「ねえスタッグ、神宮寺さんを止めて」
『無理です』
今日も
神宮寺さんはアズキにしがみついて、
「ねえ先生、近くに美味しいケーキが食べられるお店を知ってるんです。放課後一緒に行きませんか?」
「あ、えっと」
「駄目ですか? でしたら、神宮寺家が御用達にしてるブティックなんてどうですか?」
あの日から、神宮寺さんは一切の遠慮なくアズキに好き好きアピールをするようになった。
現在は授業と授業の合間の休憩時間。
だけど、その短い時間でも神宮寺さんはこの様子で、すでに彼女の好意はモッチーズのみならずクラス全体の認識になりつつある。
赤城くんが言った。
「リーダー、さすがに先生が迷惑にしてるから離してやりなよ」
「えー」
「というか、もうすぐ授業始まるぞ」
「だったらチャイムが鳴るまで一緒にいるわ! いいわよね、先生」
と、神宮寺さんにキラキラした上目遣いで言われて、
「うっ」
アズキは断る事ができない。
結局、本当に神宮寺さんはチャイムが鳴るまで引っ付き続け、
「あー。鳴っちゃった、残念」
と言って神宮寺さんは離れるのだけど、アズキに抱き着き続けた際にスカートがめくりあがってしまったようで、
「あっ」
不意に彼女の下着を見てしまったアズキは慌てて顔をそらす。
神宮寺さんは、最初きょとんとしてたが、すぐ自分のスカートの状態に気づくと、
「あ、先生。スカートの中を見て顔真っ赤ですよ」
「あ、それはその」
「ざぁこ♡ ざぁこ♡ 小○生の下着に反応しちゃってへんたーい♡」
久々のメスガキムーブ。ここでトウコ先生が神宮寺さんのスカートを正して、
「はい神宮寺さん、授業が始まるのですよ」
「はーい。先生、久々に言わせてくれてありがとう」
といって神宮寺さんは自分の席に戻る。
「リーダーのやつ、クーに教えられたメスガキまだ忘れてなかったんだな」
呆れる赤城くん。アズキが「は、はは」と疲れた笑いを見せると、
「悪かったな先生。リーダーのやつも、すぐ飽きて落ち着いてくれると思うから我慢してくれ」
と言って彼女も自分の席に戻っていく。
そういえば赤城くんは知ってるのだろうか。神宮寺さんがラブレターを出して愛の告白までした事を。
(あれ?)
と、ここでアズキは思った。
普段こういう状況の場合、クワトロさんは率先して煽ったり状況を悪化させる行動に出るのに、最近の彼女は何もしてこない。
具体的には神宮寺さんが告白してからだろうか。
今日もクワトロさんは机に座ったまま何やら文庫本を読んでいた。
(どうしちゃったんだろう)
連日テンションMAXな神宮寺さんの相手も対応に困るけど、人畜無害なクワトロさんというのも、今となっては気味が悪い。
近々接触してみようかな、とアズキは思うのだった。
で、放課後。
「先生、さようならー」
と言って他の生徒が教室を後にする中、
「せんせー」
神宮寺さんは当たり前のように机から飛び出して、アズキに抱き着いてきた。
「ねえ先生、休憩時間の時にも言ったカフェ、行きましょうよ」
「ちょっと待って、先生はこの後も仕事が」
アズキが言いながら振り払えずにいると、
「ちょっといいですか、アズキさん」
キクナがやってきた。
「少し用事があるので、この後一緒に外出お願いできますか?」
外出するという事は、教師ではなくTMZとしての仕事だろう。
同時に、アズキより教師として立場が高いキクナが言ったという事は、この後学校を抜け出せる許可も下りてるはず。
ここまで判断して、アズキは思った。
「キクナ、それは緊急というか今すぐでないと駄目?」
「緊急ではないですけど、できれば今日中にお願いしたい事です」
キクナの言葉に、
「分かった」
アズキは言うと、
「じ、神宮寺さん。キクナ同伴ならカフェ行けると思う」
直後、
「え?」
と驚くキクナに、
「ほんと?」
喜ぶ神宮寺さん。
キクナはアズキに、
