「え?」
アズキは耳を疑った。
「スタッグが、すでに暴走した事がある?」
さらにブルー博士は衝撃的な事を言った。
『過去、この研究施設が何者かの襲撃を受けた事は、すでにキクナ辺りから聞かされてますよね?』
「はい」
うわ。あの時の会話はブルー博士に伝わらないように喋ってたはずなのに、全てバレてる。
アズキが内心驚く中、
『その襲撃事件の中でセーラースタッグは暴走しました』
と、言ってきたのだ。
「それ、どういう事ですか?」
食いついたのはキクナ。
『少し前の話をしましょう』
ブルー博士は言った。
『一年前、御萩ユスグさんをモデルに新型メダロットを作る企画が研究施設で行われてたのはご存知ですよね?』
「はい」
キクナのかわりにアズキが頷くと、
『当時、この施設では、ソニックスタッグがベースのセーラースタッグと、グランビートルがベースのセーラービートルの二機が作られてました』
そういえばラエドさんが言っていた。
最終的に完成間近のプロトタイプが二機作られたらしいって。
片方はセーラースタッグで間違いないけど、もう片方のメダロットがセーラービートルなのだろう。
『企画は順調に進んでいました。ユスグさんが行方不明になった時、あの二機は彼女に納品する寸前だったという程には』
「納品。って事は、その時にはすでにセーラースタッグもビートルも完成してたという事?」
『はい』
アズキの問いにブルー博士は頷いて、
『それから、ほぼ間もなくでした。TMZ研究施設に謎の襲撃が発生したのは』
と言った。
『犯人の顔は掴めてません。ただ、複数の暴走メダロットが突如施設内に転送されて破壊活動を開始しました。そして』
「まさか」
『はい。暴走メダロットの一部がセーラースタッグとセーラービートルに接触し、彼女たちも暴走させたのです』
「っ」
キクナが顔を背ける。まさかスタッグが自分の母親を消息不明にした事件の当事者だったとは思わなかったのだろう。
というか、こんな事分かるはずがない。
『いつでも納品できるようにメダルを中に入れたままにしていたのが間違いでした』
「でも、私たちスタッグの過去を聞いたけど、スタッグそんな事一言も」
『当たり前ですよ。当時スタッグさんはまだ一度もメダロットとしては稼働させてませんでしたから。そして暴走中の記憶を無くしてるのも確認済です』
つまり、スタッグが初めて起動したと言ってた内容は、この事件の後という事になる。
『私たちも抵抗しましたけど、この戦いでアオナ様も、いえ』
直後キクナは、
「詳しく……説明してください。今、僕は冷静さを欠こうとしています」
『ごめんなさい』
ブルー博士、いや偽ブルー博士は頭を下げた。
『今、それを伝える事はできません』
「どうしてですか!」
珍しく怒声をあげるキクナ。
しかし、ブルー博士が本当にすまなそうな無言を続けると、
「分かりました。先に本題に戻りましょうですよ」
と、キクナは言うしかできなかった。
『おそらく襲撃の目的はあの二機を奪う事だったのでしょう。事実、セーラービートルは暴走メダロットたちに連れてかれてしまいました』
ブルー博士は言った。
アズキは、
「何のために?」
『分かりません。そのために騒動の後、厳重な警戒の下でセーラースタッグを再起動して事情を聞こうと思ったのですけど』
「暴走中の記憶を無くしてたんですよね?」
『それどころか、スタッグさんはこれを記憶の初期化後の可能性も含めて初めての起動と認識していました』
スタッグは初めて目を覚ました時、倉庫、または廃棄所みたいな場所にいたと言っていた。
さらに数体のホカリスエットが配置されてたとも。
『その後、スタッグさんには再び暴走する予兆がないのを確認してからTMZのメダロットとして働いてもらいました。そして』
ブルー博士は、モニター越しにアズキを真っすぐ見て、
『再び暴走しそうな時の抑止力としてあなたをTMZに迎え入れたのです』
「それが、ブルー博士が私に求める奇跡ですか?」
『はい。アズキさん自身も初対面の時にメダロットの暴走を止めたがっていたので、その点においても力になってくれると期待して』
「でも暴走を許してしまった」
アズキは、ブルー博士の期待に応えられなかったのだ。
「そのうえ今回、スタッグのメダルも破壊されてしまったかもしれません。だって、あの場には」
『木之本ミケがいたからですか?』
「はい」
木之本さんの件は、キクナの報告によってすでにブルー博士に伝わっている。
