「まずはノリカ、バグスティンクのフォースを奪ってくれるか?」
帯刀くんの言葉にノリカは頷き、
「ええ、光学武器を持ったメダロットが十分なフォースを持っていると厄介ですからね」
「だが相手はキクナも倒した実力者だ。気を付けてくれ」
「それも分かっています。ポリドリ、アイテルフリュゲ」
ノリカの指示を受けポリドリがバグスティンクに飛び掛かる。
バグスティンクは即座に右腕の発射口をポリドリに向けるも、こちらはたいちせいぎょとヒーターで推進力が大きく高まっている。
相手のビームが発射される前にポリドリは相手の右腕を掴んでディスチャージ。衝撃波を放ってバグスティンクのフォースを一気に弾き飛ばす。
しかし、
「捕まえました」
クワトロさんは言い、バグスティンクの左腕がポリドリの肩を掴む。ノリカは、
「何を」
と、状況が読めてない様子だったけど、逆にクワトロさんたちの狙いが読めたスタッグは、相手の後ろに回り込んで装甲板のクレーン部分を左腕で殴る。
「させません!」
そのままスタッグは左腕の甲を回転させて装甲板の根本に衝撃を与えながら、
「ポリドリさん、今のうちに脱出を!」
と叫ぶ。
ポリドリは槍でバグスティンクの左腕を薙ぎ払い、何とか脱出。
直後、ポリドリのいた箇所に装甲板が振り下ろされた。
「これは危なかったですね。ありがとうございますスタッグさ、スタッグさん!」
感謝を口にしかけたノリカの言葉が叫びに変わる。
バグスティンクが装甲板を前に出した姿勢のまま二七〇度回転し、斜め後ろにいたスタッグが装甲板に薙ぎ払われ、壁に突き飛ばされたのだ。
もちろんクワトロさんはこれで終わるはずもなく、バグスティンクは両腕をそれぞれ真横に向けて、
「右腕ビーム。指定位置に発射」
バグスティンクのビームがスタッグの顔面に入る。
「――っ!」
スタッグの声にならない悲鳴。
しかし出力が足りない状態でのビーム。さらにポリドリからガードブーストを貰っていたおかげで機能停止は免れる。
が、バグスティンクの攻撃はまだ続いていた。
「左腕ビーム。指定位置に発射」
バグスティンクはアルバにまでビームを発射してきたのだ。
幸い、アルバは空を舞って回避するも、
「そこをフリーズ」
神宮寺さんのオーロラクイーンから粉雪、フリーズショットが放たれる。
「アルバ!」
回避直後の隙を突かれる形になったが、帯刀くんが叫び、応えるようにアルバはなんとかこの攻撃も回避する。
「で、ここでもう一発ドッグフィンガーだ!」
「うおおおおッ!!」
しかし、攻撃はこれで終わりではなかった。
まさかのモッチーズ三人連携によるアルバ集中攻撃。
アズキ視点ではさすがに避けられない体勢を狙われたように見えたけど、
「仕方ない。アルバ、目標変更だ。グラッジライフルを奴に撃て」
「了解しました」
ブルーティスの左腕に噛まれる寸前。
アルバは左腕の砲門をブルーティスに向けると、ワイドビームを発射した。
「え、うわあああああああ」
三つの砲門から同時に発射されたビームにブルーティスの全身が飲み込まれ、
『全パーツ、中度ダメージ』
赤城くんのメダロッチに通知が鳴った。
「な、なんだよアレ」
受けたダメージを確認して赤城くんが言う。
「あいつのメダロット、まだフォースを溜める前だろ? どうしてあんなに威力が出るんだよ」
基本的にビームやレーザーといった光学属性の攻撃はフォースが溜まってる状態になって初めて高威力・高出力の攻撃が出せる仕組みになってるのだ。
バグスティンクが大抵ロボトル開始時にはチャージ行動から入ってるのもそのため。
しかし今回、帯刀くんのアルバはフォースを溜める行動を行わず機会も無かったのに関わらず、高威力・高出力のビームを発射したのである。
「もしかして」
クワトロさんがメダロッチを操作して、
「間違いありません。あの堕天使メダロットの脚部特性はファストチャージです」
「ファストチャージ?」
赤城くんだけでなく神宮寺さんも聞き返すと、
