で庇ってくれたのだ。
『ありがとうございます、メダメイドさん』
『これが私の仕事ですから。それより、あのホカリスエットを狙ってるという事は』
『はい。アズキが暴走メダロットと見抜きました』
が、ライブラが妨害に入ったという事はホカリスエット自身も気づいたという事。
スタッグたちがライブラの対処に手間取ってる間に、ホカリスエットはクロスセットを使用して水瓶の装置をスタッグに向ける。
けど、
『だそうです。ユディト』
キクナとメダメイドが同時に言うと、ホカリスエットの死角からオフィニクスのユディトが姿を見せて、右腕の杖で突いて相手の左腕に電流を流した。
結果、ホカリスエットは痺れて動けなくなり、今すぐクロスファイアする事が不可能になる。
ユディトは言った。
『彼は私がどうにかしましょう。その間、おふたりはライブラをやっつけてあげてください』
『助かります』
『いえいえ、まあ私はホカリスエットの左腕を潰すだけですからね。慌てずじっくり愉しみますから、おふたりも急ぐ必要はありませんよ』
せ、性格が悪い。
アズキは引きつった声で言った。
「スタッグ、逆になるべく急いであげて。元はTMZの味方メダロットだから、正気に戻ったときトラウマを残すかも」
『そうでした』
スタッグが慌ててライブラに斬りかかる。
『おやおや、信用がないですね。では、こちらもいきましょうか』
その間、ユディトは一度わざとらしくポーズを取った後、左手を牙を持った顔に変形させて、腕を伸ばしてホカリスエットの左腕に噛みついた。
『ギ、ゃ、ャァッ』
わざと悲鳴をあげさせるだけの時間を与えながら、必要ないだろうに歯軋りを立てて拷問を兼ねるように左腕を噛み千切っていく。
驚く事に、
悲鳴をあげてるのが暴走中の敵メダロットで、えげつない攻撃してるのが味方である。
一方のスタッグサイドも、ふたりは計四機のライブラに囲まれるも、波紋攻撃を今度は全て回避しながらメダメイドの銃撃でダメージを重ねていったところで、
『いきます。テキサス・カウボーイ!』
スタッグが左腕の甲をヨーヨーとして射出し、実在するヨーヨーの大技を披露。
跳躍しながらヨーヨーを全方位にぶん回して四機のライブラを纏めて破壊。全機とも胴体がティンペットをさらした事でメダルが自然に剥がれ落ちた。
で、こんな行動をすれば、
『うおおお! テキサス・カウボーイ! テキサス・カウボーイじゃないか!』
赤城くんが興奮しながらスタッグに近寄ったので、
『丁度良かったです。赤城さん、この四機のメダルを回収してくれますか?』
『ああ!』
快諾しながらブルーティスと一緒にメダルを拾っていく。
スタッグは改めてユディトの下に戻って、
『足止めありがとうございます。後は私がやりますので』
『分かりました。ではまずメダメイドのガトリングで全身のパーツを舐め回すようにゆっっっくり破壊してから』
『いえ、これで十分ですので』
スタッグはソードの一撃でホカリスエットの首を刎ね、メダルハッチから中のメダルをもぎ取った。
『マスター、私は一体なにを見せられてるのでしょうか?』
メダメイドがひとりスタッグにさえドン引きしていた。そういえばスタッグの倒し方も本来ならグロの側なのだ。
そんな常識人メダメイドが可哀想だったのもあって、
「ごめんスタッグ、休んでる暇ない。次は左側で三機一組でファンシーベールと戦ってるホカリだけど、真ん中が暴走してる」
アズキはすぐ次の指示を出すのだった。
スタッグが味方に扮した暴走メダロットを集中的に倒した事によって、戦況は一気に神宮寺・TMZ側の有利に傾いていく。
しかし、
「な、なんでだ。なんでお前がそっち側にいるんだよ」
敵の全滅が近づいた時、現れた一機のメダロットを前に状況は一変する。
ライオンモチーフ。KLN型のTSメダロットに向かって、赤城くんは叫ぶのだった。
「なんで、御萩のパートナーだったお前が襲撃犯なんだよ、ユニィ!」