加えて、木之本さんが暴走メダロットをメダルごと破壊する事は、すでにバスの中でキクナに話してあるので、これもブルー博士に伝わってると思う。
表現が曖昧なのは、昨日キクナが報告した時アズキも隣にいたけど、スタッグを失ったショックであまり覚えてないからである。
『そこについては問題ないですよ』
ブルー博士は言った。
しかも、
『丁度いい流れですから、今回の事件に協力してくれる方をご紹介しますですよ。入ってください』
なんて言うと、普段アズキたちが出入りする扉ではなく、スクリーンの隣に位置する壁が隠し扉として開く。
で、奥からひとりの女性とメダロットが入ってきた。
女性のほうは、長い髪に黒羽織の女性。
「え?」
アズキは驚く。彼女は間違いなく木之本ミケさんだったのだから。
さらに隣を歩くメダロットは、
「あっ」
と、キクナが驚きつつ安心した声を発した。
専用のカラーリングを施したオフィニクス、ユディトだったからである。
「おやおや、どうしましたか我がマスター。そんなに私が死亡フラグを裏切ったのが意外でしたか?」
と、ねちっこく笑うユディト。間違いなく本物だ。
キクナは「はぁっ」とわざとらしくため息を吐いて、
「いえ、逆に残念だったくらいですよ。あなたが退場してくれたら少しは通杭家も毒が抜けてくれたのですけどね」
なんて言うけど、アズキは見逃さなかった。
キクナが一粒だけ、涙を流していた事を。
って、それよりも。
「あのえっとブルー博士、これはどういう事、ですか?」
アズキが言うと、ブルー博士は、
『裏で繋がっていたのですよ。私とミケさんは』
「正確には本物のブルー博士とだけど」
木之本さんが言った。
「博物館でスタッグがTMZと言ったのは驚いたわ。まさか私を支援してくれてる組織のメダロットとは思わなかったもの」
「支援って?」
「全てを失った私にヴァリスノワールを作ってくれて、暴走メダロットの情報を流してくれたのはブルー博士よ」
「え?」
アズキは驚く。
木之本さんは続けて、
「だからセーラースタッグの事も知ってたわ。まさかスタッグがその中の人だとは思わなかったけど」
『つまり、ミケさんは今回の事件において紛れもない味方です』
と、ブルー博士が言ったところで、アズキは言った。
「なら、木之本さんは今のブルー博士の正体を知ってるの? その上で協力してるの?」
「どちらもイエスよ」
木之本さんは言った。
「それと、今後はミケでいい」
「え?」
「苗字呼びは慣れてないのよ」
言いながら木之本さんはポケットから煙草を出して、吸った。
さらに煙は吐かずに飲み込む。
で、この会話に当然キクナは反応して、
「じゃあ、教えてください。いま僕の母を名乗ってるあの方の正体は誰なのかを」
「そのブルー博士が、家族以外で影武者を頼むほど信頼してた人よ」
木之本さん、いやミケさんは言った。
「そして、その人はあなたにとっても大切な人だったはず」
「僕にとっても?」
しかしキクナには心当たりが無い様子。
「それより現状を伝えるわ」
と、ミケさんは言う。
「ふたりが逃げた後、とりあえず暴走メダロットの破壊はある程度成功したわ。けど、あのクワトロって子にはスタッグを連れて逃げられた」
「逃げられた、ですか」
「たぶん組織に持ち帰るのを優先したんだと思うわ」
「じゃあ、スタッグはもう戻ってこないって事?」
アズキは言った。しかしブルー博士は、
『いえ、まだチャンスはあります』
と返した。
『彼女は神宮寺さんの一番である事を優先してるのですよね? なので、真実を知ってしまったアズキさんとキクナは何としてでも排除したい相手のはずです』
「確かに、私たちは今すぐにでも神宮寺さんに真実を伝えることができる」
『ですけど、まだ伝えてはいません。そしてクワトロさんは神宮寺さんと暮らしてるのですから、まだ情報が洩れてない、という情報を持ってるはずです』
「キクナ、まだ伝えてないの?」
と、アズキがキクナに顔を向けると、
「ブルー博士から、まだ神宮寺さんと連絡は取らないようにって指示を出されまして」
キクナは言った。
ブルー博士は『ですので』と話を戻して、
『今度は私たちがクワトロさんを呼び出しましょう。神宮寺さんに話されたくなければ、スタッグさんを連れて指定場所に来てくださいと』
「あっ」
『たぶん相手は次も暴走メダロットを大量に連れてくるでしょう。ですけど今回は私たちもミケさんに加えてTMZのメダロットを配置します』
で、ブルー博士は言うのだ。
『後は、どうやってアズキさんがスタッグさんを正気に戻すかだけです』