メダロットHERMIT   作:CODE:K

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19-2 贄-nie-2

 

 本鈴が鳴り、アズキが教師として通う学校はホームルームの時間になった。

 つい最近、一週間丸々休んだばかりなのに、今回は入院していたとはいえ再び数日間も欠勤した事で緊張と申し訳無さを覚えながら、教室の扉を開ける。

 

 直後、

 

「あ、先生!」

 

 教室に入る前に、数名の生徒が反応。

 アズキに駆け寄り、その内さらに神宮寺さんを含めて何名かは抱き着きながら、

 

「先生、おはようございます」

「先生、怪我はもう大丈夫なの?」

 

 と、挨拶と質問責めが飛び交う。アズキは慌てながら、

 

「え、えっとみんなおはよう。もう大丈夫だから、心配かけてごめんね」

 

 アズキは生徒たちを宥めながら、何とか教卓に立った。

 

 キクナや神宮寺さんによると、アズキは通り魔に襲われ、怪我で入院していた事になってるらしい。

 つまり、クワトロさんが関わってる事は完全に伏せられている。

 

 なので、もしかしたらとアズキは僅かな期待を込めて教室を見回したけど、やはりクワトロさんの姿は見当たらなかった。

 アズキはもう一度みんなの前で、

 

「みんな、心配かけてしまってごめんなさい。私はこの通りもう大丈夫だから」

「本当ですか?」

 

 クラスを代表して聞き返してきたのは神宮寺さんだ。

 アズキはうなずいて、

 

「うん。ありがとう心配してくれて」

 

 と返事。

 

「じゃあ、とりあえず今日の日直は」

 

 なんて朝のホームルームを始めるのだった。

 

 

 生徒たちはみんな心配してくれてたのだろう。休憩時間になると、男女問わずアズキの周りに集まってきて、再び質問責めが再開される。

 中には同時期に不登校になったクワトロさんとの関係を聞く生徒もいたけど、そこはモッチーズたちが対処してくれた。

 

 そんな中、

 

「先生、ちょっといいか?」

 

 と、言ってきたのは春日くんだった。

 

「少し二人で話したい事がある。どこかで時間をとってくれないか?」

 

 もちろん、それを言ってきた場には他の生徒もいたので、

 

「春日くんもしかして、どさくさに紛れて告白する気?」

「違ぇよ」

 

 と、女子生徒にからかわれる中、アズキは、

 

「あ、えっと、今日は一日中こんな感じみたいだから難しそうだけど。何とか作ってみる」

「悪いな」

 

 と言って席に戻る春日くん。

 アズキが休んでる間に、何か相談事ができたのだろう。

 

 どうやって時間を作って、それを伝えようか考えた結果、アズキは午前中の昼休みに慌てて抜き打ちの小テストを作る事にした。

 で、午後の授業でアズキ自身の手でみんなに渡す中、春日くんのテストにだけメッセージを書いた状態で渡したのだ。

 

『今日の放課後、校舎裏で』

 

 って。

 

 

 

 放課後になった。

 他の生徒を撒くため少しだけ時間を置いてから校舎裏に向かったところ、当然ながら春日くんは帰り支度を終えた状態で待っていたので、

 

「ごめん、待った?」

 

 って接触。春日くんは本気で待ちくたびれてたようで、

 

「遅ぇよ先生」

 

 と、苛々した様子をアズキに見せる。

 

「ごめん、他の子に聞かれたら不味い事なのかなと思って、他の生徒たちが帰るのを待ってたのよ」

 

 アズキは言ってから、

 

「それで話したい事って?」

 

 と本題に入ったところ、

 

「ティナのやつが、一日だけ行方不明になった」

「え?」

「その日から、あいつの様子がどこか変なんだ」

 

 と、春日くんは言った。

 突然の事にアズキは困惑しながら、

 

「ティナさんが一日だけ行方不明? それに、その日から様子が変って?」

 

 これは一体どういう事だろう。

 

「先生、通り魔に襲われたんだろ? だからティナの異変に関係があると思ってな」

「私の目からはティナさん、いつも通りに見えたけど。まあ彼女、学校では元々猫被ってるけど」

 

 アズキから見た藤稔ティナさんは、校内では若干冷めた態度をしてるが染髪以外は特に当たり障りない生徒といった印象である。

 しかし、その本質は社会や道徳よりも利己を優先し、判断も早くて潔く、刹那的に生きてる子であった。

 

 その場その場で自分にとっての最適解を瞬時に選び続け、たとえルールであっても目的の邪魔になるなら早々に見切りをつける。

 実際、彼女はロボトルであっても必要と思ったら途中でメダロットのパーツを変更するという明らかなルール違反をやってきたのをアズキはこの目で見ていた。

 

「まあ校内では目立たず、事を荒立てないのが最適解って考えのやつだからな」

 

 春日くんは言った。

 

(というか)

 

 あの子、そんな理由で校内では真面目なふりしてたんだ。

 

 ティナさんって、本当に自分にとっての最適解を選んで生きてる子なんだと思った。

 ピアノだって、あれだけ上手なのにプロを目指す事はすぐに諦めるくらいなんだから。

 

 しかし、春日くんは、

 

「それでもよ、その学校でさえ俺には違って見えるんだ」

「どういうこと?」

「言動も立ち振る舞いも同じではあるんだけどよ。なんつうか、俺とあいつは姉弟みたいなものだから、何となく分かるんだ」

 

 と、春日くんは一拍置いてから、

 

