一方こちらはキクナ・ノリカ・マイカゼを乗せた車サイド。
「さて、そろそろ教えてもらおうかな」
車内に座りながらマイカゼが言った。
キクナは、
「うーん、何のことですか?」
「全てだよ」
マイカゼの視線が真っすぐキクナに向けられる。
「先日、神宮寺邸が襲撃されたそうじゃないか。つまり私の妹も何かの事件に巻き込まれた。いまフクは何に関わっているんだい?」
「それを今調べてるところですよ」
嘘は言ってない。けど、
「だったら、現在どこまで調べがついてるのかな?」
「う、うーん」
「逃げ場は無いよ。フクが危険な目に遭った以上、いまキクナ君が持ってる情報、立っている状況は全て教えてもらうからね」
マイカゼは言った。
「まあ、いま君がTMZ、いや田村崎グループ全体に不審を抱いてる事はすでに調べがついてる。だから、私とも距離を置きたかった事も分かってるつもりだよ」
「ある程度はお見通しという事ですね。いつまでも隠しきれないとは思ってましたけど」
「ブルー博士の事もあるから友としては静観するつもりだったけど、そうも言ってられなくなったからね。何があったんだい?」
「え、待ってくださいですよ」
驚くキクナ。
同時にノリカの視線もマイカゼに向けられる。こちらも同じく驚きながら。
キクナは言った。
「マイカゼさん、母の事何か知ってるのですか? いえ、どこまで関わってるのですか?」
直後、急停止する車。
「どうしたの?」
マイカゼが運転手に向かって言うと、
「すみません。突然メダロットが正面に飛び出してきて」
運転手は言った。この報告を聞いてすぐキクナは車の正面に立ってるというメダロットを確認して、
「あっ」
となった。
メダロットはレッドマタドール一体に脚部をデアタウロスの物にして浮遊型になったタウルスが二体。しかも、どれも目が赤く輝いており、暴走していたのだ。
さらに集団のリーダーと思われるレッドマタドールが言った。
「よし、この車だ。奴のメダロットを我が同胞に迎え入れるぞ」
キクナは辺りを見た。
まだ牧場を抜けたばかりで、地面はコンクリートで整備されてない林道。雨天だからか人通りも無く相手にとって襲うにはうってつけの場所である。
逆に、迎撃に出るならこちらも人目を気にせず戦えそうだとキクナは思った。
「ごめんなさいですよ。説明する前にマイカゼさんもお姉ちゃんも巻き込んでしまったようです」
といってキクナは外に出ようとしたが、ここでノリカが、
「いえ、ワタシが出ましょう」
「これはTMZエージェントの問題です。相手の目的は僕でしょうから、マイカゼさんとお姉ちゃんはむしろ顔を見られないようにしてください」
しかしノリカは、
「案外、相手の目的はワタシかもしれませんよ?」
と言って、勝手に車を降りてしまった。
キクナは腕を伸ばして、
「お姉ちゃん」
と呼びかけるが、もう遅い。
ノリカは、
「キクナ? いま何が起きているのか後でちゃんと話してもらいますよ? ええ、当然マイカゼさんの前で」
と言ってから暴走メダロットたちに接触する。
「何の御用でしょうか?」
ノリカが言うと、レッドマタドールは、
「ちょうど本命が来てくれたか。貴様には我々とロボトルをしてもらう」
「本命、やはり目的はポリドリでしたか」
「拒否するなら貴様らの車を直接破壊する」
「それは困りましたね」
ノリカはアリストクルエルのポリドリを転送し、
「分かりました。その拒否権の無いロボトルを受けてさしあげましょう」
「駄目ですよ、お姉ちゃん。あれは暴走メダロットです。もし負けたらポリドリも暴走してしまう可能性が」
キクナが言った。けど、ノリカはフフッと不敵に笑う。
「確かにタウルスに理性は無いようですけど、レッドマタドールは暴走ではなく洗脳という言葉が近そうですね。それに負けなければいいのでしょう?」
ノリカは言って、さらに。
「この数ならワタシひとりで十分でしょうね。味方はむしろ邪魔ですから、キクナも手出しはしないでください」
「いいえ、危険と思ったら強引にでも介入しますですよ」
と、キクナは言ったが今すぐ介入はしない。
ポリドリにとって、下手に味方がいる事は却って本当に邪魔である事を知ってるからだ。だからこそ、キクナは諦めるしかない。
今回はウォッカの介入もなく、正式ではない形でロボトルが始まった。
「ポリドリ、フリュスヘルム」
