メダロットHERMIT   作:CODE:K

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19-3 贄-nie-3

 

 こうしてティナさんを注意深く観察する日々が始まった。

 しかし彼女は先述の通り、校内では事を荒立てず、紫に染めた髪に反して元々影が薄い子だ。そんな彼女から不審な点を見つけるのはとても難しい。

 

 赤城くんも、

 

「昨日、放課後ピアノ教室があったけど、あいつはいつも通りだったぜ」

「一応詳しく聞いても?」

「真面目にレッスンを受けて、だけど昨日も退屈そうにしてた」

 

 といった具合でアズキたちの視点からは彼女の違和感というものは中々見つけられない。春日くんは相変わらず、

 

「今日も少しおかしかった」

 

 って言うのだけど。

 

 こうして手がかりも進展もなく日時は過ぎていき、トウコ先生の教育実習もタイムアウトを迎えようとしたある日。

 事態は突然動きを見せた。

 

 放課後。

 アズキは今日の学校で行う仕事を終え、駅に向かって歩いていたところ、

 

「こんにちは、アズキちゃん」

 

 突然、アズキは声をかけられた。

 振り返ると、そこに立っていたのは、

 

「あなたは、えっとたしか博物館で研究員をしてる」

「間桐ミチコよ。ピアノ演奏会の日以来ね」

 

 と、私服の上に今日も白衣を羽織った若い女性は言った。

 なお、白衣のせいで台無しになってるが、この日、彼女の私服は色っぽいデザインのブラウスにミニスカート姿とアズキの目に毒な格好をしている。

 

「お久しぶりです」

 

 アズキは一度頭を下げ、

 

「偶然ですね。お仕事の帰りですか?」

「いいえ」

 

 が、間桐さんは否定して、

 

「今日はあなたに用事があって来たのよ。少し時間よろしいかしら?」

「え、私に?」

 

 という事は、自分がここに現れる事を知っていて待ち伏せしていた事になるけど、それを確認するのは野暮だろう。

 

 たぶん彼女はアズキを調べたのだ。ターゲットがいつ大体何時ごろに学校を出て、どのルートを通って駅に向かうとか。

 相手は博物館所属とはいっても研究員だ。きっとそのくらいはするだろう。

 

 アズキの中で、研究員は非常識な存在だとイメージが固定されてしまっていたのだ。たぶん自分の所属先の影響である。

 

「えっと、一応少しだけでしたら」

 

 アズキが言うと、

 

「なら、いま近くのホテルで部屋を取ってるのよ。そこで話しましょう」

 

 間桐さんは小さく笑い、その瞳が怪しく輝いた気がした。

 

 元々、虚ろのようにも挑発的にギラギラ輝いてるようにも映る瞳の持ち主だ。

 軽く笑みを見せるだけで、魔性の魅力と得体のしれない恐怖が同時にアズキを襲い、ドキッとさせられる。

 

 アズキは動揺をなんとか隠しながら、

 

「ほ、ホテル、ですか?」

「ええ。すぐ近くだからついて来て」

 

 といって案内された場所は、オフィス街に建てられた一軒のビジネスホテルだった。

 アズキは促されるまま一緒に入り、エレベーターに乗って彼女が取ったという部屋にお邪魔する。

 

 中は、一人用のベッドと丸テーブルが設置された比較的簡素な構造だった。

 椅子はソファのように座り心地のよさそうなものが席を挟んでふたつ。

 

 間桐さんは冷蔵庫からペットボトルの緑茶を二本出すと、テーブルに置いてから席に座って、

 

「アズキちゃんも座りなさい」

「あ、はい」

 

 慌ててアズキも椅子に座る。

 

 アズキの座った席からは、カーテンを開いた窓が見え、夕焼けの光を部屋に入れながら街の光景を映し出す。

 もう少し時間が経てば、中々綺麗な夜景が見れそうだなとアズキは思った。

 

「さて、早速だけど」

 

 間桐さんは言った。

 

「アズキちゃん、あなた体内にメダロットのナノマシンを持ってるでしょう?」

「え、どうしてそれを」

 

 この情報を知ってるのはおそらくTMZだけのはずなのに。

 

「少し知る機会があったのよ。それはそれとして」

 

 と言いながら間桐さんはペットボトルの一本に手を伸ばし、封を開けて中の緑茶を一口飲む。

 

「早速だけど、あなたの体を、少し私の下で研究させてくれないかしら?」

「それは博物館の仕事として、ですか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。私も研究者よ。あなたのような希少価値のある存在を放っておくわけがないじゃない」

「悪いですけど、お断りします」

 

 アズキは言った。

 間桐さんは一転、少し面白くなさそうに、

 

「ふーん。どうして? 私ならあなたの異常体質を治す事もできるかもしれないわよ」

「わざわざ研究者が私みたいな希少価値を治してくれるとは思わないけど」

「言うわね」

 

