メダロットHERMIT   作:CODE:K

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18-6 Faze to love6

 気づくとアズキは、病室のベッドにいた。

 

(あれ?)

 

 目を覚ますと、まず視界に飛び込んだのは白い天井。

 いつの間に研究施設の寝室に、と一度は思ったけど首を動かした結果、昨晩泊まった研究施設の一室とは違う事に気づく。

 

 というより、ここ病院だ。アズキは気づくと同時に、

 

(痛っ)

 

 腹部の痛みがアズキを襲う。

 

(そういえば)

 

 アズキは思い出した。

 怪我で体力が限界だったのも原因だろうけど、クワトロさんが姿を消した直後、アズキは緊張が緩みその場で倒れてしまったのだ。

 

 という事は、自分はあの後すぐ病院に運ばれ、緊急手術か何かを受けた後、こうして入院させられてるのだろう。

 いまは何時ごろなのだろうか。窓から空を見ると少し夕日がかかってるのが見えた。

 

(これは丸一日以上寝てしまったな)

 

 と、アズキは一応の現状を把握する。

 

「起きましたか、アズキ」

 

 スタッグの声がした。驚き、アズキは顔を見ようと起き上がろうとし、

 

「痛っ」

 

 と、再び傷の痛みに襲われる。

 ベッドの近くにいたらしいスタッグは、アズキをもう一度ベッドに寝かせて、

 

「大人しくしてください。まだ傷は完治してないのですから」

 

 スタッグは、カメオスタッグの姿をしていた。

 そういえばセーラースタッグのボディは全部クワトロさんに取られてしまったのだ。

 

 まさか本当に博物館で買った機体をサブボディとして活用する日が来るなんて。

 

「スタッグ、良かった。無事だったんだ」

「無事じゃないのはアズキのほうですよ」

 

 スタッグは困ったように言って、

 

「二日も寝ていたのですよ。もうクワトロさんと戦ったのは一昨日の昼になります」

「うわ、空が夕方だから丸一日は寝てたとは思ったけど、二日かあ」

「まあ私が暴走していたとはいえ、アズキを刺してしまったのが全ての原因ですけど」

「それは悪くないよ」

 

 アズキは言った。

 

「私の体液をワクチン化したという話はもう聞いてるよね?」

「はい。聞いてます」

「だから、あれは私から刺されに行ったようなものだから、私の自業自得という話」

「それも知ってます」

 

 スタッグは言った上で、

 

「それでも、私がアズキを二度も傷つけてしまったのは事実ですので、それでアズキが倒れる事態になったのですから」

 

 俯くスタッグ。

 ここで病室の扉が開いた。

 

「先生」

 

 扉の先から呟いたのは神宮寺さん。お見舞いに来てくれたのだろう。

 病室の入口が見えるまで体を動かすと再び傷が痛みそうだったので、視界に入れる事はできなかったけど、雰囲気から他にも数名来ているようだ。

 

 スタッグが言った。

 

「神宮寺さん。ちょうどいま、アズキが起きたところです」

「本当?」

「本当か!」

 

 神宮寺さん、さらに赤城くんの声が聞こえた。

 そこにキクナを加えた三人が、アズキのベッドを囲むように集まってくる。

 

 キクナが言った。

 

「傷は痛みますか?」

「まだちょっと、いや、結構」

 

 アズキが言うと、赤城くんが、

 

「当たり前だろ。病院の先生も言ってたぞ、一歩間違えたらこのまま目を覚まさない可能性もあったってよ」

「そんなに酷かったんだ」

「当然だろ、あんなに深々とソードぶっ刺されたんだから。しかも、その傷のままクーのやつとロボトルまでして」

「負けちゃったけどね」

 

 と、アズキはスタッグを見て、

 

「私の判断ミスだった。ごめんスタッグ、セーラースタッグのボディを取られちゃって」

「いえ、あれは私の判断ミスでもありますので」

 

 スタッグは言った。

 

「ところで」

 

 神宮寺さんが悲しそうに、

 

「本当なんですか? スタッグちゃんを暴走させたのも、先生を傷つけたのも、スグを誘拐したのも、全部クーちゃんが犯人だって」

「ああ、ついに全部知っちゃったんだ」

「通杭先生から聞きました。フクと一緒に」

 

 神宮寺さんが言うと、アズキは頷いて、

 

「本当だよ。私もびっくりしたし、ショックだったけど」

「そう」

 

 神宮寺さんはさらに俯く。

 

「しかも、私が先生に告白して、クーちゃんより先生を優先したからだなんて」

「待ってキクナ。そこまで話しちゃったの?」

「いえ、僕は話してませんよ。ただ」

 

 キクナは言ったが、彼女、いや彼? ともかくキクナのメダロッチから、

 

『いやあ、こういう事はちゃんと伝えたほうがいいと思いましてねえ』

 

 と、ユディトの声。

 さらに神宮寺さんは、

 

「スグも、私がスグに一番の親友だって言ったから。クーちゃん、スグを誘拐したんですよね? 私の一番でいたかったからって」

「ごめんなさいですよ。この通り、ユディトが全部話してしまいました」

 

 キクナが言った。

 

「まあ、知られちゃったなら仕方ないという話か」

 

 正直言って気が重くなって、傷口がさらに痛みだしたけど、それは置いといて、

 

