(って言われてもなぁ)
指令室での話し合いが終わった後、アズキは自分のメダロッチの状態を確認しに、研究室に足を運んでいた。
スタッグを治す方法はまだ思いつかない。だけど、暴走プログラムの解析が完了していたなら、何か手がかりが掴めると思ったからだ。
なお、今日はアズキもキクナも学校は休みになった。いつ暴走メダロットの奇襲に遭うか分からないからである。
「何か分かりましたか?」
アズキは研究員に話しかける。
研究員は、
「とりあえず、メダロッチには暴走プログラムや変なウイルスは混入してない事が分かったよ」
と言って「はい」とアズキにメダロッチを返してくれた。
アズキは受け取りながら、
「それで、暴走プログラムですけど、どういう仕組みだったのですか?」
「簡単に言えばナノマシンの一種だったよ。いま、暴走プログラムを解除するための装置を作ろうとしてるんだけど」
「上手くいかない感じですか?」
「上手くいかないというか」
研究者は言いながら水薬の入った小瓶をアズキの前に置いた。
「一応、試作品を作れはしたんだ。だけど、現状メダロットに直接かけたり注入する液体しか作れなくて、これを電磁波や光線銃にできればいいんだけど」
光線銃なら、メダロットの光学武器の応用で粒子を直接噴出するタイプの物が作れるはず。
それが不可能って事は、
「原因は何ですか?」
「濃度だよ。しかもこんな小瓶じゃなくてもっと大量の液体を暴走メダロットにぶっかけるくらいしないと効果がなくてね」
「大量の液体をスタッグに?」
それは、えっちすぎる。
(いや私はスタッグをそういう目では見な、いや見てた)
って、そうじゃなくて。
「具体的には、どのくらいですか?」
「この水薬だと全身に浴びるくらいかければ間違いなく効くと思う、けど」
「それは、避けて動くスタッグ相手だと無理に近そう」
加えてそれだけの量の水薬を、どうやって暴走したスタッグの前に用意するかという問題もある。
たぶんクワトロさんも一緒だろうから、バグシールドや他の暴走メダロットが破壊しにくる可能性だってあるわけだし。
「スラフシステム用のナノマシンに反応して増殖する仕組みだから、正気のメダロットに注入して予防する事はできるんだけどね」
研究員は困ったように、
「そのメダロットの中で増殖したものを相手に当てる方法が無くてね。たぶんレーザー攻撃でも濃度は足りないと思う」
「なら、メダフォースを使えば」
アズキは言うけど、
「どういうわけかメダロットの発するフォース自体に濃度が足りないようなんだ。というよりも、濃度を維持するには液体が一番効率が良くてね」
研究員が言うには、まさに今レーザーやメダフォースで暴走プログラムを解除できるように改良してる途中らしいが、まだまだ時間がかかりそうとの事だ。
「どうしたものか」
と、研究員が悩む中、アズキはふと思った。
「あの、重要なのは液体なんですよね?」
「うん」
「それで、研究員の方々は私の体の秘密。メダロットのナノマシンを持ってる事、すでに知ってたり?」
「ついに知ってしまったんだね。うん、研究員全員が知ってるわけではないけど、私たちは知ってる側の人間だよ」
研究員が言ったので、アズキは、
「なら、私の血液では駄目ですか?」
と言った。
「私がこの水薬を飲んで、私のナノマシンで増殖させて、私の体液とか血液で暴走プログラムを解除させれるようにするとか」
「君、正気で言ってるのかい?」
「正気です。それさえ出来れば、後は取り押さえたスタッグの体を私が全身くまなく舐め回せば暴走を解除させられるかも」
「君、正気で言ってるのかい?」
二度目のは別の意味で言われた気がする。
断言するけど、この時アズキは間違っても邪な考えで提案したわけではなかった。
正気で、本気でスタッグを助けようと、後で冷静になると正気を疑われて当たり前な提案をしたのである。
というより、実は本当の狙いは別にあったのだけど。
「分かった」
研究員は言った。
「そこまで人の尊厳を投げ捨てる覚悟があるなら、私たちにとっても試してみる価値のある提案だ」
「本当ですか?」
「今から水薬を飲んでもらって、数分後に唾液と血液の検査を行う。構わないかい?」
「分かりました」
アズキは小瓶を受け取ると、中の液体を喉に流す。
味は、めちゃくちゃ不味かった。元々人間が飲むために作った液体ではないのだから、当たり前ではあるけど。
で、後に検査を行った結果。
「半分、成功だ」
研究員が言った。
「君が考えた通り、血液からは基準値を十分に満たす濃度が検出された。いま、君の血は一時的に全てあの水薬と同じ効能を持ってると思っていい」
と言いつつも、