「二つ以上の光学属性武器を持ってる場合、最初からチャージ行動一回分ほどのフォースを所持した状態でロボトルを開始できるという物です」
「それってズルじゃん」
赤城くんが言うも、クワトロさんは首を横に振って、
「その分、制限もたくさんある特性ですので残念ですけど合法です」
「うっ、まあいい。オレのブルーティスだって格闘技を使う度に脚部性能が上がるソアリングだ。そろそろブルーティスもエンジンが掛かって」
なんて赤城くんが言った矢先、
「ポリドリ」
全身中破したブルーティスの眉間を、ポリドリの槍が貫いた。
ポリドリの右腕パーツはチャージドレイン。
貫いた傷口からブルーティスのフォースが抜け出て、槍に搭載された黒い結晶に取り込まれていく。
しかし、アズキの目にはまるでブルーティスから生気を抜き取ってるように映り、
『ブルーティス、頭部機能停止』
実際、ブルーティスはここで脱落してしまう。
「うわあああ、ブルーティスうぅぅっ!」
赤城くんが嘆いた。なお、リーダー機ではなかったらしくロボトルはこのまま続行。
『右腕パーツ機能停止』
不意に、アズキのメダロッチから通知が鳴った。
慌ててスタッグを見ると、バグスティンクが装甲板を前に展開したまま体当たりし、壁に突き飛ばされていたスタッグが避けきれず右腕を挟まれていたのだ。
スタッグは叫んだ。
「大丈夫です。バグスティンクは私が引き受けます! その間にふたりでオーロラクイーンを」
対し帯刀くんも、
「ステルスと分身を解禁しろ。なんとしても奴の攻撃をこれ以上受けるな」
「分かってます」
とは言うものの、スタッグはそのどちらも使おうとする様子が見られなかった。
どちらも回避用の技なので、下手に使ったら敵のターゲットが自分以外に移ってしまう、と考えてるのかもしれない。
「まずは」
スタッグは言いながら左手の甲を回転させて、真正面からバグスティンクの装甲板を殴り壊そうとする。
が、拳に当たった瞬間にバグスティンクが装甲板を背中に戻すモーションを利用してスタッグの攻撃を弾く。
「バグスティンク、左拳」
装甲板が背中に戻った事で視界を取り戻したバグスティンクは、クワトロさんの指示を受けて逆に左腕でスタッグに殴りかかってきた。
咄嗟にスタッグは左に避けると、
「バグスティンク。左に一二〇度旋回」
クワトロさんの指示を受けたバグスティンクがその場で左回転。再び装甲板でスタッグを薙ぎ払おうとしてくる。
けど、スタッグはこれも読んでたようで、改めて一度バグスティンクから飛び退く。
「左腕。右上四五度、三センチ修正」
「あっ」
と、スタッグが驚き、直後アズキも気づいた。
スタッグを殴ろうとして突き出したままの左腕は、先程の旋回によって今はアルバに向いていたのだ。さらに照準の微修正まで。
まさかクワトロさんはスタッグの相手をしてるフリして最初からアルバを狙っていた? しかもアルバはワイドビーム使用後の冷却状態に入っている。
メダロットのパーツを使用した攻撃技は、その大半が使用直後の冷却中に防御か回避を行えなくなる隙を作ってしまうデメリットを持つ。
今回のワイドビームも例外ではなく、いまアルバは回避不可能な状態であった。
「させません」
スタッグは飛び退いた先で何かを拾ってから、全身でバグスティンクの左腕にしがみついた。
当然、照準が大きくズレて左腕のビームでアルバを狙う事は不可能になったが、
「右腕スメルビーム、指定位置に発射」
今度は右腕から、アルバに向けてビームを撃つ気だ。
しかし、右の発射口から放出される寸前、スタッグは握っていた何かを相手のアイカメラに投げつける。
帯刀くんが破壊したタブレットの破片だった。
ビームは発射されたが、視界に妨害が入った事で狙いがわずかにズレて、攻撃はアルバには当たらない。
「助かった」
帯刀くんは言うが、
「まだロボ。オーロラクイーン、ブリザードを使って!」
このタイミングで、オーロラクイーンは頭部パーツのフリーズショットを使用した。
