「スタッグ」
今日も
いまメダロッチの中には、メダルが一枚も入ってないからである。
アズキは返事のないメダロッチに寂しさを覚えながら、
(必ず、必ず助けるから。スタッグ)
って改めて自分のやるべき事を心に刻みつけた。
いま、アズキたちは指令室にいる。
ミケさんに「スタッグの暴走が解除できるようになった」と報告した後、しばらくしてブルー博士の耳に届いたらしく招集がかけられたのである。
現在、部屋にはアズキの他に、キクナとミケさんもいる。
『それでは始めましょう』
ブルー博士が言った。
『まず、最初に先ほどアズキさんからスタッグの暴走を解除する方法が見つかったと連絡が入りました』
この言葉を聞いてキクナが、
「アズキさん、改めて本当なのですか?」
と言う。キクナにはすでに伝えてあるのだけど、再度確認の言葉が欲しいのだろう。
「うん」
アズキがうなずくと、ブルー博士が、
『それと同じくして、研究施設のスタッフからも暴走を解除するためのワクチンが出来上がったと報告をもらっています』
と言った。
『ワクチンは水薬タイプで、メダロットに直接かける他、アズキさんに投与する事で一時的に彼女の体液に同様の効果を与える事ができると』
「はい。私がそのワクチンを飲んで、取り押さえたスタッグの全身を舐め回す事で、スタッグの暴走を解除しようと思ってます」
アズキが言うと、
「舐め回すって。さすがアズキさん、とんでもない発想をしますですね」
とキクナがいう。けど逆にミケさんは、
「アズキ、それで本当に解決しようと思ってる?」
「出来る限りは」
「聞いてるわよ。唾液ではワクチンの濃度が少し薄くてスタッグの暴走を解除できない可能性があるって」
たぶん、ブルー博士が研究員の報告を受けた時、指令室で一緒に聞いてたのだろう。
「でも、それに賭けるしかないという話だから」
アズキの言葉にミケさんは、
「なら失敗したら?」
と言われてアズキは無言になる。
ミケさんは続けて、
「血液なら十分な濃度が検出されたそうね。アズキ、あなたの本当の狙いは何?」
アズキは無言を貫く。
程なくして、
「まあいいわ」
ミケさんが言った。
「あなたは覚悟を決めたら身の危険を顧みない危うさがあるのは博物館での戦いで私は思い知ってる。けど、今回は第一案もある事だから追及しないでおくわ」
まるで、アズキがスタッグを助けるために最初から「身の危険を顧みない行動」を実行する気満々と気づいてる。とでも言いたいような口ぶりである。
だからかキクナは反応して、
「アズキさん、もしかして僕たちに黙って変な作戦を考えたりしてませんよね?」
「い、いや」
アズキは慌てて首を振って、
「もし、またスタッグに斬られたらその出血も有効活用しようと思ってる程度」
「十分変な作戦じゃないですか」
「作戦じゃない。アドリブだから」
アズキが言うと、ブルー博士が、
『キクナ、ミケさん。アズキさんがその手を使う事態にならないようにしっかり見張ってあげてくださいですよ』
「もちろんです」
「了解」
キクナとミケさんは言った。
『では次に、クワトロさんをどこに呼ぶかですけど』
と言ったブルー博士にアズキは、
「そこは、前と同じでいいと思う」
アズキは言った。
「えっと、私の知る限りで前回クワトロさんに呼ばれた場所以上に人通りが少なくて、かつ大規模なロボトルできる広さのある場所が思い浮かばなくて」
「それだと相手のテリトリーに自分から飛び込む事になりますよ?」
キクナは言うけど、
「だからこそクワトロさんを誘いやすいんじゃないかなって。罠を用意される可能性もあるけど。あと」
「あと?」
「クワトロさんも小学生だから、あまり凝った場所を指定すると行きづらくなるんじゃないかなって」
アズキが言うと、キクナは困った顔で、
「こんな事をされても、アズキさんにとってクワトロさんはまだ教え子なのですね。そもそも最初に指定した場所こそ小学生には行きづらい場所じゃないですか」
「あっ」
言われてアズキは気づく。
どちらも無自覚だったのだ。まだ自分が彼女を大事な生徒と思ってた事も、不良が群れ集ってそうな路地裏なんて普通の小学生は行かないって事も。
『キクナとミケさんはどう思いますか?』
ブルー博士が言った。キクナは、
「うーん、さっきはああ言いましたけど、アズキさんの言う通りなんですよね。あの辺りであそこ以上に好条件の場所が浮かばないです」
と言ってくれたが、逆にミケさんは、
「私は反対よ。むしろ敵が増援を隠す余地がないほど狭い舞台を選んだほうがいいと思うわ」
と言った。で、メダロッチから電子地図を広げて、
「ここなんてどう?」
と提示。現地の画像付きで。
ミケさんが指定した場所は、やはり一見同じような路地裏だったが、クワトロさんと戦った場所と比べて確かに狭く障害物も少ない。
これを見てキクナは、
「こんな場所があるのですね。盲点でした。この場所が使えるのでしたら、僕はあなたの意見に賛同します」
「私も、こっちのほうがいい気がする」
アズキも頷いた事で、場所も決定。
「じゃあ、早速クワトロさんに連絡しても」
『お願いします』
ブルー博士からの許可も得たところで、アズキはクワトロさんにメッセージを送信する。
内容は、今日の放課後、指定した場所にスタッグを連れて来るように。来なかった場合、神宮寺さんに情報を流す。といったものだ。
結果、いまはまだ授業中だろうに、クワトロさんから即座に返事が来た。
『分かりました』
って。
事態は、想定より早く進んだ。
