メダロットHERMIT   作:CODE:K

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14-2 この道わが旅2

 

 ティナさんの演奏を見に来たはずが、ホール内の自主警備を行う事になったアズキ。

 改めて客席を見渡してみたところ、

 

「あれ?」

 

 と、アズキは思った。

 席のひとつに、博物館の職員でそれも見知った顔をひとり見つけたからだ。

 

 しかもアズキはその人物に恩がある。

 挨拶くらいはしておかないと。

 

「こんにちは」

 

 アズキは言った。声をかけられた女性は振り返って、

 

「おや、君はあの日の」

 

 彼女は白衣を羽織った若い女性で、髪は肩に触れる長さのツインテール。

 瞳は虚ろのようにも挑発的にギラギラ輝いてるようにも映り、魔性のような魅力と身が竦むような恐怖を同時に感じる。

 

「先日はありがとうございました」

「感謝される事はしてないわ。お互いの口止め料でしょう?」

 

 彼女は、先日この博物館で事件が起きた時にアズキの事情聴取を行った女性だ。

 

 その際に彼女は、アズキが土産屋で買おうとしてたカメオスタッグやアクセサリーの代金を立て替えてくれ、アズキがロボロボ団を逃がした事も黙ってくれた。

 代わりに博物館の展示物がメダロットの暴走を促した失態をアズキも口外しない。という交渉をしたのだ。

 

 それが、互いの口止め料に関する話である。

 

「ところで、今日はどうしてこちらに?」

 

 アズキが言うと、

 

「博物館の職員が貸し出したホールを視察するのは変かしら?」

「え、ううん。そういう事は」

「という口実で見に来たのよ。音楽とメダロット。もしかしたら今後博物館のイベントに使えるアイデアが見つかるかもしれないでしょう?」

 

 と言って、

 

「仕事の時間内にこうやって外の刺激を受ける事は貴重なのよ」

 

 女性はフフッと笑った。

 

「それで、アズキちゃんは今日はどうしてここに?」

「え、どうして名前を」

「前回、入館した時の学生証データからよ」

「ああ」

 

 アズキはうなずいて、

 

「生徒。あ、えっと」

「バイトしている塾の教え子からチケットを頂きまして」

 

 つい生徒と言ってしまい、続く言葉に困ったアズキに代わってスタッグが言った。

 女性は、

 

「へえ。その子の名前は?」

「藤稔ティナって子です」

「その子も演奏するのね。覚えておくわ」

 

 パンフレットを広げ、女性はティナさんの名前を確認する。

 

「そういえば、あなたの名前を教えていただけませんか?」

 

 ここでスタッグが言った。

 

「私はスタッグと言います。まだ知り合い程度とはいえ面識ができたのに、私たちだけ名前を知らないのは不便ですから」

「まあ、そうね」

 

 女性は頷くと、手持ちのバッグから名刺入れを出し、中身を一枚アズキに手渡す。

 アズキは「ありがとうございます」と書かれていた名前を確認して、

 

「博物館所属の研究員、間桐(まとう)ミチコさん?」

 

「そう。普段はこの博物館で研究員をしているわ。何かあったら連絡を頂戴。私の立場でよければ力になるわ」

 間桐さんは言うのだった。

 

 

 

 ところで、自主警備という仕事を行う事になったからだろうか。

 ホール内で警備してると、ある時ひとりの美人が中に入ってきて、

 

「お疲れ様ですよ」

 

 とアズキに話しかけてきた。アズキは一瞬混乱したけど、

 

「あ、キクナ?」

「苦手な場所ですけど、仕事ですから来ないわけにはいかないですよね」

 

 キクナはくすりと笑った。

 

 今日のキクナはワンショルダー、つまり片方の肩だけ露出した赤いドレス姿だった。

 大きめにドレープを入れたカスケードカラーがゴージャスな色気を醸し出し、一瞬キクナとは分からなかったほどだ。

 

「大丈夫なの? この博物館だけは売上に貢献したくないとか前言ってたけど」

「前に事件があったばかりですからね。警戒する気持ちも分かりますし、今回も生徒が関わってるのですから向かわない理由がないですよ」

「それにしては」

 

 アズキはキクナの衣装を眺めて、

 

「ずいぶん凄い服を着てきたね」

「演奏会ですからね」

 

 キクナはこの場でカーテシーをしてみせて、

 

「似合ってますか?」

「うん。似合ってる、というより最初キクナと分からなくてどこのお嬢様が接触してきたのって動揺したくらい」

「ありがとうです。アズキさんも似合ってますよ?」

 

 今更だけど、今日はアズキもVネックのドレスを着ている。

 義母からの借り物だし、個人的には自分が着たところで見栄えが良くなったとは思えないけど。

 

「ありがとう。まあ、うん。お世辞でも嬉しいよ。普段服装のレベルが高いキクナに褒められたんだから」

「別にお世辞ではないですけどね」

 

 と、ここでホール内の照明が少し暗くなった気がする。

 ティナさんが接触してきて、

 

「それでは先生、私たちは控室に向かいます」

「あ、もうこんな時間だったんだ」

「はい。習い事の演奏会程度ですけど、今日は楽しんでいってください」

 

 ティナさんは言うと赤城くんや他の数名と一緒にステージ横の扉を通っていった。おそらく奥に控室があるのだろう。

 

「それじゃあ、僕たちも一旦席につきましょうか」

 

 キクナがいった。

 

「そうだね」

 

 アズキはうなずき、適当な椅子にキクナ、スタッグと並んで腰かけると、その横に神宮寺さんが座って、

 

「先生、お隣いいですか?」

「あ、うん」

「わーい」

 

 嬉しそうな神宮寺さん。さらに彼女の隣にタコスも座り、自然と今回のTMZ自主警備組が四人、スタッグを含めて五人並んだ形になった。

 

