「え、クーちゃん? 嘘よね?」
神宮寺さんが事実を受け止め切れてない顔で、声を震わせる。
しかしクワトロさんは、
「ごめんなさい。ほぼリタイアです」
彼女の言葉は、この場にいたメンバー全員に大きな衝撃を与えた。
神宮寺さんだけではない。赤城くんも、アズキも、スタッグも、みんな間違いなくクワトロさんを戦力として一番頼りにしてたはずなのだ。
それが、やられたのだから。
「ライブラ、とどめを」
ユニィが言い、ライブラが一斉に波紋攻撃をバグスティンクにぶつけ始める。
「やめろおおおおっ!」
赤城くんが叫び、ブルーティスがライブラに飛び掛かる。
しかし、ライブラの使う速射連発を止める事はできず、低威力のアンチ攻撃をさらにサブスキルで弱めてるとはいえ、塵も積もればというもの。
棒立ちになったバグスティンクにダメージが積み重なっていく。
しかも、
「クロスセット、完了」
ホカリスエットはまだ生きてる。
脚部を失った事と、頭部がヘヴィパーツだった影響によるリミットオーバーの両方でマイナス補正がかかりスピードが半分未満になってるはず。
なのに、バグスティンクとは違って放置できない程度にはまだ動ける脅威なのだと思い知らされた。
即座にマゼンタキャットがサンダーをぶつけて動きを止め、
「スタッグちゃん、ホカリスエットはマゼンタちゃんでなんとかするわ」
神宮寺さんの言葉を受けてスタッグは、
「ありがとうございます」
と、ユニィの前に立った。
さすがに二度も彼女を放置するわけにはいかないからだ。
「今度はフリーにはしません。私の相手をしていただきます」
「アズキ様のパートナーメダロットですね?」
「はい。スタッグといいます」
スタッグは名乗り、チャージ行動を行う。脚部からフォースを放出し残像を出せるようにすると、すぐさまソードで斬りかかった。
ユニィは避けきれずとも左腕のブーケで受け流しながら、
「あなたとは、一度口を交わしたいと思ってました」
「私は初体面なので、その気はありません」
「マスターをベースにしたボディの使い心地はどうですか?」
「あっ」
と、スタッグは反応する。
ユニィは知ってるのだ。いまスタッグが使ってるボディがユスグさんに渡されるはずだったセーラースタッグである事を。
「私は私です。ユスグさんは関係ありません」
スタッグは左手の甲を外し、ヨーヨーとして投げつける。
ユニィは避け、ブーケのガトリングから弾丸を撒きながら、
「ユスグとあなたはよく似ています」
「似てません!」
スタッグは、その場に残像を残しながら真横に跳ぶ。
相手の放った無数の銃弾は残像を蜂の巣にするがスタッグ本体には当たらず、
「な、何ですかその残像は!」
驚くユニィにスタッグは言う。
「ユスグさんは残像を出して動いたり、戦術に取り入れたりしましたか?」
「するわけがないでしょう。どうやったらコンシールでそんな芸当ができるのですか?」
「それが私が別人という証拠です」
言いながらスタッグはもう一度ヨーヨーを投げる。
今度はユニィにヒットし、
「ぐっ」
とユニィは呻き声をあげながら、
「アズキ様ですね。その知恵は」
変な勘違いに向かい始めた。
「ユスグはよくアズキ様の事を話していました。まだ私のマスターだった時から何度も」
「いえ、アズキは関係ありません」
距離を取ろうとするユニィに対し、スタッグはクロスステップで周囲に残像を作りながら追いかけ、再びソードで斬りつけようと、
「ユスグは言ってました。初恋だったと」
「は?」
した矢先に爆弾発言を投下され、スタッグは一撃を思いっきり外してしまう。
「ぶふっ」
アズキもせき込んでしまう中、
「ですから、あなたもそうなのでしょう? アズキ様に想いを抱き、その恋があなたを強くし、想いがあなたに残像という力を」
「ち、違います!」
スタッグが顔を真っ赤にしながらソードをぶんぶん振り回す。
けど、冷静を欠いた斬撃が相手に当たるはずもなく、逆にユニィが銀の銃を構え、発砲。
「きゃああっ!」
完璧にヒットしてしまい、この一撃で左腕が機能停止に追い込まれてしまった。
垂れ下がって動かなくなった左腕。手の甲もヨーヨーとしてワイヤー越しに伸びたまま回転を失って揺れている。
「では説明してください。その力はどうやって手に入れたのか」
驚くことに、ユニィは真面目に言っていた。
相手の動揺を誘うためにマスターの秘めた想いを暴露したのではなく、本気で戦いながらスタッグの本音を聞き出そうとしている。
「スグが、先生に恋を?」
しかも神宮寺さんまでこちらの会話に反応していた。
事態が深刻なだけに、もうわけがわからない。
(深刻?)
