「ところで、ワタシも提案がひとつあるのですけど」
キクナの姉、ノリカがアズキに言った。
「野菜汁を飲む順番、ロボトルで決めませんか?」
「え、無理」
アズキは即答。だって今スタッグは純正のメニーミルクだから。
メニーミルクのパーツは全てがリペア系、つまり回復技に全振りしたヒーラーなのだ。そんなメダロットで勝てるわけがない。
アズキは二体目を持つ気がないから、他のメダロットを使うという選択肢も取れないわけで。
実際スタッグも。
「私もこのボディでは無理です。せめてパーツ以外から武器を一本握る事さえできれば」
「おや、ワタシにはいっぱいあるように見えますけど? バーベキューセットは二組分買われてますからトングが一本余ってますし、丁度よく串も金串です」
「うっ」
余計な理由をつけたせいで論破されてしまうスタッグ。
って、いや、これ店の備品だから勝手にロボトルで使ったらいけないんだけど。でもスタッグは戦術に手段を選ばないタイプだし、
「仕方ありません。受けましょう」
そのくせ基本は真面目なので首を縦に振ってしまった。
「フフ、これで逃げられませんねアズキさん」
獲物を捕らえた狩人のような、それでいて人をドキリをさせてしまう蠱惑的な声色でノリカがいった。
眼差しも挑発的に妖艶で、一瞬ノリカに魅了されそうになりながら、
「ううっ」
アズキは一度スタッグを睨んだ。
まさかFSLイベントの夜以外にも自分がスタッグに振り回される側になる日が来るなんて。
「大丈夫です。少しでも勝ちを拾う悪あがきはする予定ですから。アズキ、私にも紙コップで野菜汁をいただけますか?」
スタッグが言ったので、アズキは赤城くんから許可を得て野菜汁を手渡す。
受け取ったスタッグ。何をするのかと思ったら、スタッグは突然トングやみんなの食べた串を紙コップに入れて野菜汁に浸し始めたのだ。
「毒を塗りこみます。肉の油が付着したトングや串ですから、少しは表面に絡んでくれるはずです」
「うわっ」
アズキは慄いた。先ほどスタッグは戦術に手段を選ばないと言ったけど、本当に選ばなすぎる。
野菜汁がメダロットに効くかは分からないけど、万一効いたなら相手に串が一本刺さっただけでお陀仏。これは怖い。
「で、じゃあもうひとつ確認だけど」
アズキは現実から目を逸らす気で言った。
「串の残りはロボトルに負けたほうから食べればいいの?」
実際、アズキもノリカも串には底のピーマンが残ってるだけ。しかしノリカは言った。
「いいえ、せーので食べませんか? せっかくですから」
「あ、じゃあ赤城くんに提案」
アズキはここで最後の首謀者である赤城くんを呼んだ。ノリカの魂胆が分かったからである。
赤城くんが、
「なんだ?」
「ルール追加をお願い。もしせーのと言いながら串を完食しなかった側はその場でロボトルに負けた判定で」
「なーるほどなあ。こんなの当たり前だろ、ルール適用だ」
赤城くんがニヤッとした顔でノリカを見た。対して露骨に「フフッ」て顔で誤魔化す彼女の姿を見て、やはりそうだったかとアズキは確信。
せーのと言いながらアズキだけに串を完食させ、まだロボトル開始前だからを理由に先に野菜汁を飲ませようとしていたのだ。
アズキたちは互いに串を握った。
「という話だから逃げられないよ」
「一体何の事でしょうね。ではいきますよ」
ノリカは返す。
で、
「せーの」
ふたりは串から最後のピーマンを食べた。アズキは自分の串をスタッグの紙コップに入れて、
「これで」
「
ウォッカがレインコート姿で現れた。
「これより、必殺仕事人スタッグ対身内からの提供キャラであるノリカとのロボトルを始めるよ。使わせてくれてスパシーバだよ」
ノリカに関する情報はアズキには何の事だか全く分からない。
「では、そろそろメダロット転送としましょうか」
と、ノリカがメダロッチを掲げる。こうして現れたのはDKN型。右腕に槍を持った銀騎士を連想させるメダロットだった。
機体名アリストクルエル。たしかノリカはポリドリと愛称を付けてた気がする。
一方スタッグは、脚部の凹みに串の金輪を一本一本挿して、鍵をかける要領で横向きにして固定。最後にトングを右手で掴んで、
「私も準備完了しました」
と、ポリドリに対峙。
「お久しぶりですね。今日はよろしくお願いします」
「…………」
スタッグは一応挨拶するも、ポリドリ側は口を開かず、軽く礼するだけ。
