「何やってんだティナ!」
春日くんが怒鳴った。
当たり前である。彼がティナさんに伝えたのは一旦メダロットを避難させろであって、機能停止したパーツを別のパーツに付け替えろとは一言もいってない。
これには当然、ウォッカも動いて、
「藤稔ティナ。悪いけどロボトル中のパーツ交換はルール違反に該当するよ」
「知ってます」
「なら当然だけど、ペナルティとして今回のロボトルは即座に君たちの負けとさせてもらう。構わないかい?」
「いいですよ」
悪びれも無くティナさんは言い切った。
「お、おい」
春日くんは動揺するけど、ティナさんは続けて、
「私の目的はスタッグを機能停止にする事ですから。それさえ出来ればロボトル自体は私の負けでも問題ありません」
直後、シックルカッターは新しく装着された飛行脚部で宙を舞い、新たな左腕で頭の三角コーンを外してはスタッグに投げ返す。
「わっ」
と避けるスタッグ。さらにシックルカッターは上空から左腕パーツのワイヤーを伸ばして錨でスタッグを攻撃してきた。
どうやら、新たな左腕パーツにカネハチまーく2の物を使った理由は、上空から距離を取って遠距離格闘をするためでもあったらしい。
春日くんが言った。
「とりあえず、公認ルールでは俺たちの負けだがロボトルは続行だ。いけ、ランドオーカー!」
彼の指示を受けたランドオーカーは再びスタッグに接近し、ショットレーザーを発射。
しかし、スタッグは先ほどレーザーがシックルカッターに誤射した際、相手の射程もしっかり確認していたのだろう。後ろに跳んで本当に回避してしまった。
「シックルカッター、もう一度シックルシェイプ」
一方、ティナさんは再び自分のメダロットに頭部パーツの使用を指示。
脚部パーツを付け替えた事で、いまの脚部パーツにはモビルブーストが効いてなかったらしく、再びシックルカッターの全身がフォースに包まれる。
逆にスタッグは、このタイミングで脚部から放出されていたフォースが止まってしまった。つまり、もう一度チャージ行動を行わないと残像が出せなくなり、
「おっ」
当然、春日くんはこの瞬間を見逃さない。
「今だランドオーカー。デッカレーザーを撃て!」
春日くんの指示を受けたランドオーカーは左腕を構え、ハイパーレーザーを発射する。
が、スタッグは横に跳んで、
「残像なしに素で避けるのかよ!」
驚く春日くん。
しかもランドオーカーは強烈なレーザーを撃った反動で硬直し、防御も回避もできない冷却状態に陥る。
となれば、即座にスタッグは相手に迫り、左手の甲を回転させながら思いっきり殴りつけて、
『ランドオーカー、頭部機能停止』
逆に春日くんのメダロットを一気に倒してしまった。
「ぐっ」
よほど悔しいのか、春日くんが自分の唇を噛む。
しかし、問題はもう片方。パーツ変更によって上空を飛び、射程のある左腕パーツで攻撃するようになったシックルカッターである。
アズキは辺りを見渡したけど、踏み台にできそうな障害物も無ければ、壁蹴りに使えそうな建物もコンビニ以外にない。
相手の飛距離から見て、おそらくスタッグの攻撃はヨーヨーでさえ届かないだろう。つまり一方的に相手から攻撃される状況になってしまったのだ。
「スタッグ、何か手はある?」
アズキは一応確認してみる。何も無ければ生徒相手にメダフォースを切るしかないのだけど、
「一応、あるにはあります」
スタッグは言った。アズキは驚きながら、
「え、あるの?」
「本当は使いたくないし、誰にも見せたくない。しかも失敗したら逆に私たちが負ける可能性もある手ですけど」
「けど、現状それしか手はないという話。だよね?」
「はい」
頷くスタッグ。
その間も、シックルカッターは空からワイヤーで繋がった錨で攻撃してきて、スタッグは再びチャージ行動を取ってから残像を使って回避し続ける。
すでに、今回のロボトルは相手のルール違反によって公認ではなくなってるので、タイムアウトを狙って判定勝ちも難しいだろう。
アズキは言った。
「スタッグ、お願いできる?」
「分かりました」
スタッグは言うと、まずはステルスを起動。この場から姿を消した。
一旦自分を見えなくして、その間に何か攻撃をしかける気なのだろうか。シックルカッターも一度攻撃の手を止め、上空を飛んだまま待機を始める。
(スタッグは何を狙ってるんだろう?)
