定期試験の一日目が何とか終了した。
アズキは机に座ったまま背伸びして、
「んっ、やっと終わったー」
「さすがにその反応はちょっと気が早すぎるよ」
笑いながらマイカゼさんが近寄る。けど、
「分かってはいるけど、私にとっては今年度の初登校日でもあって、ものすごく緊張したという話だから」
なんて話してると、
「というか、ちゃんと勉強してたの?」
「ずっと不登校だったからって赤点じゃないよね?」
登校時間とは打って変わり、他の女子生徒たちが何人もアズキの席を囲むように集まってきた。
これがアズキにとっては不意打ちで、
「へぁ? まあ、と、登校はしてなかったけど勉強はしてたから一応手応えはあったつもりだけど」
変な声が出たし、同年代の女子が放つ色香の密集に、アズキは顔を赤くし目を回す。
女子たちは笑って、
「出た、紅下さんの男子中学生みたいな反応」
「さっき私の胸見たでしょ。男子と視線が同じだもの分かるわよ」
「あうあう」
からかわれ、さらにアズキの頭がショートする。
ここでマイカゼさんが、
「まあまあ、アズキ君の反応が面白いのは確かだけど、今日は疲れてるみたいだしその辺にしてあげないかい?」
「そうね、一日目でバテてたら体がもたないもんね」
「じゃあまた明日ー」
といって、アズキを解放して教室を後にする女子たち。
アズキはさっきとは逆に机に突っ伏して、
「マイカゼさん、ありがとう」
「事実を言ったまでだよ。さて、私たちもそろそろ帰ろうか。家まで送ろう」
「え? いや、そこまでしなくても」
「ちょっと気になる事があってね」
マイカゼさんは言った。
「シルコ君といったよね神宮寺のお嬢様。あの子が君にメッセージで送ったサプライズという言葉が気になって」
「待って、どうしてそれを知ってるんですか?」
アズキは一言も生徒からの応援を彼女に伝えてないというのに。
「情報源はキクナ君だよ。アズキ君だってあのメッセージを見て試験中に何も起きないとは思ってないだろう」
「まあ、ろくでもない事考えてそうとは」
「しかも、彼女はロボロボ団の幹部だそうだね?」
「あ」
そうだった。神宮寺さんはロボロボ団を動かせる立場の人間なのだった。
しかも求めてるのはバ〇キンマンのようにコミカルな悪役。まさにロボロボ団らしい子供レベルの悪戯を大々的に行う事そのものが目的みたいな子なのだ。
「彼女にとっては単なるサプライズでも、実際にはちょっとした事件に発展してもおかしくない。試験中は警戒したほうがいい、とキクナ君から言われたわけだよ」
「まあ、そこは私も同意です」
「だから試験中、アズキ君やキクナ君たちの登下校は私の家の車で送迎する事にしたんだ。なるべく纏まって動いたほうが異常事態に対処しやすいと思ってね」
「そういう事」
アズキは納得した。
「いまノリカ君にはキクナ君の下に向かわせてるから、昇降口を出たところで四人合流しよう」
「わかりました」
「本当はショウイチ君とも一緒に行動したかったけど、クラスメイトたちのおかげでアズキ君に伝える前に帰られちゃったからね」
「まあ、今日いきなりサプライズが来るとは限らないから大丈夫だとは思うけど」
やる側も準備とか色々あるだろうし。
といった流れで、アズキはふたりで一緒に教室を出る。
直後だった。
「あ、アズキ」
先ほど話題にあがった帯刀ショウイチくんが廊下で待ち伏せをしていたのだ。しかも目的はアズキらしい。
「え、帯刀くん? どうしたの?」
アズキが一度驚いてから言う。
まさか恋の相談、は人選的にありえなさそうだし。本当に何の用事で接触してきたのか分からない。
「その、すまなかった」
「え?」
