メダロットHERMIT   作:CODE:K

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17-5 DARK NIGHT5

 

「こんなところにいましたか」

 

 夜。

 アズキは屋上にいた。

 

 四方を囲む高いフェンス越しに夜景を眺め、風に当たってたところ、すでに帰ってたと思ってたキクナがやってきた。

 

「あれ、キクナ?」

 

 振り返ってアズキは気づく。

 キクナはパジャマ姿をしていたのだ。やはり女物で、どこか無防備な姿に映って妙に色っぽい。

 

「もしかして、キクナも今日こっちに泊まるの?」

「はいですよ。いまは狙われて危険だから施設に避難しなさいとブルー博士から」

 

 アズキの寝具は全て施設からの支給品だが、キクナの場合、たまに仕事で施設に寝泊まりする都合、元々寝具はこっちにも用意してあったらしい。

 アズキは聞いてみた。

 

「ユディトについては何か分かった?」

「いいえ、まだ妨害電波の圏内にいるみたいで」

「って事は。そっか」

 

 仮に路地裏が妨害電波流しっぱなしのままだとしたら、ユディトはあの場所で機能停止した可能性が高い。

 となると、地面にメダルが転がった事になるけど、流れ弾に当たったり、クワトロさんが故意に破壊した可能性もある。

 

 または、何らかの方法で回収されてしまったか。

 

「気にしないでください。おかげで僕たちは助かったのですから」

「気にするよ。だって」

「それにユディトですよ? 彼女も飄々(ひょうひょう)とした顔で合流すると言ってたじゃないですか」

 

 きっと、無理して言ってくれてるのだろう。

 その可能性は薄い。最悪な可能性のほうが高いのはキクナだって分かってるはずなのだから。

 

「それよりもスタッグさんです」

 

 キクナは言った。

 

「まさか暴走プログラムに感染されてた事に気づけなかったなんて。TMZのチェックが甘かったせいですね。ごめんなさいですよ」

 

 ちなみに、いまアズキはメダロッチをつけていない。

 アズキが使ってるファンシーエールが暴走プログラムだと判明した今、メダロッチ自体にもプログラムが感染してる可能性があると判断されたのだ。

 

 そのため現在、研究施設ではファンシーエールとメダロッチ双方に対してウイルスチェックや解析などの作業が行われている。

 

「僕の心配をしてくれるなら、逆にアズキさんが愚痴でも相談でも何か言ってくださいです。別の事考えてるほうが僕も気が紛れますから」

「ありがとう、キクナ」

 

 アズキは言ってから背を向けて、屋上のフェンスに正面から体を預けた。

 

「ねえ、キクナ? メダロットの暴走ってどうして起こると思う?」

「人工知能が引き起こす誤作動ですね。今回クワトロさんもそれを能動的に起こしたようですし」

「なら、どうして誤作動が起きるの?」

 

 アズキは言った。

 

「私はずっと、メダロット三原則がメダロットの本心を縛り付けてるから起きてると思ってた。キクナ、メダロット三原則の内容を言ってみて?」

「わざと人間を傷つけてはならない。人間に危険が降りかかるのを見過ごしてはならない。第一条と第二条を破らない範囲で他のメダロットに致命傷を与えない」

「その一つ目に私は目をつけたの。それって、つまりマスターに対する暴力も過剰な暴言も禁止。喧嘩も何もできないじゃない」

「そうですね」

 

 頷くキクナ。

 

「つまりメダロットはお友達じゃない。首輪か何かをつけられて強引に役目を担わされてると私は思ったという話。私たちとメダロットは対等じゃなかったのよ」

 

 で、アズキは当たり前な事を言うように、

 

「メダロットは人間並みの知能を持ってるのに、強引に奴隷やペットみたいな扱いを強いられたら、精神にくるでしょ。人間が怒りを爆発させるように」

「それが、アズキさんの考える暴走の原因ですか?」

「うん。精神が限界を迎えて人工知能が誤作動を起こすって」

 

 アズキは一拍置いて、

 

「だから私、スタッグにはちょっと色々仕込んでおいたのよ」

「仕込んでおいた?」

「日々の生活の中で、これは三原則に該当するような暴力でも過剰な暴言でもないって例外指定が生まれるように、スタッグの知能に色々学習させていたの」

 

 例えば、普通メダロットはツッコミでマスターを叩く事もできない。傷つけてはいけないから、無茶な命令にも時には従わなくてはいけなくなる。

 スタッグには、こういった三原則に縛られたあらゆる不自由のブロックを外したのだ。

 

 日常会話の中に、または指示を通して少しずつ摺りこむように。さりげなく。

 

「今では、嫌な事にはちゃんと嫌ですと言えるようになったし、必要なら私に腹パンだってできるようになった」

「そういえば、そうでしたね」

「だから、今のスタッグには自由がある。三原則が限界を超える事もないし、越えそうになっても自分の言葉で助けてと言える。たとえ暴走しても」

「原因が人間でいう感情の爆発と同じなら、暴走中でもある程度自我を保てると思ったわけですね」

 

 キクナの言葉にアズキはうなずいた。

 うなずいた上で、

 

「でも、駄目だった。今日の暴走したスタッグには私の声が届かなかったし、聞こえてもいないみたいだった」

 

 アズキは嘆きそうになる。

 自分のした事は無駄だったのか。ギャラントレディと同じ目に遭わせたくないという願い、メダロットと本当に心を通わせたいという願いは無理だったのか。

 

「アズキさん」

 

 キクナは言った。

 

「僕は暴走には色々なケースがあると思っています」

「色々なケース?」

「たしかにアズキさんの言う通り三原則で縛られた感情の爆発というケースも間違いなくあるでしょう。でも今回は全く別です」

 

