一応、全ての問題が片付いた後の帰り道。
ふたりは普段、バス通学で登下校してると判明したので、アズキは見守りと警戒を兼ねて駅まで一緒に歩く事になった。
アズキが乗る電車とふたりが利用するバス停は、同じ駅内に存在してるのだ。
「そういえば、ふたりっていつも一緒なの?」
アズキが言ったところ、春日くんは頷いて、
「ああ。実は俺たち異母姉弟なんだ。しかも母親同士も従姉妹って関係でな」
「え、あ、そうなんだ」
アズキは返事に困る。
春日くんは特に気にしてなさそうに明かしたけど、それって相当複雑な人間関係じゃないだろうか。
けどティナさんも、
「今も母同士の仲が良好ですから、家は違いますけどホウジとは昔から本当の姉弟のように育ってきたんです」
って普通に話すので、たぶん当人たちの間では本当に問題は一切ないのだろう。
春日くんが言った。
「ちなみに春日が親父の姓だ。先に生まれたのがティナだから誤解されがちだけどよ」
「という事はお父さんも春日くんの家に住んでるの?」
「まあな。外からは一見複雑な家庭環境に見えるらしいけど、実際はまあまあ円満な家庭だぜ。ティナの家も」
「そうなんだ。よかった」
アズキはほっとする。
思えばアズキだって、生みの親を失い、孤児院に預けられた過去があって、現在はふたりの義母と暮らしている。だけど今が不幸だとは思ってない。
春日くんもティナさんも今の自分が不幸だとは思ってない様子だから、アズキから言うことは特に何もないだろう。
まあ、
「とはいえ、何かあったら遠慮なく言ってね。出来る限りは力になるから」
くらいは言わせてもらうけど。
ティナさんが、
「ありがとうございます」
「ただし、万引きとか犯罪は駄目だからね」
「それは」
ティナさんは、突然ちょっと難しそうな顔を見せてから、
「万引き、思ったよりつまらなかったんですよね。だからもうしないと思います」
という良かったと安心するべきか、この子まったく反省してないと頭を抱えるべきか迷う反応をみせる。
アズキは迷った挙句、
「うん、そうして」
としか反応できずにいると、ティナさんは続けて、
「はい。ですから本当に困ったときは、これから遠慮なく先生を頼らせていただきますね」
と言って微笑みかけてくれた。それがちょっと不意打ちだったせいでアズキは、
(可愛い)
内心、激しく動揺してしまう。
空はすでに薄暗く、街灯に照らされたティナさんは、まるで小悪魔のような怪しい魅力に満ちて映った。
フリルの付いた紺のブラウスは、肩を出した露出高めの服だったのもあって、まるで夜に働く女性が着るランジェリーのよう。
さらにアズキの近くに立ってる事で、薄闇越しに綺麗な肩や腕が視界に飛び込み、袖口からは服の内側が見えそうで見えなく、それがまた色っぽい。
「どうしましたか?」
きょとんとするティナさん。
「あ、えっと」
アズキが口ごもってると、春日くんが、
「ほう。これはあの噂、マジだったらしいな」
「噂って?」
「紅下先生がレズでロリコンだって噂だよ」
「つまり、いま私、エッチな目で見られてたって事?」
うわ、しまった! バレた。
アズキはスタッグに目で助けを求める。現在スタッグはメダロッチに戻さず、アズキたちと一緒に歩いてたのだ。
しかしスタッグはゴミを見る目でアズキを見て、
「通報すればいいのですね?」
「待って、待って!」
とアズキが慌ててると、
「ふっ、ふふふっ」
ティナさんが笑い出した。しかも口元に手を当てて上品な笑い。
しかし続けて彼女の口から出てきた言葉は、
「これはいい事を知りました。先生、今度ホテルに行きませんか? 三万でいいですよ」
「は、え?」
「女性同士だから妊娠のリスクもありませんし、これはお得ですね」
「ちょっと待って、ティナさんもしかして普段からサポ的な事もやってるの?」
慌ててアズキが確認すると、ティナさんは露骨に蠱惑的な笑みを浮かべて、
「いいえ、先生が初めてですよ」
「良かった。いや全然よくないけど。ねえ、冗談でもそういう誘いはやめようね」
「あ、もう駅についちゃいましたね」
アズキの注意は無視してティナさんは言った。
春日くんが、アズキの肩をぽんと叩く。
「諦めろ。ティナはこういう奴だから、俺も普段から振り回されてるし苦労してるんだ」
「う、うん」
何だろう。今日一日で春日くんが一気にまともな子に見えてきた。
春日くんは続けて、
「じゃあな先生、俺たちはここだから、また明日」
と言って、ふたりは駅内のバス停に立った。
駅は同じだけど、アズキはここから電車に乗って家に帰るので、ここでふたりとはお別れになる。
「うん。また明日」
アズキは二、三回ほどふたりがいるバス停に顔を向けながら、駅のホームに向かうのだった。