「例の試験対策のデータだ。今回、俺の想定していない問題が多く出たから、逆にお前のテスト対策を邪魔してしまったと思って」
「ああ」
アズキは納得した。
「大丈夫。単に山が外れただけだし。帯刀くん自身が言ってたでしょ、あれは試験勉強の初手だって」
「なら、大丈夫だったのか?」
「うん。自力で勉強した範疇でなんとか手応えある結果にはなった、と思う」
アズキが言うと、帯刀くんはどこかほっとした様子で、
「そうか」
「それに、仮にこれで本当に失敗したとしても帯刀くんのせいにはしないから安心して」
「ならいい」
そういえば帯刀くんは女性免疫が無いだけでなく、人間不信でもあるのだった。
初対面の時はもちろん。キクナやノリカを介してある程度接する機会が増えた今でも、ふたりほど信用されてないんだろうなと思う時は度々ある。
「それより、丁度良かった。マイカゼさんがね」
アズキは事情を説明し、帯刀くんも一緒の車で下校する事に決まった。たぶんキクナやノリカも一緒という話だったのが大きかったと思う。
こうして三人で階段まで足を進めた時だった。
「ん?」
帯刀くんが何か反応を見せたので、
「どうしたの?」
「何でもない。ただ廊下の窓から黒い影が一瞬映った気がしただけだ」
「黒い影? スタッグ?」
アズキはメダロッチに呼びかけたが反応がない。
そうだった。
試験の際、カンニング防止のために生徒たちはメダロッチなどの電子機器を強制的に電源オフにされ、そのまま再起動するのを忘れていたのだ。
改めてアズキはメダロッチを起動して、
「スタッグ、この辺りで何か不審な生体反応は見つかってない?」
数秒後、スタッグは返事。
『ロボロボ団の反応がいくつかあります。ですけど、全員校舎から離れていくのが分かりました。おそらく今日はもう撤退に入ったのでしょう』
報告を耳にしてマイカゼさんは、
「やっぱり、試験日のどこかでロボロボ団を使って何かする気だね。あの子は」
やれやれといった様子で言うのだった。
「誰か一匹捕まえられそう? さっき近くの窓から黒い影が見えたって報告があったんだけど」
『残念ですけど、今からだとファンシーエールの姿になっても、その近くにいたというロボロボ団でさえ追いつけそうにはありません』
「追跡は?」
『やってみます』
スタッグが言ったので、早速アズキはスタッグを転送する。
今回の姿は、頭部がセーラースタッグ、右腕と脚部がファンシーエール、左腕はマゼンタキャットのパーツと博物館のときと似た構成である。
スタッグは自分の姿を確認し、
「またマゼンタさんの左腕。もしかしてアズキ、お気に入りなのですか?」
「というよりサンダーが使いやすくって」
アズキは言った。
帯刀くんは廊下の窓を開け、
「ここだ。この窓から黒い影は見えた」
「じゃあスタッグ、お願い」
「分かりました」
アズキの指示を受け、スタッグはわざわざ箒に乗って飛翔し、窓から教室の外に出る。
「じゃあ、私たちも早くノリカ君たちと合流しようか」
マイカゼさんは言った。
結局この日はロボロボ団に撒かれてしまい、五人で車に乗ろうとした辺りでスタッグが「すみません」と戻ってきたのだった。
翌日、アズキたちは別のTMZエージェントを動員して捜査に入ってもらった結果、試験中にロボロボ団一匹の捕獲に成功。
尋問の結果、昨日のロボロボ団は学校のスケジュールを調べるために、校庭や廊下に生徒がいる時間を避け、試験が始まってから校内に潜入したらしい。
しかし団員たちもカンニング防止の装置に引っかかってしまい、全員のメダロッチが強制的にオフ。他の用意した機器も全て使えなくなってしまったとか。
で、当日の試験が終わりメダロッチが使用可能になったものの生徒が動き出したので即撤退。とまあ、まさにロボロボ団らしいお間抜けを晒したわけである。
