「嫌です」
今日も
「と、私は言ったはずですが」
しかし残念ながら今回は事後。
メダロッチから拒絶の返事が鳴った後、それでもアズキがスタッグを転送し、現在すでに自室で
いま現在、スタッグはおっぱいだった。
牛の角を持ち、鼻輪をへそピアスの位置に搭載し、上乳が露出した乳牛柄のドレスに身を包んだメダロット。
今年の干支は一切無視。十二支の丑をモチーフとしたMDT-MYM-00メニーミルクが現在スタッグの外見である。
アズキは、身長差のせいもあってスタッグの胸を見下ろしながら、
「私、今日まで生きててよかった」
「そうですか。私は逆に後悔してます」
このメニーミルクというメダロット。ホルスタインを強調するためかメダテック製品としては異質なほど露骨に大きな胸部装甲を備えている。
しかもメダロットの全長は一メートル前後なので上から谷間が覗き放題。さらに白黒模様はドレスだけで他はしっかり肌色ときたものだ。
これはもう、見た目はクワトロさんに負けないレベルでロリ爆乳の猥褻物といって差し支えない。
アズキは手を合わせて、
「ありがたやありがたや」
「拝まないでください」
「いや、でも本当にスタッグが今日これを着てくれると実利面でもありがたい状況という話なのよ」
五月上旬、ゴールデンウィークに入った。
しかし神宮寺邸の襲撃というショックがみんなの心に残ったまま、連日雨が続いてるせいでモッチーズたちは心まで雨模様。
そのため、先日神宮寺さんが提案をしたのだ。
「今度みんなでバーベキューしませんか?」
って。
アズキたちの近辺には、観光地としても利用される有名な牧場が存在する。
牧場ではバーベキュー場が併設され、場所代を払えば時間制で利用可能。しかも現地でバーベキューセットも購入でき、利用者は何の準備もなしに楽しめるのだ。
で、ここからが本題。
「スタッグ、施設を割引で利用するために今日一日この姿で参加して欲しいという話なんだけど」
つまり牧場では、牛関連のメダロットを連れてくれば一機につき一回ずつ施設内の有料サービスを割引してくれるシステムがあるのだ。
言い方を変えれば、牛型メダロットが二機いれば場所代で一回、バーベキューセットでもう一回割引が利用できる。
「今回はマゼンタキャットも犠牲になってくれるらしいから、お願いスタッグも犠牲になって」
「まるで人質ですね」
「どっちが?」
「両方です。アズキがマゼンタさんでそのお願いをしてるように、神宮寺さんサイドも同じ手段でマゼンタさんにお願いしてる図が頭に浮かびます」
スタッグは言いながらも、
「分かりました。ただしマゼンタさんが普段の姿だったら私も普段の姿に戻りますから」
「えー」
「えーじゃありません」
ここでインターホンが鳴った。
義母が出たところ、神宮寺さんが迎えに来たらしい。
「って、そのバーベキューって今日だったのですか?」
「うん」
アズキは頷きながら、自室の窓からカーテンを開けて外の様子を確認すると、リムジンという程ではないが大型の乗用車が一台停まっていた。
「ありがとう、義母さん」
アズキは返事してから、バッグを持って玄関を出る。
もちろん、今日も雨なので傘は忘れずに。
「おはようございます」
運転席から出てきたのはボウショウさんだった。
先日のメイド服ではなく着物に和傘姿で、息子に先立たれた一児の母という背景を知ってるせいで、独特の儚さを感じる。
「お好きな席にどうぞ。もう皆さまも集まられています」
ボウショウさんが後部席のドアを開けたので中に入ると、
「あ、先生」
と言って、まず神宮寺さんが抱き着いてきた。座席は運転席を含めて四列まであり、二列目と三列目が向かい合う形で、赤城くんやクワトロさんも乗っていた。
あと、脚部だけマゼンタキャットにしたBEF-00ホドヨイシモフリの姿も。
牛の図解がモチーフで、体中に部位の名前が印字されてるメダロットなのだけど、本来ならば脚部は戦車タイプ。
単純にマゼンタキャットのメダルでは脚部相性が悪いから脚だけそのままにした結果と思われるけど、全身余すことなくメニーミルクなスタッグは即、
「それアリなのですか?」
「仕方ないでしょ。戦車が苦手なメダルが戦車脚部使ったらどれだけ鈍足だと思ってるのよ」
マゼンタキャットは言った。
というか、
(ホドヨイシモフリって女型メダロットだったんだ)
アズキはこっそりメダロッチで情報を確認して驚く。ところで、
「そういえばキクナは?」
「こちらですよ」
と、助手席から顔をこちらに向けて手を振ってきた。いまアズキの位置からはしっかり確認できないけど、学校では着れない可愛らしい女物の服を着てるようだ。
「お嬢様が後ろの席がいいと仰って」
ボウショウさんが言った。神宮寺さんの事だからみんなと一緒がいいのだろう。