 さらにホールは暗くなった。

 ここで、習い事の先生と思われる四十歳ほどの女性がステージにあがり、

 

「今日は足を運んでいただきありがとうございます。これより演奏会を始めます」

 

 と言った。

 

 オープニングは先生による演奏らしい。最初の女性がピアノに座ると、バイオリンを持った男性が現れ、ふたりで演奏を始める。

 アズキはピアノに関する知識はゼロだったけど、何となく聞いた事がある曲だった気がした。

 

 スタッグが言った。

 

「さすが先生ですね」

「うん」

「とても綺麗な曲です」

 

 程なくして先生による演奏は終わり、続けて教室に通う生徒によるソロ演奏に移る。

 

 えっと、ふたりは何番目だっけ。

 アズキはパンフレットを開けたけど、視線はすぐステージに移った。

 

 まさに一人目の演奏者が赤城くんだったからだ。

 神宮寺さんが嬉しそうに、

 

「あ、先生。早速フクがやるみたいですよ」

「うん。まさか最初だとは思わなかった」

 

 なお改めてパンフレットを見たけど、生徒が何を演奏するのかは記載されてない。

 赤城くんは何を弾く気なのだろうか。

 アズキが考えてた中、赤城くんは演奏を開始して、

 

(あ、あーっ!)

 

 驚くアズキ。それはもう大声を出してしまう寸前であった。

 

 だって、彼女が弾き出したのは国内で有名なRPGであるド○ゴンクエストの序曲だったからだ。

 まさかこれを選ぶなんて。実は女の子だけど、男の子が好きそうなアニメやホビーが大好きな赤城くんらしいチョイスである。

 

 しかも上手い。

 

 赤城くんはさらにおおぞらをとぶ、勇者の挑戦、最後にこの道わが旅と演奏しきって、ホール内の空気を完全に真っ二つに分かれさせた。

 ド○クエを知ってる人と、知らない人である。

 

 そもそも、ホールの客は大半が自分の子供や知人の演奏が目的で、他の子の演奏なんて興味がない人が大半だろう。

 なのに、明らかに先生の演奏より盛り上がらせたのは凄いという他ない。

 

 ピアノから立ち上がり、拍手喝采を受けながら一礼し、奥に戻る赤城くん。

 

「凄かった」

 

 アズキが呟くと、

 

「うん。何だか凄く盛り上がってましたけど、何の曲だったのですか?」

 

 と、興味深そうに反応する神宮寺さん。しかも、

 

「最初のはCMでビールの曲だっていうのは知ってましたけど」

「待って、あれはロトのテーマといって」

 

 まさかCM効果でド○クエを知らない人がこんな勘違いをするなんて。

 アズキは言った。

 

「えっと神宮寺さん? 多分だけど赤城くんの前であれをビールの曲って言わないほうがいいと思うよ?」

「え、どうして?」

「好きなアニメやゲームの名曲がCMに使われてこうなった。といえば伝わる?」

「あっ」

 

 神宮寺さんは気づいてくれた。さすが赤城くんとはいつも一緒の親友みたいな子だ。察しが早い。

 

「ごめんなさい」

「アズキ、次の人が来ますよ」

 

 スタッグが言った。アズキたちはすぐ雑談をやめてステージに注目する。

 

 次の人は知らない女子だった。たぶん小二か小三くらいで、キッズドレス姿がとても可愛い。

 しかも弾いた曲は猫踏んじゃった、犬のおまわりさん、といった童謡メイン。

 

 演奏は赤城くんより下手だったけど先ほどまでの雰囲気を「子供たちの演奏会」らしい優しい雰囲気に戻してくれた。

 ちなみにパンフレットによると名前は(アキ)サルミというらしい。

 

 次にステージに立った男の子は頑張ってベートーベンの運命を弾いたけど、実力が足らず上手く演奏できてるようには見えなくて、

 

(頑張って)

 

 と、アズキは心の中で応援してしまう。

 気づくとアズキは仕事を忘れて演奏会に夢中になってしまい、この調子のまま何人かの演奏が終わった時、

 

「先生、先生」

 

 神宮寺さんが言った。

 

「次、ティナの番ですよ。楽しみですね」

「え? もうティナさんの番?」

 

 アズキは慌ててパンフレットを開く。生徒たちによるソロ演奏はすでに終盤まで来ていたのだ。

 

 ステージ横の扉を開けてティナさんが入ってきた。

 彼女は一体何を弾く気なのだろう。

 

 ティナさんは一礼してからピアノに座ると、

 

(え?)

 

 アズキは彼女の演奏に驚いた。

 ティナさんが弾いたのは赤城くんのような奇抜なものでも何でもない、ピアノ演奏でも定番のトルコ行進曲だったからだ。

 

(彼女の事だから、もっと自由でぶっ飛んだ曲を選ぶと思ってたのに)

 

 けど、次第にアズキの心から意外という二文字は消えていった。

 ティナさんが生き生きとした顔でトルコ行進曲を弾いてるのが分かったからである。

 

 彼女は本当にピアノが好きなのだ。

 だからウケを狙う必要もなく、弾きたいと思った曲を自由に弾く。だからこそ誰かの期待も背負わないし、定番でも一切構わない。

 

(赤城くんのインパクトが強すぎて、毒されてたかも)

 

 正直言って、演奏自体は赤城くんより上手とは思えなかった。

 けど、赤城くんが異常だっただけで他の子よりはずっと優れてるし、何より赤城くんの演奏より音に命を感じる。

 

 どちらの曲をより長く聴いてたいかというと、おそらく同じ土俵ならきっとみんなティナさんと言うだろう。

 アズキは彼女の演奏を最後まで聴き入るのだった。

 

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