【第一巻発売中】弱小世界の英雄叙事詩(オラトリオ)   作:銀髪卿

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円環者

・フルプレートアーマー(素材:危険度8(グリフィン)の諸々)

・猛牛の大戦斧(素材:危険度7(ミノタウロス)の毛皮や大腿骨、大角など)(火精霊の加護)

・火竜の牙剣(素材:危険度12相当の竜の牙)

 

 お値段、総じて5700万ガロ。

 

「「「は、吐きそう……!」」」

 

 ジルエスターから貰った援助金がラルフの装備一式を揃えた時点で半分以上消し飛んだ事実に、俺は眩暈を覚えて店の椅子に深く腰掛けた。

 なお、ラルフはあまりの値段に意識が吹き飛び直立不動だった。なんか口から漏れちゃいけないものが漏れてる。

 

「やっぱ冒険者、頭おかしいって……!」

「使い手の力に耐えられるだけの装備となれば妥当な金額かもしれませんが……」

「上位の冒険者も金欠な理由がよくわかったね……」

 

 ラルフの灼熱の付与(エンチャント)に耐えられる装備ともなればこれだけの装備を揃えざるを得なかった。

 

 お抱えにでもならない限り、冒険者は一生金欠——冒険者になりたての頃に聞いた話がまさか事実だったとは。

 

「1億……妥当な援助だったのか」

 

 というか、今回の出費のうち、火竜の牙剣が3000万ガロと半分以上を占めている。

 危険度12の、それも竜の遺留物(ドロップアイテム)ともなればこの値段も道理ではある。

 

 異界がその世界の経済を過剰にインフレさせる理由の本質を垣間見た気分だった。

 

 久しぶりに冒険者のとち狂った経済感覚に恐れ慄き口々に心境を吐露する俺たちに、イナちゃんは不思議なものを見る目を向ける。

 

「今まで随分と節制してきたんだね?」

 

「生憎と極貧生活だったもんでな」

 

「武器の更新とかどうしてたのさ?」

 

 困惑するイナちゃんに、俺は愛剣を虚空ポケットからチラリと見せた。

 

「俺の場合こいつがあるから、武器自体に金かけたことはないんだよ」

 

「んえっ……んにゃっ!?」

 

 説明のために剣を取り出しただけだったが、瞬間、イナちゃんがギョッと目を剥いた。

 大失敗した福笑いのような表情をしたイナちゃんが俺の愛剣に思い切り顔を近づける。

 

「んなっ……ななななっなななななななナニコレ!?」

 

「俺の愛剣。こいつのおかげで装備更新の値段抑えられてたんだよ」

 

「そーじゃない! そーじゃないよエトちゃん!?」

 

「エトちゃん言うな」

 

「あいたぁっ!?」

 

 興奮度合いが頂点に達したイナちゃんの頭にチョップを叩き込む。が、イナちゃん止まらず。

 

「いやいやいやいや! 鎖も大概びっくりしたけど! したけど! ()()なに!? 常時本人の魂と繋がってる剣とか初めて見たけど!!?」

 

 大騒ぎのイナちゃんである。

 ストラが気を利かせてエステラ謹製の防音結界を張っていなければ、何事かと周囲の注目を集めていたこと間違いなしである。

 

「どこでみつけたのそんな逸品!?」

 

「親友の形見だよ。死に際に、俺のために鍛えてくれた」

 

「……、そ、うなんだ」

 

 ——しゅん、と意気消沈したイナちゃんがペコリと頭を下げた。

 

「ごめん、興奮しすぎた」

 

「気にしなくていい。むしろ、逸品って言ってくれて感謝してる」

 

 極端に細長い、剣としてはあまりに頼りない形。大半の人間は初見、これを真っ当な武器とは思わないのだから。

 

「で、イナちゃん。これのどこが珍しいんだ?」

 

「出自からして珍しいのは間違いないんだけど……そだね。そもそも俗にいう魔剣ってやつはさ、その剣自体が魔力や魔法を内包してるんだよね」

 

 おちゃらけはっちゃけな態度はどこへやら。一転して真面目な態度になったイナちゃんは『魔剣とは何か』という議題を掘り下げる。

 

「魔“剣”って言っても戦斧や弓、槍……果ては銃なんかも分類としては魔剣に属するのは知ってるよね。魔法を内包するもの、魔力を内包し生み出すもの、使用者の魔法を増幅するもの、魔法を装填するもの……数え上げればきりがない」

 

 そこが面白いところなんだけどね、とイナちゃんは楽しそうに目を輝かせる。

 

「そんな魔剣たちに共通するのは、『人の手によって生み出されるものは魔剣足り得ない』っていう原則。唯一この原則を破れるのは、あの〈勇者〉くらい」

 

「アハトを知ってるのか」

 