で、だから逆に三人とは少しだけ距離のあるキクナが助手席に座ったのだ。
こうして、二列目に神宮寺さんとクワトロさん、対面の三列目にアズキと赤城くん、後ろの四列目にメダロット二機が座り、車は発進した。
スタッグが言った。
「とりあえずマゼンタさん。現地で脚部偽装は駄目と言われたら諦めて純正パーツで入ってください」
「嫌よ」
「でしたら一緒にメニーミルクを着ましょう」
「そっちは持ってないってば」
マゼンタキャット。いやホドヨイシモフリが言ったが、
「あ、私持ってます」
さすがはクワトロさん。正確に退路を塞いでくる。あえて後ろを向いてみると、シモフリがすごく嫌そうな顔をしていた。
「なあ、せっかくの車内だし何かBGM流そうぜ」
赤城くんが言うと、クワトロさんが笑顔で、
「はい。ちょうどいい曲を持ってきて」
「ただしドナドナ以外な」
クワトロさんがしゅんと落ち込んだ。
「残酷です。こんな回避方法があったなんて」
牧場に到着した。
施設自体の入場は無料なので、各々が傘をさしながら車を降りてボウショウさんを保護者に早速バーベキュー場に移動。
ここで、脚部がマゼンタキャットのホドヨイシモフリは不可能と職員から判定を受けたが、脚部だけメニーミルクに替えたところOKが出てしまったのだ。
「呪います。マゼンタさんだけ恥ずかしい姿を回避した事を」
レンタルしたテーブルの椅子に早速座ったスタッグは、恨みのこもった目でシモフリを見るけど、
「この姿もかなり恥ずかしいのよ」
「メニーミルクの胴体よりはマシでしょう」
「それは、まあそうだけど」
あくまでスタッグたちにとっては胴体が問題であって、メニーミルクの脚部だけならそこまで深刻に受け取ってないらしい。
バーベキュー場は屋外だったが、テント式の屋根が張られており、雨天でも問題なく利用できた。
皆が傘を閉じてテーブルに集まる中、ボウショウさんは傘を差したまま、
「スタッグさん、バーベキューセットを購入しますので一緒に来ていただけますか?」
「わかりました」
スタッグは立ち上がり、ボウショウさんについて行く。
アズキはそんな彼女の後姿を眺めながら、
(すごい。メニーミルクってお尻も豊かでとても可愛い)
メニーミルクといえば胸ばかりに目が行くけど、脚部のドレスもボリューム感のある広がりをしていて、巨尻を連想させるのだ。
「ひっ」
アズキの視線に気づいたのだろう。全力で距離を取るシモフリ。アズキは「いやいや」と慌てて否定し、
「さすがに脚部以外ホドヨイシモフリは無理だから。それにスタッグだから良いだけで」
「というか、本当にメダロット相手でもそこまで発情するのね」
「待って、まるでメダロット以外の何かにも普段から発情してるみたいに言わないで」
アズキはさらに必死に否定。けど、赤城くんがにやにやと、
「車内でもリーダーのぱんつ見ようとしてたしな」
「見てない。むしろ懸命に視線外したから」
駄目だ。このままだと他の観光客の耳にも届いて通報されてしまう。
「私がどうしたの?」
神宮寺さんが話に入り込んできた。
今日の彼女は肩フリルのノースリーブに短めのスカート。
腕を上げれば脇が見えるだけでなく、胸板すぎて隙間から比喩表現でいうサクランボまで見えかねない危険な格好をしている。今日の彼女はノーブラなのだ。
さらに車内では対面に座ってたので赤城くんの言う通り見ようと思えばスカートの内側も見放題だったに違いない。
赤城くんは悪戯っぽい笑みで、
「いや、先生が今日もリーダーは可愛いなってさ」
「えっ?」
赤くなる神宮寺さん。
あれ、彼女って普段こんな反応をする子だっただろうか。
「えっと、いや、言ってないから。確かに可愛いとは思ってるけど口には一切出してないから」
「思ってたんじゃねえか」
赤城くんはケラケラ笑ってから、
「まあ安心しろよ。今日はオレもクーもみんな安全な格好だからさ。リーダーのミニスカ以外な」
赤城くんは、今日の神宮寺さんはトップスが一番危険だと気づいてないらしい。
しかも、そう言った赤城くん自身、今日は少しサイズ大きめのパーカーにホットパンツ姿。胸は隠れてるけど、脚があまりに出過ぎてていやらしい。
クワトロさんは元から猥褻物だから論外としても、今日は学校の時よりデザインが幼めのシャツに吊りスカートで一見安全そうには見える。
が、実際は胸部にプリントされた大きなハートマークが本人の爆乳で変形し、より一層ロリを強調したおっぱいに仕上がっており、危険でしかない。
とはいえ、今回一番危険な格好をしてる人は別にいる。
それは、
「皆さん。とりあえず火を起こしましたから気を付けてください」
たった今、バーベキューで最初の仕事をしてくれたキクナという男であった。
サブタイトルはTVアニメ、テニスの王子様の第一OP曲「future」より