メダロットHERMIT   作:CODE:K

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15-3 不可思議のカルテ3

 

「か、勝った」

 

 あと一秒遅れていたら負けてたのはスタッグだったかもしれない。

 そんな状況で勝利を拾えたと認識したアズキは、大きく息を吐きながら全身の力が抜けて尻もちをつく。

 

 一方、トウコ先生側も茫然とした様子で、

 

「負け、た?」

 

 とつぶやく。

 スタッグはメダチェンジを解除して普段の姿に戻りながら、

 

「やっぱり、メダルや脚部と相性の悪い地形で戦うべきではないですね」

 

 と言ってから、

 

「ではトウコさん。約束通り情報共有は諦めてくれますか?」

「それは、分かりましたのです」

 

 トウコ先生はロンガンを回収しながら、

 

「でも、どうしてなのですか? お互い協力者は多いほうがいいはずなのに、どうしてアズキちゃんは提案を断ったのですか?」

「それは」

 

 言えるはずがない。あなたを危険に巻き込みたくないからなんて。

 先生は静かに言った。

 

「アズキちゃんはもう、危ない情報を掴んでるからですか?」

「そ、それは」

 

 ここで違うと冷静に言えたなら、アズキは優秀なTMZエージェントだったのだろう。

 トウコ先生は確信した様子で、

 

「やっぱりそうなのですね。アズキちゃんは私を護るために情報を渡さないよう頑張ってくれてたのですね」

 

 と、笑う。

 

「そういえばウォッカちゃんもそうでしたね。この事件に私を深入りさせないために、あえて私に協力してくれてたのです」

 

 そのウォッカはすでにいない。

 隠れているのか、すでに公認レフェリーとして次の場所に移動しちゃったのか。

 

「でも大丈夫なのです。私、こう見えて護身の格闘術を学んでますから」

「それで、どうにかなる問題じゃないよ」

 

 アズキは言った。

 

「たとえばだけど、それでメダロットを倒せる? 三原則が解除されたメダロット複数に襲われて解決できる? 生身で」

「そういう事が起きる問題なのですね」

 

 トウコ先生の言葉に、アズキは、

 

「え?」

「鎌をかけたつもりは無かったのです。本当に格闘術の心得はありますけど、あれは駄目元で言ってみただけ」

 

 トウコ先生は笑顔で、

 

「でも、たとえばでそんな事を言うなんて、つまり深入りすると三原則が解除されたメダロットに襲われるような事件なんですね。暴走メダロットだったり」

「あっ」

「もう遅いのです。ここ最近に起きたメダロットの暴走事件をラエドちゃんと一緒に調べる事にします」

「だ、だめ!」

 

 アズキは言うけど、

 

「その先にアズキちゃんの知る情報と繋がる可能性が高いと分かってしまいましたから」

「お願い、本当にやめて」

「でしたら素直に情報を教えてくれませんか?」

「それならトウコ先生こそ、ロボトルに負けたのだから素直に深入りを諦めて欲しいのだけど」

 

 ロボトルでこちらが勝った条件は、トウコ先生に情報共有を諦めてもらう事。

 調査そのものから手を引けとは言ってない。

 

「ラエドちゃんも心配していたのです。アズキちゃんが危険な事に首を突っ込んでるのは分かってましたから」

 

 この言葉を前にして、以前孤児院に足を運んだ時、ラエドさんがどんな気持ちでアズキを止めようとしてたのか分かった気がした。

 まさか今度はアズキのほうが逆の立場になるなんて。

 

「アズキ、諦めましょう」

 

 スタッグが言った。

 

「このまま独自で暴走メダロットの事を調査されるほうが危険です。それよりは私たちの持ってる情報を伝えたほうがいいと思います」

「スタッグ、うん」

 

 アズキは仕方なくうなずく。で、スタッグがプールサイドに上がってきたのでアズキは直接耳打ちするように、

 

「でも全部話すのはあまりに危険だよね?」

「さすがに全部は話しませんよ。ロボトルには勝ったのですから、神宮寺邸の話だけに済ませて、博物館の話は一切触れないようにします」

 