そういえばノリカのメダロットはとにかく寡黙なのだった。
「ポリドリ、相手はあの姿でもスタッグですから手加減は不要ですよ」
ノリカは言った。対してポリドリは、
「御意」
とだけ返事。おそらくノリカたちは本当に侮らず全力で来るだろう。
スタッグは大丈夫だろうか。
「All right. それではロボトルファイトだよ」
ウォッカが言い、ロボトルが始まった。
「ポリドリ、まずはフリュスヘルムです」
ノリカが指示すると、ポリドリは頭部パーツを使用し、肩全体から透明な蝶の翅を思わせるケープを膝上近くまで伸ばした。
たしか、このケープはガードヒーター相応の機能を持っていて、つまり防御機能と充填・推進力を同時に高める効果を持つ。
おかげで、まずスタッグは素の拳でポリドリにストレートを一本ぶつけるが、
「効きませんね」
ノリカは言った。実際、ケープに防御されて全くに近いほどダメージが入ってないのだろう。
「ポリドリ、ブルートプファル!」
今後はポリドリが右腕の槍で一突き。スタッグはメニーミルクのボディでありながらメダル自身の技量で横に体を反らして回避。
「んンッ」
直後、アズキは慌てて鼻を押さえた。
スタッグの動作によって、メニーミルクのおっぱいがぷるんぷるん揺れたからである。しかもドレス越しのお尻まで。
(あ、危ない)
これはしっかり気を持たないとロボトル決着より前にアズキ自身が機能停止してしまいそうだ。
とはいえ回避には成功。スタッグのチャージ量が上昇するも、
「そこです。続けてアイテルフリュゲ」
避けた先にポリドリの左腕が伸び、今回は避けきれず右腕で防御したが、ポリドリはスタッグを掴んだ左手から衝撃波を放つ。
(しまった!)
ポリドリの左腕パーツはディスチャージ。これを受けてしまうと溜めていたフォースが一気に削ぎ落とされてしまうのだ。
同時に衝撃波によって揺れるおっぱい。
ノリカは言った。
「たしかスタッグさんは避ける事でフォースを増やすメダルでしたね。さて、一度回避した今フォースはどれだけ溜まってますか?」
「ゼロ」
「ええ、そうでしょうね」
そうだった。ポリドリ、アリストクルエルというメダロットはフォース妨害に特化したメダロットだったのだ。
左腕がディスチャージなだけでなく、右腕の槍もチャージドレインという技であり、こちらはフォースを削ぎ落すどころか吸収までしてくる。
対してこちらは、
「メニーミルクのリペア系パーツはフォースをどれだけ溜めてるかが回復量に大きく影響するはず。対策はしっかりさせてもらいましたよ」
と、たった今ノリカが言った通り。
メニーミルクはオートリペアというフォースを高める度に自身を回復させる脚部特性を持っている。
これで回復とチャージ行動を両立させつつ、さらに高まったフォースでより強力なチャージリペアを使用するというのが、このメダロットの性能なのだ。
「このっ」
アズキは苦虫を噛み潰す思いに襲われる。
ただでさえパーツの技で攻撃できないメダロットなのに、コンセプトから見てもポリドリとの相性が最悪だったなんて。
「アズキ、相手の装甲を常に視覚でチェックしてください」
スタッグはアズキに伝えてから、もう一度ポリドリに飛び掛かった。
相手がディスチャージ使用後の防御不可能な冷却状態に入ったのを利用し、ケープの届かない足元狙いで毒トングを振るう。
が、ポリドリは防御自体はできなくても少し屈んだ事でケープを届かせてダメージは入ったと思われるが毒自体は回避。
ならばと脚部から毒串を一本抜いて、屈んだポリドリの頭狙いで突き立てるも、こちらは普通に首を横に倒して避けられた。
そのままスタッグはレイピアを扱うように串で何度も刺突するが、ポリドリの冷却が終了してしまいケープで全て防がれる。
とはいえ、回避ではなく防御なので微量ながらダメージは蓄積してるはず。少なくともケープからは串で貫かれた小さな穴が確認できた。
けど、
(あれ?)
気のせいだろうか。最初に開けた穴がいくつか消えてる気がしたのだ。もしかしたら一定時間で塞がってしまうのかもしれない。
ポリドリが槍の柄を短く持ちだした。
攻撃がくると察したスタッグは、武器を捨てるのも兼ねて最後に敵のアイカメラに串を投擲。しかし、これもケープを直接盾にして弾かれてしまう。
とはいえ、片手がフリーになったスタッグは、相手が槍で突いてきたのをかわしながら、ポリドリの右腕を掴んだ。
(これで!)