「スタッグ、メダチェンジっていうのできたんだ」
夜、二二時。
自宅に持ち帰った仕事と高校の勉強をとりあえず終わらせたアズキは、自室の机に座ったままスタッグに話しかける。
「はい」
「どうして教えてくれなかったの」
「教えられるわけないじゃないですか」
スタッグは言った。
「あの変形の仕方見ましたよね? あんなの、まるで痴女じゃないですか」
「あー、うん」
言われてみれば。スカートを裏返してM字開脚。しかも艦首の正体は丸見えのパンツ。
「確かに、あの変形はエッチだった」
「やっぱり、そういう目で見てたんじゃないですか」
スタッグは言って、
「そんな姿、誰かに見せたいと思いますか?」
「えっと、私の前でだけ、もう一回見せて欲しいっていうのは」
「嫌です」
ですよね。
普段のスタッグはスカートの内側さえ見せてくれないんだから。それをM字開脚で丸見えにするなんて許可してくれるはずがない。
M字開脚でパンツ丸見え。
「どうしよう。本当にもう一度見せて欲しい」
「絶っ対に嫌です!」
スタッグは声を強めていった。
アズキが諦めきれずにむらむらしてると、
「それに、性能面という意味でも、なるべくアズキには伝えないままにしておきたかったんです」
「え、どうして」
「私のメダルでは使いこなせない形態なんです。あれは」
「ああ」
アズキは納得した。
スタッグはクワガタメダルだから、対応してる脚部は二脚、多脚、飛行である。脚部を潜水にしてしまうと本来の性能が発揮できないのだ。
「今回だってあの一撃で倒しきれなったら逆に私が負けてた可能性もある程ですから。アズキには極力ロボトルの選択肢に入れないで欲しかったんです」
たしかに、その可能性は高かった。
つまり性能面で考えても、スタッグのメダチェンジは軽々しく使える技ではない。本当に最後の一手。奥の手だったのだ。
「うん」
アズキは頷いて、
「そこはスタッグの言う通りだと私も思うから、気を付けるつもり」
「ありがとうございます」
「まあ、普段からロボトルはスタッグの好きにやらせて、私が指示する事はほとんどないけど」
「それもそうですけど」
だから、今後もアズキはスタッグにメダチェンジさせる事はないだろうし、あった時はスタッグ自身もする必要があると判断した時に限定されるだろう。
スタッグは言った。
「ところで、どうして私はこんな格好をさせられてるのでしょうか」
実は現在スタッグはPSC型ピスケスの姿でベッドの上に立っていたのだ。見た目は完全に魚そのもの。
アズキは言った。
「その、実はあの後自分が持ってるメダロットの中に、他にメダチェンジできる機体があるんじゃないかって調べたという話で」
「嫌です」
スタッグは先回り「嫌です」を言うけど、アズキは続けて、
「ねえ、本当は最初から知ってたんでしょ?」
「何がですか?」
「任務で深夜の学校に潜入した時、私が見たお姫様みたいなメダロットの正体」
スタッグは無言だった。
アズキは手を合わせて頼み込む。
「お願いスタッグ、メダチェンジして」
「嫌です」
「この通りだから」
さらにアズキは椅子からおりて土下座。
「ああもう、分かりました」
観念したらしくスタッグは頷き、どう見ても魚にしか見えないメダロットはその場で変形を始める。
こうして、ピスケスというメダロットは、黄色を基調としたドレス姿の女型メダロットに姿を変えた。
それはまさしく、任務の時一瞬だけアズキの目に映り、瞼に焼き付いたままだったお姫様メダロットそのものであり、
「やっぱり!」
アズキは嬉しさのあまり目を輝かせる。
ピスケスを手に入れた当時、アズキはついにお姫様メダロットを見つける事ができなかった。まさかこんな近くにいたなんて。
「これでよろしいでしょうか?」
と言ったスタッグに、アズキは全力で抱き着いて、
「ありがとう、スタッグ。もう二度と見れないと思ったお姫様にまた出会えるなんて。しかも今回は中身がスタッグだなんて最高」
「アズキ、興奮しすぎです」
「スタッグ、撮影。スマホで写真撮っていい? というか、撮るね」
「嫌です。って本当に無許可で撮らないでください」
と言いながらスタッグは魚の姿に戻ろうとはしない。
しようと思えば、いつでもメダチェンジを解除できるだろうに。
「もう分かりましたから。ずっと黙ってた私も悪かったですから、ですから落ち着いてくださいアズキ」
「無理」
「この姿、サンダーもフリーズも搭載されてるのですけど、アズキはどちらがご希望ですか?」
「もうどうなってもいいや」
アズキはスタッグに抱き着いたまま、全身で電流を浴びたけど後悔はなかった。
これで第13話は終了になります。