「うーん、これは何がどうしてこうなったのですか?」
「一緒にカフェ行きたがる彼女を振りほどけなくて。キクナが一緒なら今すぐ学校を出る状況を作ってくれるのかなって。キクナの用事はその後で」
「それこそ僕との仕事を口実に神宮寺さんを引き離せばよかったのではないですか?」
「あっ」
言われてアズキはそうだったと気づく。
しかし、
「でも、緊急ではないって言ってましたよね? 通杭先生」
と、神宮寺さんが痛いところを突いてくる。
キクナはなんとか、
「それでも仕事ですから神宮寺さんの用事よりは優先度は高いのですけど」
と言うけど、すでに神宮寺さんは「わーい」と喜んではしゃいでいる。
ちなみにアズキが彼女に告白された事はすでにキクナには伝えてあるので、
「と言いますかいいのですか? せっかくのデートに僕を同伴させてしまっても」
「通杭先生が一緒じゃないと学校の仕事から抜け出せないのですよね? でしたら我慢します」
言い切る神宮寺さん。
「分かりましたですよ」
さすがのキクナも折れてしまうのだった。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」
という形で、アズキは神宮寺さんの案内でカフェに入る事になってしまった。
内装は少し薄暗く落ち着いた空間。
焙煎された豆の香りが鼻先をくすぐり、壁に張られた杉板から木の趣を感じさせ、いまの神宮寺さんとは反対に時間がゆっくりと流れているような感覚を覚える。
「あそこの席でいいですね」
キクナが丸テーブルを指していった。確かに、この席なら誰がアズキの隣をキープするかで揉める必要もない。
「うん」
アズキがうなずくと、
「分かりました」
神宮寺さんも同意。店内の空気に影響されてなのか、カウンターや四角いテーブル席を強要する様子は見られなかった。
アズキたちはそれぞれの席に座る。
神宮寺さんは、
「メニューはケーキセット三つで大丈夫ですか?」
「あ、うん」
頷きながらアズキはメニュー表を開く。
どうやらケーキセットとはいっても、ドリンクはコーヒー、紅茶、ジュースから選べるし、ケーキもショートケーキからシフォンケーキまで色々ある。
当然、どれを選ぶかで値段も変わってしまうので、
「神宮寺さんのおすすめは?」
「私はオレンジジュースとショートケーキにしますけど」
なんて神宮寺さんが言うとキクナが、
「コーヒーや紅茶は選ばないのですね」
「だって苦いもの。あ、でもこのお店はコーヒーもとても美味しいそうですから、おすすめですよ」
「うーん、ここで紅下先生にいいところ見せようと背伸びするものと思ってましたから、意外です」
「あっ」
と、神宮寺さんは気づいて、
「やっ、やっぱり私コーヒーにします。それもブラックです。大人ですよね?」
「う、うん」
アズキが返事に困りながらなんとかうなずくと、
「それよりも先生、もしかして通杭先生に教えたのですか? 私のこと」
「あー、ごめん。あの件でキクナには相談に乗ってもらってて」
白状するアズキ。しかし神宮寺さんは怒る様子もなく「そうですか」と言って、
「でしたら通杭先生にも良い子に見てもらえるように頑張らないとですね。外堀埋めって言うんでしたっけ?」
「なんでそんな高度な事を知ってるの?」
「クーちゃんが前に言ってたイメージアップ作戦です」
「あー」
クワトロさんなら確かに考えそうな事である。
アズキはいった。
「まあ、じゃあ私もコーヒーとショートケーキで。キクナは?」
「僕も同じでいいですよ」
キクナはそう言ってから店員を呼んで、
「ケーキセット三つお願いします。コーヒーとショートケーキで」
と注文を伝え終えた。
一息ついた辺りで神宮寺さんが、
「そういえば、スタッグちゃんってレアメダルなんですか?」
『え?』
「だって、こんなにキャラが濃いんだもの」
神宮寺さんの言葉に、
「レアメダルって?」
