メダロットHERMIT   作:CODE:K

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15-1 不可思議のカルテ1

 

「スタッグ、来週から二週間ほど休んじゃ駄目かな?」

『駄目です』

 

 今日も紅下(コシタ)アズキが話を投げかけたところ、腕時計型デバイス『メダロッチ』から拒絶の返事が鳴った。

 

 話は少しだけ戻って、ティナさんから演奏会のチケットを貰う数日前。

 突然だけど、来週からアズキのクラスに教育実習生が就任する事が、ある日の職員朝会で伝えられたのだ。

 

 しかも相手は女性らしい。

 今年たしか二一歳になる大学生らしいので、ようやくクラスの女子生徒たちに少し慣れてきた時に投下された爆弾のようなものである。

 

「スタッグ、無理。ここでお姉さん追加投入なんて私耐えられる自信がない」

『これも任務ですから我慢してください』

 

 当然だけどスタッグは「分かりました休みましょう」とは言ってくれない。

 

『それにクラスにはモッチーズ、ティナさんや春日さんもいるのですから』

「ううっ」

 

 とはいっても、自分だけならともかくモッチーズは基本問題生徒だ。

 ティナさんも校内なら大人しいけど、学校から出ればモッチーズとは別の意味で危険な子だし、春日くんは見た目がヤクザでやっぱり少し怖い。

 

 それにアズキのクラスはユスグさんの問題があるから、教師には基本良い印象を持ってないはず。

 今回ばかりは、アズキが教育実習生から生徒を護り、大丈夫だよと安心させる側に立たないといけないはずだ。

 

 余談だけど、キクナを含めて学年主任以上の立場にいる先生はすでに教育実習生と顔を合わせてるらしい。

 なので、一応「大丈夫そうな人でしたよ」とキクナからお墨付きはもらってるけど。

 

(不安だー)

 

 という感情を抱えながら、ティナさんの演奏会に顔を出し、週が明けて月曜日。

 

「それでは職員朝会を始めます」

 

 学校に勤務する先生たちが職員室に揃うと、まず校長先生がいった。

 なお、週初めなので、今日の職員朝会は少し始まるのが早い。この後体育館に全生徒を集めて行われる朝の集会もあるためだ。

 

「まず先週お伝えした通り、今日から二週間、紅下先生のクラスに教育実習生が就任されます」

 

 と、校長先生が言うと、隣からひとりの若い女性が前に出た。

 髪はヘアクリップで留めたアップヘアで、少し気弱で優しそうな雰囲気を感じる。一目見た程度だけど、とりあえず悪い人ではないだろう。

 

「えっと、初めまして、鬼殺(おにころし)トウコといいます。今日から二週間お世話になります」

 

 教育実習生はおろおろした様子で言った。

 しかし人畜無害そうな雰囲気とは裏腹に凄く恐ろしい苗字である。

 

「そして彼女が、君が担当するクラスの担任だ。紅下先生、ご挨拶を」

 

 校長先生に言われ、

 

「ふえっ、あ、はい」

 

 なぜかトウコ先生より緊張しながらアズキは、

 

「えっと、紅下アズキです。こ、これからよろしくお願いします」

 

 何度も何度も頭を下げ、

 

「本職のほうが緊張してどうするんですか」

 

 先生の誰かが言った事で、室内に笑いが起こり、

 

「ふふっ」

 

 トウコ先生もちょっとだけ笑っていたのが見えた。結果的には彼女も持ってただろう緊張を飛ばす結果になったらしい。

 校長先生も笑いながら、

 

「という子だから鬼殺先生、紅下先生のサポートをしっかりお願いしますよ」

 

 ちょっと待って! アズキは突っ込みを入れようとしたがそんな勇気はなく、

 

「紅下先生のほうがサポートされる側なのですか?」

 

 かわりにキクナが言ってくれた。しかし、

 

「うーん、ですけど事実ではありますから。鬼殺先生、彼女をお願いします」

「待ってキクナ、事実なの?」

 

 アズキは今度こそ指摘した。

 

 

 

 体育館での朝の集会も無事終わり、アズキとトウコ先生は一緒に廊下を歩いて、自分たちの受け持つクラスに向かう。

 アズキは再び緊張しながら、

 

「えっと、クラスに入ったら朝のホームルームでもう一度自己紹介してもらうけど、大丈夫?」

「はい。大丈夫なのです」

 