「いまの俺には、行方不明から戻ってきてからのあいつが、よく似た別人みたいに見えるんだよ」

「別の誰かがティナさんに成り代わって演じてるという話?」

「ああ」

 

 春日くんはうなずく。

 実際、こういうケースはブルー博士で経験してるので、アズキは「気にしすぎだよ」と言う気にはなれなかった。

 

「とりあえず、行方不明になったのはいつ?」

「今月の△日だ」

 

 春日くんが言った日は、ちょうどアズキが病院で目を覚ました日だ。

 

「連絡が途絶えたのは放課後以降の夜。その日も学校には行ってピアノ教室にも通っていたが、ある時間を境にメッセージに既読履歴が付かなくなった」

「その時間はいつごろ?」

「一九時くらいだ。で、翌日の朝にティナは普通に家に帰って、普通に学校に登校した」

「帰らなかった日は何してたのかは聞いてない?」

 

 アズキが言うと、

 

「ただの家出。何となくカラオケで一晩過ごしてたってさ」

 

 春日くんは返事。

 ちなみに朝帰りするまでメッセージに既読が付かなかったのは、普通に心配のメッセージが多くて確認するのが面倒になったからだとか。

 

 ティナさんらしい。でも、

 

「何となくっていうのが、ちょっとティナさんらしくないような」

 

 アズキは言ったけど、

 

「いや、あいつはそういう所あるぞ。何となく面白そうだからって万引きに手を出したヤツだからな」

「あー」

 

 それを言われると何も言えない。とアズキは思ったが、

 

「だが、今回の何となくカラオケでって部分に違和感を感じたのは俺も同じだ」

 

 春日くんは言った。

 

「というわけだ。先生何か心当たり無いか? 通り魔事件に関係してるとかな」

「ごめん。私の通り魔事件とは関係ないと思う」

 

 アズキは言った。

 

「諸事情で詳しい事は言えないけど、私の場合は犯人知ってる人で、動機もすでに知ってるという話だから。だから間違いなく犯人は別人」

「そうか」

 

 春日くんは残念そうに、

 

「悪いな。先生も酷い目に遭ったってのに色々聞いてしまってよ」

「私は大丈夫」

 

 クワトロさんの件は、モッチーズのほうがもっと辛いはずだから。

 

「むしろティナさんの様子がおかしいって教えてくれてありがとう。私も明日から注意してみるよ。何かあったら報告する」

「そうしてくれると助かる」

 

 春日くんは地面に置いていたランドセルを背負って、

 

「じゃあ俺は帰る。先生また明日な」

「うん。また明日」

 

 アズキが小さく手を振る中、春日くんはそのまま校舎裏を後にした。

 で、春日くんが見えなくなってから、

 

「って事みたい」

 

 アズキは隠し持ってた送信機に向かって声をかけた。直後、隠れていた赤城くんとトウコ先生がやってくる。

 クワトロさんの一件で警戒していたアズキは、赤城くんに頼んでモッチーズが所有する送信機を使わせてもらい、ふたりに隠れて待機してもらってたのだ。

 

 トウコ先生は心配そうに、

 

「聞きましたのです。△日を境にティナちゃんの様子が変になったのですよね?」

「うん、そうみたい」

 

 アズキはうなずいて、

 

「ふたりは、私がいない間、ティナさんに違和感や不審な点とか見つからなかった?」

 

 しかしトウコ先生と赤城くんは、

 

「すみません。特には」

「オレもだ」

 

 と返事。

 

「そっか」

 

 実際、校内のティナさんはあまり目立たない子だから、春日くんほど強い接点が無いと気づきにくい問題なのかもしれない。

 なお赤城くんは、

 

「あえて言うなら△日当日のピアノの日、アイツちょっとつまらなそうにしてたな」

「具体的には?」

「というか直接本人に絡んでみたよ」

 

 おお! さすが赤城くん。

 

「そしたら、今日のレッスンは何となく退屈って言ってた。実際オレも最近ちょっと退屈に感じてたしな」

「というと?」

「ここ最近は演奏会のために先生も色々熱が入ってたんだよ。だから演奏会が終わって、しばらく大きなイベントもなくなったせいだろうな」

 

 と、赤城くんは本当につまらなそうに肩を落として、 

 

「先生もクールダウンして、当たり障りのない初心者用の基礎レッスンに逆戻りしちまったんだ」

「ああ、それはティナさんや赤城くんにとってはつまらないかも」

 

 ふたりともピアノすごく上手だし。

 

「とりあえず、トウコ先生も赤城くんも、しばらくティナさんの事注意して見てくれないかな? それで変な点が見つかったら報告お願い」

「了解だ」

 

 うなずく赤城くん。

 

「私も、教育実習期間が残りすくないですけど、せめて在籍してる間はティナちゃんの事気にしてみるのです」

 

 トウコ先生も言ってくれたので、

 

「ありがとうふたりとも」

 

 アズキは感謝を伝える。

 

「ところで」

 

 が、ここでトウコ先生が、

 

「最近クワトロちゃんが不登校なのですけど、先生は何か知りませんか?」

「あー。えっと」

 

 アズキと赤城くんは同時に顔をそらした。

 どうしよう、クワトロさんの悪行をトウコ先生に伝えるべきか否か。

 

 いや、今はやめておこう。

 

 あの事を話したら、トウコ先生にとってティナさんどころの話ではなくなってしまう。それにきっと彼女はラエドさんにも報告するはず。

 今はティナさんの問題に集中するためにも、

 

『すみません。私たちにも心当たりがなくて』

 

 アズキのかわりにスタッグが言ってくれたのだった。

 

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