「御意」
「総員、頭部パーツ使用。攻撃準備に入れ」
「ウオオオッ」
まず四機のメダロットたちは全員頭部パーツを使用。
ポリドリの肩から透明なケープが伸び、レッドマタドールは全ての攻撃を無効にするかんぜんガードの体勢をとり、タウルスたちはデスパレートを使用。
攻撃パーツの威力を三倍にするかわりにダメージの半分が反動として自分も受けるという特殊すぎる状態に入り、
「攻撃開始」
レッドマタドールの指示で、タウルスたちは肩から伸びた牛の角がモチーフの突角でポリドリを突き刺そうとタックルするも、
「ポリドリ」
ノリカから余裕を感じさせる声色での指示。同時にポリドリ自身も相手のタックルを鮮やかに回避。
ならばとタウルスはポリドリを挟み撃ちにして拳で殴りかかるも、ポリドリは涼し気に避け続けてしまう。
途中、右腕の槍でタウルスを薙ぎ払おうとしたが、かんぜんガードを使用していたレッドマタドールが庇って、
「ええい。なら俺が直接行く」
レッドマタドール自身が右腕のサーベルで斬りにかかるも、やはり当たらない。
「どうしてだ! 相手はメニーミルク如きに倒されたメダロットだぞ。ぐわっ!」
逆にポリドリの槍で斬られ、フォースを吸収されてしまうレッドマタドール。槍に搭載された結晶がわずかに赤みを帯びる。
ノリカは言った。
「やはり、あのロボトルを見ていたようですね。その結果、非戦闘型メダロットに負けた事実だけを捉えてワタシのポリドリを侮っていたのでしょう」
「何だと?」
「逆にこうは考えなかったのですか? たとえ姿形がメニーミルクだろうと彼女ほどのメダルだったからこそ、あの金串がポリドリに当たっていたと」
「くっ、タウルス攻撃続行! なんとしても一撃を当てるんだ」
レッドマタドールは再び頭部パーツを使用してかんぜんガード体勢に入り、タウルスはがむしゃらなタックルをぶつけようとする。
当然、ポリドリには当たらない。
「ポリドリ、チャージ開始」
ノリカの指示を受けてポリドリはチャージ行動をとった。槍を天に掲げ、結晶をさらに赤く染めていく。
しばらくして、
「まさか、こんな事が」
驚愕した様子で言いながらレッドマタドールがガード体勢を一度解いた。
頭部パーツの機能を使い切ってしまい、これ以上かんぜんガードが出来なくなったからである。
レッドマタドールにとって、作戦は完璧なはずだった。
自身がかんぜんガードを使用する事で、タウルスが反動ダメージ以外を受けなくなった間に、デスパレートで威力を三倍にした攻撃で一気に仕留める。
まさか、一度も攻撃が当たらないなんて。
ならばと今度は左腕のマントを使って再びガード体勢に入るが、今回は普通のガード。
即座にポリドリが槍でタウルスに斬りかかり、庇ったレッドマタドールからフォースを吸い出した。
槍に搭載されていた黒い結晶は完全に赤く変わり、輝きを放ちだす。
ノリカが言った。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
直後だった。
ポリドリの臀部が拡張し、槍と連結して尻尾を作る。さらに頭部のバイザーが下にスライドすると内側の素面が割れて牙持つ赤い瞳に変貌。
瞬く間にアリストクルエル、ポリドリは一体の黒き龍に変貌したのだった。
ポリドリは言った。
「残念だが、ロボトルなどと云う幼稚なお遊戯はここまでだ」
「うっ」
寡黙だった騎士の姿とは一転。
傲慢にして孤高。対峙する者全てを畏怖させる凶暴性を露わにしたポリドリの威圧にたじろぐレッドマタドール。
ノリカはいった。
「スタッグさんのケツメダロットは滑稽だったでしょうけど、アナタまで野菜汁に操られてしまったのはそれ以上に不愉快だった事でしょう?」
「不愉快、か。ククッ、その程度の言葉でこの怒りを顕わされるのは心外だな。姫君よ」
ニヒルに笑いながら、今にも怒りを爆発させそうなポリドリ。
そんな自分のメダロットを見ながら、ノリカは微笑んで、
「フフッ、そんな不満をぶつける相手が丁度三匹いますね」
「さて、ここから先は一方的な蹂躙だ。貴様らは一体何秒間、私を愉しませてくれるかな?」
数分後。
出発した車の後ろには、かつてメダロットだったガラクタが転がっていた。
サブタイトルはTVアニメ、テニスの王子様の第一ED曲「You Got Game?」より
これで第10話は終了になります