メダロットHERMIT   作:CODE:K

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11-1 mocheese of the resurrection1

 

「スタッグ、あと五分」

『駄目です』

 

 今日も紅下(コシタ)アズキが話を投げかけたところ、腕時計型デバイス『メダロッチ』から拒絶の返事が鳴った。

 

 なお、今回のやり取りは早朝の起床時、ではない。

 朝なのは間違いないが、現在アズキは本来在学している高校からすぐ近くにある人気の無い裏道にいる。というか学校に入る勇気がなくて震えていた。

 

 今日は定期試験の当日である。

 

 TMZの仕事で普段通学していないアズキとキクナ。

 けど、バーベキューの時にも話したように、定期試験だけは登校して他の生徒と一緒に教室でテストを受ける事になっているのだ。

 

 なお試験対策は、いまの自分にできる事は全てやったつもりだ。

 勉強は毎日欠かさず行ったし、勉強会では過去問のデータを貰ったり、教師の性格から割り出した実際に試験に出てきそうな問題とかも教えてもらった。

 

 なら、なぜ登校できないかというと、

 

「不登校だった子が復学する時の気持ちが分かった」

 

 アズキは呟いた。

 事情があったとはいえ、本来毎日通うはずだった場所に一か月以上行かなかった。そんな自分が久々に顔を出すという事自体が単純に物凄く緊張するし怖いのだ。

 

 教室ではどんな目を向けられるのだろうか。何を言われるのだろうか。むしろ忘れられてたりするかもしれない。

 アズキでさえこの様なのだ。いじめで長期不登校だった子だと一歩を踏み出すのがどれだけ大変か、想像するだけでぞっとする。

 

「あ、こんなところにいましたか」

 

 不意にアズキは声をかけられた。

 振り返ると、女子制服姿のキクナが立っていて、

 

「おはようございます」

「キクナ、どうしてここに」

「アズキさんを探してですよ。先に登校していたお姉ちゃんが、まだアズキさんが教室に顔を出してないと連絡をしてきたので」

 

 キクナがくすりと笑った。

 

「校門を潜る寸前で怖気づいて、どこかに隠れてスタッグさんに泣きついてるのかなと思いまして」

『よく分かりましたね』

 

 メダロッチからスタッグが言った。

 

『前年度は三学期の終わりまで登校してたのですから、いまさら怖がる必要もないと思うのですけど』

 

 スタッグは呆れた声で、

 

『どうしてでしょうか?』

「だからこそ、久々に顔を出す気恥ずかしさはあると思いますよ?」

『気恥ずかしさ?』

 

 メダロッチ越しにスタッグがきょとんとした反応をみせる。

 キクナは言った。

 

「ずっと欠席してた人が突然顔を出すのですから悪目立ちしそうじゃないですか。あのアズキさんがそれを平気で耐えられると思いますか?」

『思いませんね』

「僕でさえ入学式を欠席した身で定期試験の日に初登校ですから変にプレッシャーを感じてしまって、それでお姉ちゃんより遅れて登校しましたから」

 

 との言葉を前にしてアズキは、

 

「キクナなら男子なのに女子制服着て似合ってるとかで悪目立ちには慣れてそうなのに」

「それはそれ、これはこれです」

 

 改めてアズキは今日のキクナを見た。

 

 低めの背丈で、清涼感を感じさせるロングストレートの髪。そんないつものキクナが今日は学校指定の女子制服を着てアズキの前に立っている。

 中学時代も思ったけど、男なのに女子制服姿に違和感が全く無く、むしろ他の子と比べても美人で可愛くて、女子生徒として目立つ側なのは間違いない。

 

 アズキだって、TMZとして付き合いがあり男と分かってるから自然体に近い形で会話できるのだ。

 男と知らなかったら、その容貌を前に目も合わせられなかっただろう。

 

(これは、マイカゼさんが危惧してたの現実になりそうだなぁ)

 

 とはもちろん、キクナを見て性癖や脳が破壊される生徒が続出するという意味である。

 

「まあ、それはともかくアズキさん、覚悟を決めて一緒に学校に入りましょうですよ」

 

 キクナはいった。

 

「実際問題、僕たちにはこうして無駄に怯えてる時間はないはずですよ。それより、早く教室に入って最後の悪足掻きで教科書を読み直したほうがいいはずです」

「うっ」

 

 そうだった。

 授業にはほとんど出席してないのに定期試験で上位をキープ。これがアズキたちの任務続行と進級をクリアするノルマなのだから。

 

 と、ここでアズキのメダロッチに着信音が鳴る。

 スタッグが、

 

『メールが届きました。相手はモッチーズ三人のようです』

「三人から? どんな内容か自分で読んで確認してもいい?」

『はい』

 

 スタッグは言うと、メールアプリが開いて三人から受信したファイルが表示される。

 アズキは順番にファイルを開いた。

 

 まずクワトロさんからは、

 

『定期試験頑張ってください。みんな先生の帰りを待ってます』

 

 次に赤城くんからは、

 

『テスト頑張れよ。もし上位キープできたら、またみんなで遊びに行こうな』

 

 最後に神宮寺さんからは、

 

『先生、テスト頑張ってください。私も応援のために何かサプライズするから』

 

 と、神宮寺さんだけ嫌な予感がする内容が書かれていたが、どれもアズキを応援するためのメッセージだった。

 

「慕われてますね、アズキさん」

「うん。幸運な事に」

 

 キクナの言葉に、アズキは頷いた。

 

 

 

 生徒たちの応援と、昇降口まではキクナと一緒に行動できたのもあって、アズキは無事に登校する事ができた。

 

(たしか私のクラスは)

 

 メダロッチから学生証データを開きながら廊下を進み、自分のクラスを探す。

 記載されたデータによると、今年アズキは二年B組所属という事になってるらしい。

 