「それで神宮寺さん。今後クワトロさんはどうするの? 家にメイド待遇で住ませてたんでしょ?」

 

 アズキが言うと、

 

「クーちゃんは、もういません」

 

 神宮寺さんは言った。

 

「いつの間にか、荷物を纏めて出て行っちゃったんです」

「そっか」

 

 となると、もう二度と学校に登校する事もないだろう。

 次に会うときは完全に敵組織の人間として戦う事になるのだ。アズキはこんな目に遭わされても、どこか寂しさを感じてしまう。

 

 おそらく神宮寺さんも同じ気持ちなのだろう。

 

「どうしてこんな事になっちゃったのかな。私、みんなで楽しくいられたら、それが一番だったのに」

 

 彼女は呟いた。

 一方の赤城くんは、完全にクワトロさんを許す気がないらしい。

 

「まあ、今度会うような事があったら、絶対ボコボコにして御萩の居所を吐いてもらうけどな」

 

 なんて隠す気もなく怒りを口にしていた。まあ、それもそうだろう。赤城くんは一昨日の戦いで人質にされた被害者なのだから。

 

 で、神宮寺さんも、

 

「先生、早く怪我治ってくださいね。私まだ先生と行きたいところ、たっくさんあるんですから」

 

 こちらはこちらで、今回みたいな事件があっても全くアズキを諦める気がないらしい。

 学校に復帰したら再びしがみついて求愛行動に出る様子が容易に想像できる。

 

 アズキは笑って、

 

「分かった。なるべく早く復帰するから」

「じゃあ先生、今日はそろそろ失礼します」

 

 神宮寺さんが言った。続けて赤城くんも、

 

「さっき目が覚めたばかりなんだろ? あまり無茶させて疲れを溜めさせても悪いしな」

 

 と言い、ふたりは病室を出て行く。

 最後に残ったキクナも、

 

「アズキさん。スラフシステムで治りは早いと思いますけど、いまは心身共にゆっくり休んでくださいですよ」

「そういえばキクナ、ミケさんは」

 

 アズキが言うと、

 

「その事ですけど、退院したら早めに研究施設に向かってくださると嬉しいです。ブルー博士とミケさんがあなたとスタッグさんに話があるそうです」

「分かった」

 

 小さくアズキがうなずくと、キクナも、

 

「では僕もこれで失礼しますですよ」

 

 と言って病室を出てしまった。

 こうして部屋にはスタッグとふたりきり。

 

 スタッグは、

 

「行ってしまいましたね」

「うん」

「アズキも早く休んでください。私はここにいますから」

「ありがとう」

 

 と、アズキは目を閉じかけるも、

 

「って思ったけど、やっぱり今は無理」

「どうしてですか?」

「スタッグの返事、まだ聞いてないから」

 

 アズキが言うとスタッグは、

 

「あっ」

 

 て反応する。

 アズキは首を動かさないまま、

 

「クワトロさんの対処が終わったら、告白してくれるって約束だったでしょ?」

「でも、私はただのコモンメダルです。やっぱりこの気持ちは」

「だけど、もうただのクワガタメダルではなくなったよね?」

 

 マグソクワガタメダルなんて聞いた事がない。おそらくスタッグだけの特別な変化なのだろう。

 

「それに、いまの私はもうセーラースタッグではありません。パーツは全てクワトロさんに奪われてしまいましたから」

「それこそ関係ないよ。私はスタッグに恋したんだから」

 

 アズキはスタッグの手を優しく握って、

 

「じゃなかったら色んなパーツに着せ替えて楽しんだりしないという話」

「ここでその話は台無しですよ、アズキ」

 

 と言いながらスタッグは優しく笑ってくれた。

 アズキは、続けて彼女が首にかけてるペンダントに触れて、

 

「スタッグ、このペンダント。まだ使ってくれてたんだね」

 

 これはスタッグが暴走してた時にも発した言葉。

 あの時は返事が無かったけど、今回は、

 

「当たり前です。アズキからの大事なプレゼントですから」

 

 と言って、スタッグはベッドの横に置いてあったもう片方のペンダントをアズキの首にかけて、飾りを連結させる。

 その際、スタッグはアズキに抱き着くように近づいた事で、カメオスタッグ独特の、ちょっと卑猥な胸部が触れそうになる。

 

 正面からは外骨格の突起で目立たないけど、横から見ると胸元の肌部分がまったく隠れてないデザイン。

 アズキは体を上手く動かせないのと、角度の問題でいまスタッグの横乳を眺められないのを少し、いやすごく残念に思った。

 

「本当にいいんですか、言ってしまっても」

「私はずっと前から待ってたという話」

 

 アズキが返すと、

 

「分かりました」

 

 程なくして、スタッグはついに言った。

 

「私も、アズキの事が好きです。神宮寺さんではなく、私を選んでください」

「もちろん」

 

 アズキは首を動かし、スタッグが人間なら唇があっただろう位置にそっとキスをする。

 スタッグは目を閉じて受け入れてくれた。

 

 アズキは唇を離すと、

 

「好きです。付き合ってください」

 

 これは彼女と初対面の時、アズキが彼女に向けて最初に言った言葉だ。

 当時は初「嫌です」を返されてしまったが、今回は、

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 スタッグは笑顔で言うのだった。

 





これで第18話は終了になります。
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