昼頃、アズキたちは下見のために一旦現場に足を運んだのだけど、
「あら?」
と、女の子の声。まだ約束の時間ではないのに、すでにクワトロさんが指定した路地裏にいたのである。
彼女の周りには複数体のレオとキャンサー。さらに、
「せ、先生!」
クワトロさんの後ろからアズキたちを呼ぶ声。
赤城くんが、後ろ手に四肢を纏めて緊縛されていた。確かホグタイとか逆海老縛りとか言ったはず。
「え、赤城くん?」
なんで、赤城くんが巻き込まれてるの? そんなアズキの動揺は他所にクワトロさんは虚ろな眼差しで微笑んで、
「少し遅かったですね。先生たちも予め現地で準備をしておく予定だったのでしょうけど、私が先に終わらせておきました」
「クワトロさん学校は? それに、なんで赤城くんまで巻き込んでるの?」
アズキは言いながら慌てて水薬を飲む。
念のために持ってきて良かった。もしかしたら放課後の時間を待つ事なくこのまま戦闘になる可能性があると思ったのだ。
「学校は休みました。それとフクさんに関しては、人質を用意するなって指定がありませんでしたので、つい」
「つい、って」
そんな理由で赤城くんを巻き込んでくるなんて。
アズキが思ってると、ミケさんが、
「誰、あの子? 赤城って苗字らしいけどボウショウさんの子供にあんな子がいる覚えはないし」
と聞いてきたので、
「えっと、本当は田村崎フクカゼって名前の子なんですけど、今は諸事情でボウショウさんと親子って事にして神宮寺さんの家にお世話になってる子で」
「なるほどね」
ミケさんは言った。
「TMZは田村崎グループの研究機関。つまりあの子供は上層部のさらに上の子なのだからTMZの誰かを捕らえるよりずっと人質として機能するという事ね」
「そういう事です」
クワトロさんは朗らかに笑った。
赤城くんが叫ぶ。
「先生、どういう事だよこれ! なんでオレがクーに誘拐されなくちゃいけなくて、そもそもクーは何をしようとしてるんだよ!」
「大丈夫だよ赤城くん。すぐに終わるから」
アズキが赤城くんに返事すると、クワトロさんが、
「あら、この状況で穏便に解決すると思ってるのですか?」
「だって」
アズキは辺りを見て、
「スタッグはどこ? 連れてきてない以上、神宮寺さんにあの事伝えるよ?」
「まだ指定の時間ではないのにですか?」
「うっ」
それはそうだけど。
「それに、神宮寺さんに伝えようとしたら」
直後、レオの一体がハイパービームを赤城くんに発射する。
「ひっ」
と赤城くんが怯える中、今回は当然攻撃が外れるも、
「次は当てますよ?」
クワトロさんは言った。
「それでは本題に入りましょうか。まず紅下先生以外のおふたりは即座に自害してください」
と言われ、キクナとミケさんはそれぞれ自分のメダロットを転送する。
で、ミケさんが、
「嫌だと言ったら?」
「レオ、ミサイルをフクさんに」
躊躇いなく、今度は当てる気でクワトロさんはレオに指示。
複数のレオはミサイルを赤城くんに向けて発射するが、直後メダメイドが飛び出して赤城くんを庇う。
「キャンサー、ナパーム!」
続けてキャンサーがアズキたち三人に向けてナパームを発射するが、ここでアズキたちの背後から顔を持った複数の白い液体が地面を這い進む。
で、液体はその場で跳び上がってアズキたちを庇った。
彼女たちはTMZが配置したメダロットである乙女座モチーフのVRG型ヴァルゴ。そのメダチェンジ形態である。
さらに爆風の中を同じくTMZが配置した複数のファンシーベールが飛び込み、キャンサーとレオにステッキで殴りかかった。
キクナが言う。
「今回は僕たちもTMZのメダロットを出撃させました。簡単には被害は出させませんよ」
それどころか、今回指定した路地裏は前よりも狭いため、その分クワトロさんはレオやキャンサーを前ほど多く配置していない。
逆にアズキたちは出口側にいるので、外にメダロットを多く配置できた。
さらに場所の狭さはアズキたちに数の利を与えるだけでなく、ヴァルゴやメダメイドも味方を庇いやすくなっている。
対し、クワトロさんは数も広さも足りないせいで暴走メダロットを大規模に暴れさせる事が難しくなってるはずだ。
ここでキクナが、
「ユディト、メダチェンジです」
え? ユディト、っていうかオフィニクスってメダチェンジ可能な機体だったの?
アズキが驚く中、ユディトはその場で多頭の蛇に変形し、
「メダメイド。赤城さんを抱きかかえてください。ユディト、メダメイドにサクション」
キクナが指示すると、ユディトの複数の顔から重力波が放たれ、赤城くんごとメダメイドを自分たちのそばに引き寄せる。
で、最後にキクナがメダメイドから受け取った赤城くんを抱きかかえ、
「これで人質の確保は完了しました」
「やるわね」
ミケさんが言った。
まさか、こんな簡単に赤城くんを助けてしまうなんて。アズキも驚く中、
「それでは、次の人質は彼女ですね」
クワトロさんは言った。
と、同時にアズキは後ろから敵意を持った気配を感じる。
(うん、分かってたよ)
いくらクワトロさんが赤城くんを人質にしたとしても、戦力になるあの子を連れて来ないはずがないという事を。
で、なのにあの子がこの場にいないという事は、間違いなくそういうつもりなのだ。
クワトロさんは言った。
「次の人質は」
「私、という話でしょ?」
言いながらアズキは後ろを振り返る。
直後、ステルスで姿を消していたスタッグのソードが、
アズキの腹に突き刺さるのだった。
サブタイトルはTVアニメ「ガンパレード・オーケストラ」のOP「Faze to love」より。