 と、ここで。

 

「あれ? 紅下先生に鬼殺先生?」

 

 突如アズキは声をかけられた。

 

「え?」

 

 振り返ると、ランドセルを背負ったクワトロさんがこちらを見つけ、近づいてくる。

 改めて、背丈や基本的な体型はランドセルを背負っても違和感ないのに、爆乳ひとつあるせいで視界に入れるだけで犯罪の二文字が脳裏に浮かぶ。

 

「いい事を思いつきました、アズキ」

 

 スタッグが耳打ちで言った。

 

「クワトロさんも孤児院出身ですから、元孤児院同盟という体でトウコさんと三人で仮初の協力体制を結びましょう」

「具体的には?」

「今後も含めて情報共有する約束をします。もちろん私たちからは予定通り神宮寺邸の話だけで、神宮寺さんがロボロボ団だという事ももちろん伝えません」

 

 確かに、神宮寺さんがロボロボ団という事実はノイズでしかない。

 

「ですが協力体制ですので今後も情報を共有しあう約束だけはします。これで今後トウコさんの監視がやりやすくなるはずです」

 

 そのうえ、今後クワトロさんとトウコ先生双方の目が互いの監視を担う事になり、何かあればアズキの耳に届くという話らしい。

 

「たしかに。乗った」

 

 アズキはうなずいた。

 トウコ先生は接近してきたクワトロさんに、

 

「こんにちは。あれ? まだ下校してなかったのですか? えっと」

「あ、えっとクワトロ・チーゼスです」

 

 クワトロさんはムーブだけ人見知りでまだトウコ先生と話し慣れてませんって態度を見せる。

 スタッグが、

 

「あ、クワトロさん。ちょうどよかったです。少しいいですか?」

 

 と言ってクワトロさんに手招き。

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

 おろおろと近づくクワトロさん。スタッグはそんな彼女に耳打ちで、

 

「実は」

 

 と、こっそり先ほどの作戦を伝え、

 

「という事をしたいのですけど、協力できますか?」

「はい。私でよろしければ」

 

 どうやら、無事に承諾を得たらしい。

 アズキは言った。

 

「そういえばトウコ先生には教えてなかったっけ。実はクワトロさんも元々孤児院の子という話で」

「そうなのですか!?」

 

 驚くトウコ先生。

 続けてスタッグも、

 

「それでクワトロさん、実はトウコ先生も元々孤児院出身だったそうなんです。いまでもラエドさんと連絡を取ってるようでして」

「え、そうだったのですか?」

 

 クワトロさんも驚く。まあ彼女はスタッグとの耳打ちで先に知っていたとは思うけど。

 

「あの、それでしたら少しおたずねしたい事があるのですけど」

 

 おずおずとした態度でクワトロさんは言った。

 

「御萩ユスグさんという方のお名前に聞き覚えはありませんか?」

「え?」

 

 となるトウコ先生。クワトロさんは続けて、

 

「実は」

 

 と、ユスグさんに関係する現状を伝え始めた。

 ある日同じ孤児院の同級生が行方不明になった事、それに関係するクラスの問題。自分は事件の結果、神宮寺家に保護される形で孤児院を去った事。

 

 そういえばユスグさん関係でクラス全体が病んでる現状を伝え忘れていたので、クワトロさんを味方につけて助かった。

 もし何も知らずトウコ先生が生徒たちにユスグさんの話をしたら大惨事になる可能性があったのだ。

 

 割と最初から警戒してた事だったのに。

 

(ありがとう、クワトロさん)

 

 アズキは心の中で感謝する。

 しかもクワトロさんは、忘れていたアズキたちのフォローだけに留まらず、

 

「ですけど、保護先の神宮寺家でも事件が一度ありまして」

 

 と、アズキたちが伝えるはずだった情報も彼女のほうから踏み込みだした。

 クワトロさんは伝える。

 