アルバに向かって巻き上がる吹雪を前にして、帯刀くんはなぜかちらっとバグスティンクの方角を見てから、
「読んでいた。アルバ、ヘイトレッドガンを使用しろ!」
帯刀くんから指示を受け、アルバは右腕の砲門を構え、ハイパービームを発射する。
オーロラクイーンの吹雪と、アルバのビームは衝突。このままだと攻撃同士がぶつかり合って相殺に終わるところだった。
が、ここでオーロラクイーンは背後から何かをぶつけられ、
「ぎにゃっ」
オーロラクイーンが声をあげる。
何かはそのまま真っすぐ殴りつけるような攻撃とアッパーのような攻撃を繰り返し、
「痛っ! 痛っ! やめっ、やあああっ!」
何度も苦痛を口にし、最後にはオーロラクイーンの声が大きな悲鳴に変わる。そのうち、彼女の背後からヨーヨーを何度も投げつけるスタッグが姿を見せた。
いつの間にかスタッグはステルスでオーロラクイーンの後ろに回り込んでいたのだ。しかも帯刀くんはスタッグの行動を計算に入れてた可能性がある。
だって、先ほど彼はバグスティンクの相手をしてたはずのスタッグがいつの間にか消えてた事を視認してたはずだから。
で、ヨーヨーとくれば赤城くんが反応。
「あの軌道、まさかシュート・ザ・ムーンか」
さらに、スタッグの攻撃が終わり、ヨーヨーが左手の甲として回収されたと同時に、今度はポリドリが横から槍でオーロラクイーンを突き刺す。
「かはっ」
まるで人間が吐血するような反応。
ふたりから防御もできず攻撃を受け続けて、オーロラクイーンも吹雪の出力を維持できなくなったのだろう。
吹雪はアルバのビームに貫かれて四散し、そのままハイパービームがオーロラクイーンにぶつけられた。
次第にメダルが胴体から弾かれ、
『オーロラクイーン機能停止。リーダー機の機能停止につき、このロボトルは高校生チームの勝利とするよ』
今回は誰かが暴走するなんて異常事態もなく、ウォッカが判定を下す。
ロボトルの終了を確認すると、帯刀くんは部屋の扉を開けて、
「残り一分三〇秒。全員、急いで教室に戻って試験を受けるぞ」
一足先に、彼は駆け出すのだった。
「そんなぁ」
と、頽れて泣く神宮寺さんは、当然置き去りにして。
「んっ、やっと終わったー」
アズキは机に座ったまま背伸びして、言った。
一日目と違って、今回は本当に最終日が終わっての反応である。
「お疲れ様」
一日目と同じように笑いながら、しかし今回は疲れも見せた顔でマイカゼさんが近寄る。
「マイカゼさんもお疲れ」
「私はまだ平気なほうだよ。ロボトルもしなかったからね」
結局、校舎にセレクトは突入したが定期試験そのものは四日目、最終日共に予定通り執り行われた。
アズキたちもロボトル終了からすぐ教室に戻り、ギリギリ間に合って試験に参加。
幸運な事に、四日目の試験問題は帯刀くんの分析が完全に当てはまり、五日間の中で一番手応えを感じる結果に終わった、と思う。
なお、モッチーズ三人は無事撤退に成功。
セレクトが生徒指導室に入った時、
『後日、USBメモリは弁償します』
と張り紙だけが残されていたらしい。
「そういえばアズキ君。私たちはこの後、ノリカ君たちと試験終了の打ち上げに行くんだけど、君も参加するよね?」
マイカゼさんの言葉に、アズキは頷いて、
「うん。キクナから聞いてるし参加するつもり」
「じゃあ、いつもの車でレストランに移動するから、アズキ君もお家に連絡してくれないかな? お昼は外で食べるって」
「もう連絡済だから大丈夫」
言いながらアズキは立ち上がり、鞄に荷物を詰めていく。
次の定期試験まで、アズキはまた高校に登校できなくなるのだ。そう思うと、なんだかちょっぴり寂しくなってくる。
とはいえ休んでる暇はない。
今回はゴールデンウィークのおかげでがっつり勉強する時間があったけど、次回はそんな嬉しいイベントは用意されてないのだ。
「待たせてごめん、マイカゼさん。じゃあ行こう」
アズキは鞄を持って、少し名残惜しく教室を後にした。
これで第11話は終了になります。