「そりゃもちのろん! あんな有名人知らないわけないない! とゆーかエトちゃん、〈勇者〉を呼び捨てって中々豪胆だね?」

 

「なんなら〈魔王〉も呼び捨てるぞ」

 

「わーお大胆……じゃなくって!」

 

 イナちゃんは両手をブンブンと振り、小豆頭のアホ毛を存分に揺らした。

 

「大前提! 魔剣と使用者っていうのは『その場限りの関係』なんだよ! 使用中に限って導線(パス)を繋ぐのが基本! だからエトちゃんとその剣の関係は異端も異端なの!」

 

 ……なんとなく、そんな気はしていた。

 

 俺の心が折れない限り、俺が俺で在る限り。

 この剣は決して曲がらず、折れず、砕けない。

 

 愛剣を握る右手を見下ろす俺に、イナちゃんは続けて通常とは異なる点を列挙する。

 

「まず、エトちゃんの親友が鍛えたって時点で通常の魔剣とは違う性質を持ってる。その剣の強さは、エトちゃんの魂に依存してる。ある意味、天井知らずの剣。エトちゃんが強くなる限り、その剣も一緒に強くなる。それは、そういう剣だよ」

 

 それは、ある意味『未完成』なのだとイナちゃんは言う。

 

「悪い意味じゃないよ。むしろ褒め言葉。『完成された作品』である魔剣とは、それは根本的に異なる存在。……そうだね。魔剣とは違う呼称があるといいかも」

 

「……リントルーデがイナちゃんと友達な理由、少しわかったかも」

 

「マジ!? えっマジ!? うっれし〜〜!」

 

 途端に喧しい小豆に退化してしまったイナちゃんに苦笑を浮かべる。

 

 実際問題、装備への真摯さはかの第三王子が推薦するだけのことはある。

 そも、初見で俺の剣を“逸品”と呼称してくれた時点で、単純な話だが俺の中でのイナちゃんの評価は右肩上がりだ。

 

「さてさて! この装備マイスターであるイナちゃんですら二つと見たことがない剣の呼称を決めないとね!」

 

「必要か? それ」

 

 唯一無二ならば、殊更に新しい呼び名を与える必要はないように思えた。が、イナちゃん的にはそうではないらしく。

 

「ダメだよエトちゃん! 名前ってのは大事なんだから! はい、エトちゃんが決める!!」

 

「……なら、こんなのはどうだ?」

 

 告げた剣の名と由来に、イナちゃんは満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

「最高!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 その後、イノリとストラの防具を買い揃えた時点で残金はおよそ1000万ガロにまで目減りした。

 二人合わせて約3300万ガロ……内訳は白獣の杖(危険度7、一角獣(ユニコーン)遺留物(ドロップアイテム))1200万ガロ。対環境ローブ、インナープレート(危険度8相当の素材)併せて1100万ガロ。胸当てや肘・膝・脛当て等軽装備(危険度8相当の素材)併せて1000万ガロ。

 

 こうして俺以外の装備が新調され、皆例に漏れずその金銭的価値の重さに震えていた。

 特にラルフは未だに気絶と覚醒を繰り返しており、火竜の牙剣に関しては柄を持っただけで失神するほど。

 

 第七王子と言えど、約6000万ガロは紛れもなく大金。

 イナちゃん曰く世界のバックアップがある人間が買うようなレベルの装備品であり、そりゃあ個人で持つには重すぎると言うもの。

 

「ところでイナちゃん、俺の防具は?」

 

「リンちゃんからエトちゃんの防具は不要って言われてるよ?」

 

「なぜに」

 

 第三王子直々に「お前の防具はいらない」というお達しを受けてしまった俺は、理由を知るべくイナちゃんを問い詰めた。

 

「落ち着いてエトちゃん!」

 

「落ち着いてるぞ。あとエトちゃん言うな」

 

「リンちゃんはなにも意地悪で言ったわけじゃないんだよ!」

 

 休憩のために入った居酒屋で遠慮なく酒を頼んだイナちゃんは、瀕死のストラに防音結界の展開を要求した。

 ちなみに、入店に伴い全員の新装備は虚空ポケットに収納している。なお、さしものイナちゃんもこの価値観ぶっ壊れ袋の存在には白目を剥いて驚愕を表していた。

 

「アレだよ。エトちゃんの防具はリンちゃんが用意してくれるんだって」

 

「リントルーデが直々に……?」

 

「エトちゃん、呼び捨てがデフォなんだね」

 

 ストラが防音結界を展開したことを確認したイナちゃんは、またしても真剣な表情を浮かべ俺を真っ直ぐに見据えた。

 

「まあアレだよ。詳しい情報は省くけどさ。リンちゃんはエトちゃんを使い倒すつもりでいるよ」

 

 ……なんかそんな気はしてた。大方〈魔王〉の野郎がなんか吹き込んだのだろう。

 