(あ、多分ここだ)

 

 該当のクラスは、階段を上って二階に到達すると、すぐに見つかった。

 ここでスタッグが、

 

『アズキ、普通に入ったほうがいいですよ?』

「え?」

『室内を一度覗いたり、そーっと入るみたいな仕草をしたら逆に目立ちます』

「あ、うん。ありがとう」

 

 まさにやろうとしてたので助かった。

 アズキは一度深呼吸してから普通に普通にと心がけながら中に入る。

 

 結論から言うと、アズキが教室に入ったところで騒がれもしなかったし、良くも悪くも普通だった。

 

 一応、アズキを見て「あっ」となる生徒もいたけど、大半がおはようの挨拶もなくタブレットで開いてたのだろう教科書のデータに視線を戻す。

 これから定期試験を行うのだから当たり前である。

 

 ただ全員が全員、最後の追い込みをしてるわけでもなく友達と喋ってる生徒も結構いて、アズキはその中のひとつに視線を向けた。

 

 ひとりの男子生徒が席に座ってタブレットを開く中、その机を囲むふたりの女子生徒。

 両手に花状態の男子は恥ずかしそうにしながら、女子たちに交じって三人で雑談してる様子だった。

 

「おや」

 

 そのうちのひとりがアズキに気づいて、

 

「やっと出席できましたか。おはようございます、アズキさん」

「うん、おはよう。ノリカ」

 

 アズキは鞄を持ったまま輪に混ざり、

 

「それとマイカゼさんと帯刀くんも、おはよう」

「おはよう、遅かったじゃないか」

 

 マイカゼさんは言い、

 

「っ、おはよう」

 

 ぶっきらぼうに、机に座っていた男子生徒である帯刀ショウイチくんも挨拶を返した。

 

(なんていうか、凄いメンバーだなぁ)

 

 と、アズキは思った。

 

 まず帯刀くんは白めの肌に眉目秀麗な美青年で、学校制服も彼が着れば気品に溢れた礼服に早変わり。彼を好いている女子は多いと聞いている。

 ノリカも銀髪赤目の浮世離れした美貌の持ち主で、ラテックス製の黒いボディスーツの上から制服を着ているのもあって、とても目立つ。

 

 さらに今年は、ここにマイカゼさんも加わってるのだ。

 

 あの田村崎一族のご令嬢で、今日もリボンの結び目がウサギの耳みたいに突き立ち、見た目は完全にマスコット。

 しかも、まさか校内でも腕の丈が合わない制服をブラウスの上から羽織る格好をしてるとは思わず、やはりとても目立っている。

 

 そんな三人が一か所に揃ってるのだから、とても異質なオーラを放っているようにアズキからは見えたのだ。

 マイカゼさんが言った。

 

「勉強のほうは間に合ってそうかい?」

「まあ、帯刀くんから貰ったデータのおかげで、たぶん出来ると思う」

 

 アズキが言うと、帯刀くんがタブレットを操作したまま、

 

「あんなものは試験勉強の初手だ。それだけで突破できると思わないほうがいい」

「それは分かってるけど」

「ならいい」

 

 と、アズキには視線を向けずに言った。

 タブレットをそっと覗いてみると、どうやら問題集を解いてるようで、そこを横からノリカが、

 

「あら? ショウイチさん、その解答間違えていますよ」

「なっ、あっ」

 

 帯刀くんは慌ててタブレットに記載した解答を打ち直す。

 ノリカは含みのある笑みを見せ、

 

「ふふ、ショウイチさんでも間違える事があるのですね。大丈夫ですか? もうすぐ試験開始なのに」

「う、五月蠅い。大体ノリカたちが騒がしくするから気が散っただけだ」

「本当にそれだけでしょうか? これだけ美女に囲まれて恥ずかしいからではないのですか?」

「勝手な事を言うな、黙っててくれ」

 

 言いながら顔を真っ赤にする帯刀くん。

 大正解らしい。前年度も一緒のクラスだったのもあり、彼がこれだけ良い容姿を持ちながら女性免疫が無い事をアズキは知っていた。なので、

 

「わかる。帯刀くん、わかるよ」

 

 アズキはその場でうんうん頷いて、

 

「私も女性免疫足りないから、自分が座ってる机を囲んでノリカやマイカゼさんが話しかけてきたら、きっと恥ずかしさで気が動転すると思う」

「どうして同じ女の君まで女性免疫が無いんだい?」

 

 まだ付き合いが短いおかげで、少し困惑をみせるマイカゼさん。

 続けてノリカが、

 

「ワタシはアズキさんも含めて美女と称したつもりですけどね」

「え゛?」

 

 アズキまで顔が真っ赤に。

 

 直後、予鈴が鳴った。

 マイカゼさんが、

 

「おや、もうこんな時間だったか。じゃあ私たちも席につくとしよう」

「そうですね」

 

 頷くノリカにアズキは、

 

「あ、ごめん。私の席どこか教えてくれる?」

 

 と言って、教えてもらった席につく。

 何となく帯刀くんに視線を向けると、彼はすでに平常心を取り戻してたように見えるが、視線はどこかノリカに向いてるように映った。

 

 帯刀くんはノリカに特別な想いを抱いてるのだ。

 あくまで去年も一緒のクラスだったアズキの推測で、確定ではないけど。

 





サブタイトルは劇場アニメ「コードギアス 復活のルルーシュ」内のBGM「Lelouch of the resurrection」より
Lelouch(ルルーシュ)をmocheese(モッチーズ)に差し替えました

今回登場しました「帯刀 ショウイチ」は正気山脈先生から提供頂いたキャラクターです
使わせていただき、ありがとうございました
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