なんてアズキが考えた直後だった。
『シックルカッター、右腕、頭部機能停止』
突然、ティナさんのメダロッチからメダロットの機能停止を告げる通知が鳴ったのだ。
で、アズキは気づく。
いつの間にかシックルカッターの右腕の鎌、さらに貫通して頭部まで、ワイヤーで繋がったスタッグのソードで貫かれていた事に。
ヨーヨーではなくソードが伸びるのは初めてな気がする。しかもワイヤーの長さも今までの比ではない。
しかし肝心のスタッグは未だ姿を見せなかった。
ソードを伸ばしたワイヤーも途中でステルスによって背景の中に消えており、位置を確認する事さえできない。
「うそ」
ティナさんが呟く中、シックルカッターは地面に落下し、大きな音を立てながら倒れて、メダルが弾き出された。
ここでやっとステルスが解除され、ワイヤーを目で追った先にスタッグは姿を現す。
けど、彼女はいつもとは全く違う姿をしており、
(なにあれ?)
と、アズキは思った。
現在のスタッグは人型どころかメダロットの形状さえしていない。
それは水上機。いや、脚にふたつのフロートを搭載した一機の黒い小型潜水艦と呼べる姿をしていたのだ。
ティナさんが呟いた。
「もしかして、メダチェンジ?」
で、春日くんも驚いて、
「おいおい、スタッグってメダチェンジ搭載機だったのかよ」
一方アズキは、
(メダチェンジ? なに、それ?)
って、ひとり目を丸くしてたのだけど。ここでウォッカが、
「ロボトル終了。この勝負、スタッグの勝利とするよ」
と宣言したところで、小型潜水艦は変形を始めた。
まず胴体の一部がM字開脚した脚に変わり、艦首の正体が黒のパンツだったという衝撃の事実を明かしながら両足で立ち上がる。
続けて裏返されたスカートが元の形状に正され、内側に隠れていた両腕が姿を見せた。
最後に背中のフロートが上にスライドし、彼女のツインテールだった事を明かしながら、見慣れたスタッグの顔が出現。
他にも細かな調整はあったけど、結果的には数秒で小型潜水艦から普段のセーラースタッグに姿を戻す。
スタッグは言った。
「なんとか作戦終了しました。アズキ」
「あ、うん」
アズキは茫然と呟いた後、すぐにメダロッチからスタッグの性能を確認する。
メダフォースの時と同様に、一度存在を知ってしまうとすぐメダロッチからメダチェンジの項目を確認する事ができた。
どうやらスタッグは他のパーツを使用せず純正のセーラースタッグとして運用した場合、潜水型メダロットに変形する事が可能らしい。
この時、使用できる技や脚部特性も変更され、データを見るに今回は格闘のアンチエア攻撃を使った事が判明した。
「それでロボトルには勝ちましたけど、このふたりの処遇はどうしますか?」
言われてアズキはあっと気づいた。
そうだった。アズキはティナさんと春日くんが万引きしてる現場を見つけてしまい、追いかけた結果、今回の事態に至ったのだった。
「とりあえず」
言いながらアズキは周囲を確認。
気づくと、すでにウォッカの姿は消えており、この場で自分たちの会話を聞いてる人はいないと判断したので、アズキは改めてふたりに向かって、
「どうしてあんな事、万引きしたのか教えてくれる? 買うお金無かったの?」
「いえ」
ティナさんは否定し、
「みんなやってるから私もやっただけです」
「みんなって?」
もしかして他にも万引きしてる生徒がいるの?
