メダロットHERMIT   作:CODE:K

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12-6 年下のボク6

 

 TMZ研究施設に初めて入ったアズキ。

 内装は白を基調としており、良く言えば広く清潔感のある空間。悪く言えば総合病院や公共施設にありがちな構造といった印象だった。

 

 フィーアさんは受付に向かうと、

 

「ブルー博士に、紅下アズキを連れてきたと伝えてください」

 

 と伝えた。仕事の顔なのだろうか、後ろ姿からはいつもの親しみやすさは無く、かわりに落ち着いた大人の雰囲気みたいなものを感じた。

 けど報告を終えると、すぐ笑顔でアズキに振り返り、

 

「少し時間かかるかもしれないからロビーで待ってよっか」

 

 と言ってサングラスを外す。

 素顔を露わにしたフィーアさんは、いつも接した印象通り人懐っこく明るそうな外国のお姉さんって顔をしていて、

 

(どきっ)

 

 と、アズキの胸が高鳴る。惚れたわけではないけど、レズで同性を見る目が思春期の男子みたいなアズキにとって、美人というのはそれだけで眩しいのだ。

 なんて、こちらがドキドキしてる間にフィーアさんは自販機から缶のミルクティーを買い、

 

「アズキちゃんは何がいい?」

「え、いや私は」

「じゃあ一番高いモ○スターエナジーね」

「微糖コーヒーのホットで」

 

 危ない。もう少しで二〇〇円以上するドリンクを奢りで飲むような猛者にされるところだった。

 十二月に入り、外は一段と寒くなった気がする。

 

「はい、アズキちゃん」

 

 って渡された熱々の缶が両手を温めてくれて、少し嬉しい。今年もそんな時期に入ってしまったのだ。

 そのまま、ふたりでロビーの適当な席で待ってると程なくして、

 

『フィーア様、紅下アズキ様、奥にお進みください』

 

 アナウンスが鳴った。

 

「準備ができてみたいだね。行こっか」

 

 フィーアさんは言って、ドリンクの残りを全て飲み干す。

 アズキも慌てて飲み終え、容器をゴミ箱に捨ててから、フィーアさんの案内で奥の廊下を進んだ。

 

 程なくして、

 

「ここがTMZエージェントの指令室だよ」

 

 と、フィーアさんは言ってから、

 

「フィーア・フォルマージです」

『お入りください』

 

 中から声がした。しかも聞こえたのは舌足らずな女性の声。

 

「失礼します」

 

 フィーアさんが扉を開け、アズキは彼女の後ろから部屋に入る。

 直後、アズキの目に飛び込んだのは、奥の巨大なモニターから映し出される見た目小学三、四年生ほどの幼い少女の姿だった。

 

『隣の方が紅下アズキさんですね』

「はい」

 

 フィーアさんが頷くと、幼い少女はアズキに向かって、

 

『初めまして。私はTMZ社の研究員で、近辺エリア内のTMZエージェントの指揮権を一任しているブルーといいます』

「ブルー、ですか?」

『はい。ブルー博士と呼んでください』

 

 ブルー博士はにこりと微笑んだ。

 

 威圧みたいなものは感じない。けど、見た目や舌足らずな喋りとは裏腹に精神面は成熟しているとアズキは思った。

 多分、天才児とかではなく、こう見えてアズキより年上なのだろう。ロリコンの勘がそう告げる。

 

『紅下アズキさん』

 

 ブルー博士は言った。

 

『フィーアさんから伺いしてると思いますけど、私たちは貴女をTMZエージェントとして迎え入れたいと思っています』

「えっと、それなのですけど」

 

 アズキは目線を下げながら、

 

「どうして私なのでしょうか。私なんてメダロットも持ってなくて、臆病で、それに」

『全部知ってます。その上で私たちは、総合的な評価でアズキさんは今後私たちエージェントに必要不可欠な素質を持ってると判断しました』

「例えば、どんなところでしょうか?」

『そうですね。例えばですと、臆病なところも、逆に捉えれば警戒心が強くて、状況を見渡し判断する力を持ってる事に繋がりますよね?』

 

 それは過大評価だ。アズキは思った。

 理屈ではそうかもしれないけど、臆病はそれをプラス方面に活かせないから臆病なのだ。ブルー博士が言うように扱えるなら、それはもう臆病とは言わない。

 

『ただ何よりも、私たちが所有している、あるメダロットのマスターが貴女以外にはいないという結論に至ったからです』

「メダロット?」

『はい。セーラースタッグといいます』

 

 アズキは身構えた。

 

 やはり、TMZはアズキにメダロットを持たせようとしている。

 だったら、アズキはせめてこれだけでも言わなければいけない。

 

「ごめんなさい。私、メダロットは持ちません。暴走メダロットのせいで両親を失って、私自身も傷つけられて、だから」

 

 けど、ブルー博士は言うのだ。

 

『それも分かってます。でも、だからこそアズキさんがメダロットを再び持つときは必ず暴走しないように手を打つと思ったのです』

「それは」

 

 もちろん、そのつもりである。

 メダロットを持つ気はない。でも、再び関わる日が来るとしたら、メダロットの感情を押さえつけないように、人間の友達である事を強制しないようにしたい。

 