アズキは思った。しかし、スタッグが毒トングをケープの内側に届かせようと伸ばした右腕をポリドリが膝蹴り。
「あっ」
と、苦痛で呻いた直後には、ポリドリは槍の柄を長く持ち直し、腕を掴まれたまま槍でスタッグを貫く。
傷口からスタッグのフォースが抽出され、槍に搭載された黒い結晶に吸収されていき、
「あっ、いやぁああああっ!」
スタッグが悲鳴をあげる。実際にエネルギーを吸い取られるような、今までとは異質の恐怖を伴った痛みが襲ってるのだろう。
おっぱいも小刻みに震えて、アズキは何かいけない性癖に目覚めてしまいそう。
ついにスタッグがポリドリの腕を離してしまった。
腕が自由になった事で、ポリドリは両手で槍を握り直し、スタッグを薙ぎ払う。
「きゃああああっ」
突き飛ばされ、床に倒れるスタッグ。その際、さらに体からフォースが抜け出て槍に取り込まれていくのだけど、
「あっ」
スタッグの指示通り相手の装甲を注視してたせいでアズキは見てしまった。
フォースを吸った槍の結晶がわずかに赤みを帯び、今までスタッグが串で何度も突いてできたケープの小さな穴が塞がっていくのを。
ここでアズキは、メニーミルクとの相性が最悪なもうひとつの理由に気づいてしまう。
ポリドリの脚部特性は、メニーミルクと同じくオートリペアだったのだ。
つまり、ポリドリの槍で攻撃される度に、スタッグのフォースが吸収され、ポリドリのフォースが増えた事でオートリペアが起動して回復していく。
何度でも、何度でも。
さらにフォースはダメージを受けても若干蓄積されていくので、スタッグが串で刺してもオートリペアは起動してたのだろう。
だから、先ほどスタッグが刺した古い穴が塞がっていたのだ。
「さすがはスタッグさん。攻撃パーツを持たず、ただの拳とトングと串しか無い中で素晴らしい攻撃の数々、ここは素直に見事だったと言っておきましょうか」
と、ノリカは言ったが同時に、
「でもワタシのポリドリはダメージを受けてません」
つまり、オートリペアで全快されてしまったという事。
スタッグは慌てて、
「アズキ、本当ですか? 相手のケープに穴は残ってませんか? もう一度串で突けば胴体に刺さりそうな隙間は」
というのが、スタッグがアズキに指示した理由だったらしい。けど、アズキは言った。
「ごめん、それも全部塞がってる」
「そんなっ」
スタッグの絶望が声に漏れる。
この様子を見て、ノリカは言った。
「フフッ、いまこのロボトルはマイカゼさんの妹様、フクカゼさんも見てる事ですから。……ちょっとだけ、ファンサービスをお見せしましょうか?」
「ファンサービス? まさか!?」
赤城くんが反応する中、そんな赤城くんのためにノリカは演じ始める。
「希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ人間は一番美しい顔をする」
「やっぱり! あれはメダロットZEXALの登場人物、フォーマス・ポークライトの! って事は出るのか、あの名台詞が!」
まさに一番美しい顔をするスタッグ。
興奮する赤城くん。
ノリカは言い切った。
「あなたのロボトルは素晴らしかった! コンビネーションも! 戦略も! だが! しかし! まるで全然! このワタシを倒すには程遠いんですよねぇ!」
今回登場しました「アリストクルエル」は自分や身内も含めて複数の方々がデザインに関わっているオリジナルメダロットです
今回の使用にあたって問題がありましたら、ハーメルンのメッセージ、Xなどでご連絡をお願いします
メダロット解説
以下の設定は小説内オリジナルとなってます。
[機体名]
アリストクルエル
[型式番号]
DKN型
[性別]
男
[パーツ]
◆頭部:フリュスヘルム(補助/ガードヒーター//3回)
◆右腕:ブルートプファル(格闘/チャージドレイン/)Hv
◆左腕:アイテルフリュゲ(格闘/ディスチャージ/がむしゃら)
◆脚部:ツェルトレガース(二脚/オートリペア)
●HV:0/1/0 合計:1/2
[備考]
当作品のオリジナル(形式上は身内からの提供扱い)。DKN型のメダロット。
「銀の騎士が血を啜る魔槍に魅入られ、吸血龍に変貌する」というモチーフを元に制作された機体。
通常形態は防御と自己回復による継戦能力を重視しており、チャージドレインで敵機体のチャージゲージを吸収することによりメダチェンジを解禁。
メダチェンジ後は自身へのマイナス症状を伴う各特性をぎゃっきょうにより自己強化へと転化し、暴走じみた攻撃性能で以て蹂躙するという戦術コンセプトを持つ。
(提供者様からのコメントより)
上記の通り、現在は諸事情で通常形態のデータだけ公開してますが、メダチェンジ後のデータも頂いております(今回のロボトルでメダチェンジは行いません)。