 で、続けてはっきりと、

 

「むしろ、あの組織が行ってる暴走は、本当に暴走なのでしょうか?」

「え?」

「神宮寺さんの家で見た暴走メダロットも含めて、僕には暴走ではなく、洗脳、または人格の書き換えのほうが近いように思えます」

 

 言われてみれば。

 

 オーロラクイーンも、ホカリスエットも、スタッグも。

 みんなマスターに助けを求め、マスターを助けられなかった事を悔やみ、マスターに逃げろといいながら暴走していった。

 

 誰もが暴走から最後まで抵抗していた。マスターに恨み言を言ったり、感情を爆発させたりしていない。

 

「現に前の襲撃事件で回収できたTMZのメダルはどの個体も暴走の後遺症や故障した跡がありませんでした。それが何よりもの証拠だと思いませんか?」

「そういえば、回収できたメダルはみんな正気を取り戻したんだっけ」

「はい」

 

 で、キクナは努めて笑顔をつくり、

 

「ですから、回収さえできればスタッグさんは助けられます」

「本当?」

「綿密に作戦を立てて、または暴走を解除するプログラムを作って、もう一度クワトロさんと接触しましょう。そしてスタッグさんを取り返しましょうですよ」

「き、キクナぁっ!」

 

 今度こそ耐え切れず、アズキはキクナに体を向けると、そのまましがみついて泣きついた。

 キクナは、優しくアズキの頭を撫でてくれて、

 

「いまは泣いてください。人間だって、感情を押し殺して我慢しすぎたら、爆発して暴走するものなのですから」

 

 と言ってくれた。

 

 

 

 翌日。

 アズキは早朝から傷口の診察と検査を受けた後、すぐ指令室に呼び出された。キクナも一緒である。

 

『おはようございます、アズキさん、キクナ』

 

 と話しかけるブルー博士はもちろんモニター越し。

 

『傷口はまだ痛みますか?』

「いえ、もうすっかり」

 

 まだ完治したわけではないので消毒とかしたらさすがに沁みるけど。

 

『やっぱり、私の想定通りでした』

「想定通り?」

『アズキさん。あなたには話しておかなくてはならない事があります。あなたの体の秘密と、あなたをTMZに迎え入れた本当の理由です』

「私の、体の秘密?」

 

 一体どういう事だろう。

 

『アズキさん、あなたは過去に一度メダロットから攻撃を受けた事がありますね? それもバグ、ウィルス、光学武器のいずれかで』

「はい。ドンドラキュリオに噛まれた事が一度」

 

 アズキが言うと、キクナが、

 

「ドンドラキュリオ。確か頭部パーツがウィルスのメダロットでしたね」

 

 と言った。で、ブルー博士が、

 

『その時からではないですか? アズキさんが傷の治りが早い体質になったのは』

「そういえば」

 

 深く噛まれた傷痕も綺麗に消えてしまったし、言われてみればその通りである。

 

『実はその噛まれた時、アズキさんの体内にメダロットのナノマシンが入り込んでしまったようで、いまあなたはフォースに汚染されてる状態なのです』

「フォースに汚染? フォースってメダロット用語のフォースですよね?」

『はい』

 

 ブルー博士はうなずき、

 

『通常ナノマシンは人体に入ってもすぐ消滅するものなのですけど、どういうわけかアズキさんはナノマシンが体に適合してしまったようでして』

「えっと、つまり?」

『人間の体でありながら、体内でナノマシンが増殖して、フォースを発する人間になってしまった。という話なのですよ』

 

 なんて、いきなりとんでもない事を言われた。

 

『おそらく傷の治りが早いのも、アズキさんはすでに微弱ながらスラフシステムに目覚めてるからだと思われます』

 

 スラフシステムとは、メダロットに内蔵されたナノマシンが非戦闘時にパーツの自動修復を行う機能である。

 ここでキクナが、

 

「つまり、本来アズキさんはTMZ研究施設の監視対象という事ですか?」

『その通りです』

「ですから、監視しやすいようにTMZエージェントに迎え入れたと。エージェントとしての適性は関係なく」

 

 キクナの会話を聞いて、アズキの脳裏で、ガーンと重音が響き渡った気がした。

 

 つまりアズキをスカウトした時のブルー博士の言葉は全て嘘で、TMZエージェントとしては最初から何も期待されて無かった事になる。

 と思ったが、

 

『それは違います』

 

 ブルー博士は言った。

 

『監視しやすいようにTMZエージェントに迎え入れたのは間違いありません。ですけど、アズキさんにセーラースタッグを任せたのもまた事実なのです』

「どういう事?」

 

 アズキが聞き返すと、

 

『実はセーラースタッグに使われているメダル、スタッグさんには御萩ユスグさんの遺伝子情報が注入されています』

「え?」

 

 TMZだからセーラースタッグ自体にユスグさんの遺伝子情報が埋め込まれてもおかしくないとは思ってたけど、まさかスタッグのほうだとは思わなかった。

 

『メダロットの遺伝子を持った人間であるアズキさん、人間の遺伝子を持ったメダロットであるスタッグさん。そのふたりがパートナーを組むとどうなるのか』

「それが、私をTMZに入れたもうひとつの理由?」

 

 アズキが言うと、

 

『はい。ふたりの生体情報の共鳴によりメダロットとパートナーが真の絆を結び、いずれ何かの奇跡を起こす。そう願って、私はあなたを迎え入れました』

「何かの奇跡って?」

『まさに今、私はそれをアズキさんに求めているところです』

「どういう事?」

 

 というアズキの質問に、ブルー博士はこう言うのだった。

 

『実は、セーラースタッグ。スタッグさんはすでに一度暴走した事があるのです』

 

 って。

 

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