ただし二日目からは対策を用意し、試験中の時間もメダロッチを含む各機器が使える状態で活動したらしい。
結果、一匹は捕獲できたものの、
「一日遅れですけど、学校側の段取りが全て知られてしまったわけですね」
下校中の車内でメダロッチからの通信越しに報告を受け取ったキクナは言った。
捕獲したロボロボ団はすでにセレクトに引き渡した。その際、セレクトから逃げるためロボロボ団は今日のところは撤収した模様。
しかし、まだ潜入してる個体が残ってるかもしれないのでエージェントたちは校内の潜入捜査を続けてるらしい。
「一応、教師が帰った後を狙って再潜入してくるかもしれません。期間中は夜間まで捜査をお願いできますか?」
キクナが言うと、
『分かりました。では』
エージェントは返事し、通信が終わった。
「いつもの事ながら、ロボロボ団には困ったものだな」
メダロッチから何か操作しながら帯刀くんは言った。
基本的に教科書や勉強用のデータは昨日使ってた学校指定のタブレットに入れる場合が多いので、多分いまは勉強しているわけではないらしい。
逆にノリカは勉強中なのかタブレットを開きながら、
「そのうえ、今回の首謀者はバーベキューで一緒だったあの子と伺いましたけど」
「はい。神宮寺シルコさん。マイカゼさんの妹さんがリーダーと呼んでた子です」
キクナは言った。
なお、帯刀くんとノリカは本来TMZとは全く関係ない民間人の立場だけど、今回は協力者という体で関わってもらっている。
変な話だけど、マイカゼさんも同じ形だ。
そのため、神宮寺さんの情報はすでに事細かく三人の耳に入れてあり、
「早ければ明日には何か行動を起こす可能性があるな」
帯刀くんが言った。
「おそらく、そのシルコという子供はあまり綿密な準備は行わないタイプだろう。思い立ったらすぐ行動、早ければ早い程良いと考えてそうだ」
「ううん」
けど、アズキは否定して、
「確かに神宮寺さん単独なら明日突撃とかしてきそうだけど、何となく今回は背後にモッチーズが絡んでるんじゃないかなって」
アズキはここで自分の推測を言ってみる。
「三人のメールが同時だったからね。たぶん互いに送った内容は把握済だと思うのよ。だとしたら普通なら悪を嫌う赤城くんが止めないはずはないし」
「すでにフクを懐柔済という事かい?」
「まあ行き過ぎないよう見張るブレーキ役を兼ねてだと思うけど」
マイカゼさんの問いにアズキは頷き、
「クワトロさんは神宮寺さん大好きだからきっと彼女側のはず。ここでクワトロさんもロボロボ団には協力しないスタンスだったら杞憂だけど」
「ふたり掛かりの暴走を止められるのであれば、そもそもバーベキューの野菜汁ゲームもフクカゼさんが止め、いえ」
ノリカは言いかけ、
「途中までノリノリでしたねあの方も」
「うん。だから今回はロボロボ団側の背後に三人ともいるんじゃないかなって疑ってる」
と、アズキが言うと帯刀くんが、
「なら、そのふたりの情報も教えてもらおう。後でキクナと一緒に作戦を立ててメールで送信する」
「ありがとう」
アズキは頭を下げた。
逆にマイカゼさんは頭を抱えて、
「しかし、まだ憶測の域とはいえまさかフクと敵対する事になるとは思わなかったよ」
「そもそも、僕たちもモッチーズとは敵対すること自体が久々です」
キクナが言った。アズキは頷いて、
「神宮寺さん単独とは何度かあったけど、基本ずっと味方だったからね」
たまに忘れそうになるけど、元々モッチーズは三人セットで問題児というのが学校側の認識である。
アズキはいま、改めてモッチーズがメダロットのアニメや漫画で猫亀犬として定番の悪ガキ三人組ポジションだった事を思い出すのだった。