メダロットHERMIT   作:CODE:K

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16-3 愛は果てしなきバイオレンス3

 

「負けちゃった」

 

 ロボトルが終わり、マゼンタキャットとメダルをメダロッチに回収する神宮寺さん。

 

「まあ、分かってたけど。スタッグちゃんって強いもの」

 

 と言う神宮寺さんは、うわーんと泣く事もなく分かりやすくがっくりする事もなく、悔しさを抑えて作り笑いを見せようとする、やはり彼女らしくない姿。

 

「これでも本気だったんですけどね。普段使わないオーロラクイーンのパーツも使って、残像も対策して、それに」

「うん。スタッグが一か八かの賭けに出なかったら、たぶん負けてたのは私たちだったと思う」

 

 いまの彼女が痛々しすぎて、見てられなかったのかもしれない。

 気づくとアズキは、彼女のそばに歩み寄って、優しく頭を撫でていた。

 

「さすがモッチーズのリーダーだねってロボトルだったと思う」

 

 アズキが言うと、

 

「ありがとうございます」

 

 神宮寺さんは言って、俯いた。

 涙は出してなかったけど、悔しさ受け止めてクールダウンしているのが分かる。

 

 程なくして、

 

「もう大丈夫です。先生」

 

 と、神宮寺さんは顔をあげた。

 作り笑いは消えたけど、真面目な顔で、ちょっと緊張してるのが分かる。

 

「もういいの?」

「はい。覚悟はできました」

「覚悟?」

「元々、先生に話したい事があって、そのきっかけと勇気をもらうためのロボトルでしたから」

 

 神宮寺さんは再び笑顔を向ける。それも今度は自然な微笑みで、

 

「丁度いまのがきっかけになりました」

 

 で、神宮寺さんはいった。

 

「紅下先生、話したい事があります。聞いてくれますか?」

「うん」

 

 アズキが頷くと、

 

「ありがとうございます」

 

 神宮寺さんは一度感謝を述べる。

 

「先生って優しいですよね。今もロボトルに負けた私を慰めてくれて」

「え、そ、そう、かな?」

 

 自分ではそんな優しいって自覚はないけど。

 

「初めて会った時もそうでした。校内の噂よりも私たちを信じてくれて、事件解決にも協力してくれるって言ってくれて」

「それは」

 

 前者に関しては疑うのはキクナに任せての判断だし、後者はモッチーズを危険から遠ざけるための方便だったけど。

 

「下着をわざと見せて脅迫材料にするなんて疑惑まであったのに」

「あー、うん、懐かしい」

 

 思えば第一印象の神宮寺さんはメスガキだったのだ。

 実際の彼女は誰よりも天真爛漫で、幼くて、だけどクラスやモッチーズの中心を務める不思議な魅力がある子だったのだけど。

 

「プールで会った時も、ウォータースライダーで私が落ちないように必死に支えてくれてたり」

「あ、気づいてたんだ」

「もちろんですよ」

 

 神宮寺さんは笑ってから、

 

「でも、一番の転機は博物館の事件です」

 

 と言った。

 

「まず、暴走したオーロラクイーンを止めてくれたのも先生でしたよね? 盗んだ鉱石を破壊してって」

「あれは、そんな気がしたから」

「その後」

 

 神宮寺さんは少しだけ瞳を潤ませて、

 

「あの子のメダルを護ってくれた。あの黒いメダロットに三原則が無かったら死んじゃうところだったのに」

 

 その出来事はしっかり覚えてる。

 黒羽織の女性、木之本ミケのヴァリスがマゼンタキャットのメダルを撃ち抜こうとした時、アズキは自らの心臓の位置にメダルを押し当てて庇ったのだ。

 

 こうすればメダロット三原則のおかげで人間ごとメダルを撃てないだろうからって。計算してはいたとはいえ、今でも思い出す度に恐怖を覚える。

 どうして、あんな判断ができて動けたのかは、アズキ自身いまでも分からない。

 

 神宮寺さんは言った。

 

「たぶん、いま思えばあの頃から想ってたんだと思います」

 

 って。

 

「先生がお屋敷に来てくれた時、震えてる私にスーツを肩にかけてくれましたよね? とても温かくて、安心しました」

「そんな事まで覚えてたんだ」

「覚えてますよ。先生との思い出は全部」

 

 神宮寺さんは空を見上げて、

 

「その後も、マゼンタちゃんを転送できない私にずっと大丈夫だから、心配しなくても、無茶しなくてもいいって抱きしめてくれましたし」

 

 本当に神宮寺さんはアズキがもう忘れてしまった部分まで全部覚えてるらしい。

 

「バーベキューの時には、もうすっかり自覚してました。先生が私のこと可愛いって言ってくれた時、ちょっと様子変でしたよね?」

 

 そこは何となく覚えてる。

 実際には口に出してなかったんだけど、赤城くんが冗談で、

 

「先生が今日もリーダーは可愛いなってさ」

 

 なんて言った時、神宮寺さんの顔が赤くなったのを。普段こんな反応をする子じゃなかったから印象に残ってたのだ。

 

「お屋敷でも言いましたけど、やっぱり私にとって先生は救世主なんです。先生と出会ってから、私の全てが、全部いい方向に動き始めたのですから」

 