しかしティナさんは、
「SNSとかで、そういう動画たくさん見つかるじゃないですか」
「それはごく一部の悪い子がやってるだけだよ。やってない子のほうがほとんど」
言いながらアズキは心の中で安心した。
ここで春日くんが、
「で、先生は俺たちをどうする気だよ」
「どうするって?」
「店の人か、それか警察に突き出すのかどうかって事だ」
と、言われてアズキは、
「とりあえず、盗んだ物をちゃんと買ってくれる? そうしてくれたら、今回は見逃してあげる」
「分かりました」
ティナさんが言った。
「なら普通に買いますね。別にスリル目的で、本当に欲しかったわけでも無いですけど」
「それは助かるけど、素直だね。ロボトルのときと違って」
「反抗するメリットがありませんから」
ああ、この子はそういう考え方をする子なんだ。アズキは思った。
あれこれ模索はあまりせず、自分にとって得か得じゃないか、またはその場の快不快でさくっと選ぶ。潔くて判断も早い、刹那的に生きてる子なのだろう。
そう思うと、今回のロボトルでも彼女の言動はいくつか納得できる点がある。
彼女はその場その場で自分にとっての最適解を瞬時に選び続け、たとえルールであっても目的の邪魔になるなら早々に見切りをつけたのだ。
「先生は本当にそれでいいのか?」
で、たぶん普段からそんな彼女に振り回されてるからこそ春日くんは言うのだ。
「こいつは反省なんてしてない。今日見逃しても次また絶対に同じことを繰り返すぞ」
「うん、正直後悔してる」
アズキは言った。
「でも、もう今回は見逃すって言っちゃったから。今更後出しで撤回するのも」
「先生はとても生きづらそうな性格をしてますね」
そう言って、ティナさんはふふっと笑う。
「でも、見逃してくれてありがとうございます」
「今回だけだからね」
「分かってます」
アズキは、ふたりが商品をコンビニで購入する姿を、確かにこの目で確認した。
メダロット解説
以下の設定は小説内オリジナルとなってます。
今回はセーラースタッグにメダチェンジ後の追加データを加えたものになってます。
[機体名]
セーラースタッグ
[型式番号]
TMZ-KWG-TS08
[性別]
女
[パーツ]
◆頭部:ツインテレイ(補助/ステルス/なし/3回)
◆右腕:スライドボクトー(格闘/ソード/なし)
◆左腕:ブラッキヨーヨー(格闘/ハンマー/がむしゃら)
◆脚部:ルーズソックス(二脚/ミラージュ)
●Hv:0/0/0 合計:0/1
[メダチェンジ]
◆ドライブA(格闘/ビームソード/がむしゃら)
◆ドライブB(格闘/アンチエア/がむしゃら)
◆ドライブC(格闘/アンチシー/がむしゃら)
◆ムーブ(潜水/チェンジアクセル)
[使用者]
[メダル]
クワガタ
[備考]
当作品のオリジナル。
SLR型風のKWG型メダロット。
見た目はツインテールのセーラー服女学生にしか見えないが、後ろから見る事でクワガタモチーフであると分かるデザインとなっている。
TSソニックスタッグというコンセプトによってTMZ社の独自で開発された機体で、少なくとも通常時のスペックはソニックスタッグとほぼ同等らしい。
後に、実は
外見も彼女をメダロットサイズにして巨尻に変えたもの。彼女の癖や動きをソニックスタッグの機能やスペックで動いてる感じを出すように調整されているらしい。
右腕のソードは腕の中に収納され攻撃の際に展開するギミック。
左腕パーツは手の甲を高速回転させる機能を持ち、そのまま殴れる他、ヨーヨーとして有線で射出も可能となっている。
スカートの内側は黒下着。
[メダチェンジ後]
メダチェンジ後はソニックスタッグと対を意識したのか潜水艦と水上機を併せた外見になる。セーラー服が元々水兵の制服だったことも影響しているだろう。
そのため性能もソニックスタッグと似てるようで大きく異なる。
まずムーブが潜水となっており、回避に優れるが通常のクワガタメダルと相性が悪くなっている。
またドライブAのCG消費はなくなってるが、かわりに本来の性能を発揮するためにCGを高める必要のあるビームソードを採用。
外見上の特徴としては、潜水艦のシルエットにツインテール部分がフロートとして使われている。
そして何より重要なのは、普段スカートで隠れてる〝黒下着が艦首になる〟点であろうか! つまりは、
(・ω・)人
(・ω・)V
(・ω・)d
(・ω・)ゝ
スタッグが普段変形せずアズキに伝えなかったのも当然である。
[チェンジアクセル]
作中オリジナルの脚部特性。
メダチェンジを実行すると自身に対して【症状:モビルブースト】を付与する。
この特性で付与した症状は、メダチェンジ中時間経過で解除されない。
(カウント自体はされるため、時間を超越していた場合、メダチェンジ解除と同時に症状も解除される)