 トウコ先生は笑顔で言った。アズキとは反対に彼女からはあまり緊張してる様子を感じない。むしろ、

 

「それよりも紅下先生は大丈夫ですか? ずいぶん緊張してるみたいですけど」

「あー。えっと、うん」

 

 アズキは顔をそらし、

 

「トウコ先生こそ凄いね。今日が初日なのにあまり緊張してなさそうで」

「えっと、紅下先生がすごい緊張されてるので、逆に落ち着いてしまって」

 

 ふふっと笑いながらトウコ先生は言った。

 アズキは、

 

(う、可愛い)

 

 とさらに緊張を覚える。

 初顔合わせの時も覚えたけど、実際にこうしてふたりで歩いてみると、トウコ先生からは癒されるような愛らしさに満ちているのだ。

 

 本来なら、こうして一緒にいれば自然と相手は緊張が解れていくのだろう。

 しかしアズキはレズという目線を持ってるせいで、相手を変な目で見てないか、気づかれて警戒されないだろうかと逆に緊張が強まってしまうのだ。

 

「あ、ここです。トウコ先生」

 

 アズキは自分たちのクラスを指して言った。

 危ない危ない。もう少し到着が遅かったら緊張のあまりどうなっていたか分からない。

 

「あ、ここ。なのですね」

 

 ここでトウコ先生の顔に緊張が走った、ように見えた。

 本人が言うように、アズキがいたから落ち着いてただけで、本来ならトウコ先生もガチガチに緊張して当たり前の場面なのである。

 

「じゃあ、入りましょうか先生」

 

 アズキは扉を開けた。

 

 

 

 トウコ先生の自己紹介は思った以上にスムーズに終わり、そのまま授業に入る。

 先生は、思ったよりずっとずっと優秀な先生だった。

 

 建前上はアズキが主導でトウコ先生がサポートに入る手筈だったのだけど、本来教師ではないアズキと違って、トウコ先生は実習とはいえ教師の勉強をしている。

 正直言って、初日の時点でアズキより生徒に授業するのが上手だった。

 

 第一印象は気弱に見えた先生だけど、その優しさを活かして生徒の目線で応対し、温かく丁寧に物事を教えてくれる。

 何より見た目と違って意外と肝が据わってるのか、アズキとは違い生徒の前ではおろおろせず、相手が不安になるような言動は一切取らない。

 

 結果的に、校長先生やキクナが言うようにアズキのほうが逆にサポートされっぱなしな初日を終えるのだった。

 

 で、放課後。

 生徒たちがいなくなり、ふたりきりになった教室で、

 

「今日はお疲れ様」

 

 アズキは言った。

 

「お疲れ様です、紅下先生」

 

 ふぅっと張り詰めた緊張が解けたように、力の抜けた声でトウコ先生はいった。

 アズキは笑って、

 

「やっぱり、先生でも緊張してたんですね。疲れましたか?」

「はい。アルバイトで塾の講師は経験してますけど、実際に先生としてクラス全員の子供たちに何かを教えるのは初めてですから」

 

 トウコ先生は笑みで返す。

 

「分かる。すごく分かる」

 

 アズキはうなずいて、

 

「私なんて今でも慣れなくて。今日はトウコ先生がいてくれて助かりました」

 

 そういえば、いまは再びトウコ先生とふたりきり。

 やばい。アズキの中で別の緊張が再びこみあげてくる。

 

「いえ、私なんて」

 

 言ってから、ふと考え込むトウコ先生。

 

「あの、紅下先生。ひとつ聞いてもいいですか?」

「え、なに?」

 

 アズキが返すと、

 

「あの、もしかしてなのですけど。先生ってもしかして、昔孤児院にいた紅下アズキちゃんですか?」

「えっ」

 

 アズキは驚き、

 

「なんでそれを」

「やっぱり。先生にしては若すぎると思いました」

 

 トウコ先生はくすりと笑って、

 

「改めまして鬼殺トウコです。同じ孤児院育ちで、私は高校卒業と同時に孤児院を出ましたから、たぶん二・三年くらい一緒だったと思います」

「え、え、え」

「覚えてないのですか? なのです?」

 

 トウコ先生は語尾を強調して言った。

 たぶん当時はなのです口調だったのだろう。しかしヒントを与えられても、

 