 神宮寺家で暴走メダロットの襲撃にあった事。その主犯がユスグさんのメダロットだったユニィで、一度捕まえたものの逃げられてしまった事。

 事件の全貌を、アズキたちが伝えたくない情報は与えないまま、上手に伝えてくれたのだ。

 

 で、どうしてクワトロさんがここまでしてくれたのかというと、

 

「もし、この事件を孤児院に知られてしまったら、私は孤児院に連れ戻されるかもしれません。ですからお願いします。ラエドさんには内緒にして頂けますか?」

 

 というのがクワトロさんの狙いだったらしい。

 アズキとスタッグはクワトロさんの立場を考えてなかった。その危険性がある事をしっかり把握しておくべきだったのである。

 

 クワトロさんは見た目慌てた様子で、

 

「あのえっと、ごめんなさい。自分から勝手に色々喋っておいて、こんなお願いをしてしまって」

 

 と、言いながら横目でちらっとアズキたちに視線を向けた。

 ここまで言ってしまえば、作戦上ではこちらに情報共有を断る理由がなくなってしまう。という状況を作ってくれたのだ。

 

「あー、えっと」

 

 アズキは困った素振りでいった。

 実際、教え子におんぶに抱っこをさせてしまった恥ずかしさ申し訳なさのせいで、嘘が下手なアズキでも素でこの態度を取ることができ、

 

「実は情報共有を断った理由もこれという話で。実際、下手に首を突っ込んだら危険な話だよね?」

「そうだったのですか」

 

 トウコ先生は少し驚いた後、

 

「でも納得なのです。相手はTMZでも手を焼く相手なのですから、下手に首を突っ込んだら命が無かったかもしれません」

 

 といってうなずく。

 アズキはいった。

 

「ごめん、知るだけでも危険な情報を伝えてしまって」

 

 で、クワトロさんが慌てて、

 

「あ! そういえばそうでした。ごめんなさい、こんな事に関わらせてしまって」

 

 と頭を下げる。

 で、こちらの不注意でトウコ先生を危険にさらしてしまったって空気を作ったところでスタッグが言うのだ。

 

「こうなってしまっては、ただ情報共有するだけでトウコさんを放置するわけにはいきません。改めて、私たち三者で協力体制を結びませんか?」

「協力体制ですか?」

「はい。今後も継続的に情報共有した上で、トウコさんの身柄をTMZがお護りします。というよりも、護る義務が私たちにはありますので」

 

 スタッグの言葉にトウコ先生は驚いて、

 

「よろしいのですか?」

「はい。私たちが情報共有で伝えられるものは現状クワトロさんが全部話してしまいましたけど」

 

 と言って、今度はスタッグがクワトロさんに視線を向ける。

 クワトロさんは見た目だけ慌てた様子で、

 

「わ、私からも。ラエドさんには内緒にして頂けるのでしたら、先生のお力になりたいと思っています」

「ちなみにクワトロさんは相当なロボトルの実力者です。有事の際には頼りになる事は保証します」

 

 さらにスタッグの援護。

 しかしトウコ先生は、

 

「それは、ちょっと難しいのです」

 

 と言うのだった。

 

「さすがに神宮寺のお屋敷が襲撃された事は、私の立場としてはラエドちゃんに報告しないといけないのです」

「そんな」

 

 今度は本気でショックを受けた様子のクワトロさん。

 

「ですけど」

 

 トウコ先生はいった。

 

「神宮寺のお屋敷のほうが孤児院より防衛力が高いのは知ってますから、クワトロさんを孤児院に引き戻す事はしないと思うのです」

「先生」

「それにラエドちゃんの一存でクワトロちゃんを孤児院に戻すのは難しいと思いますし、私もお屋敷に残れるように力を尽くします。それでは駄目ですか?」

 

 つまりトウコ先生は、ラエドさんに報告はする上でクワトロさんは引き続き神宮寺邸で暮らすほうがいいと言ってくれたのだ。

 クワトロさんは言った。

 

「お願いします」

 

 こうして、ユスグさんの問題に新たな味方、いや護衛対象が増える事になった。

 





これで第15話は終了になります。
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