「ねえスタッグ」
ホームルームも終わり、今日は授業もないので生徒たちはすぐ下校となった。
教室を後にする生徒を見送ってから、アズキは職員室に移動しながらメダロッチ越しのスタッグに話しかける。
「どうしてさっきロボトル受けたの?」
『どうしてって』
「真面目なスタッグだもの、ロボトル禁止の時間しかも教室でなんて普段ならやらなそうなのに」
しかも名誉KWG型だと言いくるめたり。
『アズキに教師の面目を保っていただくためです』
スタッグはいった。
『すでに生徒たちから相当舐められてましたから、何か理由を作らないと誰も授業を聞いてくれないと思いまして』
「うっ」
たしかに。
(でも、この方法だと私が生徒たちを机に座らせたことにはならないのよね)
つまりスタッグは、すでにマスターのイメージアップによって面目を保つという手段を諦めたという話だ。
『そもそも、いきなり転送させられたのは任務上少し焦りましたけど』
「あっ」
そうだった。
アズキたちにとって教師は表向きであり、本来はTMZエージェントとして校舎に潜入してる立場にある。
ならば万一を考えれば、自分たちの戦力や情報を不用意に明かさないほうがいいのは当たり前。
とはいえ、
『まあ、この程度の情報なら遅かれ早かれ漏れるでしょうから、私はもう割り切ることにしました』
スタッグはもうこんな様子なのだけど。
すでに放課後。
廊下は人通りが少なく、まだ昼前だというのに夕方のような物寂しさが校舎を支配していた。
『そういえばアズキ』
思い出したようにスタッグがいった。
『先ほどのロボトルですけど、彼が勝てない一番の理由は何だったのか分かりますか?』
「そりゃ」
アズキは少し考え、
「あっちだこっちだと曖昧な命令しかなかったから?」
『そこも含めて、一言でいえば』
「一言で?」
どうしよう。
スタッグの求める答えが分からない。
「ごめん」
アズキはいった。
「でも、さっきの勝負に限れば、スタッグが強すぎるからだと思ってるから」
『そういうのはいいですから』
呆れ声。けど数秒ほど沈黙が流れたのち、
『でも、ありがとうございます』
スタッグは感謝を述べる。
なんて会話をしながら、階段を下りようと踊り場についた時だった。
「あっ」
ちょうど階段を上り終えた女子生徒が、
「紅下先生」
って話しかけてきたのだ。
アズキは思わず、
「おっ」
ぱい。
「え?」
「あ、ううん何でもない」
アズキは首を振って誤魔化した。
女子生徒は、思わずガン見したくなるほど素敵な胸部をお持ちだったのだ。
アズキは急に湧き上がる欲情と緊張を抑えながら、
「えっと、たしかクワトロさんだっけ?」
「は、はい。クワトロ・チーゼスです」
クワトロさんは返事した。
ロボトルの後クラス全員から自己紹介を聞いてはおり、すごい独特な名前だったのを憶えていたのだ。
また彼女はあの「窓際の席にいる大人しそうな女子生徒」であり、クラスで唯一ずっと真面目にホームルームを受けていたのでより印象に残っている。
ただ、
(近くで見るとおっぱいの主張がすごい)
背はおそらく高くも低くもない。けど一部を除いた発育や顔立ちが同年代より幼くこぢんまりとした印象を覚える。
さらに髪は左右に分けたお下げで、物腰の低さもあって存在感が薄くみえた。
印象的な名前も、遠くからみた彼女は完全に東洋人なせいで顔と名前が一致しない。
しかし近くで見ると暖色の瞳にほんのり色白の肌。
何より、いまの彼女は至近からアズキを見上げる形になってるせいで、豊満な胸部がこれでもかと主張してくる。
一転して日本人に西洋の血を一滴垂らした犯罪級のロリ爆乳が誕生していた。
「それで、えっと」
アズキは要件を聞こうとするも、おっぱいを視〇しないために顔をそらすしかないし、続く言葉が頭から浮かばない。
ので、
『どうされましたか、クワトロさん』
やはり応対はスタッグの仕事になる。
「はい、実は」
クワトロさんは躊躇いがちに、
「わ、私にもスタッグさんと勝負させてもらえませんか?」
「え?」
「それも真剣ロボトルで」
つまり、男子と行った勝負と違って互いのパーツを賭けたロボトルである。
「どうして」
わざわざパーツの奪い合いみたいなのを。
クワトロさんは遠慮がちに、
「その、真剣ロボトルは公式に記録が残るので、上を目指すなら少しでも成果を残したくて。でも同級生には中々言い出せないから」
「だから私に?」
「はい」
うなずくクワトロさん。
(どうしよう)
困った。
断りたいのだけど、上手く伝える言葉が出てこない。
相手が小学生だからこそ、傷つけないよう言葉を探してしまい、余計に分からなくなってしまったのだ。
『分かりました』
スタッグはいった。
『ですけど、教師が生徒のパーツを巻き上げるわけにはいきませんから、パーツを賭けるのは私たちのみにさせていただきます』
「はい」
