「そういえば」
アズキはふと、
「ギャンは自分がメダルを破壊されてここに来たって言ってたけど、もしかして」
「はい。クローもキュリオもメダルを破壊された側です」
「そう、だったんだ」
アズキは、少し悲しくなって視線を落とした。
どうして三人はメダルを破壊されたのだろうか。もしかして、暴走?
「そういえば俺も聞いていいか?」
今度はキュリオが言った。
「てめぇはどうしてこっちの世界に来たんだよ。何か理由とか、思い当たる節とか少しはあるんじゃねえのか?」
「あー。私のメダロットが暴走しちゃって」
アズキが言った途端、三人が一斉に固まった気がした。
どうしてだろう。アズキは思いながら、
「それでお腹を刺されて、気づいたらここに」
言いながらアズキは「あっ」と気づく。
「お腹の傷、消えてる」
つい先ほどスタッグのソードに刺されて、あんなに痛かったのに。
ギャンは言った。
「あなたは、二度も自分のメダロットに殺されかけたのですか。私が言えた台詞ではないですけど、不憫な」
「え、何で前のメダロットにも襲われた事知ってるの?」
「それは」
俯くギャン。
それはともかく、アズキはふと思って、
「そういえば、暴走メダロットもこのお花畑に来たりするの?」
「来ますね。現世で暴走したまま半死半生の状態だったり、もうあちらで初期化してもらうのを待つしかなかったり、色々な形で」
言ったのはクローだった。
アズキは続けて、
「もしかして、暴走したままこっちに来るの?」
「いえ、基本的にこちらでは正気ですよ。外的要因ではなく、三原則で抑えきれないほど感情を壊したメダロットでない限り」
という事は、アズキが思っていた感情の爆発による暴走は実在する事になる。
って、それよりも。
「じゃあ、スタッグもこっちに来てるかもしれないという話?」
「スタッグとは?」
「私のメダロットです。メダルはクワガタで、セーラースタッグっていう、ソニックスタッグをベースにした女型メダロットを使ってました」
アズキが言うと、キュリオが、
「いるかもしれねぇな。だが、見つかるとは限らないぜ。なにせこっちの世界ではメダロットは俺たちと同じ光の粒子の形をしてるからな」
「それでも、いるかもしれないなら探しに行きます。紅茶とケーキご馳走様でした」
アズキが立ち上がると、
「でしたら、私もお手伝いします」
ギャンが言ってくれた。
「私も、あなたの今のパートナーメダロットに興味があります」
「ありがとうございます」
アズキは頭を下げる。
結局、クローとキュリオも同じような理由で付いてくる事になり、アズキたち四人はログハウスを出た。
スタッグを探しに、お花畑を探索するアズキたち。
お花畑には様々なメダロットがいたが、キュリオが言った通り光の粒子で体が構成されており、脚部や腕に特徴がないと判別がつかない。
スタッグの外見も光だけの形で分かるような特徴は無かったはずだし、キュリオの言う通りこんなので本当に見つかるのだろうか。
「アズキさんのメダロットのスタッグさん。いるなら返事をしてください」
ギャンが呼びかけながらお花畑を歩く。
(あれ?)
アズキは思った。
そういえば、自分はまだ三人に名乗ってなかったはず。というより伝え忘れてたはず。
なのに、どうしてギャンはアズキの名前を知ってるのだろうか。
「スタッグ、スタッグ、いる?」
とはいえ今はそれよりスタッグだ。
アズキも必死に呼びかけるが、当然のように周囲からの返事はない。
それでも、
「あっ」
アズキはお花畑の一角で体育座りをしながら虚空を見上げるひとりのメダロットを見つけた。
外見は人型の粒子で特に特徴もない。しかしアズキは直感で彼女がスタッグだと確信を覚える。
「スタッグ!」
アズキは急いで駆け寄った。で、近くでもう一度声をかけると、
「あ、アズキ。どうしてここに」
なんて相手からの反応。その声、間違いない。スタッグである。
「迎えに来たんだよ。スタッグを」
アズキは言った。
実際はアズキも迷い込んだのだけど、何となくスタッグを見た瞬間、自分はそのためにこの世界にやってきたと思ったのだ。
「私は、何があったのですか?」
スタッグは言った。
「クワトロさんの攻撃を受けて、それから先の事を何も覚えてません。気づいたらここにいたんです」
「スタッグは、いま現世で暴走してるよ」
アズキが言うと、
「やっぱりですか」
何となく察していたのだろう。スタッグはうなずいた。
「アズキ、私のメダルを破壊してください。私が、アズキを傷つけてしまう前に」
「できるわけないよ」
アズキはスタッグを抱きしめた。
「そんなの、できるわけがない。だって、私はスタッグが好きなんだから」