「イナちゃん、随分と政治に詳しいんだな」

 

「そりゃあイナちゃんはリンちゃんとマブだからね! いろんな愚痴も聞くし、いろんな頼みも聞くわけさ!」

 

 いいのか第三王子、プライベートな友人に政治の話を持ち込んでも。

 

 そんな俺の心配を他所に、イナちゃんは防音結界の存在を良いことにペラペラと重要情報らしきものをこぼしまくる。

 

「ほら、三日後に異界掃討作戦があるわけじゃん? リンちゃんはそこで、エトちゃんを冒険者の旗頭にするつもりなんだよ」

 

「俺を……? 言っちゃ悪いが無理だろ」

 

 否定的な俺の意見に、イナちゃんは『およ?』と目を瞬かせた。

 

「俺はたかが銀三級冒険者だぞ? 今回の作戦、金級も参加するって話だし、俺に務まるとは思えない」

 

「エトちゃん結構見えてんね。でも甘い。エトちゃんは自分の価値を低く見積もりすぎだよ」

 

 腹立たしいドヤ顔をかますイナちゃんは、舌打ちとともに人差し指を立てる。

 

「今のエトちゃんは“『極星世界』ポラリスからの使者”だよ? そんな大物が『海淵世界』アトランティスの、戦争前の大規模作戦に参加する。これはエトちゃんが思ってる以上にでっかい効果があるんだから」

 

「なんかもう、イナちゃんが当たり前のように俺の立場を知ってるのはこの際置いておくとして……。つまりアレか。リントルーデは俺を冒険者たちの士気を上げるための起爆剤にするつもりなのか」

 

「やるぅ!」

 

「これでも騎士団所属だからな」

 

 楽しそうに口笛を吹いたイナちゃんは、卓に置かれたジョッキ一杯に注がれた酒を一口。上機嫌で続きを話す。

 

「エトちゃんの言うとおり。今回『海淵世界』側についてくれる決断をしてくれた冒険者たちは、それでもギルド本拠地がある『悠久世界』と敵対することを恐れている」

 

 当然だろう。

 彼らがどんな意思で、どんな目的で海淵の手を取ったのかは定かではないし、わざわざ詮索する気もない。だが、選んでくれたのなら。海淵は彼らに報いなければいけない。

 

 冒険者ギルドの本部がある『悠久世界』エヴァーグリーンに剣を向ける。

 その不安を拭うために、地理的に悠久を挟み撃ちにできる極星の全面協力の証明をする。

 なるほど、最低でも二つの七強世界からの“感謝”と“栄誉”が得られるのならば、ギリギリ対価としては吊り合うと判断する者も多いだろう。

 

 

 思考に沈む俺の前で、イナちゃんが悪どい笑みを浮かべた。

 

「その使者が、第三王子と共に異界掃討に尽力する。〈魔王〉と源老、二人のトップが認めた存在が自分たちと同じ他世界の冒険者だったら……そりゃあ、冒険者たちの士気も鰻登りだよねっ!!」

 

「……乗るしかなさそうだなあ、その賭け」

 

 俺に一切の相談なく進められていたことは腹立たしいが、俺としても断る理由はない。むしろ、積極的に受けたいところだ。

 

 前向きな姿勢を示した俺に、イナちゃんがカッコつけてニヤリと笑った。

 

()()()()()()()()、エトちゃん!」

 

「だからエトちゃん言うな」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 その翌日。

 二日後に迫った異界掃討作戦の事前会議には多くの冒険者や軍主要幹部が揃った。

 二百名を超える参加者は大会議室では収まらず、急遽、軍の訓練施設を間借りする形で会議は決行される。

 

 その、少し前。

 起爆剤として投入されることになった俺は、仕込みのために一足先にリントルーデを始めとした()()()()()()〉たちと顔合わせをすることに。

 

 そして、邂逅する。

 

「……おい、リントルーデ。アンタ、やったな?」

 

 第三王子に対してあまりにもぞんざいな物言い。

 しかし、当の本人は腹を抱えて笑っており、イタズラが成功したことにご満悦で俺の声は一切届いちゃいなかった。

 

「……いや、なんかそんな気はしたんだよ。明らかに知りすぎてるし、都合良すぎるとは思ったんだよ。でもなあ」

 

 俺は、目の前にニンマリと笑う喧しい顔面の女の前で盛大にため息をついた。

 

「昨日ぶりだね、エトちゃん! イナちゃん改め〈異界侵蝕〉が一人、〈円環者〉イナ・ヴィ・エルランだよっ! 改めてよろしくぅ!」

 

「でもなあ……、〈異界侵蝕〉なのは聞いてないって!!」

 

 大爆笑する仕掛け人二人の前で、俺は思い切り頭を抱えた。

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