『それと、わざと負けて差し上げる事もできません。一度やってしまえば勝利数を稼がせてくれると噂になってしまいますので』
「わかってます」
承諾するクワトロさん。
スタッグの提案にアズキは内心ほっとした。
というのも、アズキはクワトロさんの公式記録に貢献するべきだと結論に至りかけていたのだ。
これなら負けが確定してる以上、生徒からパーツを奪わずに済む。
ただ、それはスタッグにわざと相手に倒されてくれ無防備に嬲られ傷つけられてくれと命令しなければならず、それがアズキには嫌だった。
スタッグの苦しむ姿は見たくない。着せ替え以外で。
しかしスタッグの提案を相手が受け入れてくれて、
(よかった。これならスタッグが負けずに済む)
って、アズキは安心したのだ。
スタッグは絶対にロボトルで負けないしピンチにもならない。
アズキの中では、それが絶対の真実だったから。
「でしたら校舎裏に行きませんか? あそこでしたらロボトルできる程度の広さがありますから」
クワトロさんはいった。
「合意と見て
クワトロさんの愛内され校舎裏に到着したとき、そのメダロットは立っていた。
厳密にはメダロットが喋ってはいない。
白虎をモチーフとしたBYC型メダロット「ツンドル」は通信機を持っており、女性の音声はそこから発せられていた。
(でた)
アズキが心の中でつぶやくと同時に、ツンドル(が持つ通信機)はいった。
「このバトルは真剣ロボトルと認定されたんだ。審判はこの
ウォッカと名乗った女性は通信先で何かをガブ飲みし、
「うら~」
と喉を鳴らす。無意味に外国語を混ぜて喋るのはいつもの事である。
彼女はロボトル協会公認レフェリーで、真剣ロボトルが行われると不思議なことに必ず現れて審判役を務めるのだ。
どうやら担当地区というのがあるらしく、アズキの生活圏では大体ウォッカだけどテレビを見るに他のレフェリーも多々存在する。
ただ共通して奴らは神出鬼没で必ず現れる。真剣ロボトルをすると言ったら最後、直後にはいつどこだろうとプライバシーさえ無視して。
「ルールは簡単。互いのメダロットを戦わせ先に相手の機能を停止させたほうが勝利とするんだ。そして勝った方は負けた方からパーツをひとつ奪えるけど」
ウォッカは一拍おいて、
「今回は特例としてクワトロ選手が勝利した場合のみ、このルールを適用することを認めるよ」
この人は、一体いつから会話を聞いていたのだろう。
「メダロット転送します」
慣れてるのだろう。クワトロさんは、この公認レフェリーというよく分からない生態を前にしても動じることなく、
「バグスティンク!」
メダロットを呼び出した。
現れたのはSTN型。
黄色を基調とした戦車タイプの脚部と巨大な装甲板を背負ったカメムシモチーフで、クワトロさんの雰囲気からは想像できない、意外なメダロットの登場だった。
いや、
(巨大な装甲ね)
アズキはクワトロさんの胸部装甲を見て考えを改め、
「どこを見てるのですか?」
スタッグに睨まれる。
アズキは慌てて、
「だ、大丈夫だから。こ、今度スタッグにもそういう意味で装甲厚い機体着せてあげ」
「嫌です」
「痛っ」
足踏まれた。
「で、でもスタッグだって似合うと思うけど」
「嫌です」
「胸の大きな女性型メダロット」
「嫌です」
「おっぱい」
執拗に断られ、アズキがしゅんとしてると、
「あ、あの」
クワトロさんが妙におどおどと言った。
見ると恥ずかしそうに胸を隠し、こちらを警戒している。
「あ」
しまった。生徒の前で性癖をさらしてしまった。
クワトロさんは怯えるような上目で、
「おっぱい好きなのですか?」
アズキは何もいえない。
「先生、ずっと胸ばかり見てましたよね?」
何もいえない。
肯定したら、警察呼ばれる。
「わかりました」
クワトロさんは、少し恐怖で震えながら何か覚悟するみたいに息を整え、
「真剣ロボトルなのに私だけリスクがないままですから、もし先生が勝ったら何かひとつ言うこと聞きます」
「い、いいの?」
「私にできる範囲でいいのでしたら」
彼女の言葉にアズキは口元を隠し鼻を押さえて動揺。
「あ、あわ、わわわ」
え? なにこの展開。
出血は免れたみたいだけど、
(いま、たぶん私ニヤけてる)
フヘヘって声が口から漏れそう。でも同じくらい心臓がバクバクしていますぐ失神しそうでもある。
これは駄目だ。
いますぐ別の衝撃で誤魔化さないと頭の中の桃色が消えそうにない。
なので。
「あう、スタッグ」
「はい?」
「最終手段!」
「はい!」
彼女は清々しい声で返事した後、
スタッグ の
なぐる こうげき! 腹パン!
「ふぇ? せんせい!?」
クワトロさんがびっくりする中、アズキは殴ってもらった腹を抱えながら膝をついて倒れる。
一方レフェリーのウォッカは中々ロボトル開始の宣言ができず待ちぼうけを食らうも、
「まあ、火のつく水を飲んで次回更新まで待つよ。
と、律儀に待ってくれていた。
よく分からない台詞をいいながら。