 方法は分からない。アズキは科学者ではないのだから。

 でも、抑圧された感情の爆発がメダロットの暴走に繋がってる。少なくとも、あの日のギャラントレディの姿は、アズキの目にそう映ったから。

 

 ブルー博士は言った。

 

『セーラースタッグはとても自我が強いメダロットなのです。ですから、アズキさんなら彼女を人として扱って、真の絆を結べると思ったのです』

「真の絆」

 

 と同時に、メダロットを人として扱うという、当たり前のようで実は当たり前ではない言葉を告げるブルー博士。

 彼女はアズキの心情をどこまで見抜いてるのだろうか。

 

 アズキは言った。

 

「メダロットの暴走は、三原則で感情を押さえつけられたり、お友達ロボットを強制されたりしたストレスの爆発によって起こるものなのでしょうか?」

『分かりません。ですから、そこを含めての探求と対策をアズキさんに求めています。どうか、貴女の経験からくる力を、私たちに貸していただけませんか?』

 

 これは、人の弱みに付け込んだたちの悪い勧誘だ。アズキは頭ではそう思った。

 

 けど心のほうは駄目だった。多分アズキは気持ちのどこかでトラウマと向き合いたいと思っていたのだろう。

 メダロットにごめんなさいを言う機会を欲しがっていたのだろう。

 

 ブルー博士はそれを見抜いて、求めてくれた。そのチャンスを与えてくれた。

 アズキは感じてしまったのだ。自分の胸に突き刺さって苦しめる杭みたいなものが、彼女の言葉によって引き抜かれて、楽になっていくような。そんな気持ちを。

 

 気づいたらアズキは言っていた。

 

「私は、メダロットを手放してから数年のブランクがあるから、すぐに首を縦には振れません。ですから、この施設で行われてる研究を見せてください」

 

 つまりそれは、実質ブルー博士のスカウトにはいと答えたようなもの。

 

「最新のメダロット技術を学んで最低限の力を身に着けます。それに」

 

 アズキは、真っすぐブルー博士と向き合って、

 

「メダロットの暴走が、人間がストレスで爆発するのと同じものと仮定した上で、いま私でもできる最低限の対処法を学んでおきたくて。駄目でしょうか?」

『やっぱり、貴女をスカウトして正解でした』

 

 ブルー博士はにこりと笑った。

 

『では、アズキさんが施設の研究に携われるようにすぐ手配します。可能な限りの許可が取れ次第、改めてアズキさんに連絡します』

「ありがとうございます」

『ただし、貴女にその権限が渡った日から、紅下アズキは正式にTMZエージェントの一員になります。その契約でよろしいでしょうか?』

「分かりました」

 

 アズキは頷いた。

 両親に相談もせず、駄目と言われた育ての親との約束を破って、首を縦に振ってしまったのだ。

 

 

 数日後、許可が取れたと連絡を受け取ってから、アズキは頻繁に研究施設に通った。

 ただ、最新のロボトルデータは最低限に留め、手に入れた権限の殆どをメダロット三原則やメダルの感情に関する研究にアズキは費やしていく。

 

 気づけば季節はクリスマス近くになっていた。

 そんなある日の事。

 

『アズキさん、そろそろセーラースタッグのマスターになってみませんか?』

「え?」

 

 指令室に呼ばれたアズキは、ついにこの話を切り出されてしまった。

 

 実はアズキは、エージェントになって半月近く経ったのに、未だ施設内のメダロットたちと殆ど触れ合っていない。

 結局やっぱり臆病なアズキは、メダロットが怖くて、動いてるメダロットがいない部屋ばかりに出向いて研究していたのだ。

 

 だから、いつかメダロットを受け取るという約束からも半ば逃げていたのだけど、

 

「その、えっともうちょっとだけ」

『これは個人的な私情なのですけど』

 

 ブルー博士は言った。

 

『実はセーラースタッグが自分のマスターを欲しがっていまして、丁度もうすぐクリスマスですから』

「私がそのクリスマスプレゼントという事ですか?」

『はい』

 

 頷くブルー博士。本来だったら自分がプレゼント扱いされて余計に拒否を口にしたいところだったけど、

 

(私に、その権利ってないよね)

 

 改めて。ブルー博士の見た目は九、十歳ほどの幼い少女である。

 年齢不詳どころか、この時点ではすでにキクナとも知り合っていて、彼女が二児の母である事も知っていた。

 

 それでも、レズでロリコンのアズキにとってブルー博士のような女性と話せる事はアズキにとって至福のひと時。

 正直、ブルー博士に会う事は施設に通う目的のひとつになっていたのだ。

 

 だからこそ、こっそり下品な目で見ていた後ろめたさがアズキにはあるわけで。とはいえメダロットと会うのはまだ怖い。マスターになるなんて尚更だ。

 

『どうか、まずは会うだけでも駄目でしょうか?』

「うー」

 

 アズキは悩んだ挙句、

 

「分かりました。でも会ってすぐマスターになれるかは」

『十分です』

 

 ぱっと嬉しそうな顔を見せるブルー博士。

 ああ、駄目だ。こんな姿を見せられてしまっては、下手な事を言って悲しい顔に変えさせる事はアズキには不可能だ。

 

 といった流れで、相手が喜ぶ反応ばかり選んで頷き続けた結果、ブルー博士の狙い通り、クリスマスイブ当日にセーラースタッグと出会う事に決まってしまった。

 

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