「あ、そういえば。そんな口調のお姉さんがいたような」

「それが私なのです」

「でもごめん。ほんとにそれくらいしか覚えてない」

 

 アズキが言うと、

 

「ラエドちゃんから聞いてはいましたけど、本当に何も覚えてないのですね」

 

 トウコ先生は言った。

 どうやら、アズキが孤児院に足を運んだ後、トウコ先生とラエドさんは一度接触している様子。

 

「という事は、この学校で教師をしているのもTMZ関係でユスグちゃんのためですか?」

「そこまで知ってるんだ」

 

 間違いなくラエドさんは、こんな重大な情報を考え無しにばら撒きはしない。

 トウコ先生は、ラエドさんにとってそれだけ信用に値する人物だった事になる。というよりも、

 

「もしかしてトウコ先生も」

「はい。実習先がこの学校になるように色々手配してもらいました」

「誰の後ろ盾で?」

「ウォッカちゃんです」

 

 そういえば、ウォッカも孤児院出身でラエドさんたちと交流があるんだった。

 

 でも、だからって個人の力でそこまで出来るとは思えないけど。一応ウォッカってただの公認レフェリーなだけでし。

 いやでも、あのウォッカなら。

 

 アズキは考えるのをやめた。

 

「そうなのです。せっかくですから、ここで情報共有をしませんか?」

 

 トウコ先生は言った。

 けどアズキは、

 

「ごめん、断る」

 

 はっきりと返した。

 多分順調に話が進むと思ってたのだろう。トウコ先生は驚いて、

 

「え、どうしてですか?」

「まず。情報共有とは言うけど、トウコ先生はどこまでユスグさんの情報握ってるの?」

「それは」

 

 どうやら、ほとんど無いに近いらしい。

 アズキの予想通りな結果である。だったら余計に教えられない。というより巻き込めない。

 

 ユスグさん行方不明事件の背後には、神宮寺さんの屋敷を襲うくらい危険な組織が絡んでる可能性が高いからだ。

 

 それに、今までの流れからアズキが情報を流せば、きっとラエドさんの耳にも届いてしまうだろう。

 下手に首を突っ込ませて、新たな事件に巻き込むわけにはいかない。

 

 トウコ先生にも、ラエドさんにも。

 

「でしたら、ロボトルを申し込みます」

 

 が、トウコ先生はとんでもない事を言いだした。

 

「私が負けたら大人しく諦めるのです。ですけど、もし私が勝ちましたら情報共有してください」

「え、いや、断」

「私の後ろ盾はウォッカちゃんなのです。彼女次第ではありますけど、アズキちゃんに拒否権は無いのです」

「うっ!」

 

 アズキは仰け反った。

 つまり、これでウォッカが、

 

「悪いけど、今回のロボトルは強制で合意扱いにさせてもらうよ」

 

 とか言い出したら。

 なんて思った矢先、本当にウォッカがふたりの間に現れて言ったのだった。

 

 公認レフェリーが後ろ盾にいる。この事実がここまで厄介だったなんて。

 

「待って、ウォッカ」

 

 それでもアズキは抵抗する。

 

「ウォッカなら私が情報共有しない理由も気づいてるはずでしょ? あの情報、ふたりに渡しちゃっていいの?」

ニェット(いいえ)。もちろん駄目だと思ってるよ」

「だったら」

「この小説のトウコ視点のログを読んだんだ。結果、もしロボトル自体を断ったら彼女は自力で無茶な捜索に出る可能性が高かったんだよ」

 

 何だかよく分からない事を言いだしたけど、気にしない。

 

「だから、君にはここでロボトルしてもらって、勝って素直に諦めてもらうか、負けて情報共有したほうがトウコには安全なんだ」

「負けて情報共有したほうが?」

「情報共有してしまえば、TMZも警戒してトウコやラエドを事件に巻き込まないように手を尽くすだろう」

 

 なるほど。

 ここでスタッグがメダロッチから、

 

『だから、無茶な捜索を避けるために彼女の後ろ盾になって、わざとトウコさんとアズキを接触させたのですか?』

ダー(うん)。大正解だよ」

 

 ウォッカは言うのだった。

 





サブタイトルはTVアニメおよび劇場アニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」のED「不可思議のカルテ」より
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