 少し睨むような眼で間桐さんは、

 

「意外だったわ。あなたは少し気が弱そうだから、そんなに堂々とはっきり断るとは思わなかったけど」

 

 大正解。現在アズキは内心で心臓をばくばく動かしながら恐怖と緊張に襲われていた。

 

 とはいえアズキもTMZの人間である。いくら気が弱くても、コミュ障でも、少しくらい気張るべき場面では気張らないとメンツが立たない。

 何より、そうでなくても自分の体がおいそれと他人の研究に使わせていい物ではない事くらいアズキでも分かる。

 

 むしろ気が弱いからこそ、逆にそういった話には警戒を覚えるものだろう。

 実験と称してどんな目に遭うか分かったものではない。所属してるTMZでさえ、今後変な実験に付き合わされない保証はないのだ。

 

「もちろん報酬は出すわよ。あなたがどれだけお金を持っていても手に入らないようなものをひとつ用意してあるわ」

「何をですか?」

「小さな女の子」

 

 間桐さんは言った。直後、アズキは先ほどまでとは別の意味でドキッとした感情に襲われる。

 

「一体、何の事ですか?」

「あなた、レズでロリコンでしょう?」

 

 一瞬、アズキは心臓が止まった気がした。

 

「間桐さん、何で、なんでその事を」

 

 アズキが震えた声で返事すると、彼女はフフッと蠱惑的に微笑んで、

 

「倫理、社会、法律、道徳、どのような理由であれ、今まで手を出したくても出せなかった子、たくさんいるんじゃないかしら?」

 

 間違ってはいない。

 しかも今はTMZの任務で小学校の先生をやっている。正直言って、いまでも毎日煩悩との闘いだ。

 

「私なら用意してあげられるわよ。あなたが何しても許される少女も、警察や誰の目にも留まらず、その少女を好きなだけ貪って遊べる場所だって」

「それでも、法律が許しません」

「その法律の手も届かない場所を用意してあげると言ってるのよ」

 

 と間桐さんは言って、

 

「たとえば、この場所も監視カメラの類は全て撤去済で防音も完備。今ここで私が脱いであなたに好きなだけ抱かれても、それを知る人は誰もいないわよね?」

「え?」

 

 間桐さんはウインクして、

 

「もしかして、今すぐ私の体がお望み?」

「い、いえ、その」

 

 違います。とはっきり言えない自分の理性が恨めしい。

 間桐さんは、自分の下着を見せつけるように足を組んで、

 

「どう? 少しは提案を請ける価値があると思ったんじゃないかしら?」

「うっ」

 

 アズキは間桐さんの下着から視線を外しながら悩んだ末、諦めて、

 

「うん。すごく魅力ある提案だと思います」

「なら」

「けど、その提案には乗れません」

 

 と、アズキは言った。

 間桐さんは不機嫌そうに、と思ったら何故か余裕を見せた笑顔で、

 

「それはなぜかしら?」

「だって、そこまで法律に反した報酬を出してまでする事ですよ? 首を縦に振ったら最後、どんな目に遭うか分かったものじゃないのは明らかです」

「まあ、そう思われても仕方ないわね」

 

 うなずく間桐さん。

 

「けど、その危険を承知で請ける価値はある話だと思わないかしら?」

「う、まあ、それは正直」

『アズキ!』

 

 ここでスタッグから叱咤の声。

 

「分かってるよ、スタッグ」

 

 アズキはスタッグに返事してから、

 

「確かに危険を承知で請ける価値はあります。でも、私はやっぱり危険だから請けません」

 

 って断った。

 

「そう。そこまで言うなら仕方ないわね」

 

 間桐さんは言った。

 これで解放してくれるのだろうか。アズキは思った。しかし直後、

 

「ならせめて、プレゼントだけでも受け取ってもらえるかしら?」

「プレゼント?」

「あなたが首を縦に振った時点で、最初に与える報酬だったものよ。入ってきなさい」

 

 間桐さんが言うと直後、シャワールームの扉が開く音がした。

 慌ててアズキが後ろを振り返ると、中から出てきたのは、まさかの藤稔ティナさんだったのだ。

 

 校外だから髪はツインテール姿。

 しかもホテルの中で着替えたのか、学校で見た地味なブラウス姿ではなく、紺色でフリルが付いたノースリーブのワンピースを着ている。

 

 アズキは驚き、

 

「ティナさん!?」

『え?』

 

 それにはスタッグも驚き、

 

『これはどういう事ですか?』

 

 と、間桐さんに言葉をかける。

 間桐さんは挑発的な笑みで、

 

「言ったはずよ。私からアズキちゃんへのプレゼントって」

 

 と言ったのだった。

 

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