「ただし唾液のほうは、基準値は満たしているものの血液ほどの濃度は無い。悪いけど、全身舐め回してもスタッグを助けられる保証はないよ」
「そうですか」
けど問題ない。アズキの狙いで本当に必要だったのは血液なのだから。
「ありがとうございました。十分です」
アズキは頭を下げた。
その後、持続時間を確認するため数分後に再検査。
結果、体液の水薬化は二〇分から三〇分ほど続くと判明してから、アズキは研究室を出る。
で、向かうのは再び指令室。
アズキは扉を叩いた。
「誰?」
扉の奥から返事をしたのはミケさんだった。
「アズキです。ブルー博士と話がしたいのですけど」
「今は無理よ」
ミケさんは言った。
「通信が繋がってないわ。代わりに私が話を聞いて、後で伝える形でも構わないなら、いまでもいいけど」
「それでも構いません」
「なら入って」
と、許可を貰ったのでアズキは扉を開ける。
室内は相変わらず、空間すべてが機械装置と化した、いかにも未来的な研究室といった薄暗い外観。
しかし、いつもと違うのは奥のモニターからブルー博士が映っておらず、かわりにミケさんが正面のテーブルに座っていた。
「失礼します」
アズキはとりあえず頭を下げる。
で、気づいた。
指令室のテーブルの上に、何やら薬や注射器などが色々置かれてる事に。
「ミケさん、これは」
「これ?」
注射器を持ってミケさんは言った。
「ドラッグよ」
って。
「私も過去に暴走メダロットに襲われた事があってね、その時に仲間をほぼ全員殺されて、私自身も大怪我を負ったわ」
ミケさんは喋りながら、自分の腕に注射を打つ。
「その日からよ」
ミケさんは言った。
「鎮痛剤なしでは生きてられず、ドラッグで頭をハイにしないと奴らに与えられた悪夢に耐えきれず、幻覚剤にも頼ってる。私はそんな弱い女よ」
弱くなんかない。
とは、アズキは口に出せなかった。なんだか、それを軽々しく言ってしまう事は、ミケさんの何か中枢を否定してしまう気がして。
「だけど、ブルー博士はそんな私に手を差し伸べてくれた。全ての暴走メダロットに復讐する力を与えてくれて、私に生きる意味を教えてくれたわ」
「でも、そのブルー博士も」
「そうよ。いまは消息不明って事になってるけど、暴走メダロットにやられた可能性も十分ある」
「しかも、その暴走メダロットにスタッグも関わってる」
つまりミケさんにとって、ううんキクナにとっても、スタッグは復讐の相手と認識するには十分なのだ。
でも、
「複雑な気分よ。ユスグって子をモデルにしたメダロットはブルー博士が中心となって製作されたもの。つまり」
ミケさんは続けて錠剤を水で飲んで、
「スタッグは復讐相手でもあり、ブルー博士の遺作でもあるのだから」
なんて復讐心とは違う感情を口にしてくれた。
って、いま遺作って言った? どうやらミケさんの中では、すでに本物のブルー博士はこの世にいない事になってるらしい。
「だから、今回は手を貸してくれたんだ」
「ええ」
ミケはうなずく。
「私にはもうブルー博士しかいないのよ。かつて仲間だった人がひとりだけ残ってるけど、いまの落ちぶれた私の姿を見せるわけにはいかないしね」
「ボウショウさんの事ですか?」
「知ってるの?」
驚くミケさんに、アズキは、
「ボウショウさんは、あなたに裏切者、あるいは仲間を見捨てた女と思われてるのではないかと苦しみ、そのことを後悔してました」
「裏切者? どうしてよ」
「その場にいなかったから、おかげで自分だけ無傷で済んだから」
「そんな事で」
顔を歪めるミケさん。
「それに、ミケさんはひとりじゃない。頼りないと思うけど、私もいます」
アズキは言った。
「だって、私はあなたに助けられたから。昔、私の両親を殺して私も殺そうとした暴走メダロットを倒してくれた恩人は、ミケさんなんです」
「覚えてないわ」
「覚えてなくても、ミケさんがいなかったら私は死んでた。だから、あの時の恩返しをさせて欲しい」
僅かな間の後、
「確か、ドンドラキュリオに襲われたと言ってたわね」
ミケさんは言った。
「他にもギャラントレディとクローテングーもいなかった?」
「はい」
「そう、あの時の子がアズキ、あなただったのね」
で、続けてミケさんは言うのだ。
「私はあなたを助けてないわ。ただ暴走メダロットを見つけて復讐しただけ。でも、それで助かった命があるなら、私もこうして生き足掻いた意味があったわけね」
「あの時はありがとうございました」
アズキは頭を下げた。
ミケさんは、感謝を受け取るかわりに、
「そういえばブルー博士に話があると言ってたわね。要件は何?」
と、話を本題に戻す。
アズキは、
「はい」
と言った。
「スタッグの暴走を解除する方法が見つかりました。ブルー博士に報告をお願いします」
って。
これで第17話は終了になります。