 そのまま、少しだけ無言の時間が続いた。

 たぶん、きっと、ここからが本題なのだろう。神宮寺さんはこんな昔話をしたくて呼んだわけではないはずだから。

 

「あの、先生」

 

 程なくして神宮寺さんは言った。

 

「一旦、スタッグちゃんをメダロッチに戻してくれませんか? ふたりきりに、なりたいから」

「え、あ、わかった」

 

 そういえばマゼンタキャットとは違って、スタッグはその場に転送したままだったのだ。

 

「いい? スタッグ」

「大丈夫です」

 

 スタッグから許可が下りたので、アズキは彼女をメダロッチに回収する。

 

「電源も切ったほうがいい? メダロッチ」

「それは大丈夫です。私のメダロッチもついたままですから」

 

 と、神宮寺さんが言ったのでメダロッチ自体は起動したままにする。

 思えば送信機を持ち込んだのは正解だったのかもしれない。もしここでメダロッチを切ってと言われたら、ふたりとの連絡手段が絶たれるところだったから。

 

「あの、先生」

 

 神宮寺さんがアズキの正面に立った。

 今から、何か重要な事を言おうとしてるのがアズキにも伝わる。

 

「私、先生の事が好きです」

「え?」

 

 いま、なんて?

 

「女の子同士ですけど、お友達とか先生とかじゃなくて、好き、なんです」

 

 驚いた。

 まさかトウコ先生の推測が的中するなんて。しかも相手が神宮寺さんだなんて。

 

「付き合ってください。お願いします」

 

 顔を赤くして、だけど真っすぐ向けられた神宮寺さんの瞳。

 

 アズキはレズでロリコンである。

 とくに神宮寺さんはタイプの子といっても過言ではない。

 

 本当なら、欲望に任せてアズキはうんと頷いてしまいたかった。でも、

 

「ごめん、それはできない」

 

 アズキは断った。

 それでも神宮寺さんは、

 

「どうしてですか? やっぱり、女の子同士は気持ち悪いですか?」

「そ、それはない」

 

 アズキは慌てて否定して、

 

「実をいうと、私も男より女の子が好きな人間だから、神宮寺さんの気持ちは嬉しいよ。とっても嬉しい。でも」

「じゃあ、先生と生徒だからですか?」

「それもある、けど」

 

 もっと別の理由がある。けど、アズキはそれを神宮寺さんに伝えられない。

 まさか神宮寺さんを受け入れられない一番の理由が、

 

「スタッグちゃん、ですか?」

 

 バレた。

 アズキが無言でいると、

 

「やっぱりそうなんですね。紅下先生とスタッグちゃんって、たまにマスターとメダロットの関係を超えてるように見えるとき、ありますから」

「ごめん」

 

 女の子同士なんて比較にならないくらい変だよね? 自分のメダロットが好きだなんて。

 神宮寺さんは真面目な顔で、

 

「謝らないでください」

「でも」

「それよりも、もう先生とスタッグちゃんは付き合ってるのですか?」

「え?」

 

 まさかの質問にアズキは一度狼狽えて、

 

「まだ、だけど。というよりスタッグからの返事がまだだし、私もいまの関係のままでいいかなって、そんな感じで」

 

 と言うと神宮寺さんは笑顔で、

 

「でしたら、まだチャンスはありますよね?」

「え?」

「私、諦めませんから。ライバルがスタッグちゃんでも、先生がそんな態度でいるなら、その間にガンガンアピールして、先生の心、奪いに行きますから」

 

 なんて言ってから、神宮寺さんはアズキのメダロッチに向かって、

 

「スタッグちゃんもいいですよね?」

『え?』

 

 メダロッチの中で、スタッグも動揺している様子。

 一方、アズキも混乱してる中、神宮寺さんはひとりだけ、

 

「あー。すっきりした」

 

 とか言いだす。

 

「ずっと想いを隠してるの辛かったんです。だけど、全部吐き出して、私でも無理じゃないって分かったなら後はもう突っ走るだけですよね?」

「えっと、そういう問題、なの?」

「はい。覚悟してくださいね、先生」

 

 神宮寺さんは今日一番の笑顔で言うのだった。

 

 

 

 そんな神宮寺さんと別れ、アズキは隠れていたトウコ先生たちと合流。

 結果報告を済ませ、今回の警戒は全て杞憂だったという結論の下、その後は何事もなく今日はそのまま三人も解散となった。

 

 

 

 クワトロは、先生ふたりがこの場を離れたのを確認すると、

 

「はぁぁっ」

 

 と、ため息を吐きながら校舎の壁に背中を預けた。

 

「紅下先生の事は、信頼してましたし、先生として好意を寄せてはいたのですけど」

 

 クワトロはメダロッチからフォトフォルダを開き、写真を眺める。

 今年度に入ってから、モッチーズたちの思い出写真にはアズキも一緒な事が多くなった。あれも、これも。

 

(この写真にも)

 

 でも、そんな日々も近々終わる。

 紅下アズキは、クワトロにとって越えてはいけないボーダーラインを超えてしまったのだから。

 

(予め準備は終えてあります。できれば実行はしたくなかったのですけど、こんな事になってしまったのですから仕方ないですよね)

 

 虚空を見るような冷たい眼差しで、クワトロはメダロッチのフォトフォルダを閉じた。

 





これで第16話は終了になります。
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