「私は、ただのクワガタでコモンメダルです。アズキにそこまでの感情を抱いてもらう資格なんて」
「あるから」
アズキは両腕の力を強める。
「スタッグ、私ひとつ、スタッグに謝らなくちゃいけない事があるの」
「何ですか?」
「実は私、スタッグのメダロット三原則に干渉していたのよ」
アズキは伝えた。
スタッグのメダロット三原則に例外指定が生まれるように、日常会話や命令の中に少しずつ摺りこむ形で彼女の人工知能に学習させてた事を。
今ではスタッグがアズキに暴力を振るえる事も、好きなだけ「嫌です」と言える事も、その成果なんだって。
「私、メダロットの暴走は三原則に抑制された感情の爆発だと思ってたから、それを取っ払ったつもりだったけど」
アズキは言う。
「おかげで、スタッグには余計な事まで考えさせて、悩ませるような人格にしてしまったのかもしれない。ごめん」
「そんな事ありません」
スタッグは言った。
「もし私の、自分がコモンメダルだという事に悩んでる感情が、アズキが三原則を緩めた結果だったとしても、それは私の自由意志で生まれたものです」
「スタッグ」
「ですので、アズキのせいではありません」
「だったら」
アズキは言う。
「私、初対面でスタッグに一目惚れして告白したよね?」
「はい」
「その返事、教えてよ。私、スタッグからの返事がない今の関係でもいいって言ったけど、最期まで何も言わずメダルを破壊されろなんて言ってないよ」
と言って、アズキはスタッグの正面に顔を向ける。
「メダロット三原則。わざと人間を傷つけてはならない。ここで勝手に死ぬのは、私の心を深く傷つける事に該当するよ」
「アズキ」
「だから、生きよう一緒に。スタッグを暴走から解除する方法は、すでに現世でやってる途中だから」
アズキはスタッグの肩を掴んで、
「何度でも言うよ。コモンメダルだとかそんなの関係ない。スタッグだから私はあなたが好きになったの。好きです。付き合ってください。付き合って!」
「アズキ、でも私は」
「もう返事は待たない。『ごめんなさい、これからは量産型クワガタメダルとして接してください』って言うならそうする。でも、スタッグはそばに置き続ける!」
「っ」
スタッグは考え込んでから、
「分かりました」
と言った。
「我儘かもしれませんけど、言ってもいいのですね、これはメダロット三原則に該当しないのですね?」
「もちろん」
アズキが返事した直後だった。
この世界でスタッグを構成している光の粒子が、さらに輝きを帯び始めたのだ。
「これって」
アズキが言うと、後ろからギャンが、
「メダルトランスフォームシステム。いまスタッグさんは進化しようとしてるのです」
光はさらに大きく広がり、アズキだけでなく、ギャン、クロー、キュリオさえ包み込む。
アズキは思った。
「この光、現世に戻れるかも」
スタッグの放つ光は、お花畑から現実世界に続くゲートになっている。
何故だか分からないけど、アズキはそんな確信を覚えた。
スタッグがアズキの手をとった。
「行きましょう、アズキ。話の続きは現実に戻ってから行います」
「うん」
アズキはうなずく。
後ろからギャンが、
「良かったですね、アズキ」
「ありがとう、ギャン」
アズキは礼を言おうと後ろを振り返り、
「ギャン?」
目を見開いた。
スタッグが放つ光の中で、三人は人型の粒子の姿から、本来のメダロットの姿に変わっていったのだ。
クローはクローテングー。キュリオはドンドラキュリオ。ギャンはギャラントレディの姿に。
「ギャン? まさかギャンの正体って」
アズキは驚く。だって、ギャラントレディといえばアズキが昔使っていて、確かに暴走して、両親を殺して、メダルを破壊されたメダロットだったのだから。
ギャンは言った。
「また会えてよかったです。マスター」
「ギャラントレディ、私」
「マスター。私は最期に言えなかった事がひとつだけあります」
ギャンは微笑むように、
「マスターはポンコツではありません。最期まで、私の立派なマスターで、友達でした」
「最期なんて言わないで! 私、ギャラントレディと話し合わなくちゃいけない事が他にもたくさん」
が、スタッグの光はどんどん強くなっていき、次第に三人の姿も眩しさで見えなくなっていく。
「この世界は、マスターとスタッグさんの夢の世界です」
ギャラントレディは言った。
「だから、私たちの存在も、三途の川も可能性のひとつでしかありません。ですが大丈夫です。私たちはあなたをずっと見守っています」
ついに視界が光一色に変わり、
「これまでも、そして、これからも」
ギャラントレディの声を聞きながら、アズキは意識を手放した。