アズキが言うと、
「天然物か量産された市販品かという事です」
と、キクナが解説してくれた。
本来メダルというものは、地球上の遺跡などから発見されるらしく、そういった天然物をレアメダルというらしい。
逆にこういったレアメダルを元にメダテック社が培養した市販品をコモンメダルと呼ぶのだとか。
「つまり、コモンメダルはレアメダルのコピー品って事?」
アズキが質問すると、
「一概にそうとは言えませんけど、量産品なのは間違いないですね」
現状、レアメダルとコモンメダルに大きな違いはなく、どちらも自我を持ち、知性を持った人間たち生き物と同じというのが一般的な認識らしい。
「でも神宮寺さんはキャラが濃いからレアメダルって」
「迷信ですよ。レアメダルのほうが唯一無二の個性が出やすいという。それが事実かどうかはTMZも研究してるところですけど」
とキクナはいった。
ただ、同じレアメダルから培養された複数のコモンメダルに同じ教育を施しても全く同じ性格になるとは限らないらしい。
ここで神宮寺さんが、
「実は私のマゼンタちゃん、レアメダルなんです」
と言って神宮寺さんはメダロッチからマゼンタキャットのメダルだけを転送。
博物館でちらっと見た時も思ったけど、キャットメダルによく似てるけど少し違う、初めて見るメダルだった。
「元々はキャットメダルだったんですけど、派生進化していまはシャムメダルです」
神宮寺さんの言葉にアズキは、
「キクナ、メダルの進化って?」
「それも知らなかったのですか?」
キクナが驚き通り越して呆れた様子でいう。
メダルには、刻印された図柄が変化する事があるらしい。幼虫からサナギになったり、獣の幼体から成体になったり。
そういう変化がある事はアズキも知っていた。確かメダルトランスフォームシステムといったはず。進化扱いだった事は知らなかったけど。
しかし中にはメダルの種類そのものが変化するパターンもあるそうで、神宮寺さんのシャムメダルがこれに該当するらしい。
「もしかしてシャムとは猫の女王と呼ばれるシャム猫がモチーフですか?」
キクナが言うと、神宮寺さんは、
「はい。性能は他のキャットメダルと変わらないのですけど、私は分からないけど、猫の女王なだけあって昔のクイーンメダルの特徴も持ってるそうです」
と返事してから、
「それで話を戻しますけど、レアメダルのマゼンタちゃんもキャラが濃いから、もしかしたらスタッグちゃんもと思ったんですけど」
と言うと、アズキのメダロッチから、
『私は普通のクワガタのコモンメダルです』
とスタッグが返事した。
アズキは少し驚いて、
「そうなの?」
『はい。施設ではそう伺っています』
との言葉に神宮寺さんは、
「そうなんですか、意外」
と反応。
スタッグは、なぜか少し沈んだ声で、
『ですけど、神宮寺さんのメダルはレアメダルだったのですか』
とつぶやく。
スタッグの声色から、どこかショックか劣等感を抱いてるのを感じる。
「ねえ、スタッグ」
アズキは、スタッグに話しかけようとしたが、このタイミングで、
「お待たせしました。ケーキセットになります」
店員が三人分のケーキとコーヒーを運んできてくれた。
神宮寺さんもスタッグの様子を気にしたのか、彼女なりに気を遣って、
「じゃあ、この話はもうお終い。せっかくケーキが来たんですから食べましょ」
と言うのだった。
サブタイトルはメダロット4の戦闘曲「DARK NIGHT」より。
メダル解説
以下の設定は小説内オリジナルとなってます
[名称]
シャム
[スタイル]
スピード
[スキル]
◆格闘
◆射撃
◆補助
[脚部適性]
◆二脚
◆多脚
◆浮遊
[メダル設定]
キャットの派生メダル。
モチーフは猫の女王といわれるシャム猫から。
スキル、脚部適性などはキャットメダルから何一つ変わらないが、メダロット2以前のクイーンメダルの特徴を兼ね備えてるらしい。