ふとアズキは周囲を眺める。
マゼンタキャットは決め技に欠けてるせいで、ホカリスエットが動き始める度にサンダー攻撃で停止を与え直す事しかできてない。
下手に攻撃して停止を解除させてしまったらクロスファイアで誰かが倒されてしまうからだ。
バグスティンクは次のビーム攻撃のために充填中。
しかし、その充填がいつ終わるかは分からないうえ、ライブラが距離を取っての射撃攻撃に専念してるせいでバグスティンクは素殴りという手段も取れない。
そんなライブラ相手に、ブルーティスは必死に戦ってるけど、相手が空高く浮遊したせいで攻撃が全然届かない。
この状態から脚部を破壊できれば、地面に落下させて致命打を与えられるのだけど。
とにかく、みんな一手が足りてないのだ。
(あっ!)
アズキは気づいた。
「スタッグ。指示、出してもいい?」
「え? は、はい」
未だ動揺したまま返事するスタッグ。
アズキは言った。
「戦闘は回避重視。余裕があるなら残像をしっかり出せるようこまめなチャージ行動をお願い」
「分かりました」
すでに脚部のフォース放出も切れかけてたのだろう。
スタッグはあえて距離を取ろうとするユニィに乗って、自分から距離を取って再びチャージ行動を行う。
「やはりそうなのですか? ユスグもアズキ様と今も繋がっていたら残像が出せたという事なのですね?」
ユニィがブーケを両手で構えてガトリング発射。
距離がある分、広範囲に弾丸は撒かれたが、スタッグは残像を何個もデコイに置きながら回避。
「ですから、残像は素で私が身に着けた応用技術です。アズキは関係ありません。何より人間は残像なんて出せません」
再びスタッグは接近してソードで斬る。
一撃は最初と同じく銀の銃口で受け流され、再び撃たれたが今回は指示通り回避に意識を向けていたのもあって、弾丸は残像を貫く。
「あっ! この残像、メダロットのセンサーでは本物と誤認してロックしてしまう仕組みだったのですね」
やっと気づいた様子のユニィ。
しかし、もう遅い。
チャージと回避を繰り返した事で、準備は整っている。
「スタッグ!」
アズキはメダロッチを操作し、直接指示を送信した。
「アズキ、この指示はまさか」
「できる?」
「はい。了解しました」
指示を受け入れたスタッグは、その場でフォースを一気に放出。
彼女の全身を粒子が包み、青白く発光を始めていく。
「この光、まさか」
驚くユニィ。一方スタッグは、
「そういう事だったのですね、アズキ。回避を意識しろという指示はフォースを溜めるために」
チャージ行動を含めて、メダルがフォースを増やす方法は色々と存在する。たとえばダメージを受けたり、パーツが破壊されたりしてもフォースは増える。
その中でも、性格などに影響してメダルが固有で持っているフォースを増やす方法というものがあり、スタッグの場合それが回避に関係するものだったのだ。
で、このフォースを使ったメダロットの必殺技といえば。
「スタッグ、メダフォース発動!」
青白い光はさらに増大し、スタッグの背中に蝶の翅を思わせる光の翼が生え、さらに翼は粒子を庭園一帯に撒き散らしていった。
結果、マゼンタキャット、ブルーティス、バグスティンク、他にもユディトやヤマジローたち暴走メダロットを対処してる味方全員に同じく光の翼が生えていく。
スタッグは言った。
「オーバードライブ!」